65話 いつもの部屋にて
お久しぶりです。読者の皆様からの暖かいお言葉により、また続きを書いていこうと思います。ペースがどうなるかは分かりませんが、完結までは地を這ってでも到達しようと思うのでよろしくお願いいたします。
カルムメリア王国での事件を解決した僕達は今、ユートラス王国の西街ギルドのギルドマスター室に軟禁されていた。
僕自身が一番、この状況を理解できていないのだが……。どうしてこうなったのだろう?
《答。ユートラス王国に帰還後、この部屋にてバルファ・ドラウンと接触。『掟ノ女神』により座標を固定されました》
冷静沈着な声が頭の中に響いた。
そうだ。とりあえず今回の事件の報告をした方が良いかと思い、ここまでやって来たのだった。
真面目な動機で来たというのにこの仕打ち。さすがはバルファさんと言った所か。
「ノアさん。私達何かやってしまったんですかね?」
心配そうな声音とは裏腹に、楽しそうな笑みを浮かべているロミア。そしてその隣で優美な動作で紅茶を飲んでいるベルゼビュート。二人が来客用のソファに座っているお陰で、僕は側で立っているだけの状態だ。エイルは僕の斜め後ろに控えている。
つまり、部屋にはこの四人だけ。
他の面々には『知識は世界を開く鍵』の中に入ってもらっている。今頃、ガブリエルとサタンが喧嘩を始めているかもしれない。
「まぁでも、今回は緊急事態だったからある程度は許されるはず……?」
自分で言っておきながら、少し不安になる。
だが、この状況下では待っていることしかできない。
カップから立ち上る湯気が揺らぎ、紅茶の匂いが鼻を掠めたとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「お待たせ! 謝る気は微塵も無いよ!」
傍若無人すぎる台詞と共に彼女は現れた。西街ギルドのマスター、バルファ・ドラウン。外見は可愛らしい少女ではあるが、僕より年上だ。世界は不思議で満ちていると感じさせられる。
「で、ボクが遅れた理由は彼女を呼んできたからなのさ!」
「そんな……。いきなり……強引に連れて行こうと……したから、抵抗しただけ……」
控えめな胸を張るバルファさんの後ろからもう1人の人物が静かに現れた。
ダークブラウンの髪が顔にかかってしまっているが、蒼い瞳がこちらを確かに見据えている。
《能力を感知。直接的な攻撃では無いとすると、解析系の能力かと思われます。阻害しますか?》
いや、ここで何かすると逆に不審に思われてしまいそうだ。今は様子を伺おう。
ヴァイスハイトにそう指示し、僕はソファに座り直した。
「……あ! テオさん!!」
と、座り直した僕とは反対に、ロミアが勢いよく立ち上がる。
「……! ……ロミアさん!!」
と、彼女もロミアを知っているような素振り。
「知り合いなのか?」
「はい。あの方はテオさんと言って、魔道具屋さんです。この杖を買った時に知り合いました」
嬉しそうに杖を見せるロミア。
だが、バルファさんは何故、魔道具屋をここに……?
「まぁまぁ、一旦席について話をしようじゃないか」
2人は僕達と向かい合うように席に着いた。
そして、間髪入れずにバルファさんが口を開く。
「単刀直入に言うと、ボクがテオを呼んだ理由は君達の強さを計測してもらう為だよ!」
……?
僕とロミアの頭上に疑問符が浮かぶ。強さを計測とはどういう事なのだろう?
「えと、詳しく説明すると。今回の事件で、主な舞台となったのはカルムメリア王国だろう? だけど君達は今、このユートラス王国のギルドの冒険者だ。だから、本当はカルムメリア王国からの救援要請等が無い限り、戦闘しちゃいけなかったんだよね。だから、今回の件をしっかり国王様に報告しなきゃいけないんだよ」
彼女はそこで話を一区切りし、紅茶で喉を潤した。まぁ、それは僕用の紅茶だったのだけれど……。
「そ、れ、で! 君達の戦いをボクも見てたんだけど、ちょっと気になる事が多かったから強さを計測したいという訳だ!」
言い終わった後、バルファさんはベルの顔を一瞥する。
「君についても知りたいしね……」
小声で彼女は呟いていた。
ベルの方もバルファさんの方を睨み据えている。
両者の視線がぶつかり合い、バチバチと火花が散っている。
なるほど……。これが神父様が言っていた修羅場というやつなのか?
「じゃあ! テオ、やっちゃって!」
「後で……対価はしっかりと……貰いますからね……」
こうして、計測が始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
テオは長い前髪をかき上げ、両の目でノアを見た。
彼女が持つ『知恵ノ女神』は知覚した対象の解析を可能とするスキル。
だが、テオは自身の前髪によって視界を悪くしていた。結果、自身の能力の権能に制限かけていたのである。
それは能力の暴走を恐れてといった理由ではない。
(うぅ……。恥ずかしい……)
白い肌を薄く紅潮させ、蒼い瞳を少し潤ませながら解析を進めるテオ。
そう。彼女はただの人見知りなのである。故に、今こうして前髪を上げるという事は自殺行為なのだが、依頼した人物がバルファであった事とテオの断れない性格が相まって、現在に至っている。
そして持ち主の性格など気にせず、『知恵
ノ女神』はノアの能力の解析を完了した。
(これは……?)
彼女の目にはノアの能力が映し出されている。
個体名 ノア・シャルラッハロート
種族 人間
能力名 『知識は世界を開く鍵』
権能 ・情報子変換
・従者の召喚及び憑依
・従者一覧 エイル
ランスロット
シルフ
ノーム
ソルド
ガブリエル
サタン
??????
「どうだった?」
バルファが問う。
「これも……よく、分からない。私達の能力みたいに……神話の神々に、なぞらえた物じゃなく……全く違う、何か。しかも、情報の詳細までが……解析できない。彼が阻害しているとかではなく……未知過ぎて解析すらままならない……。でも、仮にこの従者というのが使い魔とすれば……7体も使役している事になります……。それは異常な事……。凄腕のテイマーであっても……三体までが限界でしょう……」
「つまり、ノア君の能力はこの世界に存在している物とは別物って事?」
「その可能性が高い……と思います」
「……そっか。ロミアちゃんのは?」
重なる問いに対し、テオはロミアを一瞥してから答える。
「ロミアさんの能力は……以前、知り合った時に解析済みです……。彼女の能力も……どの神話体系にも属していません……。恐らくは、2人の能力は……別の世界から齎された物かと……」
「そうか……。じゃあ基本的には事前の見立てとあんまり変わらないって事だね。じゃ、本題だ。彼女達2人の解析をよろしく頼むよ」
「人使い……荒い……」
テオの小さな訴えはバルファの耳には届いていないのか、期待した様子で解析を待っている。
溜息を漏らしつつも、テオはベルゼビュートとエイルの解析を開始した。
個体名 エイル
種族 神
能力名 『医療ノ戦乙女』
権能 ・あらゆる傷の治療
・死者の蘇生
個体名 ベルゼビュート
種族 悪魔
能力名 『暴食ノ悪魔』
権能 ・吸収、放出
・配下の召喚
たったこれだけの情報でも、テオは完全に理解した。この場にいる存在全てが異質である事に。
(種族が神と悪魔……!? 精神世界の者達が何故人間のノアさんやロミアさんと一緒に……?)
彼女は驚きで目を見開いた。それもそのはず、神と悪魔という種は精神世界に住んでいる為、人間側からコンタクトを取る事は不可能だからだ。
あったとしても、召喚の儀式に下級の悪魔が気まぐれでやってくる程度である。
つまり、エイルやベルゼビュート程の格を持つ精神生命体が受肉してまで人間と行動を共にしているなど、本来ではありえない話なのだ。
(それに……エイルといえば……北欧神話の女神……。ベルゼビュートは……七大罪の悪魔の一柱……。どちらも……能力持ち。ノアさんの他の従者が……この2人と同様の規格なら……その力はあまりにも強力過ぎる……)
「解析は……終わった……けど……」
「けど?」
「一冒険者が、一緒にいて良いような存在じゃない……。彼等は何もかもが桁違い……。私達は……神の力を……引き継いでいるけれど、そこに居るのは……神そのもの……」
未知の存在に微かな恐怖を覚えながら、テオは言った。
だが逆に、バルファはいつもの笑顔をより一層深めている。目の奥に怪しげな光を灯した彼女は「破綻した掟」の人格が出かかっていた。
「……っと。いけない、いけない。ボクとした事がはしゃぎ過ぎる所だった」
コホン、と小さく咳払いをし彼女は続ける。
「じゃ、ギルマスとして判断を下すとするかな。取り敢えず、君達は王都に行ってもらう。もちろん、ボクも付いて行くよ? で、王様に今回の件の報告と、今後の指示を仰ごう。文句は無いね? あったとしても聞かないけどね!」
いつも通りの傍若無人さで、ノアとロミアに命じるバルファ。他人事の様に紅茶を飲むテオ。話はこれで終わりかと思われた……。
「あ、テオも一緒だよ?」
「…………ごふっ!?」
テオが飲みかけていた紅茶を吹き出す。激しく咳き込む彼女の背中をさすりながらバルファが追い討ちをかける。
「王様がさぁ、テオがいくら呼んでも来ないって言ってたからさ。キミを連れて行けばボクに報酬が出るって言われたから、ね?」
「……裏切り者…………!」
キッと鋭く睨む蒼い瞳。しかし、バルファは余裕のある表情を崩さない。
「攻撃してもいいよ? でも、この部屋でボクに危害を与えようとすれば、強制的に動きを停止させる様に設定してるけどね」
満面の笑みで彼女はそう言った。
悔しそうに唇を噛むテオ。
この一連の流れを見て、ノアとロミアは2人の力関係をなんとなく察したのであった。




