表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/72

32話 王国防衛戦 その2

久しぶりのキャラが登場。

ぜひ、お楽しみください!


 目の前にいるのは三匹の翼竜。

 北側にやって来た六匹の内、半分はロミアが引き受けてくれている。

 あちらの事は彼女に任せるしか無い。

 僕は目の前の敵に集中しよう。



「ぎりぎりまで手を出すなよ、エイル」


《仰せのままに》



 翼竜達に向けて駆け出す。

 その身には誰も憑依させてはいない。

 この戦いは、なるべく僕の力だけで勝利する。


 確かに、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』による従者の憑依は強力だ。

 エイルを憑依させれば戦闘はすぐに終わる。

 他の従者達であっても同様だろう。


 だが、それでは駄目だ。


 能力が強力な分、僕が、僕自身が強くなれば更に強くなれる。

 紅目の魔導師が五百年前、大地を灼熱で飲み込んだのなら、それを超えなければいけない。

 その伝説に伝説を上書きするために、強くなるんだ。



「雷の精霊、雷鳴の幻想、孤高の瞬き。澄んだ虚空を駆け巡れ! 【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】!」


 空中に展開する紫の魔法陣。

 巨大なその円から、紫電が放たれた。

 空を翔ける鳥のように雷は迸る。

 そして魔法は翼竜達の全身に伝い、その飛翔能力を奪った。


 痺れて地面に墜落した竜の頭に剣を突き刺し、下位魔法を発動する。


「火の精霊よ、自然の理に介入し、その力を表せ! 【火炎フォイア】」


 下位魔法の詠唱は、属性によって違う。

 けれどもそれ以外は全て一律である。

 だから、【火球フォイアクーゲル】も【火炎フォイア】も詠唱は同じだ。


 剣を這い、炎が竜の内部へと注がれる。

 下位魔法であれど、威力などは無くても、何の防御も出来ない内部からの攻撃ならば関係ない。その機能を停止できればいい。


 脳を焼き切る事で、一匹の竜の生命が潰えた。


 あと、二匹。




 初手で放った【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】による麻痺が、そろそろ切れる。

 ならば——。

 竜の死骸から一枚の鱗を剥ぎ取ってそこに文字を刻み、その面を上にして地面に設置する。


 するとその時、麻痺が早く解けたのか、片方の竜が突進して来た。

 

 その僕の体を切り裂こうと迫る爪を剣で受け流しながら、今度は中位魔法を発動させる。

 爪と金属の擦れる音が響く。

 そして剣は衝撃に耐えられず、中ほどから折れてしまった。

 だが、魔法に剣は必要無い。必要なのは己の体と魔力だけ。


「固執する土塊、挫けぬ心。母なる大地の力を持って穿て! 【大地の突槍(エールデ・シュペーア)】!」


 地面に魔法陣が現れ、土で出来た槍が放たれる。

 その槍の勢いと、竜の突進の勢いがぶつかり合った。

 限界にまで開かれた口内に、槍が吸い込まれる。

 槍は、竜の体を貫くだけでは飽き足らず、勢いそのまま僕の眼前を通り、木の幹へと向かった。


 【大地の突槍(エールデ・シュペーア)】に魔力を込めすぎたらしい。

 一瞬だけ、目の前が真っ白になった。

 短時間でに魔力を大量に消費したからだろう。

 


 その隙を、外敵を殺すためだけに動いている竜が見逃すはずも無かった。



 






 レイドに見逃された二匹の翼竜は、西街の上空まで来ていた。

 彼らの中に理性は無いが、同じように迷いも無かった。

 ただ破壊する事を命じられた翼竜の目に、街を駆ける少年の姿が映る。

 竜はすぐさま、それを殺すべき対象と認識し、襲いかかった。


 その少年は逃げ遅れたわけではない。一度避難したにも関わらず、飼っていた犬が見捨てられぬと、周りの制止を振り切って戻ってきてしまったのだ。

 犬はすぐに見つかったというのに、避難場所まで走っているところを運悪く見つかった。


 不運は重なるもので、少年は逃げている途中で転んでしまう。

 蹲る少年を守るかのように犬が必死に吠える。

 しかしそんな雑音など竜に、ましてや、狂っている彼らに届くはずもなかった。

 竜の凶牙が迫る。

 少年は死を覚悟して目を閉じた。



 しかし、いくら待っても痛みは感じない。

 少年が不思議に思い、恐る恐る目を開けた。

 彼の目に映ったのは、盾で竜の突進を防ぐ女性の姿だった。


「早く……逃げて……!」


 女性が振り返り、少年に告げる。

 彼はその言葉を受け、戸惑いながらも走り出した。その手には犬が抱えられている。


 それを見届けた女性は安堵したように息を吐き、盾を構える腕に力を込めた。

 すると竜は方向転換し、一旦退いた。

 二匹の翼竜は空に留まりながら様子を伺い始める。

 未知の対象と接敵したため、混乱しているようだった。

 彼らは本能で感じ取っている。

 目の前にいる女性には勝てぬと。

 けれども、ファフニールにかけられた魔法の残滓が影響しているため、正常な判断を下すことも出来ない。



「あっれー? こんな所で……というより、こんな時に君と出会うなんてね」


 その明るい声。

 翡翠色の髪と瞳を持つ人物。

 少年が逃げた方向から歩いてきたのはバルファ・ドラウンだった。


「さしずめこの国の危機に現れた、過去の英雄とでも言ったところかな。テオ?」


 彼女は女性へと問いかけた。

 そう。この女性とはロミアが杖を買いに行った店の主人、テオであった。


「私はそんな……大層な人間じゃ、ありません。ただ、目の前の少年を……助けずして、アテナに由来する能力の……持ち主として、胸を張って生きれるのか……と、思っただけです」


「そうかい。まぁ、なんだっていいさ。ボクはアレを倒しに来ただけだからね」


 バルファはそう言って空を指差す。

 勿論、その指の先にいるのは二匹の翼竜である。

 

「君も同じだろう? 過去に何があっても、今判断するのは今の君なんだから」


 彼女は笑う。

 翡翠の髪を舞わせながら。


「そう、ですね。街を襲う竜を倒すのに……過去は関係ありません」


「いいねいいね! 楽しいね!」


 両者は並び立ち、竜と対峙する。


 二匹の翼竜はテオとバルファを新たに殺すべき障害と認識した。

 その殺意は凄まじく、オーラが漏れ出ている。

 そして、二匹は火球を吐き出しながら二人へと向かって行った。



「『知恵ノ女神』に……願い出る。伝説となりし、武具を貸し与えよ……!」


「『掟ノ女神』に命ずる。誰が掟であるかを分からせろ!」


 二人は同時にそれぞれの能力を行使した。

 テオは〈勝利の神槍(ニーケー)〉と〈災厄を払い除ける盾(アイギス)〉を装備している。

 一方でバルファは〈不変の掟(イミュータブル・ロー)〉によって、彼らの動きを強制的に停止させた。


「さぁ、思うがままに殺していいよ!」


 バルファがテオにそう声をかける。

 テオは左手に持った〈災厄を払い除ける盾(アイギス)〉によって火球をはじき返しながら、竜に接近していく。

 槍の間合いにまで入った彼女は、素早い動作で竜の頭部を真正面から穿った。

 そこで竜は、自身が狂っていた事にさえ気づけぬまま絶命した。


 片方の竜を相手にしていたテオの背中に、もう片方の竜が再び火球を放とうとする。

 今にも火球を吐き出そうとするその口に、彼女は盾を押し当てた。

 外へと出ることが許されない炎は、行き場がなくなり、逆流する。

 竜は自身の炎で体の内側を焼き尽くす事となった。


「グ、グガアァァァァァ……!!」


 喉が焼かれているので、苦しみの叫びもままならない。

 テオはそれに何かを思う事もなく、〈災厄を払い除ける盾(アイギス)〉により殴り飛ばした。

 その盾は衝撃を吸収し、反射させる効果を持っている。

 それ故、先ほどの竜の突進を受けた時に吸収していた衝撃を、余す事なく竜の体に叩き込んだのだった。

 竜は吹き飛び、地面に死骸が転がった。

 その竜の頭部は原型を留めておらず、骨も粉々に砕けてしまっていた。


「テオ、思うがままにとは言ったけれど、ここまでやるとは思っていなかったよ……」


 何と、流石のバルファであっても、テオの容赦の無さに引いていた。

 そのバルファの発言を聞き、振り返ったテオは恥ずかしそうな表情を浮かべている。


「ひ、久しぶりの……戦闘だったので……加減を、失敗しました」


 そう言って彼女は両手で顔を覆う。

 その時は既に、〈勝利の神槍(ニーケー)〉と〈災厄を払い除ける盾(アイギス)〉は手元から消えていた。


「いや、そんな恋する乙女みたいな反応をされても……。君はさっきまで戦う乙女だったよ。戦乙女だったよ」


 バルファが後手に回る、珍しいケースだった。











《主人様!!》


 エイルの焦った声が頭の中で響く。

 竜は今にも僕に喰らいつこうとしていた。

 別に、考えなしに片方を放っておいたわけじゃ無い。


 一応、全ての行為に意味はある。


 【大地の突槍(エールデ・シュペーア)】で貫かれた竜から血が噴き出た。

 鮮血が地面へと飛び散る。

 それは地面だけで無く、事前に置いておいた鱗までも赤く染めた。

 正確には、刻んだ溝を赤く染めた。


 鱗に刻んだ文字はS。読みはシゲル、意味は太陽。


「〔闇を照らす光よ、その威光をもって勝利を掴め〕!」


 詠唱を唱える。

 ルーン文字の効果が正しく発動され、現れるのは巨大な水鏡。

 その形は半球状になっており、日光を集めている。

 水鏡に反射した光は、やがて一点へと集束する。

 

 そして、光が寄り集まって出来た細い一本の線が、水鏡より放たれた。


 その光線は簡単などという言葉では表せないくらい、まるでそれが自然の摂理であるかのように、竜の脳天を撃ち抜いた。

 世界を照らす慈しみの光はその姿を変え、無慈悲にも、一匹の竜から命を摘み取ったのだった。



《お見事でした》


「はぁ……。ちょっと魔力を使いすぎたかな……。

 けど、少しは強くなった気がするよ」


 竜の死骸を見やる。

 一番無残なのは【大地の突槍(エールデ・シュペーア)】で殺した翼竜の死骸だな。

 他の竜は、ほとんど流血が無かったから、余計にそう感じてしまう。

 この翼竜達はどれ位のランクなんだろうか。


《恐らく、Cランク相当かと思われます》


 そうか。

 なら、僕は同格の相手を自分の力で倒せたのか……。


《はい。おめでとうございます》


 あぁ、ありがとう。

 だけど、まだまだ遠いな。

 伝説になるにはどこまで強くなればいいんだろう。


《『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』と主人様ならば、簡単です》


 エイル、お前がそう言ってくれるのは嬉しいが、根拠の無い自信は身を滅ぼすと神父様が言っていたぞ?


《……い、いや。あ、主人様あるじさまを元気づけようかと……思っただけで……》


 エイルはしどろもどろに答える。

 その声はどんどん小さくなっていった。


 優しいな、エイルは。

 僕なら大丈夫だ。絶対にやりきってみせるさ。

 だから、その足がかりとして、あのファフニールを倒す。


 また、力を貸してくれるか?


《当然です。この身は主人様の剣となり盾となりましょう》


 エイルは今度は力強く答えた。



 いよいよ、本当の戦いだ。


久しぶりのキャラとは、テオの事でした。

彼女は結構、重要なキャラなのでこれからも登場してくると思われます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ