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04話 サンドイッチとギルドと私

修正しました。(2019/03/03)



 朝、目を覚ます。

 

 ベッドから這い出て、机の上に置いてある本を見た。

 昨日のは一体、何だったのだろうか。

 本を手に取り、色褪せた表紙を指で撫でる。ざらざらとした感触が肌に伝わった。

 エイルと名乗った女騎士の顔が頭に浮かぶ。

 

 コンコン。


 回想していると、部屋の扉が叩かれた。

 本を机の上に戻し、扉へと向かう。扉を開けた先にはロミアが立っていた。


「おはようございます!」


「おはよう、どうした?」


「朝ごはんを食べに行きましょう!」


 ロミアは満面の笑みで僕を朝食に誘った。足元ではベルがこちらを見据えている。

 特に断る理由など無いので、ロミアと共に下へと向かった。




 宿屋の一階は食堂になっていて、簡単な食事を食べられるそうだ。早朝だからだろうか、僕達以外に人はいない。大量の空席の中でも僕達は隅の席へと座った。

 すると、従業員がやって来た。


「この時間はメニューがサンドイッチしか無いのですが、宜しいですか?」


 メニュー? サンドイッチ? 何だそれは?

 初めて聞いた単語に僕は戸惑う。


「大丈夫です。ノアさんもそれで良いですよね?」


「……ああ」


 まず僕はサンドイッチとやらを知らない。だから、良いも悪いも判断できない。

 従業員は軽く会釈して、カウンターの方へと戻っていった。その後ろ姿を見届け、ロミアに聞いてみる。


「ロミア、聞きたい事があるんだが……サンドイッチって何だ?」


 ロミアが不思議そうな顔でこちらを見ている。確かに僕は彼女より年上だが、外に出たのはほとんど初めてと言ってもいいだろう。だから外の世界がこんなに変わっているとは思っていなかったのだ。

 心の中でつらつらと言い訳を並べる。


「ノアさんってどこに住んでいたんですか?」


 僕の質問に質問で返してきたロミア。


「……カルムメリア王国の東端にある、街はずれの教会に住んでいた」


 ロミアは僕の答えに納得したような表情を見せた。


「ノアさん。転生者という存在を知っていますか?」


「ん? ああ。異世界で死んだ人間が、この世界の何かに生まれ変わった者を指す言葉だと聞いている」


 転生者の他にも異世界から召喚される人間もいるようだが、神父様から聞いただけなので真偽はわからない。

 神父様は何故か、転生者や異世界人と言った情報に詳しかった。基本的に大抵の事は知っている人だったが、それらに関しては異様なほどの情報量を有していた。


「これは私の聞いた話です。昔、カルムメリア王国の王都に件の転生者が来訪し、自身の知っていた異世界の技術を伝えたそうです。その技術は王都内には伝わったようですが、ノアさんの住んでいた所までは伝わらなかったみたいですね」


 ロミアはそこまで説明すると、僕の様子を確認するようにこちらを見た。

 僕はどういった反応をすれば良いかわからなかったので、とりあえず頷いておく。

 それを見たロミアは少し口元を綻ばせた。


「ちなみに、このユートラス王国にも転生者はやって来ていたそうです。

 この国には優秀な技術者がいたようで、彼らが全力を尽くして転生者の伝えた技術を再現し、実用化させた事で、ユートラス王国は今のような大国となったのです」


 なるほど。この国がここまで発展できたのは、転生者のおかげだったという訳か。

 しかし、今まで転生者など絵空事だと思っていたが、ここまでの話を聞く限り、転生者という存在は認めざるを得ないのかもしれない。



「そして、今ノアさんが気になっているであろうサンドイッチって言うのはですね、パンにお肉や野菜とかを挟んだ料理の事です。私は好きですよ、サンドイッチ」


 と、ロミアはサンドイッチについて説明してくれた。

 ふむ。彼女の話だけならサンドイッチという料理は、特に何の問題も無さそうだ。

 僕が胸を撫で下ろしていると、従業員がサンドイッチとやらを乗せた二枚の皿を運んできた。


 置かれた皿をまじまじと見る。見た限り、卵やレタスが入っている事は分かった。

しかしその他にも、得体の知れないものが1つ入っていた。


「……ロミア? この赤いのは何だ?」


 パンの白さによって強調されている鮮やかな赤色。この様な食材は今まで見たことがない。


「その赤いのは、トマトと呼ばれる野菜です。色はアレですけど、毒はないので大丈夫ですよ」


 そう言ってロミアはサンドイッチにかぶりついた。口いっぱいに頬張って、満足げな表情をしている。

 僕は少し逡巡したが、空腹に負けてロミアと同じようにかぶりついた。


 口に含んだ瞬間、僕は驚いた。柔らかなパンとシャキシャキとしたレタス。トマトなる野菜の瑞々しさ、そしてこのまろやかな味付け。


「美味い……!」

 

 僕は感嘆の声を漏らした。

 簡単な料理ではあるものの、初めて食べるその美味しさは僕に強い印象を残した。


 そこからというもの、僕とロミアは食事に集中していた。そして、僕達はあっという間にサンドイッチを食べ終えてしまった。



 


 食事の余韻に浸りながらくつろいでいると、ロミアが話の口火を切った。


「ちょっと、お話を聞いてもらえますか?」


「良いけど、何の話だ?」


「私が家出をした理由についてです」


 家出についてか……。

 僕のように理由があるならともかく、親と喧嘩しただけとかなら早く家に帰るように勧めよう。



 そして彼女は語り始めた。まだ、短い自身の生い立ちを静かに語り始めた。



「今から十五年前、私はカルムメリア王国の下級貴族の子として生まれました。両親は優しく、私を王立の魔法学校に通わせてくれました。

 私が自分の能力の存在を知ったのは七歳の時です。魔法学校で私だけ異様に魔法の習得が早かった事が原因でした。

 私が授かったのは『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』という、一度見た魔法や魔導書に記載されている魔法を完全に記憶できる能力です」



 『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』?

 魔法を完全に記憶し、再現できる……。

 普通、魔法は頭の中にあるイメージを具現化する手段として認識されている。

 そして、詠唱は術者の想像力を補うために唱えるものだ。

 それを完全に記憶できるとは、どれ程強大な能力なのだろうか。



「ある日、その能力に目をつけた魔法協会という組織が私の身柄を幽閉しました。

 その日から私は、協会の研究対象にされたんです。

 私は両親がきっと助けてくれるだろうと思っていました。けれど、両親は貴族としての地位を優先させました。魔法協会の後ろに上級貴族が付いていたのが原因です」


 

 親が子供を魔法協会とやらに売った、てことか……。

 いくら身分が大事だとしても、実の子供を売るなんて……。

 だが、自身の子供を捨てる親もいるのだ。そんな親がいても、おかしく無いのかもしれない。


「私には味方がいませんでした。いつも一緒に居てくれたのはベルだけでした。それまで私は、ずっと一人でした」



 ずっと……一人……。

 僕と似ている。

 この紅い目のせいで、街のあらゆる人間から迫害された僕と。

 


「だから、私はベルと一緒に国から逃げ出したんです」


 ……そうだったのか。


「だから、国には帰れません。国に帰れば、また魔法協会に捕まってしまいますから……。それに、とりあえずユートラス王国に来ましたが、もっと遠くまで逃げたいくらいです」


 なるほどな。

 ロミアにはロミアなりの深い理由があったというわけだ。

 

「まぁ、僕も似たような境遇だから何となくわかる部分はあった。だけれども、これからこの国でどう生きて行くつもりなんだ?」


 僕は単刀直入に聞いた。

 家出をしてきたのはいいとして、その後の生活が出来なければ意味がないのだ。


「そうですね……。私は魔法以外、取り柄がないので冒険者にでもなろうかと思っているのですが……」


「それはやめといたほうがいいんじゃないか? 冒険者なんて危険だらけだ。最悪、モンスターに食べられて終わりだぞ?」


 僕はロミアの意見に反対する。

 いくら手っ取り早いからといっても、危険が多過ぎる。


「じゃあ、ノアさんも一緒に冒険者になりましょうよ!」


「は?」


 なかなか無謀な提案をしてきたな。

 僕とて、魔物と戦えない訳では無い。

 魔法や体術を神父様に教わったし、十年間ずっと修練してきた。

 だが、わざわざ危険の多い職に就きたいとは思わない。


 そして、僕は最大の疑問点を問うた。


「それは僕に何の利益があるんだ?」


「お金が稼げます」


「それはそうだろう。僕が聞いているのは、ロミアと組んで何が利益になるのかって部分だ」


 その答えにロミアは頭を悩ませる。

 そして回答を思いついたらしく、彼女の表情が華やぐ。


「私と一緒にいれますよ!」


「ブハッッッッ!!」


 勢いよく、口に含んでいた飲み物が噴出される。

 僕は咳き込みながら不思議そうな顔をしているの彼女に言う。


「変な事を言うな!! 」


 


 結果的に、ロミアという少女を放っておく事が心配になった僕は、登録だけならということでロミアと冒険者ギルドへと向かうのだった。

 まぁ、いいだろう。神父様は何の関係もない僕を育ててくれた。だから、今度は僕が困っている人を助けよう。

 それを神父様への恩返しとしようと思ったのだった。






 

 宿屋を後にし、街の中心部へと向い始めてからしばらく経った。


 現在、僕達は冒険者ギルドの巨大な建物に圧倒されていた。


「城かと思ってたが、これが冒険者ギルドだったのか……」


「まぁ、中には様々な施設が揃ってるのでこれだけ大規模なんでしょうね」


 ロミアは驚いた様子もなく中に入っていった。僕も慌てて後を追う。


 建物内には数人の冒険者がいた。僕達が入って来た途端、一斉にこちらを向いて物珍しい物を見るような視線を向ける。

 僕は人からの視線というものが大嫌いだ。今すぐにでも逃げ出したかったがロミアを置いていくことはできず、嫌々カウンターへと向かう。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが」


 ロミアが受付嬢へと話しかけた。


「冒険者登録ですね? 少々、お待ちください」


 受付嬢は手慣れた手つきで何かの準備を始めた。僕達が従順に待っていると、素早く準備を終えた受付嬢が今度は説明を開始した。


「こちらの魔道具に手を翳して頂くと、そこから魔力を感知して個人の情報を読み取ることができます」


 説明に添い、僕とロミアは魔道具に手を翳す。少しすると、魔道具の下にある部分から紙が出てきた。


「そちらは読み込んだ情報を印刷したものです。自身の身元を証明するものですから無くさないでくださいね」


 紙を見てみると、僕の名前や性別などの情報が記載されていた。そして一番下を見ると、大きくEの文字が。


「では、この冒険者ギルドの注意事項について説明しますね。まず、冒険者のランク…………」


 ここから受付嬢の説明大会が始まった。僕はほとんど聞き流していたので分からないが、ロミアが要点だけ教えてくれた。


 冒険者にはランクがあり、それに応じた難易度のクエストしか受けられないこと。


 ランクはクエスト達成の他にランク昇格試験という物を合格すれば昇格できるこ

と。


 一年ごとに継続料金がかかり、それはランクごとに料金が違うこと。


 とりあえず、覚えておくべきものはこれくらいだろう。一通り説明を終えた受付嬢が質問があるかと聞いてきた。特に何も無いので僕達は二人揃って、首を横に振った。


「それではこれで説明は終了です。……あ、言い忘れていましたが街中での戦闘行為は当然、禁止されています。そしてもう一つ、冒険者としての活動が一ヶ月以上無かった場合、資格は剥奪されます」


 そんな説明を最後に受け、僕達は冒険者登録を終えた。





「早速、クエストを受けてみましょうか。このゴブリン討伐なんてどうです?」


 ロミアは掲示された紙を指差した。紙にはクエスト内容と適正ランクが記されている。


「いきなり討伐系をやるより、採集系からやった方がいいんじゃないか?」


 そう言いつつ、僕は別の紙を指差す。クエスト内容は薬草の採集。適正ランクはもちろんEとなっている。


「んー、そうですね。ノアさんが言うなら従いましょう」


 僕は貼られていた紙を剥がし、クエスト受注受付へと持っていく。


「すいません、このクエストを受けたいんですけど……」


「はい、ではこちらの魔道具に紙を翳して下さい。クエスト情報を読み取ります」


 僕は言われた通り、手に持っていた紙を翳す。


 ポーン。


 その状態で少し待っていると、魔道具から軽い音が鳴った。


「これでクエスト受注は完了です。頑張って下さいね」


 受付嬢は僕達に笑顔を向けた。

 冒険者登録の時にも似たような魔道具を使ったが、この技術の進歩には驚されるな。


「じゃあ行きましょう、ノアさん」


「ああ」

 


 こうして僕達は早速、初めてのクエストに挑むのだった。


 

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