43話 開幕
また、短くてごめんなさい!
今日の夜にもう一話投稿します!
王との謁見から三日後。
ついに舞踏会の日を迎えた。
僕達がこの三日間何をしていたかというと、まず僕はこの王都のあらゆる場所を見て回った。
やはり王都というだけあって、全てが高水準であった。
服も食も建物も、異世界からやってきた者達の知識と、この世界の根底にある魔法の技術がうまく噛み合って、凄まじい発展を遂げていたのである。
実際に僕達が服を買ったあの服屋は、異世界の人間が経営しているらしい。
しかも、この王都にあるのは支店であり、本店は技能国ルサンザにあるとの事。
次にロミア。
彼女は魔法関連の施設へ足を運んでいたそうだ。
様々な魔道具を開発している機関があって、そこで見学をさせてもらったと言っていた。
そして、エイルはというと——
「私は武具店を回っていました」
と、言っていた。
彼女にもお金は渡していたのだが、特に何も買っていなかった。
けれど、その代わりに一輪の花を大事そうに宿屋の部屋に飾っていた。
僕がその花について問うと、
「この花の名前はストレリチア。花言葉は“全てを手に入れる”だそうです」
と、嬉しそうな顔で教えてくれた。
散歩の途中に寄った、ある花屋がくれたらしい。
まぁ、こんな風に三者三様にこの三日間を思う存分楽しんだのであった。
そして僕達は今、今度は王城ではなく王宮に来ていた。
王城に王宮とは、どれだけの資産があるのだろうか。
途方も無いだろうから、考えるのはやめておこう。
「ノア様、ロミア様、こちらです!」
場所が違えど、人は同じ。
いつものようにオルトラさんが、王宮の入り口で手を振っていた。
「毎度、ご苦労様です」
僕は頭を下げる。
「いえいえ。これも私の仕事ですからね。……おや? そちらの麗人は?」
そう尋ねる彼の視線は僕の背後に向いている。
あぁ、そうか。オルトラさんはエイルを見るのは初めてか。
「エイルです。主人様の従者を務めております。よろしくお願いします」
そう言ってエイルとオルトラさんは挨拶を交わしている。
騎士と軍人。共通する何かがあるのだろう。
二人はすぐに打ち解けていた。
「では、ご案内しますね」
オルトラさんに連れられて、僕達は王宮の中へと入った。
馬鹿みたいに広い会場は、内装にもお金がかかっているようだ。全体的に煌びやかで目が痛い。
沢山の人々の中、僕は見慣れた顔を発見する。
王が座るための椅子の付近に、フィグスさんがいた。どうやら誰かと話しているようだ。
しかも、その相手は防衛戦の前夜に伝達魔法にて登場した、セリス・ウェンデッダさんであった。
辺りを見回すと、ほとんどが貴族や役人だらけ。
高そうなドレスや燕尾服にその身を包み、やって来た僕達を興味深そうな目で見ている。
「やっぱり、私にドレスは似合わないんでしょうか……?」
そう言って首をかしげるロミア。
これは、情報子変換で用意したものだ。
いつものローブを情報子に変換して取り込み、それを再構築して別の衣服として物質化させる。
出来そうだなとは考えていたけれど、本当に出来てしまった。恐るべし、『知識は世界を開く鍵』。
それによって今のロミアは、純白のドレス姿だ。
「大丈夫です。とても似合ってらっしゃいます」
エイルが咄嗟にフォローを入れる。
確かに。ロミアにそのドレスはよく似合っていた。
まぁ、着ている人がそもそも良いので、どんな服を着ても可愛くなるのだろう。
対して僕は……いや、僕とエイルは燕尾服を着ている。
いや、何でエイルも!?
と、思ったのだが彼女は「なるべく戦いやすい格好の方がいいです」と言って聞かなかったのだ。
別に異論はないのだが、エイルの場合、その姿が決まりすぎている。
男の僕より、男装をしている彼女の方が格好いいくらいだ。解せぬ。
「あれー? ノアさん?」
僕が自身とエイルとの差に嘆いていると、背後から呑気な声が聞こえた。
どこかで聞き覚えのあるその声。
僕が振り返ると、そこにはある冒険者がいた。
「レイド! お前も来てたのか!」
「王様に呼ばれたんですよー。本当は行きたくなかったんですけど、ご飯が無償で食べれるって聞いて来ました」
うん。何ともレイドらしい、欲望に忠実な理由だ。
またどこかで会うとは思っていたが、こんなに早く会えるとは……。
彼も防衛戦を共に戦った冒険者である。
その名をレイド・クルラリオン。
彼がいなければ、王国には甚大な被害が出ていただろう。
それくらい活躍してくれたのだ。
そこからはレイドを含めて、たわいもない話をしながら会の始まりを待った。
そして——
「トレンス王と、ソフィア王女の入場である!!」
突如、会場内に響き渡る音声。
それは、国王と王女の入場を伝えるものであった。
その場が静まり返り、皆が頭を下げる。
そして悠々とやって来た二人の人物。
厳格な雰囲気を纏った彼はユートラス王国現国王、トレンス・ユートラス。
そしてその後ろを歩いているのが、王女 ソフィア・ユートラスだ。
彼女の美しい顔には、少し憂いを帯びているようにも思えたが気のせいだろうか。
席に着き、会場内を見渡すトレンス王。
その時、少しばかり目が合った。
一瞬だけ笑みを見せた後、すぐに毅然とした表情へと変わり、言葉を発する。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。この舞踏会は王国防衛の達成を祝うためのものだ。存分に楽しんでくれ。
それでは、これより舞踏会を始める!」
トレンス王の威厳に満ちた声で、舞踏会は始まりが告げられた。
舞踏会の始まりに、動き出した者達がいた。
それは三人の怪盗と一人の女神。
彼らの目的は同じ。
この国の王女、ソフィア・ユートラス。
三人はこの会場から彼女を盗み出そうとしており、一人は彼女をこの世から消し去ろうとしていた。
「準備はいいか? 」
「「準備完了! こっちはいつでも大丈夫だよ!」」
「「こちらも抜かりない」」
[咲き誇る徒花]の三人はお互いに伝達魔法で連絡を取り合う。
メルとリタは建物内におり、ギドンは王宮の外で待機している。
「じゃ、手筈通りに!」
活動を始める三人。
そして、一人の女神も行動に移る。
「さて……殺しましょう。静かに、けれど残酷に殺してあげましょう」
大きめのナイフを両手に持ち、影から忍び寄るスカーレット・ドラウン。
そして幕を開けるのだ。
紅目の魔導師と全てを手に入れる怪盗、残虐な婚姻の女神の王女を巡る三つ巴の戦いが——。




