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紅目の魔導師、魔法使いと旅をする。  作者: 南雲虎之助
魔王と踊り狂う星座編
68/72

61話 蠅の騎士団

お待たせいたしました!

かなり不定期投稿で申し訳ありません!


 静寂が包む中、ゴート・ヘルヘイトは喜びに打ち震えていた。

 何故ならば、彼の目の前にはある一人の女性が立っていたからである。

 彼女の名前はフィズ・アストライア。人生の大半を魔術の研究に注いでいたゴートを支え、付き従った故に殺されてしまった哀れな女性。


「フィズ……! あぁ、良かった。

 もう一度、生きた君と出会えるなんて……!」


 ゴートはフィズの手を握る。

 その体温や感触を確かめる様に、強く握りしめる。


「私……は、フィズ……? 此処は一体……?」


 彼女は困惑した様子で辺りを見回した。

 だが、眼に映るのは暗くて広い部屋のみだ。


「どうやら、少し記憶が倒錯している様だね。けれど、時間が経てば記憶も元どおりになるだろう。さぁ、座っておくれ」


 本来は国王が座るべき玉座へとゴートはフィズを座らせた。

 そして、彼は満足げな表情を浮かべている。

 この時点で目的は果たされた。

 三大魔王が一柱、“戦神”アイト・シュトゥルムアングリフとの協力関係はカルムメリア王国の壊滅により切れる。

 今のところ、カルムメリア王国の国民の殆どが魔物によって殺されていた。

 つまり、両者の目的は達成されているという事だ。


「ゴート様、広場にて悪魔同士の戦いが激化している様です。

 第一陣として投入した魔物達も、その余波により数を減らしています」


 突如として出現したリブラが告げる。


「悪魔? ふむ……。

 目的は達成したのだ。故に、この国に留まる理由もない。

 それならば、残っている全ての魔物達を解き放て。

 アイト・シュトゥルムアングリフとの契約に従い、このカルムメリア王国をことごとく破壊し尽くしてしまおう」


 口元に笑みを浮かべ、ゴートはリブラに命じた。


「残っている魔物の内訳は大鬼皇が一体、猪頭王が二体。そしてオーク兵が五千とゴブリン兵が四千となっています。

 これらを全てこの国に解き放って宜しいですか?」


「ああ、構わない。それを終えたら、急ぎ脱出の準備を行え。

 魔物達の溢れる国なんぞに長くいたくは無いからな」


 ゴートの言葉を最後に、リブラは音も無く行動を開始した。


 魔物の群れは暴れだす。


 白羊宮の夢はじき覚める。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 再び、国の中央の広場にて。


「おい! これ、いつまで続くんだ!? 流石の俺もそろそろ限界だぞ!!」


 そう叫んでいるのはランスロット。

 彼は今、〈焼け爛れた赫怒(グレル・ツォルン)〉を発動したサタンと激しい剣の打ち合いをしていた。

 互いの剣が触れ合うたびに閃光が散る。


「もう少し、待て!

 今こそ湖の騎士の力量の見せ所だろう!」


 ランスロットに檄を飛ばしつつ、後衛として彼の補助を行うベルゼビュート。

 これまでの戦闘を経て、サタンには武闘派な面が多く見受けられたがそれは一部の側面でしか無い。

 やはり彼とて上位悪魔。その本質は魔法にある。

 サタンは剣を振るいながら魔法を易々と発動していた。そのどれもが必殺の威力を有しており、当たればランスロットと言えど死は免れない。

 けれども、彼がまだ生きていられたのはベルゼビュートが『暴食ノ悪魔』によってそれらを吸収していたからだった。

 

「嘘だろ……」


 サタンの鋭い剣撃が首へと迫る。

 ランスロットは愚痴をこぼす隙もなく、〈騎士殺しの剣(アロンダイト)〉で受け止めた。

 真っ当な騎士同士の戦いであったならば彼の勝利は確実だったのだが、何せ相手は憤怒を司る大悪魔。

 騎士道精神などを考慮するはずもなかった。


「なっ……!?」


 ランスロットが動揺し、目を見開いたその刹那。

 彼の体はベルゼビュートの遥か後方へと吹き飛ばされていた。

 一体、何が起きたのか。

 答えは簡単である。

 サタンは剣撃を止められた瞬間に〈焼け爛れた赫怒(グレル・ツォルン)〉から手を離し、ランスロットを思い切り殴り飛ばしたのだ。

 騎士にとって剣とは命を守る物。言い換えれば命そのものだ。

 それを戦闘中に手離すなど、ランスロットには考えつきもしなかったのである。

 故に、彼は僅かに動きを止めてしまった。

 騎士と悪魔の絶対に相容れぬ価値観の差が現れた瞬間だった。


「フェンリル! 騎士の手当ては任せる!」


 ベルゼビュートはソルドへと呼びかけた。


「了解です!」


 彼は自慢の俊足をもってランスロットを安全な場所へと運ぶ。

 ノアの救出においては全てが欠けてはならない存在だ。

 だからこそ、皆が迷いなく動いている。


「あぁ、クソ。守護妖精の所為で殺せなかったか……」


 悪態を付きつつサタンはベルゼビュートへと歩み寄る。

 〈焼け爛れた赫怒(グレル・ツォルン)〉は未だに刺々しい光を放っていた。


 今の状況はベルゼビュートにとってかなり不利と言えた。


「流石に、その剣は喰えんな……」


 『暴食ノ悪魔』の権能は物質の吸収、放出だ。

 けれども、あの剣はサタンとの繋がりが深すぎる。

 癒着し、粘着し、引き剥がすことは不可能だ。

 もし吸収するならば、所有者諸共でなければ意味が無い。


「だが……剣以上に貴様など、喰える訳も無いか……」


 憂鬱そうに彼女は呟く。

 憤怒の悪魔を、神の敵対者である彼を、喰える様な生物はこの世にいなかった。

 ベルゼビュートは戦闘態勢を取る。

 彼女が出来るのはサタンから溢れ出る魔力と魔素を吸収し、我が物とする事だけだ。


「さぁて、死んでくれ……。ベルゼビュート……!!」


 剣を我流に構え、凄まじい速度で彼は迫った。

 高温に熱された鉄が彼女の頬を掠める。

 通常ならそれだけで人間の肉は焼け爛れるだろう。しかし、その温度を吸収する事で事なきを得た。


「全く……。貴様はつくづく桁外れだな……!」


 漆黒のドレスを揺らし、彼女は舞う様に攻撃を躱す。

 戦闘時でも気高き君主としての誇りはあるようだ。

 けれども、ランスロットという優秀な前衛の損失は大きい。

 彼女は元より魔法を駆使した方法での攻撃を得意している。裏を返せば、白兵戦は彼女の最も不得手とするものだった。


「くっ……。仕方あるまいな。

 私は戦士ではなく軍師。自身が戦うより、部下を手足の様に動かす方が遥かに効率が良いか……」


 ベルゼビュートはそう小さく呟くと、束縛魔法を発動させながら大きく後方へと飛び退いた。

 魔法の束縛などサタンには通用しないが、数秒程そこに留める事だけは可能である。


(……それだけあれば、十分というものだ)

 

 ベルゼビュートの周りに魔素が集中し始めた。

 外界に存在する魔素を吸収し、自身の物として扱う。単純であるが故に汎用性が極めて高い能力と言える。

 つまり、この世界が滅びぬ限り彼女は魔法を発動し続ける事が可能となるのだ。

 そして彼女は詠唱を開始する。

 呼ぶべくは悪魔の騎士団。

 彼女の手が天高く掲げられた。


「満たされぬ飢え」


「従わせるは無数の悪」


「暴れ喰らう者共は剣を取る」


「決起せよ、私は地獄の最高君主である! 〈堕天せし蠅の騎士団フリーゲ・リッターオルデン〉!!」


 上空に広場を覆い尽くさんとする巨大な魔法陣が展開する。

 するとそこから数え切れないばかりの悪魔達が舞い降りてきた。

 中には著名な悪魔が所属している。

 鎧を身に纏い、剣を提げた彼らを人々はこう呼ぶ。


 ——蠅の騎士団、と。

 


「アスタロト、エウリノーム、アドラメレク!

 貴様ら三人でそれぞれ中隊を率いよ! 残りは私の元へ集え!」


 蠅の王は騎士団へ指揮を下す。

 優秀な三名の悪魔はそれに従って即座に動き出した。

 三つの中隊はサタンを取り囲む様に展開し、その暴虐を止めんとする。


「あぁ……煩わしい! 羽虫如きが幾ら束になろうと俺に敵うわけねぇだろ!」


 横薙ぎの剣撃が放たれる。

 精神生命体である悪魔達にとって物質世界に止まるという事は困難であり、感情という強力なエネルギーを受ければ、彼らの存在は容易に揺らぐ。

 その為、先程の攻撃で約一中隊の悪魔達が消滅した。

 しかしながら、それを嘆く者などいない。

 臆する者などいない。

 彼らは戦いの中でしか生きられぬ定め。

 格上の相手との戦いで死ぬ事は最大の誉れなのだ。


「私達は追放された者だ! 振り返るな!

 前だけ見ていれば良い、命令は私が下す!」


 王は叫んだ。

 自身に忠義を尽くす家臣達の為に。


「黙れ! 仮初めの王に何が出来んだ! 矮小な羽虫の王と嘲られた悪魔なんて、消滅した方がマシだと思わねぇか、おい!?」


 敵対者は叫ぶ。

 己が種族の誇りを示す為に。



「敵は神か悪魔か……」


「否。我が敵は、この世の全て」


「生きるという最大の罪を犯した、命ある者全てである」



 彼の詠唱に〈焼け爛れた赫怒(グレル・ツォルン)〉が反応する。

 そして剣は意志を持つ。怒りを基盤とした烈火の如き意志を。




『——さぁ、席に着け。悪魔の取引を始めよう』





◇◆◇◆◇◆◇◆◇





『——さぁ、席に着け。悪魔の取引を始めよう』


 それは剣の意思。

 怒りの結晶である〈焼け爛れた赫怒(グレル・ツォルン)〉だからこそあり得た可能性。

 その剣はサタンに投げ掛ける。


『——貴様は叛逆する者か?』


『——貴様は復讐する者か?』


『——貴様は掌握する者か?』


 サタンに三つの問いが投げ掛けられた。


『アザゼル、ベリアル、ガープ。上位三隊の承認を確認』


『森羅万象の敵対者よ。今しがた力を貸そう』


 剣が紅く発光する。

 まばゆく、猛々しく、炎が剣を包み込む。

 サタンはそれを構えてベルゼビュートを睨み据えた。

 大気が熱を帯びる。


「これは……我が怒りの炎である。朽ち果てろ、〈赫怒は試練となりてエルガー・フェアズーフ〉!!」


 サタン。

 彼は神の敵対者。そしてルシファーと同格の力を持ち、ベルゼビュートと対をなす者。

 そして彼もまた悪魔を統べる王である。

 束ねるのでは無く、君臨する事だけで王と認められた悪魔。


(なるほど……。私は余程サタンに嫌われている様だ。

 この攻撃は吸収可能容量など軽く上回るエネルギーを秘めている。〈堕天せし蠅の騎士団フリーゲ・リッターオルデン〉でも防ぎきれぬだろう)


「どうやら、肉体の消滅は免れぬ様だな……」


 だが、彼女は悲嘆などしない。

 王が戦による死を尊ばないなどあり得ない。


「さぁ、気高き騎士達よ! 私と共にその誇りを散らすが良い!

 征くぞ! 〈堕天せし蠅の騎士団フリーゲ・リッターオルデン〉!」


 悪魔の軍勢と灼熱の炎が激突する。

 悪魔達は業火にその身を焼き尽くしながらも満足そうに散っていく。

 忠実なる臣下として、王の命を守るために。


(すまない……僕達よ。ごく短い間でも共に戦えた事、嬉しく思う。

 後は、全てを任せよう。あの戦乙女達に……)


 ベルゼビュートはあのうら若き白い魔法使いの面影を見ながら、その目を閉じた。




「凶悪な悪魔が二匹。——さて、どちらから滅ぼしましょうか」



「ちょ、ちょっと待ってください! サタンはともかく、ベル様は私たちの味方です!」




 消滅を覚悟した彼女は、ゆっくりと目を開ける。

 するとそこには二人の女性がいた。

 そう、エイルとガブリエルである。



「どうやら……奇跡とやらが起きたようだな」



 サタン対ベルゼビュート。

 その結果は激しい競り合いの末、ベルゼビュートの辛勝という形で幕引きとなる。

蠅の騎士団、これからの話でも登場させたいですね!

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