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33話 王国防衛戦 その3

ランスロットの剣術は素晴らしいですが、女性関係はあまり良くなかったそうです。

そんなのもキャラの魅力ですね。


「ここまで簡単に、翼竜達を始末出来るとは……」


 フィグス・エンシュリラは映し出された戦場を見て呟いた。

 視覚による情報は全て、『懐疑ノ男神』により処理されていく。

 それは自身の質問に相手の意思を問わず、真実を語らせる能力の副産物であった。

 尋問によって得た情報が真実であるかを精査しているうちに、彼女は〈整合性判断コレクト・ジャッジメント〉なる技能を会得していたのである。



 そして、今。

 三人の冒険者が翼竜を始末し終えた時、時を同じくして、それぞれの能力についての情報を処理し終えた。

 

(『武器ノ男神』は私の能力と同じ、“ティターン十二神”の系列。彼が何の装備もしていなかったのは、あの能力によるものだったのね……)


 彼女はレイドの『武器ノ男神』の権能、〈湧き出る殺意の如くアンリミテッド・アルマ〉の仕組みを完全に理解していた。

 だがその結果は、『武器ノ男神』がティターン十二神の系列の神に由来する能力だったから導き出せたのであって、これがオリュンポス十二神の系列の神々に由来する能力や、別の神話の神々、はたまた神に由来しない能力であったならば、結果は大きく違っていただろう。


 まさしく、ノアの『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』やロミアの『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』のような能力だったならば。


 フィグスはその二つの能力の詳細まではわからないでいた。

 ノアに至っては能力を使用せず、魔法だけで翼竜を倒したため、詳細どころか断片さえ掴むことができなかった。


(まぁ、いいわ。それについては考えても無駄でしょう。それより……)


 彼女は自分の見た映像を思い返す。

 白いローブを着て、黒猫を連れたあの魔法使い。

 フィグスはロミアの戦闘を見て、自身の目を疑った。

 しかし、その光景は〈整合性判断コレクト・ジャッジメント〉により真実であると証明されている。


(でも、それにしたって……! 複合魔術なんてものを発動できる人間がいるなんて……。

 しかもあれは、高位魔法である【氷結の十字架ゲフリーレン・クロイツ】と【氷結の墓地ゲフリーレン・グラープ】の複合。到底、人間業とは思えない……!)


 実際に、人間業では無い。

 『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』の権能を人が真似出来るはずが無いのだ。

 それに、通常の人間とは比べ物にならないほどの魔素量を持つロミアが行なっている時点で人間業とは呼べないのだろう。


 


 能力の調査を諦め、フィグスは戦場を俯瞰した視点へと切り替えた。

 

 戦場の中央では今もなお、ガルロが大剣を振り翳し、ファフニールの防御結界の破壊を試みている。

 しかし、一向にその結界が破れそうな気配はない。

 それは決してガルロが弱いわけではなく、守りに徹したファフニールの結界が恐ろしく強固だったというだけだ。


 このままでは『戦ノ男神』によりガルロはその身を滅ぼしてしまうだろう。

 それ故、フィグスは兵士と冒険者達に指示を出した。



「「ガルロだけでは足りない! 全員、屍竜の張っている防御結界を破壊せよ! 」」












 僕は疾走する。

 ファフニールの張った防御結界を破壊しろ、とフィグスさんから命令が出た。

 

 しかし、あの強そうなガルロさんが破壊できない結界となると、物理的に破壊するのは無理では?


《出来ない訳ではありませんが、その場合、瞬間的に莫大な破壊力を持つ攻撃でなければならないでしょう》


 ふむ。

 ロミアの魔法と、憑依状態の僕ならいけるか?


《そうですね……。ロミア様の魔法にもよりますが、ランスロットならば可能性はあります》


 よし。可能性があるならそれに賭けよう。

 あの結界が破壊されない限り、ファフニールを討伐できないからな。

 


 走り続けていると、やっと王国軍の人達が見えた。

 足を止めて呼吸を整えながら目の前の様子を把握する。

 王国軍は一分の隙もなくファフニールを取り囲み、息をつく暇もなく攻撃し続けていた。


 すると一際大きな音が聞こえた。

 その音がした方へ再び駆け出す。


 僕がその場所へと到着した時、そこにはすでにロミアとレイドがいた。


 そしてもう一人。

 音の原因であり、軍隊長である彼もそこにいた。

 けれどもその男は、昨夜に出会った時と様子が違った。違いすぎていた。

 もはや、別人であった。

 今、身の丈ほどある大剣を振っているのは軍隊長 ガルロ・リタードでは無い。

 ただの戦に狂った軍神である。


「ノアさん、大丈夫でしたか?」


 ロミアとレイドが僕の元に走ってくる。


「ああ。それより、あれは……」


 言わずともわかるのだろう。

 二人は僕の視線と同じ方を向き、考えている。


「きっとあれが『戦ノ男神』を発動させた状態なんでしょう。多分、あれはファフニールをぶっ殺すまでは止まらないと思います」


 レイドは言う。

 確かに、あの狂人化したガルロさんを止めるなど自殺行為だ。

 そのうえ、あんな状態で戦い続けたら、体が持つはずが無い。

 早いところ結界を破壊しなければ……。


「ロミア、レイド、よく聞いてくれ。僕の従者の予測上、あの結界は物理的に壊す事が困難らしい。けど、ある一点に攻撃を集中させる事で破壊できるかもしれないんだ」


 つまり——


「私は上位魔法を撃ち込めばいいんですね」


「なら、俺は武器を吐き出し続ければいいのか……」


 二人はもう理解しているようだ。

 話が早くて助かるな。

 ……って、ん?

 ロミアの魔法を撃ち込むのは正解だが、レイドの武器を吐き出すとは何だ……?


《主人様、あまり時間はありませんよ》


 そ、そうだな。

 きっと彼は能力による攻撃の事を言ったのだろう。


「よし、僕が合図を出す。それに合わせて二人は、攻撃を放ってくれ」


 僕の言葉にロミアとレイドは頷いた。



「「お待ちください、冒険者の方々」」


 僕達が攻撃の準備に移ろうとした時、頭の中にフィグスさんの声が響いた。

 二人にも聞こえているようで、それぞれの反応を示している。

 これは、伝達魔法だろうか。


「「ガルロの剣撃により、僅かではありますが防御結界にヒビが入りました。

 そして『懐疑ノ男神』による予測ではこの後すぐ、ガルロの強力な攻撃が放たれます。もし、合わせるのであればそれを合図にして下さい」」


 そこでフィグスさんの伝達魔法が途切れてしまった。


 まずい。急がなければ間に合わない。

 これを逃せば機会は潰える。


「急ごう! ロミア、レイド!」


 僕達は慌てて攻撃の準備を行った。

 僕の場合は、ランスロットを憑依させるだけだったけれど。


 頼むぞ、今はお前の力が必要だ。


《ふん。俺の強さに驚いて腰抜かすなよ》


 あぁ。お前が体を操作してるんだ。腰なんて抜かさないさ。


 そんなやりとりの後、意識を視界に……厳密に言えば視界に映っているガルロさんへと集中させた。


 彼の体からは、人とは思えないような血みどろのオーラが溢れている。

 そしてガルロさんはおもむろに剣をファフニールへと放り投げた。

 勿論、それがファフニールにまで届くことはない。防御結界に跳ね返され、明後日の方向へ飛んでいった。

 だが彼は、そんな事を気にせずに次の攻撃へと移った。


「『戦ノ男神』に願い出る。穿ち、破壊せよ!!」


 僕にはそう言ったように思えた。

 何故そんな表現なのか。それは、聞こえたのが意味を持った言葉ではなく、ただの音であったからだ。

 そこにあったのは殺意のみ。

 神の力の一端を借りようなどという思考は存在していなかった。


 そして、その両手に現れたるは巨大な黄金の槍。


 ガルロさんは、それを軽々と構えて雄叫びとともに投擲した。

 ほぼ黄金の塊のような二本の槍は、螺旋状に回転しながら防御結界へと突き刺さった。



「行くぞ!!」


 僕……もといランスロットが武器を構えた。

 そこでちょっとした違いに気づく。

 武器がいつもの重騎兵用の突撃槍でなく、一振りの剣であったのだ。



「〈騎士殺しの剣(アロンダイト)〉」



 ランスロットはその剣の名を、またはその剣技の名をそう語った。


 薄い光を放つ防御結界に叩き込まれるのは、仲間をも殺す十連の斬撃。

 剣での攻撃なのだが、手に伝わる反動が槍での攻撃よりも重い気がした。

 十連撃の全てが必殺の一撃になり得る威力を秘めているようだった。


 かのアーサー王が持つと言われていたエクスカリバーと打ち合っても、折れる事のない頑強さを十分に発揮して、結界の亀裂を更に大きくした。



 良くやってくれた、ランスロット。


《世辞はいいが、あれを放っておいて良いのか?》


 あれ……?

 視界に映ったのは、その能力によって力を使い果たし、地面に伏すガルロさんであった。まだ、死んではいないようだが……。

 あのままではロミア達の攻撃に巻き込まれてしまう。


 ソルド、ガルロさんを安全な場所へ!


《了解!》


 僕はソルドを召喚し、気を失っているガルロさんを戦場の後方へと運ばせた。

 後は、フィグスさんがどうにかしてくれるだろう。


 ランスロットは次に続く攻撃に備えて回避行動をとった。



「『武器ノ男神』に命ずる。この世に存在すべき武器を吐き出せ!」


 レイドの能力がその力を発揮する。

 虚空から次々と放射される武器の数々。

 それらは真っ直ぐに防御結界へと向かっていく。

 ヒビが大きくなり、結界の破片が飛び散った。

 

 

 あれが『武器ノ男神』の権能。

 レイドが武器を携行していない理由がよくわかった。

 あれだけの武器があるのだ。

 自身で持つ必要が無いというわけか。



「準備完了です!!」


 ロミアが叫んだ。

 魔法を放つ用意ができたようだ。

 その声を聞き、レイドは武器の放出を止めた。


 それを見計らい、ロミアは詠唱を開始する。


「溢れ出る氷塊、止まらぬ雪崩、破滅の擬人化。弱くて脆い理想を砕け!【霜の巨人(リーゼン・ファウスト)】!」



 ロミアとファフニールの間に三つの魔法陣が展開した。

 一つの魔法で展開される魔法陣は基本的に一つだ。

 簡単に言ってしまうと、魔法は手間をかけるほど強力になる。

 つまり、魔法陣はその手間の代表格。

 術式を描き、視覚化する事で威力が高まる代わりに、発動速度は極端に遅くなる。

 けれど『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』にそんな事は関係なかった。


 魔法を完全記録する能力。

 簡単ではあるが、その汎用性は非常に高い。

 だから、魔法陣をそのまま展開させる事が出来るようだ。

 魔法陣は描くだけで威力が跳ね上がるというのに、それを三つも重ねればどうなるか。

 答えは簡単だ。

 爆発的な威力を持った魔法が放たれる。それだけだ。


 魔法陣から出現するのは、氷で出来上がった巨人の拳。

 それには圧倒的な質量があるというのに、速度を一瞬たりとも落とさず、防御結界と激突した。

 


 ——様々な破片が宙に舞い、日光が反射する。


 防御結界が破壊された。



「「王国軍、一時撤退しなさい!!」」


 その時、フィグスさんの声が響いた。



 僕達はこの後、理解する。

 防御結界に守られていたのはこちらだったという事に。

 

 

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