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35話 戦いの後

レビューを頂いて、モチベマックスの私。

この話で二章は終了です!

次からは三章になります! これからもよろしくお願いします!



「な、何なの!? あの冒険者は!?」


 フィグスは驚きのあまり声を上げた。

 本部を防衛していたオルトラが慌ただしく部屋に入ってきた。


「フィグス様! どうなされました!?」


「勝手に入るな!」


 フィグスを心配して来たというのに、彼女の無慈悲な一喝でオルトラはとぼとぼと部屋を出て行った。


 フィグスは『懐疑ノ男神』の所有者よろしく、その光景をすぐには信じられなかった。

 彼女は防御結界が破壊され、その瘴気が溢れ出た時、既に敗北を覚悟していた。

 王都へ伝達魔法で連絡しようとしていたほどである。

 彼女とて好きで諦めたわけではない。防衛が突破された時、その被害を少しでも抑えるために早めに連絡を入れようとしただけなのだ。

 

 しかし、それは必要が無くなってしまった。

 何故か。

 一人の冒険者が、暴虐の化身のような屍竜を討伐したからである。


 映像魔法によって、彼女はノアと屍竜との戦いの一部始終を見ていた。

 翼竜と戦っていた時には使用されなかった『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』。それを発動させたノアは、まるで別人であった。


(魔導師の格好をしていたから、魔法以外の攻撃手段は無いと勝手に判断していたけれど……違った。

 あのふざけた剣技は何なの?…… 一回目は十連撃、二回目に限っては二十連撃ですって!?

そんなの本職の剣士でもあり得ない……)

 

(それに、あの使い魔たちよ。シルフにフェンリル、そして実際にファフニールの首を刎ねた女騎士。どれを取っても優秀すぎる。あれだけの使い魔を従えていながら、本人はあの強さ……。化け物ね)


 彼女はこれまでに味わったことの無いような頭痛に襲われた。

 未知の情報を処理しようと『懐疑ノ男神』を長時間使用していたからだった。

 フィグスは椅子の背もたれに深く寄りかかる。


(何にせよ、ファフニールは討伐された。倒した能力が未知でも、その事実だけは明らか……。とりあえず、指令を出さないと。あの名ばかりの唐変木は後で処理しておきましょう)


 防衛戦は終わった。

 しかしまだ、完全に幕引きとはいかない。










 空を切る音が聞こえる。

 僕は今、どこに……?

 手を動かすと、ふわふわとした毛の様なものに触れた。

 毛……?

 不思議に思い、ゆっくり目を開けると視界には大空が広がった。


「主人様! ご無事ですか!?」


 その聞き慣れた声と共に、空の次に目に映ったのはよく見慣れた金髪の女騎士。

 エイルだった。


「主人様、私は怒っております! どうしてあのような無茶を!?」


 彼女は頬を紅潮させている。

 うーん。

 何となく記憶が戻って来たぞ。

 ファフニールの突進を受け止めて、エイルが首を刎ねた後、僕は魔力が尽きて落下していく途中だった。

 けど、ソルドが空中で受け止めてくれて、今こうして地上へと向かっているという訳だな。


「で、どうしてお前たちがいるんだ?」


 質問に質問を返す。

 だが、これは聞いておかなければなるまい。

 従者の召喚は魔力がいると、それこそ今ここにいるエイルから聞いたのだから……。


「私の場合、召喚される時に魔力がいるだけでその後は必要ありません。そしてソルドの場合は、もともと自立していた妖精を『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』に登録しただけですから、召喚には魔力が要りません。憑依の時は必要ですが」


 何……だと。

 そんな仕組みだったのか。

 ソルドの召喚には魔力を使わないなんて初耳だ。


「じゃあ、魔力切れだと感じたのは……僕の勘違いだったのか?」


 その問いにエイルは真面目な顔で答える。


「ええ。確かに、かなりの魔力を消費していましたが、完全に尽きた訳ではありませんでした。

 で・す・が! 風を操作して着地出来るだけの魔力が無かったのは事実であり、そこまで主人様が無茶をしたのも覆りません!」


 おや、ご立腹か。

 最初に怒っていると言っていたっけ。


「わ、悪かったよ。でも、あの時はあれしか倒す方法が思いつかなかったんだ」


「わかっています……ですが、もっと主人様はご自身の事を気にかけて下さい。

 主人様が死んでしまえば、悲しむ人間がいるのですから」


 そう言ってエイルは目を伏せた。


 そうか……今の僕には、こんなに嬉しい言葉をかけてくれる人がいる。

 それはとても幸せな事だ。

 空を見上げる。

 まだ太陽が光り輝いていた。





 フワリとソルドが地面に着地する。

 僕とエイルはソルドの背中から飛び降りた。

 降り立ってから気づいたが、ソルドの体が巨大になっていた。


「お前、そんな大きかったか?」


「いえ、主人様を受け止めるため、ぎりぎりまで巨大化したのです」


 ソルドは自慢げに語る。

 なんでも、僕と主従関係になった事で体の大きさを任意で変化できる様になったんだと。

 『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』について、前よりも知っている事が増えたと思っていたが、従者の方に関してはまだまだだった様だ。


 辺りを見回す。

 すると、地面に転がるファフニールの死骸があった。

 地面に叩きつけられた事で、血などが散乱していた。

 

 その死骸を見続けていると、その上にふわりと浮かぶ光が見えた。

 僕は不思議とそれに呼ばれている気がした。

 その命はもう無いはずなのに、ファフニールが僕を呼んでいるような気がしたのだ。


 何の迷いもなく、その死骸に歩み寄る。


 近づくと、ファフニールの魂が浮かんでいるのがわかった。

 僕を呼んでいたのはこれのようだ。


「「……俺の、暴走を……止めてくれて……ありがとう」」


 突然、魂は声をかけてきた。

 僕は驚きのあまり声を失う。


「驚きました。ここまでの精神力……一体、貴方は何に執着しているのですか?」


 そんな僕を置いて、エイルが問う。

 そう。普通、魂に意思はないはずである。

 それなのに、ここまで鮮明に意思を持ち、会話するとはこの世に何か未練があるのだろうか。


「「頼む……俺の友達が……洞窟に一人なんだ……。あいつ……は、幸せになって……もらいたいんだ。だから、シャーロットを……頼む……」」


 魂が徐々に薄れかかっている。

 流石に、そう長くは踏み止まれないようだな。

 いかに竜であっても死には抗えない。

 だが——、


「勝手に逝かれても困るんだ」


「「……え?……」」


 ファフニールの間の抜けた声を無視して、魂の周りの空間ごと情報子へと変換する。

 情報子変換は魂に直接、干渉が出来ない。けれど、裏を返せば間接的になら変換出来る。だから魂が存在する空間を情報子に変換する事で、その中にある魂も間接的に変換されると言う訳だ。

 結果、僕の魂にファフニールの魂が保管された。


《何を……!?》


 ファフニールは絶句していた。

 それは仕方ない事で、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』以外ではありえない現象なのだろうから。

 それに——。

 竜であるお前が、命の灯火が消える寸前まで気にかけていた人物。

 そんな大切な友達を僕なんかに託されても困る。

 あれだけ暴れたんだ、それくらい自分でやってもらわないと。


《お前……どうして俺を助ける?》


 ファフニールが僕に問う。

 彼からすれば、不思議でしかないようだ。


 どうしてって、


「……それは、お前が死んだら悲しむ友達がいるんだろう?」


 先程、エイルに言われた言葉を返した。

 エイルを見ると、嬉しそうに微笑んでいる。


《お前は……変な奴だな……》


 ファフニールは笑った。

 そこに邪悪さなどは無く、心からの笑いに思えた。


 さて、諸々の追求は後にしよう。

 それよりも……。



「おーい」



 ん?

 誰かがこちらに走って来る。

 

「はぁ……はぁ……。やりましたね……」


 全力で走って来たのだろう、レイドは肩で息をしながら言葉を発した。

 彼は僕がファフニールと戦っている際中、王都に向けて放たれようとしていた【欲望に塗れた猛毒】を止めてくれていたのだ。

 レイドがあの魔法を抑えてくれていなければ、甚大な被害が出ていただろう。


「ファフニールに勝てたのは、レイドのおかげだ。ありがとう」


 素直に礼を述べる。

 そこで思い出した。彼から借り受けた剣の事を。


「そうだ。これ、ギヨティーネだったか。貸してくれてありがとう。これが無かったら確実に負けてたよ」


 僕はそう言ってレイドにギヨティーネを手渡した。

 剣だけの性能で言えば、〈騎士殺しの剣(アロンダイト )〉の方が上だが、ギヨティーネは特殊効果が強力すぎた。“斬った”という結果を残す剣。まさしく、死から逃れられない断頭台という訳だ。


「そういえば、こんな剣ありましたね……」


 レイドはそんなことを言いながら剣を受け取った。

 これだけ強力な剣の存在を忘れかけているとは。


「こんな剣って、レイドが貸してくれたんだけど……?」


「いやー、俺は武器とかあんまり興味無いので、剣の違いとかわからないんです」


 彼は頭を掻きながらそうのたまった。

 良いのか、それで?

 まぁ、無数の武器を扱っていたから仕方無いのかもしれないが、『武器ノ男神』は泣いているだろうな。

 しかも無名ではなく、名を持った剣だ。それでも違いがわからないとは、よほど武器に興味が無いようだ。


「ま、まぁそれはさておき、王国軍の人達は大丈夫そうだったか?」


 瘴気を一身に浴びて、彼らもファフニールと同じように狂人化していたが……。


「ん? あぁ、それなら大丈夫です。屍竜を倒した事で、その瘴気の影響は消えたみたいですから」


「そうか……」


 んー、別にレイドの言葉が信用できないわけじゃないが、一応確認しておいた方がいいだろう。

 エイル、ちょっと診て来てくれないか?


《了解です》


 それとソルド。お前にはロミアの事を頼みたい。きっと、魔力切れで動けないだろうから。


《承知致しました》


 エイルとソルドは速やかに行動に移った。

 どうなるかはわからないが、どうにかはしてくれるだろう。

 

「彼らが、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』の従者ですか?」


 消え去ったエイルとソルドを見て、レイドがそう問いかけた。

 最初の自己紹介の時は寝ていたと思うのだが、意外にもちゃんと聞いていたらしい。



「ああ、僕の心強い仲間たちだ」


 僕は胸を張って、レイドに答えたのだった。




 


 それからしばらくして、フィグスさんから「一度、本部に戻って来てください」との伝令が入った。


《ただ今、戻りました》


 お、エイル。おかえり。

 どうだった?


《それがですね……》


 僕の精神世界に帰ってきたエイルは報告してくれる。


 どうやら、この間にエイルは王国軍の人達全員を診てきたようだ。

 『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』でその人数を把握が可能だと知らされ、確認してみると、実際に戦場で戦ったのは約一万五千人。そして、後方支援が七千人、本部の守りを固めていたのが三千人らしい。

 つまり、エイルがこの短い時間の間に診てきたのは一万五千人。


 どうやったのかは知らないが、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』を利用する事で、そんな離れ業も可能にしたようだった。


 瘴気による影響は高熱や頭痛だけのようだった。

 命に関わるような深刻な状況の人とかはいなかったそうだ。


 しかしながら、それも全て魔法によって治療してきたらしい。

 そんな人数に魔法をかけるなど、魔力がどれだけあっても足りないのでは? と聞くと、《医療系の魔法には適正があるので平気です》と言っていた。

 それにしても規格外だとは思うが……。


 あまり深く考えても意味は無いか。


 ソルド、そっちはどうだ?


《ハッ、ロミア様は魔力切れで動けないだけのようです。他に怪我などはしておりません》


 ソルドが淀みなく返答する。

 ロミアはソルドが本部にまで連れてきてくれるそうだ。

 これでひとまず、気がかりは無くなった。



「じゃあ、レイド。僕らも本部に行こうか」


「そうですねー。俺、腹減りました」


 僕達は本部へと向かった。





 ソルドに乗っていけば速いのだろうが、今はロミアを運んでいる。

 だから、僕とレイドはおとなしく歩いて向かった。

 そのため多少、時間がかかった。


「あ、ノアさーん!」


 対策本部の前ではロミアが待っていた。

 彼女は落ちないようソルドにしがみついていた。

 

「体は大丈夫そうか?」


「はい! 元気です!」


 ふむ。いい返事だ。

 思ったより元気そうで良かった。

 だが、体はまだ動かないようで、建物にはソルドに乗ったまま入っていった。

 僕達もそれに続く。

 


 建物内に入ると、最初に来た時のようにオルトラさんが出迎えてくれた。

 彼は本部の守りを務めていたようだ。


「本当にお疲れ様でした。さぁ、フィグス様がお待ちです。どうぞ、こちらに」


 オルトラさんは再び、奥の部屋へと先導してくれた。

 そして僕達は部屋の中へと入る。

 

 部屋にはフィグスさんしかいなかった。

 軍隊長であるガルロさんの姿は見えない。

 『戦ノ男神』を使用した反動はかなり大きかったようだ。

 フィグスさんと目が合う。

 初めて会った時の目と同じ。

 彼女の目はずっと、僕を観察していた。

 その瞳は情報狂のソレだった。


「防衛戦、大変お疲れ様でした。……それと、王国軍を代表して謝罪をさせて下さい。この度の防衛戦、我が軍の不手際は目に余るものでした。本当に申し訳ない」


 フィグスさんが僕達に向けて頭を下げた。

 それは、普通ならばありえない行動である。

 一国の軍の参謀長が冒険者などに頭を下げたのだ。

 僕は戸惑いながら、当たり障りのない返事をした。


「い、いえ。それより……ガルロ軍隊長は大丈夫ですか?」


「ガルロ……? ああ、いましたね。そんな人。

 あの唐変木は『戦ノ男神』の反動で気を失っています。それと、少し能力がいじられた形跡が見つかりました」


 フィグスさんの声は冷めきっていた。

 あまり触れてはいけない話題だったか……。


「能力がいじられた……?」


 恐れを知らずかレイドは疑問を呈す。

 彼は初対面の人の前で眠るほどの胆力を遺憾なく発揮していた。


「ええ。『戦ノ男神』は本来、発動すれば敵を倒すまで解除できないという危険な能力です。ですが、普段であればあそこまで早く限界を迎えたりはしません。

 なので詳しく調べてみたところ、能力の出力が限界を超えていました。これは誰かが手を加えなければ起きない現象です」


 能力に手を加える?

 そんな事が可能なのか?

 神が由来する力に干渉できる者……。そんな人間がいるのか?


《人間かどうかすら怪しいかと思います……》


 おや、その声はエイル。

 今はエイル状態なのか?


《はい。『知識は世界を開く鍵』の直接使用時のみ、あの素っ気ない声が私の代わりを務めます》


 ほう。そうか。

 うん……やはり、エイルの方が好きだな。


《……な、何を言ってるんですか!?》


 あ、いや。

 深い意味はないんだが、いささかあの無機質な声は苦手なんだ。


《そ、そうでしたか……》


 僕がエイルとそんなやり取りをしていると、話は進んでいた。



「今回の防衛戦の処理については全てこちらで請け負います。ですので、今はそれぞれの拠点に帰っていただいて構いません。

 ですが、その内に王都へのお呼び出しがあるのでご確認のほど、よろしくお願い致します」



 対策本部では大した話は無かった。

 これから処理で忙しくなるそうなので、詳しい話は後日に王都でという事だった。


 フィグスさんから立ち去る許可を得て、僕達は建物の外に出た。

 

 そして、冒険者三人は立ち話をしていた。

 ロミアに限ってはソルドの上で寝そべっていたので、寝話とでもいったところか。


「いやー、疲れましたね」


「あぁ。二人ともお疲れ様」


「私は最後の方、何もしてなかったですけど……」


 まぁ、前半で彼女は頑張りすぎていたからな。

 戦果は十分に挙げている。


「また、一緒にクエスト出来るといいな」


「そうですねー。でも、難しいと思います。西街と北街だとテリトリーが別ですから」


 そう言いつつ、レイドは早々に帰ろうとしていた。

 荷物をまとめて出立の準備をしている。


「では、俺はもう帰りますね。腹が減って死にそうなので」


 彼はその手をひらひらと振って歩き去った。

 あの男は基本的に、欲望のままに生きているようだ。

 まぁ、レイドとはまたどこかで会いそうだな。


「……私たちも帰りましょうか?」


「そうだな。帰ろう」



 防衛戦は終わった。

 これで幕閉じ。

 さて、これから考える事が増えるな。


「これからもよろしくな」


「どうしたんです、急に?」


「いや、何でもない」


 僕は顔を綻ばせた。


 きっと、西街ではバルファさんが待っているだろう。

 土産話を楽しみにしているのだろう。

 

 僕達は西街に帰還する。

 その足取りは軽かった。


 

バルファは彼らの安全を祈っているのでしょうか……?

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