表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/72

39話 自分語り

レビューブーストのおかげで爆発的にpvが増え、狂喜乱舞しております!

これからも頑張ります!



「じゃあ、自己紹介でもしよっか!」


 リタは明るく言った。

 こんな風に話を仕切る役は他にいるのだが、生憎、今はいない。

 そのため彼女が代わりを務めているのだ。


「私の名前はリタ・モデナ。気軽にリタって呼んでね!

 普段はここで絵を描いてるの。いわゆる画家ってやつだよ!」


 彼女は元気よく自己紹介を行った。

 リタはこのアトリエでいつも絵を描いている。

 それにより、この部屋が絵で溢れかえっていたという訳だ。


「じゃ、次は俺だ!

 俺はメル。メル・アルセーヌだ。

 何を隠そう[咲き誇る徒花(ストレリチア)]のリーダーであり、いつもは花屋をやってる」


 メルの自己紹介を聞いていたリタが慌てふためく。


「ち、ちょっと! それ言っちゃダメでしょ!?」


 [咲き誇る徒花(ストレリチア)]とは宝物庫に現れた時にも名乗った、怪盗団としての名前だ。

 しかしながら、怪盗という名称はこの世界には浸透しておらず、似たような物を指す言葉としては泥棒や盗賊が当てはまる。


「いやー、だって宝物庫の時点で怪盗だって言っちゃったからなぁ。

 今更隠しても意味ないと思うぞ」


 その言葉でリタは一層、不安な表情になった。

 シャーロットはその会話の意味を正しく理解していないため、不思議そうな顔をしている。


「怪盗……って何?」


 彼女はメルに質問した。


「怪盗は……なんて言ってたっけなぁ?

 まぁ、簡単に言って物を盗む職業だな」


 メルは天井を見つめながら答える。

 彼自身、怪盗の定義は他人から教えられただけであり、しっかりと覚えているわけではない。


「もう! そんなんじゃゾルさんも悲しむよ。折角、あんなに指導してもらったのに。

 ほら、ゾルさんがよく言ってたでしょ、“神出鬼没であれ、怪盗は芸術なのだから”ってさ」


「そうだったっけ。

 でも、“宝は何であっても傷付けない”ってのを忘れてなきゃ十分だろ」


 メルは紅茶を一口飲み込んだ。

 そして、彼の視線はシャーロットに向けられていた。

 彼女の綺麗な碧眼は紅茶の波をじっと見つめている。


「……どうした?」


 少女はその声で顔を上げた。

 太腿の上で握り締められた拳は、微かに震えている。

 そしてゆっくりと、一言一言を確かめるようにこれまでの生涯を語り始めた。

 それは、人生で二度目の事であった。


「私はシャーロット。この名前はファフニールから貰ったの。

 ……唯一の友達だった。

 でも、それさえ奪われた。私に残されたのは、生まれた時から持っていた能力と、シャーロットという名前だけ」


「私はエルフの血を継いでるの。それに能力も授かっていたから、村の人達は私を恐れてた……。

 お母さんもエルフだったけど、私を産んだ時に死んだわ。

 私を産む時に魔素も魔力も使い果たして、死んだ。

 それでもお父さんは私を一人で育ててくれた」


「——十歳になった時、村の人達は私をファフニールに献上する生け贄に選んだ。

 村の中で、私は忌むべき存在だったから。

 お父さんは私を逃がそうとしたけど、それがばれて……村の裏切り者として殺された」


「お母さんも、お父さんも、私のせいで死んじゃった……。

 絶望して、生きる意味を失くして、私は生け贄になる事を選んだ。

 曲がりくねった道を進んだら、そこには一頭の竜がいたわ。

 でも、その竜は私を喰い殺すでもなく、話しかけてきた」

 

「両親以外で、初めて私の話をまともに聞いてくれたの。

 それがただの気まぐれであっても、私は嬉しかった。

 今まで、存在そのものを認められていなかった私を、曲がりなりにも一人の人間として見てくれた……」



「その時、ファフニールが私に新しい名前をくれたの」



 シャーロットはそこで言葉を止めた。

 自己紹介というよりは自分語りと表現するのが正しいのだろう。

 彼女の親友となったファフニール。

 けれど、今はもういない。

 魔法により狂わされ、ノアによって殺された。


「私と関わったら、みんな……死んじゃうんだ」


 シャーロットは再び俯いた。


 メルとリタはただそれを見つめるだけだ。


「誰か……私を、殺して……」


 涙の滲んだ声が、哀しさを含んだ呟きが、二人の耳に届いた。




 メルはおもむろにシャーロットの頭を撫でる。

 美しく艶やかな白髪のさらさらとした感触が、彼の手に伝わった。


「残念だが、俺達はお前を殺せない。[咲き誇る徒花(ストレリチア)]の信念は、“宝は何であっても傷付けない”だからな。

 宝は物だけに限らず、白髪碧眼の少女も含まれる」


「でも……貴方達まで、死んじゃう……」


 シャーロットの瞳から、涙が零れる。


「安心しろ。俺達は死なない」


「そんなの……どうして言い切れるの?」


 メルはその問いを受け、シャーロットの瞳を真っ直ぐ見て答えた。



「命は途絶えても、誰かの記憶に残り続けるからだ」



 彼ははっきりと断言した。

 何を理由にしているかはわからない。

 けれど、彼は何かを信じていた。

 形は無いが、確かに存在する何かを信じていたのだ。


「変なひと…………」


 儚い少女は小さく笑った。




 その後、シャーロットは泣き疲れて眠ってしまった。

 メルは彼女を両腕で抱え、ソファへと運ぶ。

 起こさないようにゆっくりと優しく、彼女を寝かせた。


「ねぇ、メル。これからシャーロットちゃんをどうするの?」


 リタは椅子に座ったまま頬杖を突いている。


「さぁな。俺はどうもしないさ。

 だけど、この子はファフニールの宝物庫から盗み出した宝だ。傷付けないし、傷付けさせない。

 お前達に迷惑はかけないよ」


「仲間なんだから頼ってよね。

 全部一人でやろうとするの、悪い癖よ」


 微笑むリタ。

 それに対し、メルは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「お前達は優しすぎるからな。一度、頼り出したら際限なく頼っちまうだろ?」


「そんなの今更気にする事?

 ……それにさ、私達なんかよりメルの方がずっと優しいよ」


 リタは目を伏せる。


「俺はこの子を助けたい。でも、今回の作戦だって成功させたい。

 そんな事を考える俺は、欲張りか……?」


 メルは振り返る。

 彼はまた、困ったように笑っていた。


 リタはメルを見る。

 そして、戯けたような笑顔を返した。



「欲張りだから、盗むんでしょ?」













 周りの景色が高速で後ろへ流れていく。

 全身で風を感じながら、僕達は王都へ向かっていた。


「気持ちいいですね、ノアさん!」


 僕達は今、限界まで大きくなったソルドに乗っている。

 さらに詳しく言えば、前に座っているロミアが後ろの僕に振り返っている状態だ。

 彼女の亜麻色の髪が風でなびく。


「ああ。このまま行けば、思ってたよりも早く着けるかもな」


 あまり働かせ過ぎるのは良くないが、ソルドは移動の際には欠かせない存在だ。

 別に、移動以外では必要ないと言っている訳じゃない。

 むしろその優秀な能力の中でも、走りに特化しているというだけだ。


《構いません。主人殿の役に立てるのならば、それが我の喜びですから》


 そんな風に言ってもらえて僕は嬉しいよ。

 でも、疲れたら言ってくれよ。

 無理させたくはないからな。


《承知しております》


 それなら良いんだが……。



「王都を見て回る時間はあるんですかね?」


 ロミアがこちらを向いたまま問いかけてきた。

 間違えて落ちないか不安だ。


「多分あると思うぞ。そこまで切羽詰まってないだろうからな」


「それなら私、洋服店に行きたいです!」


 ロミアは瞳を輝かせている。

 忘れていた。

 冒険者として戦う姿ばかり見てきたが、彼女はまだ十五歳の少女だ。

 白いローブ以外にも、着たい服は沢山あるだろう。


「そうだな……。よし、王様からの話を聞いたら服屋に行こうか。

 たまには気楽に買い物とでも洒落込もう」


 僕のその言葉で、ロミアの表情が更に華やぐ。


「はい!」


 元気な返事が空に響いた。







 王都へと続く門の前で検査を受ける。

 やはり王が住まう土地のため、その検査はとても厳重だった。

 荷物は一度全て出され、一つ一つを門番が確認している。

 更には感知魔法を応用させた魔道具によって、服の中に何かを隠し持っていないかまで調べられた。

 僕は持ち物は必要最低限しかなかったため、すぐに通してもらえたが、ロミアは長いこと止められていた。

 どうやら、スクロールについて問い詰められているようだった。


「もー、どうしてあんなにも融通が効かないんですかねー」


 やっと検査が終わったらしいロミアが大きめの声でぼやく。

 うわぁ。

 門番が怖い顔でこちらを見ている。


「お、おい?」


「スクロールなんて沢山普及してるのに〜」


 彼女は全くもってその視線に気づいていないようで、愚痴は続く。

 仕方ない。

 僕はロミアの手を引いて、その場から足早に立ち去った。


「うーん。やっぱり、高位魔法のスクロールだったからいけなかったんでしょうか……?」


 まだ何か言っている。

 ……?


「スクロールと言えば、下位魔法が記された物は普及してるんだったな。

 でも何で、門番は高位魔法かどうかわかったんだ?」


 言っちゃ悪いが、ああいった職業の人は魔法なんか疎いと思うのだが……。


「あれは、魔力を感知する魔道具でした。

 多分、スクロールに込められた魔力を感知したようです」


 なるほど。

 下位魔法のスクロールとは比べ物にならない魔力が感知されたのだろう。

 そりゃ、止められる訳だ。


「……じゃあどうして通してもらえたんだ?」


「スクロールを預かって貰いました。

 国を出るときに返してくれるそうです」


「良かったのか? 高位魔法のスクロールなんだろ?」


 下位魔法の物ならともかく、高位魔法の物は高価だと聞いている。

 それを預けてしまうとは……。


「大丈夫ですよ! ほら!」


 ロミアはそのささやかな胸を張っていた。

 その表情は何とも清々しい笑顔で、その手には巻物を握られている。


《空間魔法の使用が見受けられますね》


 エイルが冷静に分析する。


 魔法使い……恐ろしい。




 僕は“白い魔法使い”の黒い部分を見なかった事にして、王城を目指した。


 



 



第三章は、メル側とノア側を軸に展開していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ