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てんてこ舞いが止まらない  作者: 金子ふみよ
第二章
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教頭の無茶ぶり

「巨勢君、小野先生はどこだい?」

 的中してしまった。ずんぐりむっくりとした教頭は息を切らしている。少ない白髪には河の風は過度な滑走だな。

「俺は知らないですよ」

 そう言えば、教師陣がチラホラと見えるが、あの担任の姿が見えねえな。

「どっかでサボってんじゃないですか?」

 昨日の恨みがこもっていなかったと断言できるほど、その時の心境の記憶が鮮明ではないが、そんな感じで素っ気なく答えた。

「教師陣で探してみたが見当たらない……ちょっと待ってくれたまえ」

 不器用な動作でズボンのポケットから携帯電話を取り出した。どうやら受信したらしい。

「もしもし……小野先生! 今どこに? ……え? ええ、そうですか。じゃ、そういういことで」

 携帯電話を元に戻した教頭の目が、さっきまでの虚ろなものから明瞭かつ鮮明に確信めいたものに変化しているのを俺は見逃さなかった。直感が告げる、次の言葉を言えと。

「俺、準備行きますね」

 それを号砲代わりにどこかにダッシュしようとした。

「待ちたまえ、巨勢君」

 理事長には逆らえなかったとしても、教頭には逆らうことができるかもしれないが、そう教頭から言われてしまった後では、仮にバックれたとしたら、それが理事長の知るところとなり……逃亡できないのは火を見るより明らか。教頭の話を聞かざるを得なくなった。

「小野先生だが、二日酔いだそうだ。小野先生は式典の司会進行の係だったのだが、今からだと間に合わないそうだ。急いで駆けつけはするそうだが」

「はあ……」

「それで先生から君に司会進行の代理を、先生が来るまで務めてほしいと」

「はあ?」

「ダメかね?」

「ダメでしょ。先生の代わりなら他の先生で行うのが筋じゃないですか?」

「いや、もう他の先生は他の先生で係が決まっていてね」

「いや、でもだからと言って、俺生徒ですし、司会進行は……」

「小野先生からの伝言です。『担任の不始末は、そのクラスの生徒が行うべし』」

 論理が破たんしている、それでも数学教師か、あの人。しかも自分で不始末とか言ってるじゃねえかよ。

「いや、無茶ですって」

「そう言われても……」

 もう一度教頭は携帯を取り出した。どうやらメールだったらしい。

「小野先生からだった。『拒否したら、赤点』だそうだ」

「待て、だからそれは脅迫でしょ。教頭先生、担任が担当生徒にそんなこと言っていんでしょうか?」

「まあそれは今度の職員会議にかけるとして、今回は頼むよ、じゃよろしく」

 三十六計逃げるに如かず。教頭は寄って来たよりも俊敏に施設に戻って行った。無責任極まりないな、小野教諭も教頭も。それに絶対職員会議にはかけられないだろうな。んな面倒なことを中間管理職が提示するはずはない。それにかけられたとしても、強権が発動され、握りつぶされるのは目に見えていた。

「いや、ちょ……参ったな……」

 今度は俺の携帯電話が鳴っていた。メールだった。強権からだった。

「貢、話聞いたぞ~、覚悟決めて職務まっとうしろよ!(^^)! 担任に恥じかかすなよ~」

 理事長が知っていてメールをよこしたってことは、文面は穏やかな……いやナメ腐ったものだが、「理事長命令につき、式典の司会進行せよ。しなければ……」という行間が見え隠れするのは読解力の有無以前のことである。

 携帯電話を仕舞うと、俺は先ほどの教頭よりも重い足取りで施設に向けて足を進めた。


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