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てんてこ舞いが止まらない  作者: 金子ふみよ
第二章
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余興じゃなくて余剰

「ラストのマジックは、ラストらしくド派手にそしてスリリングにいきましょう」

 道具が出された。マジシャンに促されて、登壇した彼女は円形のボードに大の字になってマジックテープで両手両足を結ばれ、身動きとれないようになった。そこにナイフを投げつけ、全く当たらない上に頭上のボタンにナイフが当たるとそのボード自体が数秒後に爆破。しかし、一瞬にして彼女は別の所へ脱出している。などというもはやイリュージョンだろ的なものだった。

 タチバナという生徒は、大の字でワナワナしている。それはそうだろ。ナイフ飛んでくるんだから。そしてスイッチが入ると爆破するんだから……

 待て。別の所ってどこだ? 恐らく頭上のボタンが押されると煙幕か何かで、視界がぼやけている間に後ろか、ステージ下に隠れ、そこからどこかに出るのがネタなのだろう。爆発ってのがフェイクみたいなもんで……。が、ステージには抜け出すような切り込みや歌舞伎で使う、なんて言うんだ、あのステージ上に上がったり下がったりする仕掛けがあったりするが、そんなものは建物の構造上無い。ということは後ろか……いや、あのボードとステージの背の間が狭すぎる。人が隠れるスペースなどない。

 そんな感じで俺が嫌な予感を思考に変換しているうちに、ナイフは一本また一本と投げられている。足元や肩の斜め上などに付けられた①とか②の番号に、吸い込まれるように刺さっていった。自分の腕を信じろと言わんばかりのマジシャンの振る舞いである。ステージ上の胡散臭いウィリアム・テルは、会場から拍手を得ている。すっかり観客を虜にしたらしい。虜にされていないのは俺であり、払しょくできない嫌な予感がいったい何なのかの解を導き出しつつあった。

そして、

 ――マジックテープ! 

鎖や紐なら手首の返しだけで解ける方法があるが、マジックテープはそれができないじゃないか。

 ――てことは……!

「まじかよ!」

 持っていた皿を円卓に叩きつけるように乗せ、壁際を辿って、ステージめがけて駆け出していた。

 ――てか、他に気付いた奴はいないのかよ! 

 そんな風に思っていると

「さあ、最後の一本です。これをあそこにめがけて投げますよ」

 マジシャンの余裕綽々のジェスチャーと、タチバナさんという女子の涙目が対照的だ。

「3・2・……」

 マジシャンがラストのナイフのカウントダウンなんてことをし始めやがった。

「間に合え!」 

 発射! 会場の隅に置いてあった消火器をステージ向けて放った。その隙に俺はステージに飛び乗り、俺は煙幕が出るであろう、タチバナさんの頭上の赤い的を押し、案の定煙幕が消火器の噴射に相乗されたので、タチバナさんの頭を手で下げ、飛んできたナイフの軌道から外し、マジックを全部外して、タチバナさんを抱え、煙が裾広がりになるのを使って舞台袖の幕の後ろに滑り込んだ。ボードはポンという音を立てて破裂した。やはり煙幕から爆破までタイムラグがあるヤツか。

 立ち込めていた煙幕が徐々に消える。会場は沈黙したままだった。てか、こういう会場で煙関係は禁じ手なんじゃないか? ぶっ放した俺が言うのも何だが。

ステージが顕わになる。そこにはものの見事に砕けたボードと、キョロキョロとするマジシャンしかいなかった。再びざわつく会場。

「あ、あの……」

 ステージに恐る恐ると、タチバナさんが幕の後ろから現れてくると、絶叫と歓声と拍手が巻き起こった。

「間一髪……」

 俺はそれを見届けると、誰にも気づかれないようにステージ袖から、こっそりと出た。

 マジシャンは再びタチバナさんを登壇させると、彼女の手を持って、挙上させると

「もう一度大きな拍手を」

 まあ、演出的には盛大だったなという結論に至るのだろう。あそこで俺がステージで制止させていたら、それこそ興ざめというものだ。それにああでもしておかないと、いきなり俺が止めたら、後で理事長に何言われるかわからなかったからな。あのマジックの本当のネタは俺は知らないんだから。が、またしても精神的な疲労が新たに蓄積されたことに変わりはなかったがな。後日耳にしたのは、やはり俺の推測がご名答だったということだった。

 その後、こういう場ではお約束……なのか? ビンゴ大会が行われ、俺もビンゴしたらしかった。記憶が定かではない。すでにいくつか商品が出て行った後なので、何だか小さめの箱が渡された。

「これにて懇親会を終了いたします。本日はご多忙の中御足労いただき、誠にありがとうございました」

 拍手とともに終焉。散会となった。クラス代表者の俺たちがやるべき仕事もなく、クラスメートにカラオケでもどうかと誘われたが、俺にそんな残力はなく、帰宅することにした。彼らは笑いながらも、ねぎらってくれたのが幸いだった。

 家に戻って、途中コンビニで買った炭酸飲料に口を付けた。もはや身体を直上させておくだけの力もなく、地球の重力に従ってソファに横になったのが最後だった。瞬間的に寝落ちした。


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