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05 最悪の旅

 用意された馬車は、受付嬢曰く「用意出来うる限り最も良いモノです」との事で、フィリウスはそれに乗り、早速リリーズへと向かった。

 リリーズまでは少なくとも10日は掛かるという。

 組合に手配された御者は腕の良い人物である上に、各地にある組合の支店で馬や御者の交代をしながらの早馬であるのだが、それでも10日である。アルビオンとリリーズがどれ程離れているかが分かるだろう。

 フィリウスは元王族であるが、だからと言って全てが自分の思い通りに行くとは思っていない。

 人形を操る腕を幼い頃から磨いて来たのに結果が伴わなかったフィリウスにとって、思い通りにいかない事もある事は十二分に理解していた。

 フィリウスは出来うる限り早く到着する様に頼んで金を払い、その10日の間、揺れる車内で寝たり、食事をしたりとのんびりと過ごそうと馬車に乗り込んだ。




 リリーズの王都に到着し、フィリウスは馬車組合の支部を出た。


「……御者には悪いが、最悪の旅だったな」


 フィリウスはがっくりと肩を落とす。

 身体中が痛い。幾ら良い馬車で中が広く、腕の良い御者のお陰で差程揺れないとはいえ、それでもあくまで馬車である。寝る所では無い。

 それに加えてフィリウスを悩ませたのは頭痛と幻聴である。

 車内で過ごす中、日に日に頭痛と幻聴は酷くなっていった。その間隔は徐々に短くなってきており、フィリウスは車内で痛みを堪え、次の痛みが襲って来る時を陰鬱とした気分で待つ事しか出来なかった。

 そんな状態で旅を楽しめる訳がない。

 この10日はフィリウスにとって最悪の時間であった。


「……さて王宮に向かうか」


 頭痛の余韻を振り払う様に頭を振り、フィリウスは歩き出した。


「やはりここは良い所だな」


 フィリウスはリリーズの王都の街並みを見て、そう評した。

 婚約者であるエレナと城下散策で数回来ただけであるが、フィリウスはこの活気がある雰囲気が好きだった。

 人通り自体は国力の差もあってアルビオンの方が多いが、活気はここの方があるだろう。……余りアルビオン(故郷)に良い思い出の無いフィリウスの偏見なのかもしれないが。


 王城の離れ。そこが目的地である。


「通してくれれば良いのだが……」


 王族ではなくなったフィリウスを衛兵が通してくれるかどうかはわからない。

 最速で来たフィリウスよりも父の……アルビオンの王からの手紙を携えたアルビオンの使者が速いとは思わないので恐らく通して貰えるだろうが。

 事情を知らないリリーズの者にとっては、フィリウスは()()王子であり、国の王女の婚約者である。

 フィリウスはアルビオンから情報が来ていない事を祈りながら、王城へと向かった。





 フィリウスは豪奢――アルビオンよりは着飾ってないが――な部屋で1人用意された茶を苦虫を噛み潰した様な顔で飲んでいた。

 そんな顔をする理由は勿論、単発的に襲って来る頭痛と幻聴のせいである。



 フィリウスが今いる場所はリリーズ王城の離れにある応接間だ。


 王城へとやって来たフィリウスは、当たり前だが衛兵に止められた。

 衛兵に呼ばれたフィリウスの顔を知っている上官がやって来て通してくれた為離れへと通して貰えたが、寧ろ事情も聞かず護衛も連れずにやってきたフィリウスを通してくれたのは大雑把なのか鷹揚なのかとフィリウスは逆に心配になる程である。

 とはいえ通して貰えたのならばそれに越したことはない。

 離れの応接間へと案内されたフィリウスは、ここで待つ様にと言われたのだ。

 今頃、エレナや侍女達は慌てているだろう。

 フィリウスは事前に手紙等を送る事なく突然やって来たのだから。


 暫くして、バタバタと廊下を小走りする音が聞こえたかと思うと、応接間の扉が勢いよく開かれ――


「フィリウス!!」


 そんな声と共に、フィリウスの前まで駆け寄って来たのは銀糸の様な手入れの行き届いた美しい銀の髪に、蒼い意志の強そうな眼の少女。

 フィリウスの婚約者、エレナ・リリーズだった。



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