58話 進化
本日二話目です!
是非、お読みください!
悪魔。
それは精神世界に棲む魔族。
基本的に現実世界への影響力は小さい。
理由は本来の力を発揮出来ないから。
そんな彼等が唯一、現実世界へ干渉する方法は受肉をする事。
悪魔の中には序列があり、その頂点に立つは七体の悪魔。
それぞれが大罪を司っており、他の悪魔達とは一線を画している。
例えばゴート・ヘルヘイトの近くにいたマモン。
彼女は“強欲”を司る大悪魔で能力を所有している。
名を『強欲ノ悪魔』。
その権能は殺した者の能力奪取及び移譲である。
そしてもう一柱。
“憤怒”を司る大悪魔として、『知識は世界を開く鍵』に封印されていたサタン。
彼は長い時を経て、ようやく目覚めた。
マモンと同様に『憤怒ノ悪魔』という能力を持つ。
その能力は一度使用すれば、感情に任せて暴走するという恐ろしい物。
自身でその暴走を止める事はほぼ不可能で、そのまま放っておけば溢れる魔素と魔力に肉体が耐えきれず死に至る。
だからこそ、今現在、『知識は世界を開く鍵』はあらゆる可能性を試行していた。
サタンがノアに憑依した時点で、ヴァイスハイトはエイルの体へと逃げ込んでいた。
暴走に巻き込まれれば、完全にノアを救う手段が無くなってしまうからだ。
邪悪でおどろおどろしいオーラを纏い、ノアは周囲にいた魔物達を屠っている。
その戦力差は凄まじく、魔物達は皆一撃で殺されていた。
《打開策を検討……該当項目無し
打開策を検討……該当項目無し
打開策を検討……該当項目無し》
制限時間はそう多くない。しかしながら一向に打開策は見当たらない。
「す、すみません……私は当分体を動かせそうにありません」
エイルが苦しそうに告げる。
ノア以外は依然として、魔力切れは続いているのだ。
《『憤怒ノ悪魔』の抑止を検討……該当項目一件
『知識は世界を開く鍵』に封印された天使の解放》
《天使の解放について検索……該当項目一件
[サレア]が天使解放の鍵》
《死者蘇生について検索……該当項目一件
『知識は世界を開く鍵』の全能力向上》
蓄積された知識の中から、情報を探し出すヴァイスハイト。
そして一つの可能性に辿り着いた。
それは『知識は世界を開く鍵』の進化。
この世における能力という概念は、天啓的に授けられる物であり、絶対的な力という風に認識されている。
だが、『知識は世界を開く鍵』は違った。
主を助けるために、自身の進化を願う。
《全能力向上について検索……該当項目無し》
まだヴァイスハイトは諦めない。
《能力複製について検索……該当項目一件
情報管理を起動。『記憶ノ女神』を複製……成功。
『機械仕掛ノ神』を複製……成功。
『武器ノ男神』を複製……成功。
『狩猟ノ女神』を複製……成功。
『掟ノ女神』を複製……成功》
複製された能力の数々。それは今までノアが出会ってきた人間の能力を複製した物。
ヴァイスハイトには聞こえていた。
ノアの心の中の叫びが。
自身の今までの全てが無駄だったと言っていた彼を否定するため、意味はあったと証明するために行動する。
《『知識は世界を開く鍵』と『記憶ノ女神』、『機械仕掛ノ神』を統合……成功。
[エイル]と『狩猟ノ女神』を統合……成功。
『医療ノ戦乙女』を獲得。
[ランスロット]と『武器ノ男神』を統合……成功。
『湖ノ騎士』を獲得。
[ソルド]、[シルフ]、[ノーム]と『掟ノ女神』を統合……成功。
『精霊ノ王』を獲得》
従者と能力を統合し、新たな能力の獲得へと至った。
けれどまだ、終わらない。
『機械仕掛ノ神』の権能、〈人体錬成〉と情報子変換を使用し、仮初めの肉体を造る。
そしてそれに従者達を順に憑依させていく。
エイル、ランスロット、ソルドが肉体を得た。
この場合、悪魔と同じ様に受肉を果たしたと見て間違いない。
エイルは女騎士の装備はそのまま、背中には二枚の羽が生えており、ランスロットは鎧の色が青みがかった黒色に変化していた。
またソルドはと言うと……いつもの狼の状態では無く、人間の姿で受肉していた。
外見は白髪で長身の青年。
今回は人化では無く、受肉であったため、体を思い通りに動かせるようだ。
三人は得られた身体の具合を確認している。
「ヴァイスハイトが、ここまで自律的に行動するなんて……」
エイルが言葉を漏らした。
《[エイル]、[ソルド]は教会へ移動して下さい。
[ランスロット]はここで、魔物を出来るだけ狩って下さい》
彼女の言葉には反応せず、ヴァイスハイトが三人に指令を出す。
一刻も猶予がないという事は従者達は理解していた。
ヴァイスハイトを信じ、それに従う。
「行きましょう、ソルド」
「承知」
エイルは羽を広げて飛翔し、ソルドは人型となっても変わらぬ走行速度で、教会へと向かった。
「さて、ちょっとは強くなれたのか?」
〈騎士殺しの剣〉を発動し、自身の魔力で生成したバイザーで顔を覆う。
そして楽しげな様子でそれを構えた。
暴走するノアの傍でランスロットは魔物達に勢いよく斬りかかった。
◇◆◇◆◇◆◇
熱い。熱い。熱い。
全身が火に巻かれている様だ。
とめどなく溢れる魔力。
身体の奥から湧き出る魔素。
全てを破壊するためだけにそれらを使用する。
「フハハハハ!
良いぞ、良いぞ、良いぞ!!
ここまで怒りの感情で一杯になるとはなぁ!」
ああそうだ。
何もかも。
この世に溢れる何もかもが憎い。
こんな魔物達を生かしておく理由など無い。
サレアとロミアが死んで、何故、お前らの様なゴミが生きているんだ。
「フハハ!
普通の人間なら、オレに取り憑かれれば気が狂って人格が破壊されるんだがなぁ……。
どうやら、お前は違うらしい。
肉体と感情は暴走しているくせに、お前という人格はしっかりと残っている」
おい、サタン。
いつまでこんなゴミ共の相手をするつもりだ?
とっとと王宮に迎え。
「フン。この場にいる魔物は確かにゴミだ。
だが……あの黒騎士はどうだ?
あいつはどう過小評価してもゴミとは言えねぇぞ?」
サタンが向いた方向には、黒色の鎧を纏った騎士がいた。
この国の騎士かと思ったがそれは違う。
明らかに異質だ。
人間とは思えない雰囲気を纏っている。
「あれは真っ当な人間じゃねぇな。
詳しくは知らんが、あれは魔人に近い何かだ」
騎士……。
ランスロットが思い出されるが、鎧で全身を覆っているので誰かはわからない。
だが、邪魔なら潰す。
お前ならどうとでもなるだろ?
「任せろ。人間の形を保てないようにしてやる」
サタンが動いた。
怒りの炎は更に燃え盛る。
◇◆◇◆◇◆◇
背後から迫る殺気を感じ取り、ランスロットは即座に対応した。
魔素で出来た生体装甲と〈騎士殺しの剣〉が衝突する。
激しい火花が散った。
少しの間、せめぎ合った後、二人は距離を取る。
「おいおい……。いきなり殴り掛かってくるなんて、随分と血の気が多くなったな?」
「黒騎士、せいぜいオレを楽しませろ!」
強く地面を蹴り、再びサタンは殴り掛かる。
「口調まで変わっちまって……」
ランスロットは剣で拳の勢いを受け流した。
サタンとランスロットの素の戦力にはかなりの差がある。
けれどそれを埋めるだけの剣術をランスロットは持っていた。
剣を身体の一部として扱い、サタンとほぼ互角に渡り合う。
「フハハハハ! その剣は丈夫だな!」
強者との戦いに悪魔は嗤う。
今まで魔導書に封印されていた分の反動か、ノアの怒りによる影響か、彼は戦いを楽しんでいた。
「馬鹿言うな。これでも剣が折れないように必死なんだよ!」
ランスロットが吼える。
実際、剣の硬度は高い。
けれどもそれではサタンの攻撃には耐えられない。
よって、魔力による強度補強をしながら剣を振るっていた。
今度はランスロットから攻撃を仕掛ける。
再び、せめぎ合う形となり、その隙に彼は意思を持った能力に呼び掛けた。
《おい、ヴァイスハイト! 暴走野郎が俺に襲い掛かってきたんだが?》
《そちらで対処して下さい》
《それはわかってんだよ。具体的な方法を教えてくれ》
《貴方には『武器ノ男神』を統合しています。『記憶ノ女神』と並行利用すれば貴方のお仲間の武器を生成出来るかと》
《ほう、わかった》
頭の中での会話を終え、サタンから距離を取る。
彼自身、能力は初使用のため勝手がわからない。
(とりあえず、あの剣でいいか……)
ランスロットは頭の中でイメージし、虚空を鞘に見立てて、剣を引き抜くような動作をした。
「……案外、簡単だな」
そう呟く彼の手には新しい剣が握られている。
その名前を〈永遠に光り輝く剣〉。
アーサー王の甥にして、最も優秀な剣士と称されたガウェインが所持していたとされる聖剣。
ガウェインとランスロット。人物同士の関係はどうであれ、〈永遠に光り輝く剣〉の威力は変わらない。
「……二刀流とは、面白いな。
騎士としては邪道。だがオレからすれば、それは全くもって正しい判断だ。
その二本の剣で、オレをもっと楽しませろ!」
「まぁ、武器なら何でも使えるからな。
お望み通り、楽しませてやるよ!!」
憤怒の悪魔と湖の騎士はお互いに勢いそのまま、激突した。
その余波だけで魔物が死ぬほどの苛烈な攻防が幕を開ける。
明日は恐らく、投稿出来ません。ごめんなさい!




