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紅目の魔導師、魔法使いと旅をする。  作者: 南雲虎之助
魔王と踊り狂う星座編
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51話 三大魔王

第四章が始まりました。

前回の章があまり戦闘シーンが多くなかったので今回は多めになると思います。



 王都での一件を終え、一応活動拠点である西街に戻ってきた。

 そして、僕達はもう既に習慣化されたバルファさんへの報告に来ていた。



「——という訳で、全てが上手く収まりました」



 ギルドマスター室にていつものように長方形のテーブルを挟んでソファに座り、僕は王都での事件を語った。

 それを聞いていたバルファさんは、シャーロットの話題が出た時に異常な食いつきを見せていた。

 まぁ、メルさんからの話では白髪碧眼の少女とファフニールが題材になったおとぎ話があるというくらいなので、そこまで気にすることでは無いのかもしれない。


「ふーん。それは大変だったね。君達の行く先々では必ずと言っていいほど何か起きるようだ」


 彼女は快活に笑う。

 久しぶりに見たという事もあってか、その笑顔がとても懐かしいもののように感じた。


 テーブルに置かれたカップを手に取り、紅茶を一口飲み込む。

 口の中を濃い味わいの甘みが満たし、豊かな香りが鼻に抜けた。

 とても美味しい。なんて単純な感想しか僕には出てこなかった。


「これでやっと落ち着けるねー」


 その何気無い一言で、僕は少しだけ体が硬直する。

 バルファさんの翡翠色の瞳と目が合った。

 明るい色の奥にある深い闇に引き込まれそうになる。

 ……落ち着け。

 説明すればわかってくれるはずだ。


「あの、バルファさん。少し、お話があるのですが……」


 彼女はこちらから少しも目を逸らさず言った。


「良いよ。ボクに話してごらん」


 優しい声音と部屋に漂う紅茶の香りで心が落ち着き、僕は口を開いた。


「冒険者としての活動を、お休みさせてはくれないでしょうか?」


 意を決して伝えた言葉を聞いて、彼女の目が驚きで見開かれる。

 だがすぐに、それはいつもの穏やかで戯けた表情に戻った。

 目の中に懐疑の光を灯して彼女は尋ねる。


「理由を聞いても良いかな?」


 小首を傾げたその姿はとても可愛らしい。


「……わかりました。

 一番の理由は、もっと見聞を広めたいと思ったからです。

 確かに冒険者としての仕事でも様々な場所に行きましたが、やはり場所は限られていました」


「ふぅん……。つまり人間領だけではなく、魔族領にも行ってみたいって事かな?」


「そうです。人間達の文化だけでは無く、魔族の文化にも触れてみたいんです」


「……うーん、そうだねー。魔族と人間は絶対不可侵条約を結んでいるからね、敵対こそしてないけれど、仲が良いって事でもないからなぁ」


 バルファさんは悩んでいた。


 絶対不可侵条約。それは五百年前より魔族と人間と結ばれていた条約。

 魔族とは、魔物の中でも人間と同様の知性を有した個体の事である。知恵なき魔物は時に人間領に侵攻してくるが、魔族は人と同じように国を興していたりするのだ。


「それに、冒険者登録の時に言われたはずだよ。一ヶ月以上の間、冒険者の活動が見受けられなかった場合、資格は剥奪されるって」


 ……忘れてた。

 そうだったな。

 確かそんな事を言っていた気がする。

 きっとその時の僕はロミアに全てを任せていたのだろう。


「ノアさんはそういう規約は全部私に覚えさせていましたから、そこら辺は覚えていませんよ」


 隣に座っていたロミアが告げ口した。

 即座に横を向いたが、顔を背けられる。


「ヒュー……フゥー……」


 ……口笛、吹けてないぞ。

 まぁいい。

 今は見逃してあげよう。

 

「その規約についてですけど、剥奪されてもまた登録はできるんですよね?」


「出来るけど……前の冒険者情報は全部、初期に戻されるよ。

 でももし、それをどうにか出来たとして、魔王の治める土地に入る勇気はあるのかい? 魔族領には魔王と呼ばれる存在がいる事を君も知らない訳じゃないだろう?」


 魔王……か。

 魔族を統べる王たる存在。

 その力は強大で、人間などは塵芥にしか見ていない上位種。


「一応、説明しておくけれど、現在で存在している魔王は三名。

 “青薔薇姫”ローズ・オベリア。

 “戦神”アイト・シュトゥルムアングリフ。

 この二人は比較的に新しい方の魔王だよ。ま、それでも千年以上は生きているけどね。

 そして最も古くから存在しているのが——


 “魔王”グリザイユ・クレエ・デストリュクシオン。


 彼らは三大魔王として君臨している。

 その強さは……言うまでもない。

 それを前に、君は正気を保っていられるのかな?」


 ふむ。

 どうやら彼女は遠回しに僕の事を心配してくれているようだ。

 これが勘違いだったら恥ずかしいが、本人にそう伝えない限り僕の中では正解である。


 閑話休題。僕とて魔王くらいは知っている。

 神父様がやけに詳しく教えてくれた事が原因だが。


《“青薔薇姫”ローズ・オベリア。種族は風人族(ハイエルフ)。魔王の中ではただ一人の女性。

 能力は不詳。治めているのは魔王国オベリアル。

 “戦神”アイト・シュトゥルムアングリフ。種族は魔人族。黒髪の男性。

 能力は不詳。治めているのは魔人国家ユグドラシル。

 ”魔王“グリザイユ・クレエ・デストリュクシオン。種族は恐らく龍人族(ドラゴニュート)の上位種。

 最古の魔王。能力は不詳。治めているのは、魔族領にある北の大陸全域。


 この他にも魔王に匹敵する者は確認されていますが、今のところ、魔王と呼称されているのはこの三名のみです》


 無機質な音声解説が頭の中で響く。

 それは魔王達の情報。

 まぁ、今聞いた物はほとんど既知の情報であった。

 多分、それより詳しい事は判明していないのだろう。


 

「大丈夫です。今を生きている紅目の魔導師は、魔王ですら懐柔してみせますよ」


 僕はそう言い切った。

 胸を張って断言した。

 魔物ではなく魔族であり、それに一国の王だというのなら話くらいは聞いてくれるだろう。


「ハハハッ、えらく大きく出たね。さすが、紅目の魔導師 ヘレを超える男だ。

 ……でも、ロミアちゃんは良いのかい?

 魔王領では安全の保証が完全とは言い切れない。それでもノアくんに着いて行く気はある?」


 彼女の視線がロミアに向けられた。

 王都から西街に帰ってくるその間、僕とロミアはソルドの背中の上で話し合った。

 最初は彼女も戸惑っていたけれど結果的に了承してくれている。


 僕はロミアの言葉を待つ。


「もちろん。私の安全はノアさんが保証してくれますから!」


 きっと、隣に座っている少女は明るい笑顔をして答えたはずだ。

 見なくともわかる。

 その信頼がとても嬉しかった。

 思わず顔が緩むのを抑え、バルファさんを見据える。


「ふむふむ。相思相愛ってところだね。こっちが照れ臭くなっちゃうよ。

 ……良いだろう。

 それだけの覚悟がるのなら、ボクも認めざるを得ない。

 じゃ、君達に新しいクエストを頼もう」


 彼女は身を乗り出して、ニヤリと笑う。

 紅茶から昇る湯気がフワリ揺らいだ。


「クエストの内容は魔族領の調査。期限はない。

 君達が調査し終えたと思った時に戻ってくる。

 報酬は土産話の内容によるものとする。以上だよ」


 僕達は彼女の勢いに押されて、引き気味ではあったが、しっかりとその内容は伝わった。

 ソファの背もたれに背中がぴったりとくっついている。

 なるほど、と僕は思った。

 バルファさんが魔族領の調査をクエストとする事で、冒険者資格の剥奪を免れるという訳か。


「ありがとうございます、バルファさん」


「ありがとうございます!」


 僕達は素直に頭を下げて、礼を述べた。

 彼女には様々な場面でお世話になっている。

 魔族領に行った時にでも、何かお礼の品でも買っていこう。

 僕は頭の隅で、そんな事を考えていた。


「では、すぐにクエスト依頼の準備をしてくる。

 少し待っててね!」


 バルファさんは元気よくギルドマスター室から飛び出していった。

 部屋に取り残された僕とロミア。

 静寂が包み込む。


「良かったですね! バルファさんにわかってもらえて」


 その静けさを破り、ロミアは嬉しそうに言った。

 その顔は喜びで溢れている。

 僕の無茶から発展した事なのに、彼女の方が喜んでいた。


「ああ。そうだな」


 短く答え、僕は紅茶に口をつけた。

 このロミア・フラクスという少女は僕を信じてくれている。

 ならば、その信頼に僕は全力で応えよう。

 彼女を死んでも守り抜こう。


 僕はそう心に決めたのだった。

前書きではあんな事を言いましたが、実は次の話で戦闘シーンがないかもしれないのです。

ごめんなさい!

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