39話 自分語り
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「じゃあ、自己紹介でもしよっか!」
リタは明るく言った。
こんな風に話を仕切る役は他にいるのだが、生憎、今はいない。
そのため彼女が代わりを務めているのだ。
「私の名前はリタ・モデナ。気軽にリタって呼んでね!
普段はここで絵を描いてるの。いわゆる画家ってやつだよ!」
彼女は元気よく自己紹介を行った。
リタはこのアトリエでいつも絵を描いている。
それにより、この部屋が絵で溢れかえっていたという訳だ。
「じゃ、次は俺だ!
俺はメル。メル・アルセーヌだ。
何を隠そう[咲き誇る徒花]のリーダーであり、いつもは花屋をやってる」
メルの自己紹介を聞いていたリタが慌てふためく。
「ち、ちょっと! それ言っちゃダメでしょ!?」
[咲き誇る徒花]とは宝物庫に現れた時にも名乗った、怪盗団としての名前だ。
しかしながら、怪盗という名称はこの世界には浸透しておらず、似たような物を指す言葉としては泥棒や盗賊が当てはまる。
「いやー、だって宝物庫の時点で怪盗だって言っちゃったからなぁ。
今更隠しても意味ないと思うぞ」
その言葉でリタは一層、不安な表情になった。
シャーロットはその会話の意味を正しく理解していないため、不思議そうな顔をしている。
「怪盗……って何?」
彼女はメルに質問した。
「怪盗は……なんて言ってたっけなぁ?
まぁ、簡単に言って物を盗む職業だな」
メルは天井を見つめながら答える。
彼自身、怪盗の定義は他人から教えられただけであり、しっかりと覚えているわけではない。
「もう! そんなんじゃゾルさんも悲しむよ。折角、あんなに指導してもらったのに。
ほら、ゾルさんがよく言ってたでしょ、“神出鬼没であれ、怪盗は芸術なのだから”ってさ」
「そうだったっけ。
でも、“宝は何であっても傷付けない”ってのを忘れてなきゃ十分だろ」
メルは紅茶を一口飲み込んだ。
そして、彼の視線はシャーロットに向けられていた。
彼女の綺麗な碧眼は紅茶の波をじっと見つめている。
「……どうした?」
少女はその声で顔を上げた。
太腿の上で握り締められた拳は、微かに震えている。
そしてゆっくりと、一言一言を確かめるようにこれまでの生涯を語り始めた。
それは、人生で二度目の事であった。
「私はシャーロット。この名前はファフニールから貰ったの。
……唯一の友達だった。
でも、それさえ奪われた。私に残されたのは、生まれた時から持っていた能力と、シャーロットという名前だけ」
「私はエルフの血を継いでるの。それに能力も授かっていたから、村の人達は私を恐れてた……。
お母さんもエルフだったけど、私を産んだ時に死んだわ。
私を産む時に魔素も魔力も使い果たして、死んだ。
それでもお父さんは私を一人で育ててくれた」
「——十歳になった時、村の人達は私をファフニールに献上する生け贄に選んだ。
村の中で、私は忌むべき存在だったから。
お父さんは私を逃がそうとしたけど、それがばれて……村の裏切り者として殺された」
「お母さんも、お父さんも、私のせいで死んじゃった……。
絶望して、生きる意味を失くして、私は生け贄になる事を選んだ。
曲がりくねった道を進んだら、そこには一頭の竜がいたわ。
でも、その竜は私を喰い殺すでもなく、話しかけてきた」
「両親以外で、初めて私の話をまともに聞いてくれたの。
それがただの気まぐれであっても、私は嬉しかった。
今まで、存在そのものを認められていなかった私を、曲がりなりにも一人の人間として見てくれた……」
「その時、ファフニールが私に新しい名前をくれたの」
シャーロットはそこで言葉を止めた。
自己紹介というよりは自分語りと表現するのが正しいのだろう。
彼女の親友となったファフニール。
けれど、今はもういない。
魔法により狂わされ、ノアによって殺された。
「私と関わったら、みんな……死んじゃうんだ」
シャーロットは再び俯いた。
メルとリタはただそれを見つめるだけだ。
「誰か……私を、殺して……」
涙の滲んだ声が、哀しさを含んだ呟きが、二人の耳に届いた。
メルはおもむろにシャーロットの頭を撫でる。
美しく艶やかな白髪のさらさらとした感触が、彼の手に伝わった。
「残念だが、俺達はお前を殺せない。[咲き誇る徒花]の信念は、“宝は何であっても傷付けない”だからな。
宝は物だけに限らず、白髪碧眼の少女も含まれる」
「でも……貴方達まで、死んじゃう……」
シャーロットの瞳から、涙が零れる。
「安心しろ。俺達は死なない」
「そんなの……どうして言い切れるの?」
メルはその問いを受け、シャーロットの瞳を真っ直ぐ見て答えた。
「命は途絶えても、誰かの記憶に残り続けるからだ」
彼ははっきりと断言した。
何を理由にしているかはわからない。
けれど、彼は何かを信じていた。
形は無いが、確かに存在する何かを信じていたのだ。
「変なひと…………」
儚い少女は小さく笑った。
その後、シャーロットは泣き疲れて眠ってしまった。
メルは彼女を両腕で抱え、ソファへと運ぶ。
起こさないようにゆっくりと優しく、彼女を寝かせた。
「ねぇ、メル。これからシャーロットちゃんをどうするの?」
リタは椅子に座ったまま頬杖を突いている。
「さぁな。俺はどうもしないさ。
だけど、この子はファフニールの宝物庫から盗み出した宝だ。傷付けないし、傷付けさせない。
お前達に迷惑はかけないよ」
「仲間なんだから頼ってよね。
全部一人でやろうとするの、悪い癖よ」
微笑むリタ。
それに対し、メルは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「お前達は優しすぎるからな。一度、頼り出したら際限なく頼っちまうだろ?」
「そんなの今更気にする事?
……それにさ、私達なんかよりメルの方がずっと優しいよ」
リタは目を伏せる。
「俺はこの子を助けたい。でも、今回の作戦だって成功させたい。
そんな事を考える俺は、欲張りか……?」
メルは振り返る。
彼はまた、困ったように笑っていた。
リタはメルを見る。
そして、戯けたような笑顔を返した。
「欲張りだから、盗むんでしょ?」
周りの景色が高速で後ろへ流れていく。
全身で風を感じながら、僕達は王都へ向かっていた。
「気持ちいいですね、ノアさん!」
僕達は今、限界まで大きくなったソルドに乗っている。
さらに詳しく言えば、前に座っているロミアが後ろの僕に振り返っている状態だ。
彼女の亜麻色の髪が風でなびく。
「ああ。このまま行けば、思ってたよりも早く着けるかもな」
あまり働かせ過ぎるのは良くないが、ソルドは移動の際には欠かせない存在だ。
別に、移動以外では必要ないと言っている訳じゃない。
むしろその優秀な能力の中でも、走りに特化しているというだけだ。
《構いません。主人殿の役に立てるのならば、それが我の喜びですから》
そんな風に言ってもらえて僕は嬉しいよ。
でも、疲れたら言ってくれよ。
無理させたくはないからな。
《承知しております》
それなら良いんだが……。
「王都を見て回る時間はあるんですかね?」
ロミアがこちらを向いたまま問いかけてきた。
間違えて落ちないか不安だ。
「多分あると思うぞ。そこまで切羽詰まってないだろうからな」
「それなら私、洋服店に行きたいです!」
ロミアは瞳を輝かせている。
忘れていた。
冒険者として戦う姿ばかり見てきたが、彼女はまだ十五歳の少女だ。
白いローブ以外にも、着たい服は沢山あるだろう。
「そうだな……。よし、王様からの話を聞いたら服屋に行こうか。
たまには気楽に買い物とでも洒落込もう」
僕のその言葉で、ロミアの表情が更に華やぐ。
「はい!」
元気な返事が空に響いた。
王都へと続く門の前で検査を受ける。
やはり王が住まう土地のため、その検査はとても厳重だった。
荷物は一度全て出され、一つ一つを門番が確認している。
更には感知魔法を応用させた魔道具によって、服の中に何かを隠し持っていないかまで調べられた。
僕は持ち物は必要最低限しかなかったため、すぐに通してもらえたが、ロミアは長いこと止められていた。
どうやら、スクロールについて問い詰められているようだった。
「もー、どうしてあんなにも融通が効かないんですかねー」
やっと検査が終わったらしいロミアが大きめの声でぼやく。
うわぁ。
門番が怖い顔でこちらを見ている。
「お、おい?」
「スクロールなんて沢山普及してるのに〜」
彼女は全くもってその視線に気づいていないようで、愚痴は続く。
仕方ない。
僕はロミアの手を引いて、その場から足早に立ち去った。
「うーん。やっぱり、高位魔法のスクロールだったからいけなかったんでしょうか……?」
まだ何か言っている。
……?
「スクロールと言えば、下位魔法が記された物は普及してるんだったな。
でも何で、門番は高位魔法かどうかわかったんだ?」
言っちゃ悪いが、ああいった職業の人は魔法なんか疎いと思うのだが……。
「あれは、魔力を感知する魔道具でした。
多分、スクロールに込められた魔力を感知したようです」
なるほど。
下位魔法のスクロールとは比べ物にならない魔力が感知されたのだろう。
そりゃ、止められる訳だ。
「……じゃあどうして通してもらえたんだ?」
「スクロールを預かって貰いました。
国を出るときに返してくれるそうです」
「良かったのか? 高位魔法のスクロールなんだろ?」
下位魔法の物ならともかく、高位魔法の物は高価だと聞いている。
それを預けてしまうとは……。
「大丈夫ですよ! ほら!」
ロミアはそのささやかな胸を張っていた。
その表情は何とも清々しい笑顔で、その手には巻物を握られている。
《空間魔法の使用が見受けられますね》
エイルが冷静に分析する。
魔法使い……恐ろしい。
僕は“白い魔法使い”の黒い部分を見なかった事にして、王城を目指した。
第三章は、メル側とノア側を軸に展開していこうと思います。




