よみち
三題噺もどき―ろくじゅうよん。
お題:携帯・花・夜道
真っ暗な世界に小さな光が灯る。
誰かが、携帯をひらいて、時間を確認しているみたいに。
小さなランタンをつけて、その先を照らすように。
ぼうっと光るそれは、携帯でもランタンでもなく、小さな花。
小さな、可愛らしい、一輪の花。
―黄泉の入口に咲くという、小さく、白い、美しい花。
人々は、その光に惹かれて、黄泉へと向かうのだ。
私も、そんな人間の1人。
―なのだろう。
よく覚えていないというのが、本音である。
気づいたら、立っていて、よくわからない暗闇に囲まれていて。
光に誘われて、足の向くまま、気の向くままに、進んできたから。
(まぁ、死にたいとは思っていたかなぁ…)
―いつからだろう。そう思うようになったのは。
何がきっかけとか、そういうのはよく分からない。
いつの間にか、夜道のように真っ暗な世界にいて、1人で、そこに立っていて。
―自分の道の先が見えなくなって。
道に迷って、光に縋るように歩いていたら、こんな所まで来ていた。
(死んでいいって事なのかな。)
というか、入口まで来たと言うことは、もう私は死ぬ間際と言うことだろう。
(何したのかな。)
事故か、自殺か、何か事件に巻き込まれたのか。
(最後のは、無いか)
まあ、恐らく自殺だろう。
生きることに疲れ、何も見出せなくなってしまったから。
―他人事みたいな話し方になってしまうが、直前の記憶が無いのだから、仕方あるまい。
実感が無いのだから。
自分が死んだという。
(ま、サヨナらということで……)
来世よ良きものであれと、願って。