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てんてこ舞いが止まらない  作者: 金子ふみよ
第三章
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誤解される善意

 一通りの見学が終わるころにはクラスの列はばらけており、それは小野教諭のやる気の無さが引き起こしていることでもあり、それでも女子たちが周りにいると異常に機嫌がよく、男子たちは「後から自分たちで探検するわい」くらいの適当ぶりだった。

 という具合な感じで徐々に自教室に近づいて行った時、ふと何気なく顔を横に向けた。よくあるのではないだろうか。顔を動かしたら、視界に何か黒い物がひらめいたということが。まさにそれが起こった。一瞬にして俺は徒歩が止まり、よせばいいのに、数歩戻ってその影がなんだったのかを確認しようとしてしまった。怖いもの見たさってやつかな。

 が、思わずの行動というのは、後々後悔してしまうものが多いものだ。そこで俺が見たもの。校舎の突き当りの窓から身を乗り出している女子生徒の姿が! そんなものを見ればさ、誰だって思うだろ。

 ――投身か

 そして、そんなものを見ればさ、誰だってするだろ。駆け出して、その身体を校舎内に引っ張るってことをさ。実際俺もそうしたさ。  

「危ねえ!」

 そうした時の勢いってのは、尋常ではないらしく、まるで雪崩式ジャーマンスープレックスをしたかのように、俺は廊下の床に自分の身を打ち付けた。コンクリは痛えぞ、気を付けないと。

「痛ってえ……」

 しかも身体の上に重みを感じる。相手の身体だろう。まあ、助けたんでいいか、なんてことを思って状況を整理してみた。分析の基本はよく観察することだからな。さあ、括目してみよう。

人がまばらな廊下。男子が仰向けに寝っ転がって、女子がその上に、そう馬乗りになっている。総合格闘技なら俺は無防備にボコられる、相手にしてみれば絶好のマウントポジションである。……あれ、これって少しまずい展開では? 

 何ていう疑念が生じた矢先、

「キャーッ」

 別のクラスの女子らしき軍団が、たまたま――いや、校内見学しているわけだから、必然的なのだが――通りかかって、現場を押さえたらしい。ざわつく女子たち。

 当然俺は自己弁護をしようとしたが、慌てふためている時には言語不明瞭になるものらしく、

「ちょ、ちが……いや、これは……」

 何ていう言葉しか出なかった。その次に出たのは、

「君からもあの子たちに言ってくれ」

 と状況がわかっているだろう、俺の上に乗っている女子に視線を送ってみた。あれ、この子。懇親会でマジックのラストでステージに上がった、確かタチバナさんでなかったか。

「ちょ、タチバナさん? 俺の……」

 自分の名を呼ばれて我に返ったのか、はっと俺の顔を覗き込み、

「何してるんですキャ?」

 瞬間的に赤面となった。詰め寄る女子たち。その足音は群雄割拠か。

 なんとなく状況がわかったのか、タチバナさんは話をしようとする。いやその前に俺からどいてほしいのだがな。

「あの、私……猫……」

 赤面をし、身もだえしながらそんなことを言うのは危険この上ない。

「待て、そのたどたどしい言い方は……」

 女子たちの火に油を注ぐのではないか。

「何を~。女子を猫扱いしたとー!」

 ほらな。案の上じゃないか。途切れ途切れの単語を補足する部分がおかしなことになっている。

「いえ、そうじゃなくて、猫を……」

 だから、そういう言い方は、

「猫耳を付けて『ご主人様、私が癒して差し上げますニャン』とか言わせていたのか!」

「待て、それは幻想だ。コイツのどこに猫耳が付いている」

 いやはや現実は理不尽である。女子たちの幻想をぶち殺す手段は、俺には説明しかないのだが、女子たちにはその聞く気がないらしい。

 ――どうするこの処置

 と思っていると、非常に恐々としたオーラのようなものが近づいてくるのを感じた。ちなみに俺は霊感などない。が、それでも明々白々と分かるくらいの……我が担任様がこちらに近づいていた。万事休すだった。


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