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45話 怪盗 対 神々

昨日は投稿できず、申し訳ありませんでした!!



「画家よ、貴様何のつもりだ?」



 トレンス王は低い声で問う。

 その精悍な顔に不愉快そうな表情を浮かべ、目の前に座る画家に訝しんだ視線を送っている。


 彼が応接間へ赴くと、フードを目深に被った女性が待っていた。

 事前の情報によれば、彼女は新しく雇った宮廷画家らしい。

 普通、このような来客の対応は全て使用人に任せていたトレンス王だったが、今日ばかりは事情が違った。

 彼もまた、ソフィア王女と同じように貴族に対して苦手意識があったのである。

 けれど一国の王としてそのような我儘を突き通すことはできない。

 そのため来客の知らせを聞いた時、彼は内心では喜んでいた。


 その来客が更なる厄介ごとの種である事も知らずに。



「答えろ、貴様は何者だ?」


 彼は重ねて画家に尋ねる。

 トレンス王の足元には護衛の兵士が二人、床に倒れていた。部屋に先に入った彼らは仕掛けられていた雷魔法によって意識を失っている。

 国王の護衛というだけあってその実力は本物だ。

 しかし魔導師でも無い彼らに、完全に秘匿された魔術に気づけという方が無理な話だった。


「私は[咲き誇る徒花(ストレリチア)]の一人。

 この部屋は結果で覆われているので勝手に出ることは出来ません。

 トレンス王……貴方には悪いけれど、しばらくの間はこの部屋にいてもらいます」


 座ったままの女性が口元に笑みを浮かべる。

 その薄桃色の髪がフードから覗く彼女の名は、リタ・モデナ。画家である事には間違いないが、雇われた宮廷画家などでは無い。


「[咲き誇る徒花(ストレリチア)]だと……? 近頃、王都を騒がせている泥棒か。

 そんなお尋ね者がのこのこと私の前に現れるとは……。とんだ愚か者だな」


 トレンス王はちらりと床に倒れている兵士を見た。

 今の彼は武具の類を一切身につけていない。その場合、所有している能力を使用すればいいのだが、いささかそれらは強力すぎる。

 発動すれば王宮を粉々に粉砕してしまう程だ。それ故に攻撃手段は限られる。


「泥棒ではありませんよ。私達は怪盗です。

 対象を華麗に盗み出す……。それに盗むのは物だけとは限りません」


 リタはおもむろに立ち上がり、トレンス王に正対して告げた。


「まさか……貴様ら……!!」


 彼は急いで部屋を出ようとする。


「言いましたよね? この部屋からは出られないと。

 ですが、それでも出たいのであれば私を倒す他ありません」


 リタは普段とは違う落ち着いた口調で語りかける。

 彼女も心の中では恐怖心があった。

 あの、人類最強と名高いトレンス・ユートラスと対面しているのだから。


「私が能力を使えないからといって、変な期待はしない事だな」


 振り返り、リタを睨み据える。


「ええ、もちろん。全力で挑みますよ」



 こうしてリタ対トレンスの戦いが始まった。









「メルとリタは上手くやっているだろうか……」


 ギドンはため息混じりにそう呟く。

 今回の王女誘拐の作戦において、ギドンが担うのは逃走手段である馬車の監視。人通りの少ない道でメルとリタを待っているのだ。

 だが、馬車だというのに肝心の馬がいない。彼はその事実を知っていながら気にはしていない。


《心配しているのか?》


 ギドンの頭の中に男の声が響く。

 その声の主は、ノアの『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』のエイルに近しい存在であった。


「そりゃそうさ。特にリタが無事に来てくれないと、逃げる手段が無いからね」


《まぁ、あの馬以外では逃げるのは困難だろうからな》


 ギドンは辺りを見回して人がいない事を確認すると、声のトーンを少し落として質問する。


「……で、周りに敵はいないんだろうね?」


《ああ。ここいら周辺に敵はいない。……けどな、王宮の方向から妙な殺気を感じるんだ。それだけは気をつけておいた方がいいかもな》


「殺気……?」


 彼がそう聞き返した瞬間——。



 ヒュンッ。



 と、ギドンのすぐ目の前を何かが横切った。


《王宮からだ。言ったそばから攻撃してきやがって……》


 そう苛立つ声を他所に、たった今飛んできた物体が何かを確認する。

 目の前を通り、道に突き刺さった“ソレ”は一本の剣であった。


《おい、次のが来るぞ!》


 ギドンは警告を受け、その場から大きく飛び退いた。

 次の瞬間、さっきまでいた場所に槍が二本突き刺さる。


(武器を発射する能力……。該当するのは北街の冒険者、レイド・クルラリオンか。だが、どうやってここまで? ここまで正確な精度とはどういう訳だ?)


 彼の頭の中に沢山の疑問符が浮かぶ。

 しかしながら、どれを取っても答えには辿り着けない。

 次々と飛んでくる武器を躱しながら、必死に考えを巡らせていた。



「す、凄いな。ここまで正確に狙い撃てるなんて……!」


 レイドが驚きの声を上げる。

 彼は今、ロミアの望遠魔法によって捉えた敵を『武器ノ男神』を発動し、〈湧き出る殺意の如くアンリミテッド・アルマ〉で仕留めようとしていた。


「そうでしょう、すごいでしょう?」


 ロミアは自慢げに胸を張る。張れるほどの胸を持ち合わせてはいないものの、彼女の機転の利き方は賞賛に値するだろう。

 本来、魔法を完全記憶する能力の『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』だが、その副産物として得られる効果がとても多い。

 例を挙げるならば魔法消去や魔法陣複数展開、それに複合魔法の発動などだ。けれども彼女の場合、それらを意識して使っている訳ではなく、直感的に使用している。したがって、今回も同様にロミアは感覚的に能力を行使していた。


 『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』に含まれるさらなる権能、それは高度な演算能力である。

 下位魔法の【火球フォイアクーゲル】であっても、無闇に撃つだけでは当たらない。そこには発射速度、距離、風向などの要因を参照した演算が必要となる。


 そしてロミアの演算能力と〈湧き出る殺意の如くアンリミテッド・アルマ〉を組み合わせた事で、遠く離れた場所への狙撃を可能にしたのだった。



「——全く、ふざけた能力だ」


 ギドンはぼやく。

 彼からすればこれはうんざりするような事態だ。

 自身の攻撃は届かず、一方的に相手から攻撃をされる。漏れそうになるため息を飲み込み、回避に専念するギドン。


《お、おい。俺を呼んでくれたらあんなの……》


「まだ待ってくれ。ロビン、お前は最後の切り札だからね」


 彼は声の主を諭す。


《……わかったよ。間違っても殺されるなよ?》


「私はそう簡単には死なないよ」


 ギドンはの口元には薄い笑みが浮かんでいた。









「おい! 何だよあれ!?」


 思わず驚きの声を発するメル。

 彼はソフィア王女を両手で抱え、追跡者から逃れている最中だ。


「知らないわよ! それより、下ろして頂戴!」


 ソフィアがメルに叫ぶ。

 あの場所の居心地が悪かったとはいえ、化け物に追われる事を良しとするはずも無かった。


 二人を追うのは美しい女性の顔を持った有翼の獅子。それはギリシャ神話に伝わる怪物——スピンクスであった。


「ここで下ろしたら、あの化け物に喰い殺されるかもしれないが、いいんだな!?」


 その言葉で食べられてしまう場面を想像したのか、一気に青ざめるソフィア。


「安心しろ。盗み出したからには傷付けないし、傷付けさせない。それだけは約束する!」


「誘拐犯に約束されても信じられる訳ないでしょう……!?」


 ソフィアがもっともな反論を述べる。

 だが、今の状況からすればこの不気味なマスクを被った男を信じなければ殺されてしまうかもしれない。


「ね、ねぇ! 誰かがこっちに向かってるわ!」


 彼女は焦った声でメルへ報告する。


「誰か?」


 メルは足を止めずに後方を確認した。

 彼の目に映ったのは、急降下してくる女性。

 彼女は一直線にこちらへ向かっている。


「あれはまさか……」


 メルは王宮内での記憶を思い返す。

 煙幕の中でも自由に動き、ソフィアを殺そうとしていた人間。


(でも、別の奴に止められてたはず。もう追ってきたのか?)



 そして、墜落する星の如き速さで誰かが迫っていた。

 地面と激突し、辺りに粉塵が散る。

 その衝撃で様々な物が吹き飛んだ。もちろん、メルも含まれている。


 彼は吹き飛ばされた瞬間にソフィアを抱きしめ、自分の身を呈して彼女を守った。



「貴方には選択肢をあげる。王女を渡しなさい、そうすれば貴方の命は見逃すわ。もし渡さないと言うのなら、貴方も王女と一緒に殺す」


 巻き上がる土煙の中から悠然と現れて、端的にそう宣告するスカーレット。

 彼女が持つ大型のナイフは街灯に照らされて、怪しい光を放っている。


「なら、選択肢を追加だ。王女は渡さないし、俺もあんたには殺されない」


 腰に携えた剣を抜き、その切っ先をスカーレットへと向ける。

 メルの挑戦的な態度は彼女の神経を逆撫でした。


「あらそう、残念ね。じゃあ、今すぐに殺してあげるわ!」


 スカーレットはメルに向けて飛びかかり、手に持ったナイフでその首を掻き切ろうとする。

 しかし、ギリギリの所でそれを受けるメル。

 剣とナイフがぶつかり合い、澄んだ金属音が闇夜に響く。

 少しの間迫り合うと、お互いに後方へ大きく飛んで距離を取った。



《メル、このままでは別の追手が来てしまいます。私を呼んでください》


 突如、メルの頭の中に声が聞こえた。


「けど……」


《王女を安全に連れて行くには、それ以外の方法はあり得ません》


 言い淀む彼に女性の声ははっきりとそう言い切った。

 メルはほんの少し逡巡したがすぐに覚悟を決め、実行に移す。


「二人とも、聞こえるか?」


「「やっと来た!! 遅いよもう!」」


「「こちらもそろそろ危ない所だった」」


「悪い悪い。じゃあ、これより能力の行使を許可する。だが、逃げる事が最優先だ。いいな?」


「「了解!!」」


「「わかっている」」



 こうして[咲き誇る徒花(ストレリチア)]の三人は同時に能力の発動を行った。



「「「『記憶ノ女神』に命ずる。蓄積された記憶を遡り、この世に姿を現せ!」」」



「ジャンヌ・ダルク!」


「ルノー・ド・モントーバン!」


「ロビン・フッド!」



 『記憶ノ女神』によってそれぞれ呼び出された三名の人物。それは、この世にいるはずのない英雄達。

 彼らは行動を開始する。己が敵を討ち滅ぼさんとするために。

『記憶ノ女神』はかなり特殊な能力です。

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