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06 そして前世を思い出す

 フィリウスは無言で立ち上がり、エレナへと手を伸ばした。

 エレナもそれに応じ、フィリウスへと手を伸ばし、会えない期間を埋め合わせる様に二人は抱きしめ合った。

 婚約者とはいえ遠く離れた関係で、エレナと会うのは久しぶりだった。

 数秒抱きしめ合い、二人は離れる。


「いきなり来て済まない、エレナ」

「それは構わないわ。……でも私にも準備があるのよ? 肌や髪の手入れとかドレスの準備とか」


 そういって頬を僅かに膨らませる。

 婚約者の言葉に対し、フィリウスは優し気な笑みを浮かべて「悪かった」と謝った。


 改めてフィリウスがエレナの全身を見回しても、以前会った時と何ら変わらない。

 いや、恐らく身長が伸びたりなど多少は変わっているのだろう。最後に会ったのは2年前程である。

 だが、フィリウスからして見れば初めて会った時とそこまで変わった印象はない。


「それにしても何の連絡も無しにいきなり貴方の方から会いに来るなんて……何かあったのね?」


 心配そうな表情で、エリナが訊ねてくる。

 普段は手紙でのみのやりとりであり、会う時は必ず事前に手紙を出していた婚約者の突然の訪問に、エレナは余り良い事ではないと察していた。

 フィリウスは彼女に肯定の意味で頷き、


「あぁ……実はね、父に……王に王族からの除名を言い渡されたんだ」


 そう小さな声で告げた。


「なん――っ!!」


 エレナは思わず声を出しそうになり、慌てて自身で口を塞ぐ。

 部屋の外で待機しているであろう侍女達に聞かれてはマズいと判断して。


「――どうして?」


 様々な意味合いを含めたエレナの問いに、フィリウスは肩を竦め、


「僕に人形使いとしての才能がない事にとうとう愛想を尽かしたらしい。王族として相応しくないからだとさ。兄にも弟にも笑われたよ。それと君との婚約関係を破棄するって……」


 そう答えた。

 その返答を聞き、エレナは顔を怒りで歪め、


「……今まで散々フィリウスを馬鹿にしてきた事に加え最後は除名に加えて婚約破棄? あの馬鹿共め」


 そう忌々しそうに呟いた。

 曲がりなりにも属国の王女の言う事ではない。

 そして表情を180度変え、優しい笑みを浮かべてフィリウスを見上げ、


「大丈夫よフィリウス。此処にいれば良いわ。私があの馬鹿共から守ってあげる」

「……済まない」

「いいの。……私は”王族の貴方”が好きなのではなくて、貴方が好きなのよ。父にも事の次第は伝えておくわ。……でも暫く構ってあげられないかも」


 そう困った表情を浮かべるエレナ。


「どうかしたのかい?」


 エレナは肩を竦め、

「隣国のデレマイア公国との戦争が近いの。私も一応魔術師でしょ? だから戦地にいかないといけないわ」


 彼女は王族であると同時に、優れた魔術師でもあった。

 その魔術の腕は周辺諸国にも聞こえる程である。

 その為、王女でありながら軍を指揮する事もあるという立場なのだ。


「そうか……戦争か――ぐっ?!」

「フィリウス、大丈夫?!」


『戦争』。


 その言葉を聞いた途端、またフィリウスを頭痛が襲い、思わず床に膝を付く。

 それと同時に、フィリウスの脳内にその戦争を治めなければならないという、訳のわからない感情が浮かぶ。


『――だせ』


 声がより一層はっきり聞こえる。

 それは反響するかの様に幾度となく聞こえてきてフィリウスの頭を支配する。


『――いだせ』


 エレナの声も聞こえない程、声が大きく幾つも聞こえてくる。


 やがて、それは1つに重なる様にして、フィリウスの脳内にはっきりと聞こえた。




『思い出せ。貴様が誰なのかを』




 その声が聞こえた瞬間、


「――っ!!」


 フィリウスは――前世(すべて)を思い出した。



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