第2話
「大国の元首の行動や発言が誰でも把握できるなんてとんでもないな。」
「君の世界では有り得ないことだが、向こうの世界では誰でも大抵の情報を得られるのだよ。」
俺の名前はルイ・オーラル、19歳。安月給でこき使われていたカス魔術師さ。俺は猛勉強の末、奨学金を借りて学院に入ったが、そこで自分の限界というものを知った。俺が必至こいて魔術理論を頭に叩き込んでるとなりで他の奴らは魔法陣の改善点言っている。俺なんかしょせん昔の天才たちが築き上げた理論を使ってるだけさ。魔術師は特権階級だなんていわれてるが、俺にいわせりゃ木っ端魔術師風情じゃ農奴と同じ貴族様の道具さ。そんな俺は学院で大した功績も残せず親父のコネで毎日魔動車を転がしていた。ある日酒を飲みながら運転してたら不幸にも貴族様の車に追突してしまった。当然クビを切られ、給料10年分の借金だけが残った。
運転手しか乗ってなかったからこれで済んだが、貴族様が乗ってたらそのままの意味でクビが飛んだな。
人生に絶望して路地裏で酒を飲んでる所に、変な奴が「実験に協力してくれないか。」なんて声をかけてきた。高そうな服を着ているし、どっか大きい商会の貴族に雇われ研究者か?もうなにも残ってない俺はあやしいがそいつの話を聞くことにした。
「魔術の概念が存在しない異世界ねえ。」
「正確には“あった”と、言うべきだな。向こうの世界では魔術という呼ばれているものは、君たちが言う物質学が発達していく中で淘汰されてしまった。」
「あんたは念じればなんでもできるんだろう。なんでわざわざ人を送り込むなんてめんどくさいことをするんだ。」
「私自身が介入してしまったらつまらないだろう。」
「ハッ!確かにそうだな。」
何だろうこいつは。尋常じゃない魔術師で、おとぎ話に出てくるような魔道具を持っているが頭がいかれている。俺を魔術がない異世界に連れて行くらしい。いや、向こうのやつとの交換か。異世界なんてあるわけがないだろう。あやしい薬でもキメてるのか。
「借金をなくせるならやってもいいぜ。」
「本当か!ではすぐに支払いに行こう。」
そういったこいつは、俺を貴族の屋敷に転移させて、虚空から金を出して支払った。なんで俺みたいなのにここまでするんだと言ったら「また他のを探して、説明するより楽だ。」なんて言いやがる。空間魔術なんて想像上の産物だがこいつは容易く使っている。まあコイツは神様みたいなもんで念じるままになんでもできるらしいがな。しかし、本当に金を出してもらったのだからこいつの要件を飲むことにした。夢でも幻覚でもなんでもいいや。そういや学院生の時に、平凡な魔術師が魔術がない異世界に行く本を読んだことがある。その主人公はまさに神のように崇められて好き放題やっていた。ふふ、俺もそんなふうにできるかな。
「向こうの私も人材を確保できたようだし、行ってもらおう。あと、君の生まれ先を向こうの彼の国にしよう。あの国は先進国の中で治安が良く、十分な生活ができるだろう。」
「ふーん、分かった。これに入ればいいんだな。じゃあな。」
「では健闘を祈る。ルイ・オーラル君」
そう言って俺は異世界間を繋ぐトンネルに入っていった。
トンネルの空間内は黒一色で奥行どころか上下左右すら分からない。体が全く動かず、自分が進んでいるのか止まっているのか、入ってからどのくらい時間がたったのか何もかも分からない。一体いつになれば着くんだと心配しているうちに前方から何か飛んできた。
「あれは人か?ああ、そうか。向こうから来るやつか。」
どうやらあいつが俺と交換するやつらしい。背が低くて童顔だし、年下か?それにへんな恰好をしている。どうやらむこうも気づいたらしい。
「頑張れよ!異世界人。」
と、声を掛けたら向こうからも返事が返ってきた。まあ、全く意味不明の言葉だったが。あれが異世界語ってやつか。ああ、異世界か、本当に俺みたいなのが本の主人公みたいなことをするとは夢にも思わなかったな。そんなことを考えているうちに白い光が見えてきた。
「やったぜ!魔術のない世界なら神にもなれるぜ。」