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31話 王国防衛戦 その1

王国防衛戦です。

文字通り、剣と魔法の戦いになりました。


 朝日が顔を覗かせようとしている頃、澄んだ大気に囲まれて、防衛戦に参加する者達はファフニールを待ち受けていた。

 

 配置として王国軍が中央に位置し、僕達冒険者はそれぞれ西と北に分かれていた。北側を僕とロミアが、西側をレイドが担当している。

 と言っても、防衛戦が始まれば僕とロミアはある程度離れた場所で戦うことになるのだけれど。

 余談だが、レイドは僕と同じ年齢だとわかった。そして「敬語なんて使わないでください、俺が疲れます」と、彼自身は敬語でそう言っていた。


 隣に立つロミアを見ると、どこか緊張した面持ちをしている。

 これから戦うファフニールという竜の強さは未知数。バルファさんからはAランク相当だと伝えられているが、それは予測でしか無い。

 実際のところはもっと強いのかもしれない。


「大丈夫さ、僕とロミアならどうにでもなる」


 気休めではあるが、ロミアに向けて声をかけた。

 すると彼女は僕の顔を見て、顔を綻ばせた。


「そうですね。私とノアさんは最強の二人ですからね!」


 うん。最強かどうかはさて置いて、少しは気が楽になったようだな。

 

「ああ、頑張ろう」


 僕達は空を見据えた。










「——来ました!! 屍竜です!」



 望遠鏡で監視していた兵士が叫ぶ。

 その言葉通り、空が竜達の翼で覆われようとしていた。

 翼竜を率いて先頭に降り立つは屍竜 ファフニール。


 その巨体は無数の鈍色の鱗で覆われ、その隙間から瘴気が溢れ出ている。

 瘴気に触れた木々達は忽ちその生命力を失い、枯れ果てていく。

 濁った瞳は狂気で満ち、虚空を見つめていた。


 そして大きな顎を極限にまで開け、ファフニールは咆哮をあげた。

 澄んでいた大気が震え、蝕まれる。

 

 それが開戦の合図となった。


 



「「罠を発動せよ!」」


 拡声魔法により、戦地へフィグスの司令が響く。

 彼女は軍の後方に位置する本部にいる。

 その指令を受け、軍の佐官クラスの者達が軍用魔術を起動させる。

 これは、王国軍にある魔法部隊が設置したもので、ある程度の魔力をがあれば発動出来るようになっていた。


 地面に描かれた魔法陣が光りだし、そこから鎖が射出される。

 何本もの鎖がファフニールの体を何重にも、厳重に縛り上げた。

 鱗と鎖が擦れ合い、不快な音が鳴っている。


 十二匹の翼竜達はそんな状況には目もくれず、西街と北街に向けて散開した。

 六匹ずつ左右に分かれて飛んでいく。



「しくるなよ、冒険者ども……」


 ガルロはそう呟き、ファフニールの正面に立って大剣を構えた。

 そうして、何の予備動作もなく、身動きの取れない竜へと斬りかかった。

 彼の身の丈ほどある大剣が軽々と振り下ろされる。


 しかし、その剣がファフニールの体に傷をつける事はなかった。

 剣が鈍く光る鱗に当たる前に、半透明な何かに阻害されたのだった。

 防御結界が発動されたのである。

 ファフニールは鎖によって捕縛された瞬間、防御結界を発動していた。

 

 つまり、ファフニールから攻撃は出来ないが、こちらの攻撃も届かないという事だ。

 それを戦場にいた者達は正しく理解していた。


 ただ一人の戦闘狂を除いて。


 ガルロは依然として剣を振っていた。

 何度も何度も、幾度でも。

 狂ったように攻撃していた。


 『戦ノ男神』は単純に筋力と敏捷性が上昇する能力。

 そして倒した敵の数に比例してその上昇値が増える。

 だが、彼は自身より弱い者とは戦わず、強者とばかり戦いたがるため、その有用な効果が発揮された事は一度も無かった。

 更に、一度『戦ノ男神』を使用すると、敵を殺すまで止まらない。

 それ以外の方法で止めるとするなら、ガルロ本人を殺すしか無い。


 だから今も、ファフニールを己の手で殺さんと防御結界に向けて剣を突き立てているのだ。


「「軍よ、屍竜を囲え!」」


 その指令により、軍隊が展開した。

 ガルロの攻撃に巻き込まれぬようファフニールを囲う。

 武器を構え、兵士達は時を待った。

 






「六匹、か。面倒だな……」


 レイド・クルラリオンは空を仰ぐ。

 彼の視線の先には、西街に向けて飛翔する翼竜達の姿があった。

 レイドの手には何も握られてはいない。


 彼は何とも無防備な姿で翼竜と対峙しようとしていた。


 彼の能力、『武器ノ男神』とは全くもって似つかわしく無い風貌だ。

 けれども、レイドがそんな状態なのは『武器ノ男神』が起因しているわけで、そこは難しいところである。


「さて、クエスト開始だ。一発で何体殺せるか……」


 そう言ったレイドは左の手を翼竜達へと翳していた。

 彼に魔法の適性は無いため、その行為は能力を行使するためのものだった。


「『武器ノ男神』に命ずる。この世に存在すべき武器を吐き出せ」


 何処からともなく出現した複数の剣は六匹の翼竜の内、三匹の脳天に突き刺さった。

 〈湧き出る殺意の如くアンリミテッド・アルマ〉が使用されたのである。

 その技は亜空間にある武器を放出するというもの。その武器の数に限りは無い。

 能力そのものが失われぬ限り、レイドの攻撃手段は尽きないのだ。


「三匹。これは駄目だな」


 レイドは再び亜空間から剣を取り出す。

 今度はそれを放出させるのではなく、自身の手に取って構えた。

 その剣の名はギヨティーネ。

 名がある剣は彼の持つ武器の中でたった一つだ。

 

 そしてレイドは空高く跳躍した。

 元より、能力を持った人間はその身体能力が大幅に向上する。

 だからこそ戦闘職に就く人間が多いのだ。


 空中に飛び上がったレイドに翼竜が喰らいつこうとする。

 しかし彼は身動きが不自由であるにも関わらず、それを回避しながら体を捻り、剣を振り下ろした。

 断頭台を意味するその剣は名前に相応しい斬れ味で、いとも容易く翼竜の首を断ち切る。


 切り離された頭部と体は、重さに従って落下していった。

 レイドも例外では無い。

 自然法則に則り、彼も落下する。

 そこに違いがあるとするならば、翼竜の死体のように地面に叩きつけられるではなく、彼は着地に成功していた。


「あらら、二匹も逃した。報酬減るかなぁ」


 などと、呑気な事を言いながら〈湧き出る殺意の如くアンリミテッド・アルマ〉によって剣や槍を射出しているが、それらは放物線を描いて墜落する。

 翼竜の飛行速度に追いつけなかったようだ。


「ま、いっか。きっとバルファがどうにかしてくれる……」


 レイドはそう呟いて、二匹の翼竜を見送った。







「「氷の礫、駆動する機関、愚者に先駆者。回転し射出せよ!【氷連射撃(マシーネンゲヴェーア)】!」


 ロミアが翼竜に向けて氷の礫を放つ。

 それらは二匹の竜の皮膜に穴を開け、地面に落とした。

 基本的に魔法を連続して発動する事は不可能である。

 だから、地面に落ちてすぐロミアに襲いかかった二匹の翼竜は、その爪や牙を彼女に突き立てるはずであった。


「凍結の大地、零度の誓い、白銀の聖者。その安らかなる眠りを妨げる者を終着へと誘え! 【氷結の墓標ゲフリーレン・グラープマール】!」


 詠唱とともに杖を振り上げるロミア。

 発動されたのは複合魔術。

 【氷結の十字架ゲフリーレン・クロイツ】と【氷結の墓場ゲフリーレン・グラープ】を複合させた高位魔法。

 同属性の魔法でのみ可能な複合。

 しかしそれは、可能性だけでの話。

 実際に行われた記録は無い。

 それを『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』は可能にさせた。


 大小様々な魔法陣が竜を取り囲み、十字架を模した無数の氷塊があらゆる方向から二匹の翼竜を刺し貫いた。

 それだけではない。

 ロミアの発動した魔法は瞬間的に竜達の体を内側から凍結させる。


 そこで彼女は膝をついた。

 初めて発動させた複合魔術の反動が来たのである。


 そしてそこに、残った一匹の翼竜が飛びかかった。

 無防備な彼女を鋭利で残虐な牙が襲う。


「薙ぎ倒せ! 【土の竜動(ラント・ドラッヘ)】!」


 その声で地面に魔法陣が浮かび上がり、暴虐な竜が現れる。

 天を喰らうかの如く、勢いよく飛び出た土の竜は、その身よりも遥かに小さい翼竜を喰らった。

 その巨大な顎で、翼竜の肉体を砕く。

 

 昇格試験の時と同じく、防衛戦の前に詠唱を唱えていたのだ。

 切り札として発動出来るように。

 もしもの事態に対応出来るように。



「はぁ……はぁ……。なんとか、なった……。

 若干、魔力を消費しすぎちゃったけど……まだ大丈夫みたい」


 ロミアは足元にすり寄って来たベルに微笑んだ。


「あの魂、食べていいよ」


 その言葉を聞いて、黒猫は死骸へと優雅に歩み寄る

 そして、ふわふわと浮かぶ光の結晶を順に喰らっていった。

 

(あと少しだ。完全復活まで……もう少しで……)


 ベルは喜びを感じていた。

 自身の復活が目前にまでやって来ている事に。

 


 翼竜との勝負は、ロミアの完全な勝利で終わった。



お次はノア対翼竜です。


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