28話 対策会議
大量の新キャラです。
その内、キャラクターまとめとかを書くかもしれません。
ここはユートラス王国の王城内にある会議室。
ノア達の昇格試験から数週間後、この場所には慌ただしく人が出入りしていた。
部屋の中心に置かれているのは大きな円卓。
そこには五つの座席が用意されている。
そして、五名の人物が円卓を囲むように、席を余すことなく座っていた。
静まり返る部屋。
しかしその静寂はすぐに破られた。
「ここに集まってもらったのは他でもない。あの宝石を抱く者がこの国へ向かっている。このままでは、我が国に計り知れない被害が出るだろう。
それを防ぐべく、これより対策会議を執り行う!」
そう口火を切ったのはユートラス王国現国王、トレンス・ユートラスだった。
彼は若くして王位を継承し、その心優しい性格と頭の賢さから、国民からの支持は厚く、これからの活躍に期待が高まっている時期であった。
そのような重要な時期に、彼の耳に入ったのは屍竜ファフニールが暴走したという報せだった。
「早くて後二日で、この王都に到着しそうっすねー。
ま、その前に西街か北街が襲われるでしょうけど」
会議が始まってすぐ、国王から見て右隣に座る青年が発言する。
ユートラス王国の主要人物が集まるこの場で、その軽い物言いは違和感しか感じられない。
だが、それを嗜めるような人物もいなかった。
それは彼が、彼こそがファフニールの情報をいち早く掴んだ人物だったからである。
秘密警察を率いる王の伝令、セリス・ウェンデッダ。
彼の能力は『伝令ノ男神』。
セリスはその権能の一つの〈飛翔する朱鷺〉により、森の全域を常に監視していたため、最も早くファフニールの情報を得ることが出来たのだった。
「それにしても、どうしていきなり暴れだしたんすかね?
今までは、ずっと洞窟に篭ってたのに……」
セリスは小首を傾げる。
ファフニールの情報はこの国の古い書物に載っているのだが、その情報からは洞窟内に宝物を溜め込み、それを守護している竜としか伝えられていない。
決して、無闇に暴れ回る竜などとは書かれていなかったのである。
「セリス、結界の方はどうなっている? 復旧はまだか?」
「いやー、何たってあれだけ大規模ですからねー。すぐには無理っすね」
緊張感のかけらもない態度でセリスが答えた。
「俺に任せろ! 王よ、俺に屍竜を倒せと命じてくれ!」
王の左隣に座っていた男はそういきり立つ。
不敬にもそんな発言をしたのは、ユートラス王国軍の軍隊長ガルロ・リタード。
彼の実力は折り紙つきだが、いかんせん頭の方はよろしくない。
それ故、あまり会議などには呼ばれないのだが、今回ばかりは致し方なかった。国の防衛に軍は必要不可欠なのだから、軍隊長である彼を呼ばざるを得なかったのだ。
「ガルロ、貴方は黙っていてください。貴方が活躍できるのは戦場だけなんですから」
ガルロから見て右隣の女性が辛辣な言葉を放つ。
彼女の名前はフィグス・エンシュリラ。王国軍の参謀本部情報局局長であるフィグスは、ガルロのお目付役も担っているのだ。
「何だと……? お前はいつも戦場の奥に引きこもっているだけだろう?」
「誰の代わりに情報を集めていると思っているのですか?」
二人の間に緊張が走る。
そんな一触即発の雰囲気が漂った時、再び国王が口を開いた。
「二人とも落ち着け。今は言い争っている時間も惜しい。
それよりサクゴ殿、今回の件について冒険者ギルドの力を貸してはいただけないだろうか?」
トレンス王は茶髪の男に問うた。
男は組んでいた足をほどき、トレンス王の目を真っ直ぐに見つめながら答える。
「協力する事には何の反対もありません。気にすべきは、報酬についてです」
男は臆する事なく王にそう言った。
彼の名は雨宮 咲吾。
この世に何名かいる異世界からやって来た者の一人。
彼は前の世界で、大企業の社長の孫であった。
幼い頃から英才教育を受け、成人したサクゴは次期社長への道を歩み始めるはずだった。
しかし、そんな時に彼はこの世界に召喚されたのだった。
最初こそ戸惑っていたサクゴだったが、すぐにこの世界に順応した。
そして僅か数年で冒険者ギルドの総括、グランドマスターという役職まで登り詰めたのである。
その実績が彼の行動力と頭脳の明晰さを物語っていた。
「報酬を支払う事は確約しよう。それで、どこまで戦力を回してくれるのだろうか?」
「そうですね……西街と北街のギルドにいるAランクの冒険者は出来るだけ向かわせましょう」
「おいおい、それだけの戦力で報酬の話をするとはいい度胸だな?」
トレンス王とサクゴの話に割り込むガルロ。
彼は間違っても王に迷惑を掛けようとしているわけでは無い。
むしろ、忠誠心は誰よりも高いくらいだ。
「Aランクの冒険者はそう数がいるわけではありません。
ですが一人一人の戦闘能力はとても高いです。貴方もの率いる軍の兵士とは比べ物にならないほど……」
「何だと……?」
新たな争いの芽が生まれる。
トレンス王は内心、溜息を吐きながらこの会議を早々に閉じる事に決めた。
軍隊長であるガルロが戦地に赴き、Aランクの冒険者の協力もある。それにフィグスの補佐もあるため、対策としては盤石だろう。
「では、ガルロとフィグスは直ちに北西部へと向え。軍は君達に任せよう。
セリスはこれまで通りの任務と共に、ファフニールの動向を監視して欲しい。何か変化があればすぐに伝えてくれ」
トレンス王はそれぞれに指示を出す。
そして、各々は竜を迎え撃つ準備を始める。
「会議は以上だ。皆、この国を守るため全力を尽くせ!」
王のよく通る声で会議の終了が伝えられた。
あのランク昇格試験を終え、二つ名を頂く際に色々とあってから数週間が経過していた。
その間、僕達は積極的にクエストをこなしていた。
目的は二つ。
一つはただ単純に生活費を稼ぐため。
薬草の採取だけではままならないため、魔獣の討伐クエストを出来るだけ多く行った。魔獣のクエストは素材の料金も上乗せされるので効率的にお金を稼ぐことができた。
そしてもう一つは、紅目の魔導師としての善行活動である。
初めはその名前を出しただけでクエストを取り下げる人がいたり、クエスト達成後に報酬を払わない人がいたりと大変だった。
まぁ、報酬を払わないのはギルドの規約違反なので、とりあえずお金を(額は半分以下となっていたが……)貰う事はできたのだが。
結果として、僕達の冒険者稼業はあまり上手くいってはいなかったのである。
しかしある時、とあるクエストを達成した事で状況は好転した。
そのクエストとは商人の護衛任務であり、バルファさんから直接頼まれたものだった。
何でも国王の使用する装備を修繕、強化するためにそれらを技能国ルサンザへと運ばなければならないらしく、僕達はその護衛任務を承ったという訳だ。
どうして、そんな重要な依頼が西街支部のギルドに流れて来たのかはわからないが、きっとバルファさんが手引きしたのだろう。
彼女は自分の為なら何をしても構わないとか思っていそうだからな。
詳細は省くが、僕達は何とかそのクエストをやり遂げた。
そしてその時の商人が僕達の事を良く広めてくれたらしいのだ。
そのおかげで、この街の人だけは僕への態度が少し軟化したようだ。
小さな一歩ではあったが、僅かな希望が見えたのだった。
「で、次は何のご用ですか?」
ここは冒険者ギルドの二階、ギルドマスター室。
もう見慣れたこの部屋へ、僕達はバルファさんから呼び出されたのである。
「いやぁ、前回は本当に良くやってくれたよ。
君達のおかげでボクの評価はかなり上がった。ありがとう」
そう言って彼女は素直に頭を下げた。
何と珍しい。
何か裏がありそうだ。
そう勘繰ってしまうくらい、彼女の態度はいつもと違っていた。
ふと僕の隣を見ると、ロミアがいかにも訝しげな顔をしていたので、軽く小突く。
仮にも彼女はここのギルドマスターだ。本来、失礼などはあってはならないのだ。
「で、次のクエストなんだけどね……」
バルファさんは上目遣いで僕達を見る。
それ自体は可愛らしかったが、人が人だ。何か嫌な予感がする。
「屍竜 ファフニールを討伐してきてくれないかな?」
こういう時の予感は必ずと言って良いほど的中してしまう。
僕は心の中でこの世にいるかどうかもわからない神を呪うのだった。




