第3話
ここはメトラッハ町にある空き地。一人の少年がスライムを抱えながら思案に耽っていた。
「さすが異世界。こうもあっさりモンスターに出会えるとはな。」
「何やってんだよ、ハイド。早くスライム投げの続きをやろうぜ!」
「あ、うん。」
俺の名前はハイド・エック。年は6歳で、ちょっと好奇心旺盛なメトラッハ1の靴屋(1軒しかない)の息子だ。しかし俺にはある重大な秘密がある。なんと俺は異世界人の生まれ変わりなのだ!前世の俺は異世界からカーヌスという神的な存在の依頼でこの世界に生まれてきたのだ。と言っても思い出してきたのはここ最近だけどな。それまでは意味不明な事ばかり言っていて、家族から知恵遅れ扱いされていた。多分記憶だけが頭の中にあって、現実と区別がつかなかったんだと思う。
人から聞いた話と俺が見たことを前世の知識から判断すると、この世界はおそらく大航海時代のヨーロッパ?に近いものだと思われる。この世界には魔法、魔術?(人によって言い方が違う。)が存在しているようだ。まあ、見たことがないが。どうやら、大きい街に行くか、魔術師の仕事先にでも行かなければならないらしい。俺は全属性魔法とやらが使えるはずだが、使う方法を知らないので意味がない。一人でイメージトレーニングをしているが一向に何も出てこない。ゲームみたいに戦いをしたり魔法書的なものがないと使えないとかだったら詰むんだが。魔空船なるもの(話によると、飛行船に近いもの)や、魔動車なるもの(トラックに近いもののようだ、自家用車的なものがあるかは不明。ありそうな気がするが。)で外国と貿易をしているようだ。前世では香辛料とか砂糖とかは超高級品だったが、こちらでは少し高め程度だ。あちらで高かったのはヨーロッパで生産できなくて、中間マージンを取られまくってたからで、こちらでは、近場でも生産できるのか、魔法の力で輸送が楽なのだろう。ただ、綿はないんだよな、。俺の服の素材は羊毛と亜麻だし、。
あと、この世界には、モンスターが存在しているようだ。一種類しか確認できないが。RPGよろしく、町をでたら即エンカウントにはならない、というか、一般人は遭遇しないものらしい。そのせいで、モンスターそのものの話は、人の想像が盛り込まれているようであまり信用できない。人の生活圏外(深い森の中や山奥とかか?)にしか存在しないようだ。あるいはモンスターがいない所で人が生活しているだけかもしれないが。どうやら、そんなモンスターを相手にする存在”冒険者”がいるようだ。あっちのファンタジー小説みたいに、ギルドがあって、依頼を受けるようなどこの町にいるものではなく、未開の土地に行き、モンスターと戦い、狩り?をしたり、調査を行ったりしているらしく、命知らずの同義語だ。さて、俺が確認している祐逸のモンスター、ファンタジー定番のスライムだが、我々の生活にはなくてはならない存在である。スライムは水色の半透明の体で、ゴキブリのようになんでも(土や石、金属以外)食べて、(吸収?する)一定以上の大きさになると分裂する。町の外に出て、岩陰とか木陰など適当な所を探せば、見つかる。(光を嫌うのか?)子供でも踏みつければ簡単に死ぬが、水と吸収するものがあれば実質不老不死だと言われている。そんなスライムは便槽(排泄物を溜めておく所)や下水の中に入れれば、処理をしてくれるのだ。前世の中世ヨーロッパとやらは、排泄物をその辺にぶちまけていたらしいが、スライムのおかげでこの世界では衛生的な生活をおくれるのだ。ただ、農村地では肥やしに使うため、スライムを使わないらしい。また、スライムをぶつけられても怪我をしないので、スライム投げというドッチボールと鬼ごっこを足して2で割ったような遊びに使われている。最後にそんな生活に根差しているスライムを使った格言がいくつかある。例えば人を馬鹿にする意味で、“スライムより使えない奴”みたいな。
「お前考えごとばっかしてるよな。ちゃんとしろよ。」
「ごめん、気をつけるよ。(無理矢理誘ったのはそっちなんだけど)」
そんな俺は、近所の子供たちの遊びに付き合わされていた。本当は情報収集(大人に話を聞いたりその辺を見て回る)したかったのだが半ば強制だったので仕方がない。
「そろそろ飯だし終わりにしようよ。」
「そうだな腹減ったな。」
やっと終わったか。別にスライム投げがつまらんわけではないが、謎だらけのこの世界の情報収集がしたいのだ。
「ただいま母さん。」
「おかえり。ご飯できてるわよ。」
「うん。腹減ったよ。」
うちは前にも行ったが代々靴屋をやっている。家族は職人気質で怒ると怖い父さんと優しいが、たまに理不尽になる母さんと、6歳年上の兄さんと一歳年下の妹がいる。
「ふ〜おいしかったよ。じゃあまた神父様のところへ行ってくるよ。」
「神父様に粗相をしないようにするのよ。」
俺は他の兄弟と違ってアレだったせいか、親から少し放任ぎみにされている。ありがたいような少し悲しいような複雑な気分だ。俺はほぼ毎日神父さんに会いに行っている。信仰心からではなく、情報収集のためだ。神父様は物知りで暇であれば俺の相手をしてくれるので、話を聞くのにはうってつけの人だ。尊敬している人を聞かれたら俺は真っ先に彼を挙げるだろう。
この国のというか人間の宗教は、神教といい1つしかない。人間と言ったがこの世界には人間の他にも動物に近い姿をしているらしい人々《ティーリアル》と(獣人は差別的な言い方らしい)エルフやドワーフ的なファンタジーでメルヘンチックな妖精族的な《フィーア》がいるらしい。どっちもあったことないから人伝だが、ティーリアルは魔法が使えないが身体能力がすごいらしい。俺が生まれる何十年も前に人間たちと戦争があったが、戦争は和平?したらしく、現在は貿易を行なっているようだ。白人と黒人的な関係かな。まあ、対等な関係のようだが。それに対してフィーアは謎だらけだ。人間とはほとんど関係がなくて良くわからない噂か、おとぎ話に出てくるくらいしかない。なんだろう?黄金の国ジパングみたいに神秘的なイメージだな。
今までの話では”らしい”とか"的”なとかが多かったが、人伝の話で今ひとつ信用がないことばかりで、俺の想像が多く入っている。なんかこの世界は技術はともかく情報が足りないんだよな。前世ではネットですぐになんでもわかるが、ここでは謎だらけだ。俺が子供ということもあるのだろうかしれないが。農民は農業のことだけを職人は仕事のことだけ知ってればいいみたいな感じだ。
この国のというか人間の宗教は、神教といい1つしかない。人間と言ったがこの世界には人間の他にも動物に近い姿をしているらしい人々《ティーリアル》と(獣人は差別的な言い方らしい)エルフやドワーフ的なファンタジーでメルヘンチックな妖精族的な《フィーア》がいるらしい。どっちもあったことないから人伝だが、ティーリアルは魔法が使えないが身体能力がすごいらしい。俺が生まれる何十年も前に人間たちと戦争があったが、戦争は和平?停戦?したらしく、現在は貿易を行なっているようだ。白人と黒人的な関係かな。まあ、対等な関係のようだが。それに対してフィーアは謎だらけだ。人間とはほとんど関係がなくて良くわからない噂しかない。なんだろう?黄金の国ジパングみたいに神秘的なイメージだな。
今までの話では”らしい”とか"的”なとかが多かったが、人伝の話で今ひとつ信用がない。なんかこの世界は技術はともかく情報が足りないんだよな。前世ではネットですぐになんでもわかるが、ここでは謎だらけだ。俺が子供ということもあるのだろうかしれないが。農民は農業のことだけを職人は仕事のことだけ知ってればいいみたいな感じだ。
そんなことを考えているうちに教会についた。教会のシンボルは縦横同じ長さの十字の先端に円がくっついている形だ。円はそれぞれ火、水、土、風を表していていて、神様が何もない空間からこの世界を創造した力らしい。よくある天地創造神話だが、この世界では信憑性がある。
俺は教会で神父さんに色々な話を聞いて、掃除などの雑用と教会が行なっている寺子屋的な活動の手伝いをして小遣いを貰っている。読み書きと小2ぐらいの算数だ。ただ、教えるのはなかなか難しい。俺より年上しかいないし、簡単すぎるため、なんで分からないのか分からないため難航している。
この世界の識字率は思ってたより高いみたいだ。農民や農奴は別だがちゃんとした町に生まれればそこそこの教育は受けられるようだ。
「今日もありがとう。ハイド君。」
「いえ、俺も色々勉強になりました。」
「これ、少ないけどいつものと、あと、パンが余ったからあげよう。」
「ありがとうございます神父様。」
「今日もまた、話を聞かせていただいてもよろしいですか。」
「あ、ああ。いや、もちろんだともハイド君!今日はど、どんな話が聞きたいのかな。」
「今日もまた、素朴な質問ですが、なぜ、食べ物は腐るのですか。また、石や鉄が腐らないのはなぜなのですか。」
「う、うん。いや~今日もなかなか難しいことを聞くね。そうだね、まずは前にも話したことのおさらいしよう。世界は神様の権能、我々のいう魔法で作られていて、生き物、そうでないもの問わず、すべてのものは、魔法のもとになる魔力でできていてるんだ。そして、神様が世界の守護者として、創造したけど、その命を逆らって、反逆をする存在、悪魔がいて、神のしもべたる我々の力を削ぐためにモンスターを創造していることは覚えているよね。」
「もちろんです。」
「食べ物が腐ることは、そんな悪魔が我々に対する所業の1つなんだ。悪魔は食べ物に対して瘴気を放つことで、食べられなくしているんだ。」
へえーなるほどな。どうやら、微生物の存在は確認されていないようだな。あるいは教会の権力によって、腐敗のメカニズムを研究することは禁じられているのか?たぶん後者かな。勘だけど。
「では、干し肉や漬物や乾パンが長持ちするのはなぜなんですか?」
「う~ん、そうだねぇ~、悪魔の瘴気は水を媒介にしていると言われているんだ。だから、水が少ないものほど腐りやすいんだ。また、水を飲むとたまにお腹を壊してしまう理由でもあるんだ。」
なるほど、良く考えられてるよな。本当かもしれないが。なまじ、魔法があるせいで、前世では馬鹿にしてた考えが説得力があるんだよな。大人になって、色々証明しても異端扱いされる可能性が高そうだ。
「ハイド君、お仕事の時間が来ちゃったからそろそろ帰りなさい。」
「お忙しい中、今日もありがとうございました。」
俺は教会を出た後、パンを食べながらある場所に向かう。行儀が悪いと思うが、金はともかくパンを持ち帰ったら兄さんに取り上げられてしまうのだ。
パンを食べ終わった俺は古本屋兼雑貨屋に立ち寄った。教会の勉強の手伝いをしている俺は信用があって入ることができる。子供は本を汚したり、破る可能性があるので普通は入れないだ。
「ああ坊やか。」
「今日も来ました。」
この人は俺の情報収集先の一人だ。まあ、神父様ほど親しいわけではないが。3日前になって入れるようになったので、毎日来てる。
「ちょっとだけでもいいから読ませてくれませんかね。」
「いやー残念だけど無理なものは無理なんだ。」
この世界でも当然本は貴重だ。ただ庶民には手が届かないほど高価というわけではないようだ。まあ庶民は本を買う金があるなら美味いものでも買うんだろうけどな。俺は本を眺めてその本の内容を聞いたりしている。そこで俺は1冊の本に出会った。
「魔法と魔術(上)!」
おお!ついに発見したぞ魔法の情報を!まさに便所のスライムを舐めるほど欲しかったものだ。
「その本か。何年か前に買い取ったものだな。誰も触れなかったから忘れていたよ。」
「ええ!なんでこのなすごい本を見向きもしないんですか!」
「なんかその本の内容は魔法使いなら親から聞くくらいの簡単な内容みたいだよ。魔法使い以外は意味がないし。おじさんも少し読んだだけで内容も忘れたし。」
「なんと勿体ない。ちなみに幾らなんですか?」
「ウ~ンそうだな、誰も買わないし、坊やにだったら2000ギネでいいよ。」
ギネはこの国の通貨で、パン換算なら大体1ギネ5円くらいだろうか。パンとか野菜とか近場で取れるものならその程度だが、塩とか砂糖などどっか遠くから買いつけられるものは割高である。
ちなみに俺の収入は1日100ギネで、全て貯金している。今日の分
を含めた全財産は1900ギネ。なんと明日には買える。
「100ギネ負けてくれませんか?すぐに金を持ってくるんで。」
「へえー。お金持ちなんだね坊やは。でもこれ以上は負けられないんだ。仕入れ値だしね。」
「分かりました。でも!明日には絶対買うので誰にも売らないでくださいよ!」
「ハハ!分かったよ坊や。」
ついに来たぞ俺の時代が。そう期待に胸を膨らませながら俺は家路についた。俺は思いもしなかった。この後に待ち受ける不幸を。一日早く神父様の手伝いをしなかったことを後悔した。