38話 花と絵画
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もう恒例行事となったギルドマスター室での報告。
王国防衛戦が無事に終わり、三日が経った後、僕達はバルファさんに呼び出されていた。
彼女は勝手気ままな性格なので、その行動は不規則だ。
今日だって彼女に呼ばれたから来たというのに、ギルドマスター室には誰もいなかった。
仕方ないので、僕達は席に座ってバルファさんを待つ。
「今日は何のお話ですかねー?」
ロミアが小さいあくびをする。
僕も少し眠い。
三日休んだとはいえ、まだ魔力が完全には回復していないのだ。
「多分、今回の報酬の話とかじゃないか?」
一応、王国防衛戦を達成したのだから、報酬がない事はないだろう……。
流石に大丈夫だよな……?
僕の心が不安に苛まれた頃、ギルドマスター室にバルファさんが勢いよく入ってきた。
「やぁ、お待たせ!」
彼女はいつ見ても変わらない元気な様子で、目の前の椅子に腰かけた。
さて、本日の話題は一体全体、何だというのだろう。
「今日、君達に来てもらったのは他でもない、王国防衛戦の報酬についてだよ!」
バルファさんが弾けんばかりの笑顔を見せる。
人間はお金が絡むとより一層、元気になれるらしい。
「えぇっとね、今回のクエストの最低報酬は金貨二枚。それに実際の戦績を足すと、ノア君が金貨八枚でロミアちゃんが金貨五枚だってさ!」
彼女が一枚の紙を僕に差し出した。
どれどれ……?
横からロミアも覗き込む。
紙を見ると確かに、僕達の名前と報酬の額が記載されている。
更にその下には戦果まで詳しく書いてあった。
僕の場合、ファフニールにとどめを刺したのが大きかったようだ。
けど、良かった。報酬はちゃんとある。
細部にまで目を通して、僕は紙をバルファさんに返した。
「あれ? 案外、反応が薄いなぁ」
彼女は口を尖らせる。
そう言われても、内心ではとても喜んでいる。額が大きすぎて頭の処理が追いついておらず、顔に反映されていないだけなのだ。
だって、二人で合わせて金貨十三枚だ。銀貨に置き換えれば数千枚である。
あの薬草採集をしていた時からすれば大出世だ。
「い、いや。喜んではいますけど……本当に貰えるんですよね?」
思わず本音を漏らす。
「あぁ。国を守った人間に報酬を払わなければ、国王の信用なんて無くなるからね」
それもそうか。
対価を払わない人間は、王であっても信頼は出来ない。
僕は安心して背もたれに寄りかかった。
「にゃあぁあぁあぁ」
横から変な音がする。
まるで猫が震えているような音だった。
不審に思って横を見ると、ロミアがベルを抱えたまま振動していた。
少しばかり、凝視してしまったがすぐさま視線をそらす。
……ふむ。何か見てはいけない物を見てしまったようだ。
ベルからの憎々しげな視線を感じるが無視する。
「で、今回は報酬についてだけですか?」
先ほど見た光景は記憶の彼方に追いやり、僕は質問した。
「それになんの反応も示さないとは……。君が人間の心を持っているのか疑わしいよ……?」
何と。
バルファさんにそんな事を言われてしまうとは。
けれど、今のロミアをどうにか出来るほどの力は持ってない。
無視する以外に道は無い。
「報酬金額に驚いて理性が吹き飛んだだけですよ。心配しなくてもその内、直ります」
「そ、そうなのかい……?」
「そうなんです」
適当に、勢いで乗り切る。
僕のその異様な気迫に押されたバルファさん。
若干仰け反っている。
「君がそう言うのなら、まぁいっか」
彼女も彼女で切り替えは早い。
次に口を開いた時には既に、別の話題へと移っていた。
「王都への呼び出しがあった。国王様から直々にね」
王都……。
僕は記憶を遡る。
……ああ、フィグスさんが後日に呼び出すと言っていたな。
思っていたより早かったようだ。
「で、今日にでも王都へと向かってもらいたいんだ!」
また、唐突な……。
いつもそうだ。このギルドマスター室に来ると、どこかへ向かえとしか言われない。
「ちょっと! その目はなんだい? 今回の呼び出しはボクのワガママでも何でもなく、王様からの命令だよ?
王様に対してもその視線を送るのかい?」
貴女は王様では無いだろう……と、心の中で反論する。
直接言えば、また面倒な事になるのだろう。
「いえいえ。僕はバルファさんを尊敬していますよ」
ここも適当で押し通す。
神父様も適当に流す事は大切だと言っていたからな。
遠慮はしない。
「うん。いい子だ! じゃあもう行っていいよ!」
バルファさんも大概に適当な返事をする。
そうして彼女の傍若無人さを身に受けつつ、僕達は部屋を出た。
そう、僕達……?
廊下を見回す。
しかしここにいるのは僕とベルだけであった。
「お、おい。ベル? ロミアはどうした?」
「さぁ? 私もやっとの思いで抜け出したからな。ロミアの様子は見ていない」
嫌な予感がする。
背中を冷や汗が伝った。
「え、ちょっと。ロミアちゃん? どうして杖を振り上げているのかな?
あ、あれ? 本当に理性が……うわぁ!!」
バルファさんの悲鳴が聞こえる。
どうやら、理性無きロミアに襲われているようだ。
部屋から物音がしている。
僕は目を閉じた。そして何も考えず、ただ、耳を塞ぐのだった。
王都にて——。
「ちょっと、もう離してよ……!」
男に抱えられている少女は腕や足をバタつかせている。
だがそれは大して抵抗になっておらず、男は気にせず歩き続けていた。
「そう暴れるな。もうすぐ着くからよ」
「着くってどこに……」
「ほら、あそこだ」
男は少女を抱えていない方の腕を上げ、ある建物を指差した。
指先を辿った方向に見えるのは、一軒の家。
その庭先には大量の花が植えられており、ゆらゆらと風に吹かれている。
そして家の壁は様々な色で彩られていた。
まるでそこだけが、別世界かのようだった。
「ただいまー」
呑気な男の声が家の中に響く。
すると、二階から誰かが慌ただしく降りてくる足音が聞こえてきた。
「お帰り、メル! って、誰!?」
薄桃色の髪をふわりと舞わせながらやってきた女性は、少女を見るなり驚きの声を上げた。
「こいつは、ファフニールの巣穴にいたんだ。
何か怪しげな二人組に襲われそうになってたから助けてやったんだ」
女性にメルと呼ばれた男は、その不気味なマスクを取りながら自慢げにそう言った。
「貴方、あれで助けたつもりだったの……?」
白髪碧眼の少女、シャーロットは問う。
そこには批判的な感情が混じっていた。
彼女からすれば、そんなメルの心中などは感じられなかったのだから。
「え、困ってたんじゃないのか?」
メルはその感情に気づく事なく、聞き返した。
「困っていたけれど……あれじゃあ、ただの誘拐犯……」
静かな家の中にシャーロットの呆れたような声が響いた。
「あれ?」
メルは困ったような笑顔を見せる。
「ま、まぁ。お茶でも飲みながら、状況を整理しよう。
急いで準備するね!」
そう言って女性は奥の部屋へと消えていった。
玄関で佇む二人。
「おい、行かないのか?」
「私はこの家の勝手なんてわからない……」
「そうだったな」
メルは笑いながら少女の手を握る。
いきなりの事でシャーロットは動揺していた。
「な、何を……」
「ほら、行くぞ」
メルはシャーロットに微笑みかける。
まだ会って間もない、ただの赤の他人。
それなのに、メルのその表情は何故か彼女に安心感を与えていた。
そしてシャーロットはメルに手を引かれ、奥の部屋へと入った。
部屋に入った彼女の目に映ったのは沢山の絵画。
多種多様な色で描かれた風景や花は、射し込んだ朝日によって輝きを放つ。
それは来客を歓迎しているようにも見えた。
少女はその光景に目を輝かせた。
「どうだ? 凄いだろう? これ全部、リタが描いたんだぜ」
シャーロットの驚いた顔を見て、メルが得意そうに告げる。
「リタ……?」
彼女は首を傾げた。
「ああ。さっきのお姉ちゃんだよ」
「へぇ……。とっても素敵」
「だろ? 俺もそう思う」
二人がそんなやり取りをしていると、リタがお茶を運んできた。
「はーい。紅茶ですよー」
テーブルに並べられる三つのカップ。
それらは普通の平民が使うには、なかなか高価そうな物だった。
「何の話してたの?」
カップを並べ終えたリタは椅子に腰掛けながら聞いた。
立っていた二人も彼女につられて席に着く。
「この至る所に貼ってある絵について話してたんだよ。
こいつが素敵だって褒めてたぜ」
「こいつじゃない……。私にはシャーロットっていう名前がある」
シャーロットが少し頬を膨らませている。
リタはそれを見て、口元を緩ませながら言った。
「じゃあ、自己紹介でもしよっか。シャーロットちゃんがどうして連れてこられたのかも気になるしさ」
シャーロットはその言葉を聞き、俯いた。
微かに揺れる紅茶には彼女の悲しそうな顔が写っていた。
この章ではメルが頑張ります。
魅力的なキャラに出来るよう努力いたします!




