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42話 花の美しさ

短くて申し訳ありません!



 さてはて、王城を後にして最初に向かったのは服飾関係の店である。

 西街の様子を見ているので、少しは慣れたと思っていたのだけれど、このガラス張りの飾り棚には驚かされた。

 この店のガラスは西街の店とかと比べると、あまりに大きすぎる。

 他の店や家にもガラスは使われているが、ここまでの大きさだとかなり高値だろう。


 とりあえず、飾られている服を眺める。

 神父様からはこういった服飾系の情報は大して教えてもらっていない。

 けれども、ここに飾られた服を見ると奇抜な物ばかりだ。

 服にも転生者の知識とやらが反映されているのだろうか?


《この世界の文化及び文明は、古くにいた転生者と、今日まで生きている転生者の影響を色濃く受けているものと思われます》


 頭の中に響く無機質な声。

 今はエイルを召喚した状態なので、これは『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』その物の声だ。


 ふむ。つまり、昔と今の転生者がこの世界の発展に大きく貢献したって解釈で良いのか?


《概ね正解です》


 そうか。前にロミアも言っていたが、どうやらこの世界の転生者は複数人いたみたいだな。


「じゃあロミア、エイル。好きな服を選ぶと良い。僕が買ってあげよう」


「え、良いんですか!?」


「私はこのままでも構いませんが……」


「まぁ、いいさ。たまには僕も心が広いという所を見せておきたいからな」


 僕は大げさに頷きながら言う。

 今回は日頃の感謝を込めてという事なので、服くらいは買ってあげようと思ったのだ。


「やったー! 行きましょう、エイルさん!」


「あ、ちょっと。ロミア様!?」


 店の中へと連れて行かれるエイル。

 僕もその後を追って中へと入った。



 白のローブや騎士の格好も彼女達には似合っている。しかし、折角の休暇だ。二人にはお洒落をしてもらいたい。

 という訳で、それぞれ好きな服を選んでもらった。


 エイルはスキニージーンズにブラウス、グレーのスタンドカラージャケット。

 そしてロミアは、白いニットにネイビーのスカートで決めている。


 もちろん、この解説は僕の言葉ではなく、店員が言っていた名称を参照して、『知識は世界を開く鍵』によってまとめられたものだ。


 いやー、それにしても服が違うだけでこんなにも印象が変わるんだな。


「二人とも、とてもよく似合ってるよ」


 そう声をかけると、ロミアとエイルは嬉しそうに笑った。

 うん。

 ロミアは元々の素材の良さも相まってとても可愛らしい。それにエイルも持ち前のスタイルの良さが存分に発揮されている。

 あぁ、服屋に来て良かった。

 僕がそんな風に思っていると——、


「ほら、ノアさん! 早く服を決めましょう!」


「私も主人様のお洒落な姿を見てみたいです……!」


 などと言いながら二人は、僕を着せ替え人形にし始めたのだった。




 しばらくして、ようやく服が決定した。

 完全にロミアとエイルの趣味ではあるが、まぁいいだろう。

 見た目として、白いシャツと大きめの赤いニット。そして黒色のワイドパンツという格好だ。


 僕は服の名前などは一切知らないので、色だけを頼りに情報を一致させた。

 この太腿まで長さのある衣服はニットと言うらしい。

 上半身だけならロミアとお揃いである。


「おお! とってもカッコいいです!」


「よくお似合いです!」


 二人が褒めてくれたので、僕はそれらを買う事にした。


 二人が思っていたよりも買った服を喜んでくれていたので、今度は他の従者達にも買ってあげようと思いつつ、僕は支払いを済ませた。




 



 服屋から出て、次はどうするかという相談を行う。


「そろそろ昼だな。じゃあ、ここからは自由行動としよう」


 僕のその一言で相談は終わりを迎えた。

 ロミアとエイルに複製した地図を配る。

 この複製という機能……『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』の情報子変換の応用なのだが、とても便利だ。一度、情報子として取り込んだ物体を今度は別の情報子を使って再現するのだ。


「夜はそこに書かれた宿屋に集合だ」


 オルトラさんから受け取った地図を指差す。

 僕以外の二人は黙って頷いた。


 ——よし。


「ではとりあえず、一時解散!」


 僕の声が少しだけ空に響いた。










 エイルは歩く。

 王都の発展した街並みに目移りしながらも歩いていく。

 特に目的地などは無いけれど、彼女は気の向くままに散歩していた。


(外の世界はこんなにも広く、様々な物にあふれていたのですね……)


 今彼女が歩いている道は、王城へと続いている大通り。

 そのため通行人の数は多く、エイルとすれ違う大体の人間が振り返る。

 服が原因というわけでは無い。

 彼女のその端正な顔立ちに見惚れていたのだ。

 スッとした鼻筋、金色で大きな瞳、そしてなびく艶やかな金髪。

 どれ一つとっても、人の記憶に残る容姿だったのである。


 けれどエイルは、周りの人々の視線など気にせず歩く。

 彼女にとってそれは街の風景よりも些細な事なのだ。



 エイルはふと気まぐれに、細い裏道へと進んでいった。

 きっと彼女の探究心を煽られたのだろう。

 まるで、初めて外の世界を冒険する子供のように目を輝かせていた。


 そして辿り着く。


 庭に沢山の花が咲いており、壁が様々な色で彩られたその家に。


 何の因果が巡ったのかはわからない。

 ただの偶然かもしれない。

 だが、エイルは誘われているかのようにふらふらと家に向かって歩いていく。


 扉のすぐ目の前まで来た時——。


「よお。アンタ、花は好きかい?」


 そう声をかけた男がいた。



 隣接している建物から出てきたダークブロンズの髪を持つ男。それは何を隠そう、メル・アルセーヌその人であった。

 彼の仲間からの報告に、エイルに関する情報は無かった。

 ましてや今の彼女は服装が変わっている。

 そのため、メルはエイルをただの客として認識していたのだ。


「花はどちらかと言えば好きですね……。それよりここは何の建物なのでしょうか?」


 彼女はメルに問いかける。


「こっちの建物は花屋で、そっちは普通に俺が暮らしてる家だ」


 エイルはその場から数歩後ろに下がり、建物の全体を見る。


(なかなか大きな家ですが、お一人で住んでいるのでしょうか……?)


 彼女はそんな事を疑問に感じたが、実際に尋ねたりはしなかった。


「ふむ。これも何かの巡り合わせだ。ほら、プレゼントだ」


 そう言ってメルは一輪の花をエイルに差し出した。

 彼女は戸惑いながらもそれを受け取る。

 羽を広げた鳥のようなその花は、鮮やかな黄色をしていた。


「この花は……?」


「名前はストレリチア。花言葉は“全てを手に入れる”だ。とても格好いい花だろう?」


 自慢げにメルが語る。

 彼らの怪盗団の名前にもなっているため、その花がお気に入りなのだ。


「ええ……とても綺麗です」


 エイルは嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔は、ストレリチアにも負けない美しさであった。





 そして三日後——。

 二人は思わぬ形で再会する事となる。


 



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