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幕間 黒い悪意

プレビューが増えてきてうれしいです!

読んでくださった全員に感謝です!

修正いたしました(2019/03/03)


 暗い部屋に一人、黒髪の男が椅子に座っている。

 その薄暗さは彼の心を落ち着かせ、ゆとりを与えるのだ。


 男は静かに思考していた。彼の好きな事は考える事である。その類稀たぐいまれなる頭脳は、この世界に転生してきた彼の唯一の武器であった。


 男にとって自分以外の生物は皆、駒としか考えていない。

 彼の野望を達成するための駒。

 それらはこの広い世界に散らばり、任務を遂行している。


 彼はまた一つの考え事を終え、椅子の背もたれに全体重をかける。

 周りには奇妙な骨董品や絵画が並べられており、部屋には異様な雰囲気が漂っていた。


 その男の元に伝令兵が走って来た。

 甲冑を着ているその伝令兵は、呼吸を乱す事なく報告する。


「お伝えします。ユートラス王国付近の森にいる三つの駒の内の一つ、“斧”が殺されました」


 黒髪の男は片眉を上げ、その報告に興味を示す。

 “斧”というのは彼の駒の通称で、携行している武器を表している。


「…………“斧“がやられたか。あの森の中だったら強い部類だったんだがなぁ……。で、誰に殺されたんだ?」


 男の質問に多少、戸惑いの様子を見せながら甲冑の男は告げた。


「それがですね……駆け出しの冒険者に殺されたようです」


 報告を聞き、男は顎をさすりながら思考する。

 脳内であらゆる可能性を辿り、全ての結果を導き出す。しかし、その中に報告と同じ結果は無い。

 つまり、イレギュラーな存在が介入した事を示していた。


(フフ、アレに後継者がいたとは驚きだ。そうなると、まさしく異端そのものが誕生したと同義。厄介な存在が生まれてしまったな……)


 男は心の中で、何かがたかぶっていくのを感じた。

 それは彼がこの世界へと転生してきてから、久しぶりの感情だった。


「それで、“槌”と“剣”はまだ生きてるんだろうな?」


 少しだけ口角を上げたまま、男は他の駒の安否を確認する。

 どれだけ感情的になろうとも、彼にとって情報は最優先事項なのだ。


「ハッ、被害があったのは“斧”だけです。そして、奴が統率していたゴブリン達はそれぞれ“槌”と“剣”の元へ逃れたようです」


「そうか、全滅して無いならまだマシか……」


 男はぼんやりと遠くを見つめている。はたから見ればただ放心しているだけだ。

 だが彼の頭脳の中では再び、気が遠くなるほどの予測と演算が行われていた。

 今まで集めて来た情報、積み重ねてきた経験を元に最適解を導き出す。


「どうされますか?」


 伝令兵は黒髪の男にこれからの行動の指示を仰ぐ。


「“剣”と“槌”はこれまで通りで良い。……“斧”を殺したその冒険者には、暗部の中から何人か調査に向かわせよう。もし調査対象にバレたら暗部の奴らの命は無いと伝えろ」

 

かしこまりました。」



 伝令兵は来た時と同じように走り去っていった。

 



   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 



 伝令兵が部屋の外へ出ていってすぐ、別の男が部屋に入って来た。


「今、伝令の奴が走っていったが何かあったのか?」


 男は先程の伝令兵とは違い、黒髪の男に気さくに声をかけた。

 屈強な体つきに、全身を覆うフルプレートメイル。

 普通の人間なら重さで動けなくなる所だが、その男はそんな様子を微塵も見せなかった。


「おお……アルデイルか。魔国での仕事は終わったのか?」


 アルデイルと呼ばれる人物。

 彼は黒髪の男をおさとする組織の幹部の一人である。

 アルデイルは自身の顎髭あごひげを触りながら豪気に笑う。


「ハッハッハ、お前は相変わらず冗談が好きだな! あの仕事は俺のためにある様なもんだろ?」


「それもそうだな」


 アルデイルは、男からの返事に満足そうに頷きながら席に座る。


「それで、何があったんだ?」

 

 アルデイルは真っ直ぐに黒髪の男へ問うた。

 彼からは、さっきまでの豪気さとは別の威圧感が放たれている。

 彼は腹の探り合いや化かし合いなどとは縁の遠い人間で、聞きたい事は力づくで聞き出すような人種だ。

 今のように、言葉で問いかける事さえ、彼にとっては珍しい事である。


「まぁ、そう急かすなよ。別に大した事じゃない。ただ“斧”が殺されたってだけだ」


「おいおい、殺されただけって言うがお前、“斧”はあそこら辺のゴブリン達をまとめてたはずだ。結構な被害じゃないのかよ?」


 やや身を乗り出して反応するアルデイル。

 しかし、黒髪の男は依然として冷静さを欠かずにいる。

 アルデイルの威圧も微風のように受け流し、彼は答えた。


「安心しろ、ゴブリン達が全滅した訳じゃない。残った奴らは“槌”と“剣”の支配する森に逃げたそうだ。

 ……それに、無くなったのならまた、一から作り直せばいいんだからさ」


 男の目には狂気な光が宿り、その顔からは笑みがこぼれている。

 前述したが、彼にとって部下は駒でしかない。そこに命の価値などは無く、有用か、無能か、ただそれだけの判断基準しか無いのである。


 そんな男の狂気の片鱗を見たアルデイルは出かけた反論を飲み込む他無かった。


「……あんまり、部下をこき使うなよ」


 アルデイルはそれだけ言い残し、早々に部屋から出ていった。



 ————。


 部屋に静寂が戻る。

 黒髪の男は椅子に座りなおし、再び思考を開始した。


 まだ見ぬ脅威、まだ見ぬ異端との邂逅かいこうに胸を踊らせながらーー。


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