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第1話 俺は誰だ

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「誰か……いる」


 何もない平原に、ひとりの男が横たわっている。服すら着ていない。


「こいつ……何があったんだ?」


 眠っているのか、気を失っているのか。何か戦闘に巻き込まれたのか。それにしては、”傷一つ”ついていない。


「とにかく……布でもかけておこう。そして、近くで何かあったはずだ。周囲を探索しろ! こいつは俺が何とかする……」


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「ここは……」


 とある家の中で、俺は目覚めた。


 俺は……誰だ? ここは……どこだ?


 ふと鏡を見ると、そこには見たこともない男性が映っている。これが……俺か?

筋肉質でもなく、太っている訳でもなく、ごく一般の体型をしている。黒髪で、顔は……頭がまだぼんやりするのか、よく見えない。


 そして、この目の前にいる女性は……誰だ?

顔はうっすらとしか見えないが、それでもかわいらしい顔をしている。彼女は……誰だよ。


「ここは……何の変哲もないただの村ですよ。貴方は、どこから来たんですか?名前は何ですか?」


 何も覚えていない。名前、出身、諸々何も知らない。


 ぐううっっっ


 お腹が鳴る音が部屋中に響き渡った。俺は何も食べていないのか。


「お腹がすいているようですね。とりあえず……スープでもいります?」


「……お願いします」


 目の前にスープが出された。黄色い液体に、緑色の草が入っていて……美味しい。

 よかった。”美味しい”という感情は覚えていたようだ。


「本当に何も覚えていないようですね。私の名前は、シアン・エスパースです。今年で22歳、よろしくお願いします」


 目を擦って、もう一度彼女を見た。彼女は金髪で長髪、質素な服装と不思議な髪飾りをしている。彼女の目は青いのに対し、俺は茶色。


「私はこの村で……父の手伝いをしています。父は討伐者で----」


 討伐者……聞いたことの無い単語だ。


「討伐者……っていうのは、この世界に存在するモンスターを倒したり、他にも罪を犯す人間を逮捕したり……まとめると、正義の味方です!」と、彼女は目を輝かせながら言った。


「つまり、け……つってことか」

俺は無意識のうちにそう呟いてしまった。


「け……つ? それって何ですか?」


「いや……こっちの話で----」と誤魔化す。

 け……つ? 何故この言葉を発したか、俺も分からない。何か……俺の心の底が、無意識のうちに呟いていたみたいだ。


 その前に、ちょっと待て。


「モンスターって何だ?」と彼女に聞いた。

 モンスター、どこかで聞いたこともありそうでなさそうな単語だ。


「モンスターって……この世界に存在する、普通の生物とはまた違う生物ですね。例えば、火を吐くドラゴンだったり、巨大なゴリラがいたり……。とにかく、普通の生物とは違いまして----」


 この後も彼女の説明が続いた。どうやら彼女はモンスターの研究も行っているみたいだ。もはや、モンスターが好き……という領域まで達しているようだ。


 俺はこの間にスープを飲み干した。美味しい。


「貴方って不思議な人ですよね。ところで、名前は思い出せましたか?」


 シアンさんの方が不思議だが……。

 いや、自分自身まだ思い出していない……。本当に何も覚えていない。何もではないが。


「じゃあ……名前をつけてもいいですか?名前は、スカイ。これはどうですか?」


「俺の名前はスカイ……」

 また無意識のうちに呟いていた。


「気に入ってもらえましたか?」と彼女は嬉しそうに尋ねる。


「いい名前……」

 俺はまたまた無意識に呟く。本当に……いい名前だ。名前に何の意味があるのかは分からないが。


 カチャッ……

 扉が開いた音がした、誰かが入ってきたようだ。


「おかえりなさい、お父さん」

「そいつは起きたか?」


 そいつ……というのは、俺のことだろう。


「おかげさまで……ありがとうございました。シアンさんと……」


「俺の名前は、ガイア・エスパースだ。よろしくな。ところで、何か思い出したか?」


 彼は身長も高くガタイもいい。俺よりも筋肉質で、俺よりも身長が高い。茶髪の短髪で、彼もまた青い目をしている。彼女と彼は親子なんだろうな。


「いえ、まだ何も……」

 もちろん、この一連の流れで思い出したことは何もない。起きてから30分は経っているはずだが。


「そうか……。シアン、ちょっとこっちに来い」


 彼はシアンさんを連れて、部屋の外へ出た。が、2人とも声が大きすぎるため、話の内容がすべて漏れている。


「周囲を探索したが、何も無かった。裸だったことを考えると、ただの酔っ払いだろうな」


「でも……ここまで記憶もなくて、酒の臭いもしない、もしかしたら記憶喪失なのかも……」


「それなら、都市・レインマークの方に行方不明者として届け出が出ているはずだ。明日ちょうど行く予定だったし、そこから探してみよう」


「とりあえず……だ。とりあえず、行方不明者の届け出を確認し終わるまではこの家に泊めておこう」


 足音が近づいてきた。話し合いが終わったのだろう。


「貴方は記憶喪失の行方不明者の可能性があるので、少しの間だけこの家に泊めておくことになりました。これから少しの間だけ……よろしくお願いします」


「よろしくお願いします……」


 俺は自分が誰なのかも知らないし、何も覚えていない。記憶喪失だと思われる。


 でも、嬉しいという感情は覚えていたようだ。


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「で、お父さん……どうだった?」


「届け出は無かったな……1日ですぐ出される訳ではないが、傷一つついていないことを考えると……何だろうな」


 どうやら、俺の家族が出されたとされる行方不明者の届け出を探しに行ったようだが、無かったみたいだ。


「もしかしたら……都市・レインマークの方にこちらから届け出を出すしかないかもしれんな。まだ1日しか泊めていないが、お前の家族も心配しているだろう。記憶喪失なら尚更だ」


 家族の名前も覚えていないどころか、自分の名前も年齢も出身地も全て覚えていない。

どうやって、元の家族を探せばいいのだろうか。


「レインマークの方に届け出を出すのもいいが、その場合だと……家族が見つからなければ、強制労働所に回されるかもしれんな。そっちを危惧すると、ここに泊めておくのもいいが……」


 強制労働所……って何だ? シアンさんの顔を覗いてみるが、彼女も何も知らないみたいだった。


「強制労働所っていうのは、強制的に身元不明の人たちを働かせる場所だ。あくまで噂で、俺も詳しくは知らない」


「そこに彼を入れさせるのは……私は反対よ。それならこの村の人たちで一緒に家族を探そうよ!」


 強制労働所……か。とんでもない名前をしている施設だな。絶対に行きたくない施設だ、無理矢理働くことになるんだろう、それも無償で。


「それもそうだな……お前の名前は何だ?」


「俺は……スカイです。彼女につけてもらった名前ですが……」


「スカイか……いい名前だ。お前、力仕事は出来るな?」


 力仕事……か。自分の腕を触ってみたが、なかなかいい身体をしている。筋肉も多少はあるし、力も使えそうだ。


「はい、多分……少しなら」


「よし、なら俺の仕事を手伝え! その代わり、お前の記憶を取り戻すのを手伝ってやる!」


 モンスターを討伐する……ということがよく分からないまま、俺はこの村に留まることとなった。いつまでだろうか。俺の記憶が戻るまでだろうか。それとも……。


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