三善には反論できない
何とも俺って男はなどと、動揺しっぱなしだった自身を叱っていると、間もなく仕事現場に到着。すると、
「あら、お二人さんでのご帰還かしら」
三善がいきなりそんなことを言うものだから、
「ワリイかよ」
売り言葉に買い言葉である。己の妄想をばれないようにすると、男子はこうなるものなのだ。
「しばらく時間が経っていたけれど、どうしていたのかしら。まるで、二人で仲よろしくいらしたようで」
部室のことが思い出され、ついつい
「ち、ちげえよ」
言い淀んでしまった。
「あら、ほんとによろしいことでもしていたのかしら? 動揺しているようだけど」
しまった。完全に三善の術中にはまったようだ。
「茅上の手伝いをしていただけだ。悪いことなんてしてない」
「私は悪いことなんて言ってないわ。それとも貢、あなたにとっては悪いことという認識があったのかしら」
さすが三善、将来は法廷で活躍できそうだな。って言っている場合じゃなく、
「ただ手伝ってたって言ってんだろ」
「ムキになるところが怪しいわね」
「自己弁護しているだけだ」
「弁護しなければならないようなことでもあったの?」
すげえぞ、こいつ。シナリオもねえのに、まるで俺の言うことを想定できていたかのように、淀みなくツッコんできやがる。久米の情報は間違いではない。三善の頭の回転の速さは尋常ではないぞ。
「あの」
そこまで沈黙だった、茅上が口を開いた。
「荷物、運んでもらっただけです。その後、みっちーの口に歯磨き粉が付いているのを言ってあげただけです。それ以外は何も……ないよ」
三善の言いに、悪いと思ったのか茅上はうつむき加減で、事実を述べた。身長が更に小さく見えるから、どんと胸を張っていろよ、悪いことなんてしていないんだから。
「そう。作業を続けましょう」
何だよ、その剣の収め方。俺には辻斬りみたいな言い方しといて。
「貢には前科があるからよ」
橘の廊下事件と、お前がいた保健室事件は、完全に冤罪だろ。
「けれど、あなたにはそうしたことがあり得るってことでしょ」
……確かに。って認めちゃいかん。が、確かに動機や原因を度外視し、状況だけをかいつまんでみれば、俺はヤバイな。これ以上評価を下げないように、慎重に行動しよう。
「悪かったよ」
「何が?」
「茅上の手伝いする前に、ちと顔出せばよかった」
「そう」
三善はそれ以上追及しようともせず、眠気などまるでなかったかのように、俺は淡々と作業を進めたのだった。