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08話 街中探索

100pv達成しました!

ありがとうございます!

修正いたしました(2019/03/03)



「ノアさん、朝ですよ! 起きて下さい!」


 誰かが僕を起こそうとする声が聞こえる。

 背中には柔らかな感触。

 ここは……ベッドの上か。

 僕が気を失った後、どうなったのだろうか。


 僕は目をゆっくりと開いた。

 日光の眩しさとともにロミアの顔が映る。

 ロミアは僕が起きたことに気づき、頬を緩ませて言った。


「おはようございます!」


「ああ、おはよう」


 身体を起こそうとしたが、思うように動かない。所々が岩のように固まっているみたいだ。


「大丈夫ですか?」


 なかなか起き上がれない僕を見て、ロミアは心配そうに声をかけた。


「……大丈夫だ。それより昨日、僕がどうやってここまで来たか知ってるか?」


 僕がロミアに聞くと、彼女は思案顔になる。


「昨日は、私が目覚めたら部屋に誰もいなかったので、探しに行こうとしたんです。そしたら、猫耳を生やした女の子がノアさんを引きずって来た所に遭遇しました」



 猫耳…………か。猫耳の少女は僕の人生の中で一回しか出会ったことがない。要するに、ベルが人型の状態で僕をここまで連れて来てくれた訳だ。

 ……うん。

 ベルは人型状態を維持するだけで結構な負担になると言っていた。

 十八歳の青年をここまで運ぶのにどれだけ大変な思いをしただろう。これは後で、お詫びに行こう。


 僕はやっとの思いで上体を起こした。


「ノアさん、今日は買い物に行きましょう!」


 唐突に、突然に彼女は提案する。

 まぁ、ロミアが元気になったようで良かった。

 そして、僕は寝起きの頭で考える。

 買い物……。確かに、まだ国に来てから数日。いきなりクエストに出かけたからなぁ。この街を拠点にするなら色々見て回ったほうがいいだろう。


「……そうだな、買い物に行ってみようか」


 僕は返事を待つロミアに言った。

 

「じゃあ早速、出かける準備をしてきますね!」


 言うが早いか彼女は僕の部屋から去っていった。


 僕はのろのろとベッドの上から降りる。


 ……さて、僕も準備をするとしようか。






 準備を終えて下に降りた僕達は、前と同じ様に朝食を食べる。

 まぁ、料理は相変わらずサンドイッチとやらしか無かったのだが。

 

 朝食を済ませ、宿屋を出る。

 外の明るさに徐々に慣れつつ、辺りを見回す。外には店の準備をしている者や、何やら楽しそうに会話する冒険者などが沢山いた。


「どこに行きましょうか?」


 ロミアは忙しなく周囲を見渡している。


「んー、まずは装備とか見に行ってないか」


 装備は冒険者としてお金を稼ぐには、絶対に必要な物だ。

 前回は薬草の採取だけだと侮って、何の用意もせずに挑んだのが良くなかった。

 かと言って、あんな化け物が乱入して来るなんて夢にも思ってなかったのだけれど。


「わかりました!」


 ロミアの元気のいい返事を聞き、僕達は武具店へと向かう。



 武具店へ向かう道中、僕は周りの景色を観察していた。

 そこで、いくつか気づいた点があった。

 それは街の建物のほとんどにガラス窓が付いている事だ。基本的にガラスは裕福な職人の家、貴族が住む建物や教会でしか使われない。

 つまり、普及率が異常なほど高いのだ。


 何故そんな事を知っているか——、

 それは僕が博識だから…………ではなく、神父様が教えてくれた事の一つだからだ。

 役に立つかどうかわからない知識を大量に教えてくれたのだ。

 そのおかげで僕は立派な雑学人間へと育った。


 閑話休題。



 僕が目と頭を動かしながら歩いていると、道端で遊ぶ子供達が目に入った。

 遠くからでよくわからないが、小さな何かが動いているのが見える。


「ノアさん、あれ……」


 ロミアも気になっているのか、僕の視線と同じ方向を指差している。


「ちょっと、見に行こうか」


 僕達は、夢中で遊んでいる子供達へと近づいた。



 動いていた小さな何か——

 その正体は、人型の模型であった。精巧に造られた模型は、相手の模型と乱闘まがいの事をしている。

 一体何で動いているのだろう? どんな仕組みをしているんだ?

 探究心を煽られた僕は、いつのまにか子供達よりその戦いに熱中していた。


「お兄ちゃんもやる?」


 一人の男の子が僕に模型を差し出した。

 僕はそれを恐る恐る受け取り、じっくり観察する。

 肘や膝の関節は球体関節でしっかりとした作りをしており、特に目立った部分は無い。材質は木でできているのか……。

 僕が模型をずっと眺めていると、それを不思議に思った男の子が親切にも遊び方を説明してくれた。

 

「この人形の胸の部分にEの文字を刻んで、その彫った跡を赤く染めるの」


 僕は言われた通り、胸の部分にEの文字を彫った。そして、彼らが使っていた赤い染料を使って溝を染める。


「それで最後に、闊歩かっぽする馬よ、自由独立せよ。って詠唱したら終わりだよ」


 ほう、では早速。


「〔闊歩する馬よ、自由独立せよ〕」


 僕の詠唱に呼応するように模型が動き始める。

 若干、遅めではあるがなんとか模型はよろよろと立ち上がった。


 おお、心の中にある何かが熱く煽られている気がする。

 よし、戦うんだ! 僕の愛機よ、僕達の力を見せつけるんだ!


 僕は心の中で熱く応援した。


 しかし、当の愛機は足をプルプルさせている。何とも貧弱そうな佇まいだ——そう思っていたら、終いにはパタリと倒れてしまった。



「ブハッ! ちょっと、すみません……プフッ…………」


 今まで静観していたロミアが耐えかねて吹き出した。周りの子供達もそれを皮切りに僕を小馬鹿にしたように笑っている。


「そんなに笑うなら、お前もやってみろ。案外、難しいからな」


「いいですよ、私の実力を見せてあげましょう」


 ロミアは僕の要求に素直に従う。


 それを横目に僕は、心の中に引きこもる。

 だって、そんなはずは無いんだ。僕だって神父様の下で魔法を教わった。別に僕が下手っていう訳じゃ無い、初めて触る物だったから扱いに困っただけだ。そう、きっとそうだ。

 心の中で言い訳の防壁を建築している間に、ロミアの準備ができたようだ。


 ロミアは大きく深呼吸をしてから詠唱を唱え始める。


「〔闊歩する馬よ、自由独立せよ〕」


 詠唱と共に動き始める模型。

 僕の時とは打って変わって、模型はスクッと立ち上がった。

 その出で立ちは歴戦の戦士を彷彿とさせていた。

 子供達はそれを見て、大興奮している。


「いや、おかしいだろ! 模型は一緒なのにそんな差が出るのか!?」


 僕は思わず叫んでいた。

 ここまで差が出るだなんて……。

 これは叫んでも仕方ないと思ってもらいたい。


「フッフッフ。残念でしたね、ノアさん。どうやら魔力操作は私の方が上のようですね」

 

 クッ、ロミアめ……。もう既に勝ち誇った顔している。

 だが、まだだ。まだ実際に戦わせていない。


「勝利宣言をするのは、僕の愛機と戦ってからだ!」


 僕はロミアに5本勝負を持ちかけた。

 彼女は考える素振りも無く、勝負を受けた。


 ここから僕とロミアの熱い戦いが始まる——。







 いやー惨敗、惨敗。


 ロミアとの試合……?


 それはそれは、お話にならない程酷い試合でしたよ。

 だって、冒険者と老人が戦うのだ。普通なら犯罪に近い行為である。


 試合が始まった瞬間、膝を震わせていた愛機は顔面に膝蹴りを喰らい、吹き飛んでうずくまっていた所に殴る蹴るの暴行を受けた。

 五回の勝負を終えた頃には、愛機はぼろぼろになっていた。模型を男の子に返す時、僕は必死に謝った。

 彼は笑って許してくれたが、どこか憂いを帯びたあの顔を僕は忘れないだろう。

 


 そんなこんなでしばらくの間、模型で遊んでいた僕達は子供達に別れを告げ、再び武具店を目指す。




「いやー、楽しかったですねー」


 ロミアは上機嫌で歩いている。

 振り返れば僕とロミアが一番、楽しんでいた。

 それは必然だったのかもしれない。

 何せ友達と遊んだ事など無かったのだから。

 僕達はずっと独りだったから。

 

「私、誰かと遊んだのは初めてです。あれだけ素直に笑ったのも久しぶりですね」


 彼女は気恥ずかしそうに微笑んだ。


「また、遊びたいですね……」


「そうだな……。また、遊べるさ。きっと」


 僕は小さく呟いた。

 それはロミアにだけで無く、僕に対する励ましでもあった。

 


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