第三話 少女と少年(2)
背景色を変えてみました。「こっちの色のほうがいい」など、何かご意見がありましたら、感想でも活動報告のコメントにでもいいので、教えてください。ほとんどの色ができると思います。
「? ここは……」
ここはどこだろうか。取り敢えず昨日のことを思い出そうとする。
(確か私は森にいて…… あ、なんか男の子、えっと…… アル、だっけ)
いまいち記憶が曖昧だが、アルに会って家に連れて来てもらい、お風呂に入れてもらったことは覚えている。けれど、、その後の記憶がない。
(えっ…… もしかして私、寝落ちしちゃった……?)
もう、そうとしか考えられない。
(これって結構恥ずかしいやつだよね。どうしよ、どうしよ)
やばい、なんかパニクってきた。
(うん。取り敢えず落ち着こう。落ち着け私)
――コンコン
「………っ?!」
びっくりした。一度は正常なテンポに戻った心臓も、またドクドクと速めのリズムを刻みはじめる。
私は恐る恐る扉を開けてみた。少しだけ開き、そこから様子をうかがう。
「あ………」
そこにいたのはカエルムさんだった。何か服を持っている。カエルムさんはそれを私に差し出した。
言葉が通じないのはもうわかっているので、取り敢えず頭を下げる。
(多分これでありがとうって伝わると思うけど……)
私の動作を見たカエルムさんがにっこりと笑ったので、一応通じたのだろう。
◇◆◇
着替え終わった私は、カエルムさんに案内され、リビングみたいな場所に行った。そしてそこでご飯をもらった。すっごい美味しかった。美味しさで人は泣けるということを知った。
アルはいなかった。カエルムさんに聞いたら、二階を指さしていたので、まだ部屋から出てきていないのだろう。それを見て少しだけ残念と思ってしまったのは秘密だ。
それから私はカエルムさんに教えてもらいながら、家事を手伝った。まあ、手伝ったと言っても見よう見まねなので、ただの足手まといにしかなっていないのだが。言葉が通じないというのは、こういうとき不便だ。カエルムさんも大変だっただろう。感謝している。
◇◆◇
お昼頃になり、ようやくアルが起きてきた。
「アル!」
私が声をかけると、アルは私に近づいてきて、私より少し大きいその手を私の頭にのせた。アルは私によくこういうことをする。なんでだろうか。少し照れくさいが、地味に嬉しいのでやめてほしくないとも思う。
私とアルで昼食をとった。カエルムさんは、ずっとそばで立っていた。なんとなく落ち着かない。言葉が通じるようになったら、なんで立っているのか、聞いてみようと思う。
◇◆◇
今、私はアルの部屋にいる。いや、正確に言えば、アルの部屋で、アルの膝の上に座っている。目茶苦茶恥ずかしい。どうしてこうなったのだろうか……
――時は少し遡る
昼食を食べ終えたあと、アルとカエルムさんは二人で少し話をしていた。話の内容はわからない。
そして、カエルムさんはアルに、何か大きめの紙袋を渡していた。
思わずじっと見ていると、アルは苦笑し私に中身を見せてくれた。
(おぉっ?!)
紙袋の中身は、たくさんの絵本だった。いくら一冊一冊が薄いと言っても、これは重いだろう。二人とも、あまり筋肉がついているようには見えなかったのだが…… これが細マッチョと言うやつか。全然重そうにしていない。
だが、こんなにたくさんの絵本をどうするのだろうか。そう思っていると、なぜかアルにひょいっと抱きかかえられた。
(たくさんの本を持って、おまけに私まで抱っこするって……
アルって私と同じくらいの年だと思ってたけど、やっぱり男の子って力あるんだなぁ)
どこに行くのかわからないが、悪いようにはされないだろう。私はおとなしく運ばれることにした。
――そして現在に至る。
(うわぁっ 恥ずかしい、恥ずかしいよぉーっ!!)
アルは結構イケメンだ。そして声もいい。そのイケメンボイスが頭の上から聞こえてくるのだ。正直内容に集中できない。
『大丈夫か?』
真っ赤になって震えている私を見てアルが声をかけてきた。
「だ、大丈夫」
アルが絵本を読んでくれているのは、私に言葉を教えるためだ。おかげで、簡単な言葉ならわかるようになった。
絵本には動物や人の絵が書いてある。図鑑みたいだ。その中に、後から手書きでたされたようなページがあった。人みたいなものと、何か獣みたいな形をしたものだ。
「これ、何?」
『あぁ……
……それは"化け物"だ』
そのページを指さして聞いた私に、アルは少しためらう素振りを見せながら、答えた。
「化け物?」
『死んだ人や動物の成れの果てだ』
死んだ人や動物の成れの果て。ゾンビみたいなものだろうか。
『魔人、魔物とも言われている』
言葉からして不気味な感じだ。なんでそんなものがいるのだろうか。
「化け物いる。なぜ?」
これで通じるだろうか。
『? ああ、なんで化け物がいるのかってことか?』
通じた。私はコクンとうなずく。
『正確にはわかってない。だが、神子を殺したからじゃないかと言われている』
そう言ってアルは語りだした。
この世界が今のようになったのは、およそ10年前のこと。人は生まれなくなり、かわりに人は死なないようになった。いや、正確には、死んでも動き続けるようになった。それも、理性の無い”化け物”となって。
この国には昔、神子とよばれる存在がいた。文字通り神の子。不思議な力を操って人々の怪我や病を治していた。
だが、そんな彼女に不満を持つ者もいた。そして運が悪いことに、王子もその一人だった。その王子は、神子が自分よりも人々から注目されていることが許せなかった。王子は神子を城に呼び、始末した。表向きには正体不明の病として。
最初に異変が起きたのは、そのことが人々に伝わった、次の日だった。王子がいなくなったのだ。それだけならばまだよかった。ただお忍びで街におりただけ、という可能性もあったからだ。だが王子はその日、帰ってこなかった。
次の日から、捜索が行われた。
王子は、近くの森の中にいた。ただし、まるで死体のまま何ヶ月も放置されたかのように、ドロドロに腐った姿で。
しかも王子は、その姿でも動いていた。そしてその場にいた人々に、襲いかかった。結果その場にいた者たちの中で生き残ったのはたった一人だった。その一人は、すぐさま城へ戻り、事の次第を王に告げた。王子は死んでいたと。だが死んでいるはずなのに動き出し、その場にいた者たちに襲いかかったと。そして、王子によって殺された者たちもまた、ドロドロに腐った姿となり、動き出したと。
最初はその場にいた者たちは誰も信じなかった。王子は病死とされた。
だがそれから何日かたったある日、兵へ出動願いが出された。内容は、正体不明の化け物が襲いかかってきて、そいつ等に殺された者も、その化け物見たくなってしまった、という、この前生き残った兵が言っていたようなことだった。
結果、兵たちは負けた。全滅だった。そうして一つの町が滅んだ。
そこからは速かった。砂の城が波によって壊されるかのように、国は滅んだ。生き残ったのは運がよかった人たち。もしくは早々に逃げ出した人たちだけだった。
運がよかった人たちは、ある村を見つけることができた人たちだ。その村だけは、化け物の影響から逃れていた。人こそ生まれないものの、化け物たちはその場を避け、寄り付こうとはしなかった。化け物に殺されないせいか、そこで死んでも化け物にはならなかった。
その村というのがここのことで、今もなお、その人たちを助けた機能は停止しておらず、そこに住む者たちを化け物の脅威から守っているのだという。
◇◆◇
アルの話は長く、全て話し終わったのは、もう夕食の時間、というときだった。何個かわからない言葉もあったが、大体の内容は飲み込めた。そして、初めてアルと会ったとき、驚いていたのはこういうことか、と思った。
私がまだ子供だったからだ。この国にはもう、アル以外の子供はいなかったらしい。そのアルでさえ、今は16なのだ。私のような存在がいたら、驚くのは当然だろう。
『っと。そろそろ夕食か。行くぞ』
そう言ってアルは歩き出した。置いていかれないように、慌てて後を追う。
――こうして今日も、1日は終わりを告げた。
えー、参考までに。
アルは16歳で、少女(まだ名前出してなかった)は10歳くらいです。
もしかしたら少女の方は年齢変更するかも……