48話 怪盗 ゾル・アルセーヌ
短いのですが、あまり動きがないため丁度良いかと思い、投稿させて頂きます!
「ここまで聞いたのです。最後まで話しなさい。
私はこの国の王女として、全てを聞かなければなりません」
その答えには確固たる意志が感じられた。
「なら、もう少し語らせてもらう。
これから話すのは俺達が何故、[咲き誇る徒花]なんて怪盗団をやっているのかについてだ。
……っと、その前に。
シャーロット、お前はもう寝ろ。そんな場所で寝たら風邪をひくぞ?」
椅子に座って、うたた寝しているシャーロット。
彼女は今にも椅子から転がり落ちそうになっていた。
「ん……でも、まだお話が途中……」
「大丈夫さ、どうせこれまでの話も眠気で覚えてないだろう。
リタ、シャーロットを寝かせてあげてくれ」
「りょーかい! さ、シャロちゃん行こっか」
メルに頼まれ、リタはシャーロットの手を引いて部屋から出て行った。
「そう言えば……ここに来てから気になっていたのだけれど、あの少女は誰なのかしら?」
ソフィアは二人を見送った後、目の前のメルへと視線を戻した。
「ああ……あの子はシャーロットっていう名前でな。ファフニールの宝物庫にいたから保護してきたんだ」
「ファフニールの宝物庫に……!?
……そうですか、まるでおとぎ話のようですね。
それで、保護……って言いますけど貴方、どうせ強引に連れ去ってきたのでしょう?」
「ま、そういう言い方をしなくもない」
「はぁ……。
もういいです。早く次の話に移りなさい」
「そうか? じゃ、次の話だ」
彼は再び語り手として話し始めた。
彼らが如何様にして、今のような状況になったのかを。
懇々と丁寧に説明を開始した。
「さっきも言ったが、俺達を買ったのは他国の公爵だ。
だが、すぐにその身を引き渡された訳ではなかった。部屋に転がった沢山の死体を片付けなきゃいけなかったからな……。
結果的に、諸々の準備や手続きを行なうのに丸三日を要した」
「そして、身柄が公爵に引き渡される前日の夜に事件が起きた」
「何でも感知魔法に反応があって、どうやら侵入者が来たらしかった。
けど、そんな些細な事を俺達は気にしなかった。
気にしてる余裕なんて無かったんだ」
「変わらず放心状態の俺達がいる部屋に、足音が近づいてきた。
足音の主は部屋の扉を勢いよく開けた。
入ってきたのは、とても胡散臭そうなおじさんだった。
そのおじさんは俺達を見るなり、『我が名はゾル・アルセーヌ! 君達を盗みに来た!』って、声高らかに宣言したんだ」
「それでも何の反応も示さない俺達を、ゾルは無理矢理に連れ出した。
リタを背中に背負って、ギドンと俺を小脇に抱えてな。
子供と言っても七〜十歳を三人だ。相当な重さのはずなのに、それを全く気にしていなかった。華麗に軽やかに、子供を盗み出したんだ」
「その後、ゾルは俺達をこの家にまで連れて来た。
そして言った。
『今日からここが君達の家だ。ここまで連れてきた以上、誰にも君達を傷付けさせないと約束しよう』
それからゾルと俺達のどこかぎこちない生活が始まった」
「まぁ当然、その時の俺達が心を開くはずがなかった。ましてや、会って間も無いゾルに対しては警戒心丸出しだった。
こいつも俺達を誰かに売るつもりなんじゃないかって思ってたんだ。
でもゾルは毎日毎日、優しく接してくれた。それに、色々な事を教えてくれた。
文字の読み書きとか基本的な事から、怪盗の定義や理念なんて事まで教えてもらった」
「それで二年近く経ったある日。
いつものように朝起きて下に降りると、ゾルが床に倒れていた。
急いで駆け寄って、声をかけるが返事がない。
何度も何度も呼び続けたが、ゾルは目を覚ましてくれなかった。
俺達は何日間も泣き続けた。
それまで溜まっていた涙が全部、流れ出てきたみたいに……」
「ゾルには家族なんていなかったから、その死を弔う人は俺達以外にいなかった。
だから自分達の手で、ゾルの墓を作った。
その間も涙は自然と溢れてきた。
どうして神様は俺達ばかりから奪うんだろう、なんて考えたりしてた」
「そして、俺達が悲しみに暮れた時、家の中で一通の手紙を見つけた。それがこれだ」
メルはコートの内側のポケットから手紙を取り出し、ソフィアへと差し出した。
ソフィアはそれに恐る恐る手を伸ばし、内容を確認する。
そこにはこう書かれていた。
『親愛なる子供達へ
まず最初に、衝撃の事実を伝えよう。
なんとこの私、ゾル・アルセーヌはこの世界の住人ではない。
簡単に言えば、異世界からやってきた人間なのだ。
異世界からやってきた人間は外見年齢の変化が著しく遅いようで、外面はイケてるダンディなおじさんでも、中身はおじいさんだったりするんだよ。
私はもうこの世界で百年以上生きた。
最近だと魂が擦り減ってきたのを感じてしまってね。
少し疲れてしまったんだ。
無責任だと責められても言い返せない。
けれど、お前達にはそんな弱っているところを見せたくなかったんだ。
許しておくれ。
リタ、お前は絵がとても上手だったね。将来は立派な画家になるだろう。その引っ込み思案な所が直せれば完璧だ。
ギドン、お前には音楽の才能がある。きっと偉大な音楽家としてなを馳せるだろうな。年長者として二人を頼むぞ。
メル、お前は絵も音楽も苦手だったな。だけど誰よりも頑張ろうという気持ちは感じたよ。一生懸命、花の世話をしていたのも私は知っている。その優しさで他の人を助けてあげなさい。
さぁ、最後に私から三人にプレゼントだ。
この手紙の近くに私が具現化させた武器が三つある。
『記憶ノ女神』は既に譲渡してあるから、それらに触れて発動させれば英雄がやって来る。
彼らにも話はしてあるから心配しなくても大丈夫だ。
メル、リタ、ギドン。
短い間だったが、お前達と過ごせて私は幸せだった。
本当にありがとう。
[咲き誇る徒花]ゾル・アルセーヌより』
手紙を読み終え、ソフィアは静かにそれを机に置いた。
そしてメルの顔を見つめる。
「これが俺が語れる全てだ」
メルは立ち上がってソフィアを見下ろす。
その顔は悲しそうではあるが、どこか過去を懐かしんでいるようにも見えた。
「頼む、俺達の計画に協力してくれ」
彼はそう言って頭を下げた。
ユートラス王国王女、ソフィア・ユートラスは考える。
今まで積み重ねてきた経験と知識を総動員して、何が最適解かを導き出そうとしていた。
そして少しの間を置いて、彼女は答えた。
「私は————」
次の話から一気に進みます!




