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46話 英雄 対 神々

中々話がまとまらず、困り果てる僕。

楽しくはあるのですが、皆様にも楽しんでいただけているか不安であります。

もっと精進いたします!



 王宮の応接間にて、激しい剣戟を繰り広げる二人。


 トレンスは歯軋りする。

 宮廷画家になりすましたリタに逃げられ、新たに現れた敵を倒せないでいる事に苛立ちを感じていたからだ。

 迫る剣撃を護衛の腰から引き抜いた剣で防ぎきり、大きく後方へ飛んで相手の間合いから離れた。


「貴様ほどの騎士が、何故あんな泥棒風情に加担する?」


 彼は目の前に立ち塞がる女騎士に対して問いかける。

 これ程までの実力を持った騎士がどうして君主に仕えていないのか、彼は不思議で仕方なかったのだ。

 質問を受けたルノーは、少しばかり考えてから答えた。


「私を最初に呼び出した男から、あの子を守ってくれと頼まれたからだ」


 真っ直ぐな眼差しで、彼女はトレンスを見据えている。

 この答えで謎は更に深まる。


(どういう事だ……? この騎士を呼び出したのは、あのフードを被っていた女ではないのか?)


 トレンスはその明晰な頭脳を持って思考する。

 けれども、答えは導き出せない。


「お喋りはここまでとしよう、トレンス王。貴方との戦いはそれ程長くは続けられないだろうから」


 ルノーが再び剣を構え直す。

 すると炎のようにうねる刀身が揺らめき出し、物質として存在するはずの刃が消え去った。

 否。見えなくなったと言う方が正しいだろう。


「それが……貴様の剣の力か?」


「ああ。我がフランベルジュの斬撃、心して受けるがいい!」


 彼女は床を強く蹴って一気に距離を詰めると、その不定形な不可視の刃で斬りかかった。

 それをトレンスは受け流す。

 彼はこれまでの攻防で完全に間合いを見切っていた。そのため、刀身が見えずとも対応するのは容易だと考えていた。


 しかし——


「…………!」


「おや、もうお気づきか?」


 トレンスは自身の頬を手で触れて確認する。

 そして手に付着した自身の血を見て確信した。


「消えるだけでは無く……長さが変化するのか……」


 そう。

 ルノーが所持するその剣は陽炎を纏う魔法の剣なのだ。自身の魔力を注ぎ込む事で刀身が消え、その長さが伸縮する。

 つまりフランベルジュによる攻撃を防ぐ事は困難。もはや、不可能と言っても過言では無かった。


「さぁ、戦おう。貴方が王として君臨するならば、これくらいの試練は乗り越えて然るべきだ」


 不敵に笑うルノー。

 だが、彼女は一瞬たりとも隙は見せない。

 それは騎士としての直感が、目の前の男は危険だと告げていたからだった。


「そうか…………」


 低い声で呟いたトレンスがルノーに正対する。

 体から発せられる強烈な覇気。

 先程までも王としての風格は十分にあった。しかし、今のその姿を見た者は口を揃えてこう言うだろう。


 “人の領域を超えている”


 ——と。



「ルノー・ド・モントーバン。貴様の騎士としての強さを認めよう。しかし私はこの国の王だ。貴様如きを倒せないようでは、王と名乗るに値しない。故に、私も少し本気を出すが、構わんな?」


 トレンスはそう言いながら、床に倒れているもう一人の兵士から剣を抜き取った。そして、両の手に持った剣を構える。その二本の剣には異様な黒いオーラが纏わりついていた。


「もちろん、存分に力を解放してくれ」


 両者の間に苛烈な火花が散り、静寂が包み込む。



 そして、二人は動いた。



 迫るフランベルジュをトレンスが片方の剣で受けると、不可視であったはずの刀身がその姿を現す。


「なっ……!?」


 ルノーが驚愕の声を上げる。

 それもそのはず、この剣が纏う陽炎が斬り捨てられてしまったのだから。

 陽炎という現象が断ち斬られたのだから。


「さらばだ、異界の騎士よ」


 フランベルジュを弾かれ、無防備となった彼女の心臓に、トレンスはもう片方の剣を突き刺した。

 万物を切り裂く伝説の鎌の力を反映させたその剣の貫通力は、想像を絶する物だった。

 人の体など無いに等しいとでも言いたげに、剣は彼女の体を容易に貫く。


 深く。

 深く。

 その深奥に至るまで。


 圧倒的なまでの力の差が、そこにはあった。




「ハハハッ。貴方は私の知る王の中で最も強い……。

 良き戦いだった……」




 その言葉を最後に、ルノーはフランベルジュとともに光の粒子となって消え去った。



「ルノー・ド・モントーバン……覚えておこう」



 彼は小さく、確かめるように、対峙した騎士の名前を口にした。












 人通りの全く無い街路にて——。



「悪いが僕にはあの距離まで届く攻撃手段がない。全てロビンに任せるけどいいかい?」


 遠く離れた王宮より飛んでくる武器の数々。

 ギドンはそれを躱しながら、建物の陰に隠れ潜む男に尋ねた。


「それ以外、策なんて無いんだろ? 無駄口叩いてないで早く代われ」


「ふふ。頼むよ」


 そこで、二人はそれぞれの場所を交換した。

 通りに現れた緑色の布を身に付けた男に、今までと変わりなく剣や槍が降り注ぐ。


 男の正体はロビン・フッド。


 複数の伝説が寄り集まった事で生まれた英雄。

 弓の名手と謳われた彼はその名声の通り、矢をつがえて弓を構えた。


「この矢はイチイの枝、無限に無数に増幅する。

 この矢は祈り、人々が渇望した希望ある未来。

 この矢は正義、小さな叛逆はいつしか巨悪を滅ぼす英雄となる。」


 彼が唱えるのは魔法の詠唱。

 それは生前に成した伝説を具現化したような、固有の高位魔法。


 空中に出現する緑色の魔法陣。

 強力な魔力を持ったそれは盾としての役割もあり、飛来する武器達を弾き飛ばした。



「圧政者を貫け、【名も無き抗いの矢ヴィーダーシュテーエン】!!」



 そしてその魔法陣を目がけ、ロビン・フッドは一本の毒矢を放った。

 魔法陣を通過したその矢は木の枝の如く分裂を開始する。

 レイドが〈湧き出る殺意の如くアンリミテッド・アルマ〉で排出した武器の数と同等数の矢の雨が、王宮へと降り注いだ。


 その毒矢に付加されているのは麻痺毒。着弾点から噴出するその毒にレイドとロミアは処理に追われることになるだろう。



「これで当分は攻撃してこないはずだ。この間に来てくれなきゃキツイぞ」



「大丈夫、きっと間に合うさ」



 ギドンはそう言い切った。

 彼は二人を信用している。どんな状況でも切り抜けてきた仲間の事を。

 幼い頃から人生を共にしてきた友の事を、心から信頼していた。











 『記臆ノ女神』。ティターン十二神が一柱、ムネモシュネに由来するその能力の権能は、記憶の具現化である。

 この能力はギリシャ神話に属する中でもかなり特殊な物であった。

 まず、一つの能力複数の人間が使用している時点で極めて異例。

 更にはこの世に存在し得ない人間を呼び出せるその権能は、他の能力に比べて異質だと言わざるを得ない。

 しかしながらそれは、転生者や異世界人とはまた違う方法を用いていた。


 『記臆ノ女神』で人物を呼び出す際、その人物に関わる形を持った何かが必要となる。


 だが、この世にいない人物に関わる物が存在はずが無い。

 つまり、それらを齎した誰かがいるという事。




 メルは腰に携えた剣、フィエルボワの剣を引き抜いて能力を行使した。



「『記臆ノ女神』に命ずる。蓄積された記臆を遡り、この世に姿を現せ!」



 そして現れたるは可憐な女騎士。

 祖国の為に戦った英雄、ジャンヌ・ダルク。

 彼女の手には旗槍が握られている。

 異国の旗らしいが、その国を知る者はこの世界では彼女だけだ。


「敵は……三人。目の前の女性と、後方からやってくる二人」


 戦況を正確に把握するジャンヌ。

 その上でどちらの相手をするか判断を下す。



「私が二人組の方を相手します、メ……メリューはその女性を相手してください」



(本名で呼ばなかっただけ良いが、メリューじゃほとんど言ってるようなもんだろ!)


 内心でそう叫ぶメル。

 彼はジャンヌに冷たい視線を送りながらも、剣を持つ手に力を込めた。

 迫り来るスカーレットのナイフ。そこにヒュドラの毒は付着していない。

 『婚姻ノ女神』によって扱える怪物の力は、同時に二体まで。

 王宮内にいるアルゴスと上空にてソルドと牽制しあっているスピンクス。よってヒュドラの毒が発動出来ていないのだった。


 しかし、それでナイフの斬れ味が落ちる訳ではない。

 その鋭さは依然として変わる事は無いのだ。


 メルはスカーレットの右手からの刺突攻撃を剣でいなし、左手の斬撃を半歩引いて躱した。

 そして、更に追撃せんとする彼女に向けて大振りの一撃を繰り出す。

 その粗末で大雑把な攻撃は軌道を読まれ、簡単に避けられた。

 距離を取る両者。



 僅かに呼吸を整える時間が与えられる。




「エイル、王女の保護が最優先だ!」


「了解です!」


 響く声。

 それはこの戦況に新たな乱入者の到来を告げる。

 銀髪で紅目の青年と金髪を頭の後ろで束ねた男装の麗人。

 どちらもその身を燕尾服で包んでいた。



「そうはさせない」



 二人の前に立ちはだかるジャンヌ・ダルク。

 彼女は手に持ったその旗槍を夜空に高く掲げた。

 発動されるは、宝物庫の時にも使用された特殊な結界。


 

「己が希望を求むる者達よ、その命を祖国に捧げたまえ! 〈彼の地は自由なり(オルレアン)〉!」



 展開する異世界の戦場を模した結界は、噴水広場の全体を覆い尽くした。

 その効果はこの範囲にいるジャンヌ自身及びメルの身体能力の上昇。

 生前、仲間を鼓舞する役目を担った彼女の英雄譚に由来している。



 エイルは情報子から剣を物質化させ、ジャンヌに斬りかかった。『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』の権能であるこの情報子操作だけならば、彼女でも扱う事が出来る。


 槍と剣がぶつかり合った。


「主人様、今の内に!!」


 エイルが叫ぶ。

 それに頷き、ノアは王女の元へと走る。



「そんな事が許されると思って?」



 ノアから最も遠い場所にいたはずのスカーレットが、いつの間にか彼の背後に忍び寄り、その首をナイフで切り裂こうとしていた。

 だがそれは、更なる乱入者によって阻まれる事になる。



「どいて、どいて、どいてー!!」



 そんな声と共に現れた一頭の馬と、フードを被った女性。

 混戦と化そうとしていた広場に突進してくるその馬は、全てを蹴散らす勢いで駆け抜ける。

 このままでは踏み潰されると考えたノアとスカーレットはそれぞれ左右に回避した。



「お待たせー!」


「良いタイミングだ! 行くぞ、ジャンヌ!」


 その呼びかけで、彼女はエイルの剣を弾き飛ばした後に光の粒子としてメルの携えている剣へと吸い込まれていった。


 メルが王女を抱え、馬に飛び乗る。

 そして、ノアやスカーレットに向けて勝ち誇ったように告げた。


「今夜の所は俺達[咲き誇る徒花ストレリチア]の勝ちだ、王女は頂いていく!

 それじゃ、さらばだ!」


 そうして馬は再び走り出す。


「…………は!?」


 ノアはその姿を見て驚愕の声を上げた。

 勇猛な赤毛の馬が蹴っていたのは地面ではなく、何も無い虚空だったのだから。

 つまり、空を駆けていたのだ。

 翼も持たぬ馬が、空を飛ぶかのように走っていた。


 そして、凄まじい速度で夜の闇に消えていったのだった。

 


「…………チッ。邪魔者ばかり忌々しい。

 まぁ、いいわ。今日は退くとしましょう……」



 いざこざに乗じて、スカーレットもその場から姿を消した。

 上空にいたスピンクスも既にいなくなっていた。



 広場に残されたノアとエイル。

 静かに風が流れる。

 そこに残ったのは、ソフィア王女が[咲き誇る徒花(ストレリチア)]と名乗る怪盗団に連れ去られたという事実だけ。



 王国防衛戦の達成を祝う舞踏会は、最悪の形で終わりを迎えたのだった。



とりあえず、怪盗の勝利ということで終わります。

ですが、三章はまだ続きます!

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