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4 ミカの娘と息子

「──さん、キースさん」

「……ん」


 キースが目を覚ますと、涙目のケイトが「よかった」といって抱きついてきた。一瞬何が起こったのかわからず混乱したが、ゆっくりと、現状を思い出していく。

 後頭部に、鈍い痛みが走る。


「いってえー……」

「あっ、ご、ごめんなさい」

 ケイトが慌てて離れ、大丈夫ですか、とのぞきこんでくる。

「大丈夫だよ。ケイトこそ大丈夫か、投げられたところまでは見ていたんだ。助けてやれなくてごめん」

「私は、大丈夫です。……あの男のいうとおり、人間では、ないので……」


 キースは、少しだけ寂しそうに笑って、あのな、と優しくいった。


「ああいう人間は確かにいる。ヒューマノイドはしょせんロボット、いいつけしか守れない。思考はない。感情もない。でも、俺は違うと思う。ごめんって俺たちにいうケイトは確かに辛そうだったし、俺のこと心配して泣きそうになってた。それもプログラムだっていうやつに、俺はいってやるよ。それでも、そういった行動をとると選択したのは、ケイトの心だって。俺は、優しいケイトが傷つくのは、いやだよ」


 ケイトはうつむいて、涙をひとつぶ流した。


「そう、いってくれる、人間の方が、少ない」

「でもいないわけじゃない。信じてくれ」

「……いないわけじゃ……」


 そのとき、部屋に老人と男数名が入ってきた。

「声がすると思って来てみたんだ。目覚めたんだな、旅の人」


 キースは、立派な服を着た老人を見つめ「町長さんかな」と頭を下げる。いかにも、と老人はうなずいて、キースより深く、長く、頭を下げた。

「すまない、君の友人が、ライラの城に連れていかれてしまった。それをわかっていながら、私たちは救うことができなかった」

「逆らうと、あなたたちの大切なものがライラに壊されてしまうことは知っています。だから、気にしないで」

「しかし」

「あ、イヴァンのことならもっと気にしないでください」


 キースは、窓の外に見える城にむかって、苦笑した。

「あいつらもばかだな。俺より、あいつの方が何倍も強いのに」



 イヴァンは、足元に横たわる男の腹をゆっくり上に向かって蹴り飛ばした。蹴られた男はふわりと浮かび上がり、ライラのまえにごろごろと転がる。


「六十二人」

 イヴァンはそうつぶやくと、両手首にはめられている手錠に目をやった。

「足技のみで、撃破。弱っちいなあ。もう少し強いやつを雇った方がいいぜ」


 ライラがごくりと唾を飲みこむ音がする。まったく、とライラの隣に立っているラックが笑う。イヴァンは目を細めて二人を注視した。相変わらず、ライラの姿を見ることはできない。


「弱っちいという意見に、まったくもって同意する。ライラ様。もう少しだけ、屈強なやつらを雇いましょう。見てくればかりではないですよ」

「なんだあ、ライラさんは、美男美女ばっかり雇ってたのか」

 あれれ、とイヴァンが首をかしげる。

「でも、そうだとしたら、そこのおっさんは真っ先にクビだよなあ」

 はは、とラックは笑って、イヴァンに歩み寄る。

「口のへらないガキだ」

「ガキっていわれるのは嫌いだぜ」


 イヴァンはそういって、両手に力を入れた。ぱきん、と音がして、あっけなく手錠が半分に割れる。おや、とラックは目を丸くした後、いいね、と右こぶしを振りあげた。イヴァンは冷静に拳を目で追い、振り下ろされるそれをすれすれのところでよける。

 イヴァンは体をひねると、少しだけ隙間の空いたラックのわき腹に、素早く右こぶしを繰り出した。拳は綺麗にわき腹に入り、ミシ、ときしむ音がする。


「あ、ヤベ」

 イヴァンが後ろに飛び退くのと、ラックが蹴りを繰り出すタイミングが重なる。

「拳も蹴りも、よけるとはね」

「やべえ音がしたじゃん」

「私を殴ったときに?」

 ラックがにたりと笑う。イヴァンはん? と眉を吊り上げ、しばらくしてああ! と両手を叩いた。

「あの音、おっさんの音か! 確かに、ミシミシいったな。おっさん、ヒューマノイドだったんだな。戦闘用のヒューマノイドか? 珍しいなあ」

「やけに詳しいな、少年」

「詳しいぜ。ヒューマノイドのことはよく知ってる。たとえば」


 イヴァンは両手をうんと伸ばし、ふ、と力を抜くと、静かにかまえ、冷たい視線でラックを見つめた。


「戦闘用ヒューマノイドの弱点なんかもな」

「嘘はよせ」

「嘘じゃねえ。俺は嘘がつけない。ヒューマノイドが、命令に逆らえないように。わかるだろ、俺は怒ってるんだぜ」

「怒っている? 何にだ?」

「ただのロボットがうるせえよ、がたがたぬかすな。スクラップにしてリサイクルしてやるぜ」


 イヴァンは、悲しく微笑んだ。


「同じヒューマノイドに、それはないぜ、って思ったんだ。ミカが聞いたら、悲しむ」

「は。何がミカだ。お前、まさかあれか、ミカ・アカツキの親族か何かか?」

「ヒューマノイドはみんな、すべからくミカの娘と息子だよ。少なくとも、あの人はそう思ってる」


 イヴァンは静かに目を閉じ、そして、ラックが次の言葉を放つ前に、大きく、その瞳を開けた。

 その瞬間、ラックの動きが停止する。傍観を決め込んでいたライラが、「ラック?」と小さく声をかけるも、ラックは反応しない。ただ無言で、即座に、移動する。ライラと、イヴァンの直線状に。そして、また動かなくなる。


「ほらな、攻撃も行動も止まったろ」

「ラックに……何をしたの」

 震える声のライラに、イヴァンはネタばらしだ、と微笑んだ。

「この目な。人間には分からない、見分けがつかない、一見、ただの瞳。でも、俺の目からそのおっさんは確かに、武器反応を感じ取っている。見たことのない武器を前にしたときに、戦闘用ヒューマノイドがとるべき行動はひとつしかない。主人を守ることだ。その命に代えてもな」

「あなた、ヒューマノイドなの?」

 ライラの質問を遮るように、ラックは「ライラ様」と声をかけた。ライラが静かになったのを確認し、ラックは続ける。


「私は最新世代のヒューマノイドです。つまりは、ヒューマノイドにおけるすべての戦闘手段を知っています。その私が知らない武器を所有している。目の前にいるあの少年は、瞳に機械を埋め込んだ人間か、改造されたヒューマノイドか」


 かかか、とイヴァンは笑った。

「どっちも外れ。安心しな、俺はおっさんもおばさんも攻撃する気は無い。俺の要望は最初からふたつだけ。散策させろ、出て行け。以上だ。この要望をこの状況で飲まない場合は、どうなるか、わかるよな?」


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