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紅目の魔導師、魔法使いと旅をする。  作者: 南雲虎之助
魔王と踊り狂う星座編
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59話 節制の天使

大変長らくお待たせいたしました!

これからの投稿の頻度はまだ未定ですが、なるべく早く次の話も投稿したいと思っています。

是非とも完結まで、お付き合いください!



 ランスロットと暴走したノアが戦っているのと時を同じくして、エイルとソルドは教会へと戻ってきていた。

 彼らの目的は『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』に封印されている天使の解放。

 また、それを達成するにはサレアを生き返らせなければならない。

 つまり、実質的に彼らは死者を蘇生する事が目的なのだ。


 教会へと辿り着いた二人を待っていたのは、人化したままのベルだった。


「ロミアは……何処だ……?」


 彼女は苦しそうに尋ねる。

 マモンから受けた攻撃がまだ響いているのだろう。

 今にも地面に倒れてしまいそうだ。


 そんな彼女の質問に対し、二人は何も答えられずにいた。

 ただでさえノアが暴走している今、ベルまでもが暴れ出してしまえば、わずかに芽生えた希望も潰えてしまうからである。

 だからこそ、ここで真実を伝える事は出来なかった。


「ベル様、貴女はロミア様を助けたいのですよね?」


 平静を装い、エイルは問う。


「当然だ……」


 ベルは即答した。


「なら、貴女には完全復活を果たしてもらいたいのです。

 今、私達の主人様は憤怒を司るサタンという悪魔に取り憑かれ、暴走しています。

 現状では、七つの大罪に属するサタンと“互角”に渡り合えるのは、同じカテゴリに属している貴女しかいないのです」


 エイルの言葉に、少しばかり驚いた様子を見せたベル。

 それもそのはず。

 彼女とサタンとの関係性を知っているという事は、彼女の正体を知っていると同義なのだから。


「お前……何故それを……?」


「残念ながら、それを説明している時間はありません。ソルド、悪いのですがベル様を国の中央まで運んでくれますか?」


 エイルは自身の後ろに控えていたソルドへと頼む。

 彼は静かに頷き、了承の意を示した。


「さぁ、行きますよ。しっかりと捕まっていて下さいね」


 おもむろにベルへと近づき、その体をひょいと持ち上げるソルド。

 彼の手に生物としての質量と体温が伝わる。

 ソルドは平然としていたが、ベルは違った。

 ほんの少し呆然とした後、慌てたように暴れ始めたのである。


「お、降ろせ……! フェンリル、お前なんかに頼らなくとも動ける……!」


 言葉に反し、弱々しい抵抗を見せるベル。

 だがそれを意に介さず、「危ないですからジッとしてて下さい」などとソルドに諭された彼女はやがて、諦めたようにその身を彼に預けた。


「主人様の暴走を解除する事は、ロミア様を助ける事に繋がっています。私が向かう間、主人様を宜しくお願いします」


 輝くような金色の髪をサラリと揺らし、エイルは優美に礼をする。

 それを見て、ベルは答えた。


「任せておけ……。あの人間にはまだ働いてもらわなければだからな……」


 彼女は小さく微笑んだ。

 そして、二人のやり取りが終わった事を確認し、ソルドは勢いよく駆け出した。



 そもそも、悪魔における完全復活とは何か。

 それは完璧な肉体に受肉する事だ。

 ベルの場合、不完全な召喚により猫の肉体へと受肉してしまったのである

 猫の体では悪魔の得意とする魔法が発動出来ない。

 つまり、戦う事が出来なかったのだ。

 それは外敵と遭遇した際、死を意味する。


 それ故、彼女は自身の盾を探した。

 復活をするまでの間、安全を確保するための盾を。

 その時に出会った。

 幼いながらにして、数多の魔法を駆使する少女に。


 ——そして今、今度は彼女がロミアを助ける番となった。




 

 




 教会に並べられた四名の死体。

 神に捧げる供物の如く、静かに横たえられている。


 人の命は一度きり。

 それは紛れも無い事実であり、死者の蘇生など神の奇跡でもない限り実現し得ないのだ。

 けれど、今この時。

 一人の女神はその奇跡を起こそうとしていた。


 最良の医者 エイル。

 北欧神話に登場する女神でワルキューレの一人でもある彼女は、肉体的な治療だけでなく、精神、霊、感情的な治療も可能とされている。

 そして、エイルの真価は死者蘇生能力にあった。


《『医療ノ戦乙女』の権限を解放。〈死者へ贈る女神の慈悲ヴィーダーベレーブング〉の使用を許可します》


 エイルの頭の中でヴァイスハイトの声が響く。

 発動されたるは死者へ向けられた女神の慈悲。

 それはあらゆる傷を癒し、全てを修復する力。


 静まり返った教会に聖なる気が満ちていく。

 そして響き渡るエイルの涼やかな声。



「憐れむべき人の子よ、運命の枷から外れるにはまだ早い」


「愛すべき者達が待っている」


「嘆き悲しんでいる彼らの涙を拭ってあげなさい」


「さぁ、今一度その目を開き、光ある場所へと向かいたまえ」



 自身の女神としての役割を思い出したエイル。

 透き通った彼女の声からは、儚くとも決して折れる事のない意志が感じられた。

 そして起きるのだ。

 第一の奇跡が。



「〈死者へ贈る女神の慈悲ヴィーダーベレーブング〉」



 穏やかな光が彼らを包み込む。

 四人の体に空いていた穴を塞ぎ、欠損した臓器、砕けてしまった魂を修復する。

 エイルの持つ医療の力をヴァイスハイトによって最大限にまで引き出した結果、四名の人間が生き返る事となった。


 集まっていた光の粒子が散る瞬間、彼らは目覚めた。


 状況を理解出来ていないようで、上体を起こして辺りを見回している。


「目覚めてすぐで申し訳ありませんが、貴女の力をお貸しください」


 唐突に、エイルはサレアへと言った。

 彼女には蘇生の成功を喜んでいる暇もなかったのだ。

 サレアは不思議そうな顔で首を傾げている。


「貴女は知っているはずです。『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』に封印されている悪魔と天使の事について」


 エイルの言葉に彼女は目を見開いた。

 何か心当たりがあるらしい。


「貴女は知っているはずです。天使を解放する方法を」


 エイルは更に重ねて聞く。

 そこでサレアは全てを理解したように頷き、立ち上がった。

 彼女の目は真っ直ぐにエイルを見つめている。

 数秒間、沈黙が流れた後、サレアは色を取り戻した唇を動かした。


「……わかったわ。魔導書を出してくれる? すぐに天使を解放するから」


 今だけ『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』所有権を持っているエイルは彼女の言葉を受け、即座に魔導書を物質化させた。

 ノアが普段そうしていたように、魔導書を情報子として保存していたのである。

 サレアはそれを受け取り、天使の情報が載っているページを開いた。

 そこには複雑な魔法陣が描かれている。

 恐らく、天使の召喚を行うための物なのだろう。

 サレアはその魔法陣の上に、懐から取り出した水晶を静かに置いた。

 そして、優しく語りかけるように詠唱を唱え始める。



「元素は水、方位は西、美徳は節制。神の左に座す者よ、聖なる力を以って魔を鎮めよ。貴女の名は——」



 魔導書に記された魔法陣は、わずかな魔力で起動できる。

 魔力量だけで考えるならば、三歳程度の子供でも発動が可能なくらいだ。

 だが、魔力にも人によって差がある。

 つまり、魔力によって個人の識別が可能という事だ。

 そしてこの天使の召喚魔法に必要な魔力はサレアの魔力であり、量は関係ない。



「——ガブリエル」



 サレアが口にしたのは四大天使のうち節制を司る大天使。

 詠唱の中にもあったが、ガブリエルは「神の左に座す者」と呼ばれ、大天使長ミカエルに次ぐ強大な熾天使だ。

 『知識は世界を開く鍵』に封印されていたサタンと互いが互いに抑制し合う関係性であり、憤怒の悪魔が暴走した今、彼を止められるのは節制の天使しかいない。


 名を呼ばれた彼女はこの世界に顕現する。

 魔法陣からはまばゆい光と共に一人の女性が現れた。

 女神であるエイルにも勝るとも劣らない美貌を備えた彼女は静かに瞼を開け、言葉を発する。



「我が名はガブリエル。四大天使が一柱。悪は何処だ? 私がこの手で裁いてみせよう」



 今、ここに。

 反撃の光が見え始めた。

 

節制の天使、憤怒の悪魔。

次回、邂逅します。

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