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05話 初めてのクエスト

拙い文ですが、お読みいただけると幸いです。

修正いたしました(2019/03/03)


 ここはユートラス王国とカルムメリア王国との間に位置する森の中。

 僕達はクエストの達成条件である、薬草の採集をするために随分と森の深くまで来ていた。


「薬草と雑草に違いなんてあります?」


 ロミアが真面目な顔で変な質問をしてくる。確かに見た目は似てるかもしれないが、効能においては桁違いだ。


「よく見てみろ、少しだけ色が他の草に比べて明るい。それをちゃんと見分ければわかると思うぞ」


 ロミアは右手に薬草、左手に雑草を持ち考察している。

 その考察の結果、ロミアは自信ありげな顔で左手を掲げた。


「完全に理解しました! こっちが薬草ですね!」


「ああ、大間違いだ」


 僕はロミアの右手から薬草を取って、麻袋に突っ込んだ。

 魔法学校ではこう言った薬草などの知識は教えてくれなかったのだろうか。


「収納魔法を使いましょうか? その方が鮮度とか保てると思うんですけど……」


 ロミアが僕の行動を見て提案した。

 しかしその提案を了承することはできなかった。


 確かにロミアは魔法が得意だ。上位魔法を簡単に発動できるほどに。だが、それを連発できる程の魔力量は無いのだろう。

 昨日の夜、ユートラス王国の宿屋の前で倒れたのがいい例だ。

 しかも今は森の中だ、ここで動け無くなられては困る。

 

「収納魔法は上級の魔法だろう。それに街に戻るまでずっと発動してなきゃいけないんだ。きっとすぐに魔力切れを起こすだろう」


 僕の回答に不服そうな素振りを見せるロミア。


「……わかりました」


 ロミアはそう言いながら、手に残った雑草をベルに差し出していた。ベルは完全にそっぽを向いている。


「ほら、あと少し集めればクエストの成功条件を満たせる。もうひと頑張りだ」



 薬草を求めて更に奥へと進もうとした時、どこからか物音がした。

 僕とロミアは周囲を警戒する。


「一匹、何か魔物の気配が近づいています」


 ロミアが小さな声で素早く報告をする。僕は感知魔法を使えないため、微かな植物の擦れる音を聞いて場所を特定する。

 僕達のいる場所の右斜め前。背の高い草むらから現れたのは一匹のゴブリンだった。


「グルルァァ……!」


 緑色の肌に人間の子供ほどしかない小さな体躯。そしてその手にはナイフを持っている。

 普通なら群で行動しているはずだが、逸れたのだろうか。

 ゴブリンは濁った目で僕達を見据えていた。


「倒しましょう」


 ロミアは即座に炎熱魔法を放とうとした。


「待て、やるなら氷結魔法にしよう。炎が森に移ったら大変だ」


「分かりました。では、巻き込まれないようにして下さいね!」


 その言葉のすぐ後、彼女は詠唱を唱えていた。

 一瞬でも回避するのが遅れていたら、僕も巻き添えになっていた事だろう。


「氷の礫、駆動する機関、愚者に先駆者。回転し射出せよ!【氷連射撃マシーネンゲヴェーア】」


 ロミアがゴブリンに向かって無数の氷のつぶてを放った。

 少しの隙間もない弾幕。

 その威力は凄まじく、かなり太い木の幹も易々と貫通している。

 一匹のゴブリンを殺すのには、過剰なほど強力だった。

 

 土煙が立ち込み、ゴブリンの姿を確認できない。


「まだ生きてますね、感知魔法に反応があります。」


 ロミアが前方を見たまま言った。

 僕は耳を澄ませる。すると、空気の揺れと共に土を蹴った音がした。


「グギャアァァ!!」


 ゴブリンが土煙から飛び出す。

 ゴブリンはその手に持ったナイフを突き刺そうとしていた。

 ナイフの先端が僕に迫る。

 こんな状況でも頭は意外に冷静だった。的確に体を動かし、それを回避しつつ僕は氷結魔法を発動した。

 かわしながらだったため、ナイフを持っていた右腕しか凍らせられなかったが、十分だろう。

 体勢を崩してしまった僕に対してロミアが心配する声をかけてきた。


「大丈夫ですか? ちょっと、トドメを刺すので離れて下さい!」

 

「あっぶな!!?」


 僕は這々(ほうほう)の体でその場から離れる。

 ロミアは僕が離れたのと同時にゴブリンへ巨大な氷塊を撃ち込んだ。

 木々をなぎ倒すほど重く、巨大な氷塊。

 

 しかし、ゴブリンは素早い動きで森の奥へと逃げて行ってしまった。



「ノアさん! 追いかけましょう!」


「やめとけ。深追いをする理由が無い」


「あります! あれを残しておけば、きっと他の人達に被害が出ます!」


 ロミアは僕の制止を振り切ってゴブリンを追いかけて行った。

 全く、謎に血の気が多いようだ。


「人間、ロミアを追ってやってくれ。あやつはいつも無理をし過ぎる」


 ベルが僕に向かってそう言った。

 これでは、どちらが飼い主かわからない。


「わかってる。また、倒れられたら困るからな」


 そう言って僕は駆け出した。




 


 

 ゴブリンは魔物の中でも弱小な種族だと位置付けられている。

 だが、それはゴブリン一匹だけであればの話である。

 奴らが群れになれば、熟練の冒険者でも死ぬ可能性はあるだろう。

 武器を装備し、罠を張り、狡猾に獲物を狩る。それだけの知識を有している事が厄介なのだ。

 しかし、さっきのゴブリンは単独だったのにも関わらず、僕らに襲いかかってきた。普通のゴブリンがそんな事をするだろうか?

 考え過ぎかもしれないが、どうしても不可解な点が多い気がする。



 考えを巡らせながら走っていると、爆発音に似た大きな音が聞こえた。ロミアが戦っているのかもしれない。

 僕はそう思って、急いで音のした方へ向かった。



 全速力で走っていると途端に開けた場所へと出た。

 そこにあったのは簡易的な居住区。見回すと畑や井戸などがあった。

 そしてそこに住んでいたのは全員、ゴブリンだった。

 ユートラス王国の街並みを見たため、退廃的に見えてしまうが、それでも魔物の集落としてはなかなかのものである。

 

 


 そして、集落の奥でロミアがゴブリン達と対峙しているのが見えた。

 かなりの数を相手にしているようだ。

 僕は護身用である短剣を携え、その中へと飛び込んだ。


「大丈夫か!?」


 ゴブリン達を掻い潜り、僕はロミアに尋ねる。


「すみません、罠でした……。さっきのゴブリンは囮だったのでしょう。ここまで誘き寄せるために私達に襲いかかってきたんだと思います」


 そうか、だからわざわざ単独で……。

 棍棒を振りかぶるゴブリンの足元を凍らせて、首元を短剣で引き裂く。

 体術は何故か体が覚えていた。何故か……というのはその技術は神父様との生活の中で培われたからだ。

 冷静に、確実に、一匹ずつ殺していく。

 何とか今は耐えられているが、時間が経てば数で押し切られてしまうだろう。


「ロミア、上位魔法はまだ撃てるか?」


「撃てますけど……残りの魔力を考えると後一回です」


「なら、その一回で決めよう!」


 僕とロミアはゴブリンの群れの中から飛び出し、魔法を発動する。


「雷の精霊、雷鳴の幻想、孤高の瞬き。澄んだ虚空を駆け巡れ! 【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】!」


 口早に詠唱を唱える。この魔法は僕が唯一、習得した上位魔法だ。紫色の魔法陣がゴブリン達の足元に浮かび上がった。


 そしてそこから電流が放たれる。

 魔法陣と同じ色の紫電が駆け巡った。

 ゴブリン達の体を伝い、感電させ、暴れ回る。

 激しい電撃を浴び、ゴブリン達の動きが止まった時、僕はロミアに呼びかけた。


「今だ! ロミア!」


「淡雪の精、零度の誓い、白銀しろがねの彼方。命持つ者らを終着へと誘え! 【氷結の墓地ゲフリーレン・グラープ】!」


 上空に出現した青く巨大な魔法陣。

 それはロミアが詠唱を唱え終えると同時に降下を始めた。

 魔法陣がゴブリン達をすり抜ける。

 彼らは電撃のせいで麻痺しているため、抵抗など出来ず、ただ魔法陣を見つめる事しか出来なかった。

 


 そして、ゴブリン達の集落はロミアの魔法によって、文字通り、氷の墓地へと変わってしまったのだった。

 




「すみません、私が浅はかな行動をしたばっかりに……」


 ロミアが申し訳なさそうに頭を下げる。

 まぁ、衝動的だったとはいえ、他の冒険者の事を思っての行動だ。

 そう強くは責められない。


「大丈夫さ。魔物を倒すことも冒険者の役目だろう」


 僕がそう言葉をかけると、ロミアは座り込んだ。

 魔力を使い果たしてしまったのだろう。

 

「平気か?」


 僕はロミアに手を差し伸べる。

 彼女が僕の手を取ろうとした時、集落の奥にあった洞穴から足音が聞こえた。


 洞穴から次々と出てくる大きな人影。

 その巨体は緑色の肌をしている。

 あれはゴブリンの上位種、ホブゴブリンであろう。

 人間の大人より一回り大きな体躯を持ち、ゴブリン本来の道具を扱う器用さはそのまま、知力と腕力の向上した魔物。

 そんなホブゴブリンが洞穴からぞろぞろと外に出てくる。


 そして、最後に出てきたのは——


「あれは……ゴブリンキングです。最上位のロードに次ぐゴブリンキングは、統率力に優れ、知能や腕力が大幅に上昇した個体です。あんなのには勝てません!」


 まずいな。

 僕もロミアも上位魔法はもう撃つことができない。

 ナイフで応戦しようにも、動けないロミアを守りながらとなると難しい。

 ここは逃げるしかないようだ。


 そう決意した時、ゴブリンキングと目が合った。



「エモノヲミツケタ……」



 ゴブリンキングは醜悪な顔を歪め、笑みを浮かべてそう言った。

 ぎこちない発音が逆に不気味さを際立たせている。


 僕の中の危険信号がけたたましい音を鳴り響かせていた。





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