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紅目の魔導師、魔法使いと旅をする。  作者: 南雲虎之助
魔王と踊り狂う星座編
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63話 ゴート対ノア

たくさん待たせてしまって申し訳ありませんでした!

この夏、執筆を頑張りたいと思います!

この章の完結と共に修正作業をする予定であります。何卒、応援よろしくお願いいたします!!



「一体、何が起きているんだ……?」


 バルファは首をかしげる。彼女は現在、ギルドマスター室にて今回の騒動について考察していた。

 とは言っても、彼女は単なるギルドマスター。そう簡単に真相にたどり着けるはずもない。どれだけ頭を働かせても事態の全容は掴めないでいた。


「よし、ボクが実際に行って確かめてこよう。二人を助けないといけないしね!!」


 一人で納得するように大きくうなずき、彼女は立ち上がる。

 そしていざ行かんと振り向くとそこには━━


「バルファ、どこに行くつもり?」


 既に抜刀した状態で行く手を阻んでいたのはセラ・アルテミア。彼女はこの西街支部のギルドで唯一のSランクの冒険者である。


「い、いやぁ。少しカルムメリア王国の様子でも見てこようかなって……」


 なんとも歯切れ悪く返答をするバルファ。

 それを冷めた目で見つめるセラ。

 二人の間に重い沈黙が流れた。


「な、なーんて! 冗談だよ。だからそんな怖い顔をしないでおくれ」


「そうだよね。近隣の国で魔物が大量発生しているんだもの。いくらバルファであっても、この緊急時に勝手な行動をとれば、国王がなんて言うかわからないもんね」


 半ば棒読みでセラは言う。

 そう。彼女は国王から直々にバルファの見張りを頼まれていたのである。きっと、バルファの自由奔放な性格を見越しての采配なのだろう。


(むぅ……。強引に通れない訳ではないけれど、どうせすぐに王様にばれちゃうんだろうなぁ)


 と、心の中で愚痴る。

 しかしながら彼女も一介のギルドマスター。こういった時の判断は早い。


「よし。なら早く防衛線を整えてしまおう。そうすれば、王様も文句はないだろう」


「そういう問題じゃ……」


 最早、セラの言葉はバルファには届いていなかった。

 “破綻した掟”は動き出せば止まらない。

 一人、取り残されたセラは大きくため息をついたのだった。











 耳に風を切る音が届く。

 僕とエイルとガブリエルの三人は、王宮へと向かっていた。経路は空。二人は羽で飛翔しているが、僕の場合はシルフの能力である風操作で飛んでいる。

 今の目標はただ一つ。ゴートを打ち倒し、ロミアを救出すること。もう失敗などは許されない。この瞬間も僕を信じて必死に魔物たちを押しとどめてくれている仲間たちのためにも、ゴート・ヘルヘイトという男に勝たなければならないのだ。

 故に、必要になるのは解析だ。

 ヴァイスハイト、王宮内の敵は何人かわかるか?


《王宮内に確認できる生体反応は4人。全員が敵だと考えて問題ないでしょう》


 4人か……。人数的には少し不利だが、新しく天使と悪魔の力を解放したヴァイスハイトがいるのだ。大丈夫だと思いたい。


《問題ありません。全能力向上した『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』に死角はありません》


 以前までの無機質な声とは違って多少、抑揚のついた返答だった。


「エイル、ガブリエル。ゴートの相手は僕がする。二人には他の奴らの相手を頼む」


「了解です」


「わかりました」


 二人からの返事を聞くのと王宮に到着したのはほぼ同時であった。






 入ってすぐの場所にある大広間に彼はいた。

 白い髪と髭。鋭い眼光。まっすぐに伸びた背筋。彼を成り立たせるすべての要素が異質に感じられる。

 あの男こそが魔術協会の長であり、ロミアとサレアを殺した人物。


「フフフ……! ハハハハハ!! よくもまぁ懲りずにのこのこと。一体、今度は何をしに来たというんだ?」


 高らかに、薄気味悪く、笑う。

 何とも挑発的ではあるが、ここで我を忘れてはいけない。至って冷静に現状を把握する。


 大広間にはゴートの他に3名の女性がいた。一人は教会で出会ったメイド服の女性。もう一人は、ここに最初に乗り込んできた時にいた眼鏡をかけた女性。そして最後に、王座に座っている女性。


 そして、広間の中央に横たえられたロミアの死体。


《情報子変換により、[ロミア・フラクス]の肉体を保存します》


 頭の中でそんな音声が響いたかと思うと、ロミアの体が光の粒子となって僕の体に吸い込まれていった。


 なるほど。こうすることで彼女を完全な状態で留めておけるというわけか。


「フン。今更、何をしようとも無駄なことだ。君では『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』を手に入れた私には敵わない」


 歪んだ笑みを顔に張り付けて、ゴートは僕に告げる。

 まぁ、何とでも言ってくれて構わない。僕は目の前の男に二度も敗北している。だが、ここから勝てばいいだけの話だ。

 今の僕はとても未熟で弱い人間だ。だから、神父様から授かったこの魔導書と仲間たちの力を存分に借りて勝てばいい。それだけで十分だ。


「これで決着をつけよう」


 僕はゴートの目を見据えて言った。


「二度も拾った命をここで投げ捨てるとは愚かなことだ……。いいだろう。この国を後にするのは、貴様を殺してからでも遅くはないだろう」


 僕とゴートが対峙する。

 災厄の星座から全てを取り戻すため、力を貸してくれ。


《『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』による行動最適化を行います》


 最初から全力で叩き潰す。

 憤怒の悪魔の影響もあってか僕の思考は多少、暴力的なものとなっていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ゴート・ヘルヘイトは困惑していた。

 相手は二回自身に挑み、その二回とも自身に敗北している青年。取るに足らない相手だとそう考えていた。

 しかし、その考えは早々に改めなければならなかった。

 見た目の変化などはない。けれども、動きが明らかに変わっていた。処女宮で隠匿した魔法も、ワープゲートから不規則に射出される人馬宮の黒い矢も全て躱されていた。

 流石にこれだけで始末することは無理のようだ。

 ならば……。

 と、ゴートは『星座ノ男神』の権能を行使する。


「『星座ノ男神』に命ずる。星々よ、活動を開始せよ」


《クオリティー・カーディナル。起動します》


 ゴートの声に呼応して、無機質な声が広間に響いた。

 クオリティーの切り替えにより、使用できる星座が変化する。そして、使用するのは白羊宮のエネルギー吸収。

 範囲内にいるノアから、魔素と魔力を吸い取る。これで、また動けなくなったところを殺そうと思ったのだが……。


 幾ら吸収し続けても、一向に動きを止める気配がない。ましてや動きが鈍ることさえもない。

 ノアが俊敏な動きでゴートへと迫る。

 距離を取ろうと足に力を込めた矢先、もうすぐそこまで迫ったノアがふと動きを止めた。やっと白羊宮の効果が出たのか? そう思った時、


 ズブリ


 腹部に剣が突き刺さっていた。剣に触れている部分が異常なまでに高温度の熱で焼け爛れていく。

 瞬時に剣を抜き、ノアは後方へと飛びのいた。

 今、目の前で対峙しているのは弱小な魔導師なんかではない。

 強大な敵だ。

 今までは人間としての弱さが明確に出ていた。けれど今は違う。淡々と行動する機械のようでいて、内側に秘められた熱量は悪魔のように禍々しい。

 化け物だと、そう感じた。

 逆流する血の味を感じながら、かすれた声で告げる。


「『星座ノ男神』に…命ず……る。星々よ……不動であ…れ…」


《クオリティー・フィックスト。起動します》


 再びクオリティーが切り替わり、ゴートは即座に宝瓶宮を使用した。背後に大きな水瓶が出現し、そこから流れ出た液体が彼の肉体を包み込む。この星座の能力は時間の流れを操作すること。つまり、負傷した部分の時間を逆流させて元の状態へと戻すことができる。

 そのため焼け爛れた内臓も、焦げた血肉も、全て元通りになった。

 これにはノアも流石に驚いたらしく、その紅い目を大きく見開いている。


 さて、では反撃を開始しよう。


「人喰いの獅子、この地に堕ちよ。〈獅子宮(レオ)〉!!」


 三つ目のクオリティー・フィックスト。不動の性質を持つこのクオリティーに属するのは金牛宮、獅子宮、天蠍宮、宝瓶宮の四つ。だが、宝瓶宮以外の三つは不動というよりはむしろ攻撃的な性質を持っていた。

 その中でも最も凶暴な星座、それが獅子宮である。この能力を使用すると両腕にとても鋭利な爪が発現し、全身の筋力および身体能力が上昇する。


 時間はあまりかけられない。油断などしていられない。だから、火力で押し切る……!!


 ゴートは深く呼吸をし、ノアを睨み据えた。

 呼び覚ますは獣の本能。

 血は熱く煮え滾り、四肢は熱を帯び始める。

 放つのは能力と魔法を最も効率よく組み合わせた一撃。


「勇猛な牙、冷めぬ闘志、炎熱の獅子。進め、通う血の如く。【獅子奮迅シュトーセン・レーヴェ】!」


 溢れ出る炎を身に纏った獅子は、途轍もない速度で突進していく。

 何の反応も見せないノアの姿を見て、ゴートは勝利を確信した。二人の間の距離はもう1メートルも無い。ここから如何なる行動を選択しても間に合わない。たとえ、転移魔法であっても発動までの間に攻撃は届くだろう。


 やはり、私の勝利が揺らぐことはなかった!!


 彼の顔には笑みが浮かんでいた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 端的に言おう。

この戦いで『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』の行動最適化を行っていなかったら、僕は既に5回くらいは死んでいただろう。

そして今まさに、僕は生死の淵に立たされていた。

けれども恐怖なんてものはない。ヴァイスハイトを信じるだけだ。

 視覚をすべて情報子に変換し、処理速度を最大限にまで引き上げる。そうでもしなければあの爆発的な速度に反応しきれない。

 迫りくる鋭利な爪。

 これを防ぐ手段は一つしかないだろう。


「咲き誇れ! 〈高貴なる白薔薇エーデル・ヴァイセローゼン〉!!」


 僕とゴートとの間に薔薇の形をした防壁が展開した。

 勢いそのままに獅子と薔薇が衝突する。もし、彼が純粋な物理攻撃を仕掛けていれば、僕は負けていただろう。

 だが、彼は魔法に頼ってしまった。能力による攻撃の威力を高めるために、魔素と魔力を使用してしまった。

 それは魔導師としては正しい判断だったのだろう。むしろ、魔法協会の長としてその選択をせざるを得なかったとも言える。

 けれど、この白薔薇の壁はガブリエルの力によるもので、魔素と魔力を一切通さず、触れた対象の時間を固定するという効果を持つ。故に魔法による炎を纏ったその攻撃は絶対に届くことはない。

 彼も異常に気付いたのだろう。張り付いていた笑みがもうすっかり剥がれ落ちていた。


「ば、馬鹿な……!?」


 驚きの表情を浮かべ、僕を睨むゴート。しかし、そんなことは気にせず彼に向けて手を翳す。


「雷の精霊」


 彼の魔導師としての才覚は本物。魔法だけでの勝負であったならば僕はもっと早くに敗北していただろう。


「雷鳴の幻想」


 けれど、スキルを含めたなら話は別だ。ヴァイスハイトはその力量の差を埋めるほどの有用性を持っていた。


「孤高の瞬き」


 だから、ゴート・ヘルヘイトに勝利したのは僕ではなくヴァイスハイトだ。

 けれども最後は僕が決めなければならない。

 僕の大切な二人を奪った罪。それは未熟な魔導師の魔法による敗北で償ってもらおう。

 強くはないけれど、今は勝てればそれでいい。


「澄んだ虚空を駆け巡れ! 【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】!!」


 紫色の魔法陣が展開し、そこから飛び出す同色の雷。

 眩い閃光、轟く雷鳴。収束した一本の光がゴートの体を貫いた。そして駆け巡る、彼の隅々まで。暴れ回る、確固たる怒りを帯びて。


 彼とて人間。いくら魔導を極めたといっても、電撃をまともに浴びて平気なはずがなかった。

 口から黒煙を吐き出し、その場に倒れるゴート。


勝敗は決した。



 王宮の大広間にて、ノアとゴートの直接対決はノアの勝利で終わった。




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