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6 銀の閃光

「どういうことですか!」


 ライラの叫び声に、あっはっは、とイヴァンは笑う。それに合わせるかのようにゆっくりと城が傾き、慌ててイヴァンはライラの手をつかむ。


「あのスイッチは、起動スイッチなんだよ!」

「お城の?」

「お城の! ミカ・アカツキの趣味でこうなってんだ!」

『イヴァンお待たせ』


 どういうことですか! とライラが叫ぶ声と、キースの通信の声が重なる。イヴァンはライラの質問を無視し、キースに向かって叫ぶ。


「キース! どうしようどうしようどうしよう!」

『城をできる限り壊したくない事情ができた。まずは城の動きを止める。その後城の心臓部を探してそこを壊す。そしてゆっくりお宝を探す』

「心臓部とお宝のめどは」

『あらかたついてる』

「上々。俺はどこに行けばいい」

『その城の中にはもう二人しかいないか?』

「確認する」


 なあ、とイヴァンはライラの手を引く。


「あのおっさん」

「ラックですか?」

「そう、ラックにこの城の中の兵隊皆外に出すように頼んだだろ。もう終わってるかどうか、わかるか?」

「わ、わかります。もう終わって皆外に出たって、さっき連絡ありました」


 ライラが顔を傾けて、イヴァンに右耳を見せる。ワイヤレスのイヤホンをコンコンと叩いて見せると、よかった、とイヴァンは小さく笑った。


「キース、もう城内には俺たちしかいない」

『ライラお嬢さん一人なら抱えて飛べるな?』

「最上階からでも平気」

 イヴァンはライラをぐいとひっぱると、素早く抱きかかえた。

「何ですか!?」

「準備完了」

『その部屋を出て右に曲がって真っすぐ進んだ先にある丸い窓から外に出るんだ』


 あいよ、とイヴァンが唇をなめる。じたばたと暴れるライラに「歯を食いしばれ、舌噛むぞ!」と叫んでおとなしくさせると、部屋を出て、右に曲がる。

 遠くに光が見えた。

 イヴァンは獣のように叫びながら、全速力で駆けた。城が傾き、ライラがぎゅっと身を縮める。天井が崩れるのをうまくよけながら、イヴァンは大きく跳ね上がり、丸窓の真ん中を蹴破った。


「きゃあああああっ!」

「叫ぶな叫ぶな歯を食いしばれ! 着地するぞ!」


 ライラがぎゅっと歯を食いしばった瞬間、イヴァンは両足で地面に着地した。その衝撃をすべて受け止め、しばらくして、ふう、とひとつため息をつく。


「平気か、お嬢ちゃん」

「……は、はい、う、うう」

 ライラは上を見上げ「うそお」とつぶやく。はるか遠くに、蹴破られた窓枠の残骸が飛び出ているのが見えた。

「あんなに上から」

「俺がいたから平気だよ。衝撃もそんなになかっただろ?」

「確かに……」


 イヴァンはにやりと笑って、ぐるりと振り返った。

 目の前には、機械仕掛けの足が二本、準備運動をするように上下していた。

「な、何これ……」

 ライラが目を白黒させる。かはは、とイヴァンは笑いながら、大声を出した。

「さてと。キース! 目の前に足があるぞお!」



「何本見える?」

 キースは、上下運動を繰り返す城と、目の前にある町の全体図を交互に見ながら、静かに問うた。ケイトはその様子を、静かに隣で見守っている。

『二本だ!』

 よし、とキースがうなずく、

「足は直線に並んでるか?」

『一発で仕留められるかっていう話だな? 並んでるぜ』

「上々。直線で仕留められる位置に行ってくれ。その先に何が見える?」

『移動……した、ぜっ。直線状の先だよな? 高い建物は見当たらないし、ほとんど城で隠れて見えねえ』

「後ろには何がある? 真後ろだ」

『えっと、時計台! 赤い屋根の』

「ケイト、赤い屋根の時計台、この地図上でどこかわかるか」


 いい終わる前に、ここ、とケイトは地図を指さす。ありがとう、とキースはうなずいて、地図を見渡す。

 赤い屋根の時計台から、まっすぐ、線を伸ばす。

 城を挟んで反対側の道は長くまっすぐ伸びていて、突き当りまでの距離がある。その距離──「イヴァン、その時計台からまっすぐ直線上に道がある。八百メートル先に建物あり。その手前で砲撃、止められるか」

 砲撃? とケイトがつぶやくが、キースは答えない。


『やれる』

「よし。ケイトにその道に入らないよう町の住人に連絡してもらう。二十秒後に発射」

『了解』

「健闘を祈る」


 不安な表情を浮かべているケイトを、キースが見つめる。すべてをいう前に、ケイトは小さく何度もうなずいて、目を閉じた。数秒後「指示は出した」というと、静かにキースは微笑んだ。

「あと十秒。そうだな、この道じゃなくて」

 おいで、とキースは数メートル先に走っていく。ケイトがわけもわからずついていくと、キースが「ここなら見えそうだ、あと三秒」と満足そうにうなずいた。

「な、何が」

「よく見て」


 キースの指さす方向には、はっきりと城の足が見えた。

 ガラクタを重ねて作ったようないびつな二本足。


 その二本足を、貫くものが、あった。


「あれは」

 ケイトが息をのむ。

 目に入ったのは、銀色の閃光だった。


「あれが、銀の閃光。イヴァンの通り名」

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