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幕間 竜と少女

短くて申し訳ありません!

明日から、また頑張ります!



 昔、ある所に竜がいました。

 その竜とは元人間で、宝を独り占めにするために姿を竜へと変化させたのです。

 竜は森の中にある洞窟に巣喰い、宝を溜め込むようになりました。

 そして、洞窟はいつしか竜の宝物庫となっていました。


 月日が経ち、その洞窟の近くに村が出来ました。

 そこに住む村人達は竜の存在を知っていたようで、土地神として崇め奉るようになりました。

 またそれに伴い、信仰の儀式によって、村人達は生け贄を捧げるようになりました。


 しかし、そんな事など知らない竜は、やって来た人間が宝を奪いに来た侵入者だと勘違いして毒を浴びせてドロドロに溶かしてしまいました。


 

 ある日、洞窟へ一人の少女がやって来ました。

 竜はいつものように毒を浴びせようとしましたが、それは出来ませんでした。

 何故か? 理由は簡単です。

 彼女が今までの人間達には無かった、特殊な能力を持っていたからです。


 白髪で碧眼の少女は、自身の情報を語りました。

 その中には彼女の能力についても明言されていました。

 『機械仕掛ノ神』。

 少女の能力の名前です。

 それは、あらゆる金属や鉱石を操る能力でした。


 どうして村人達は少女を生け贄としたのでしょうか。

 それには二つ、理由があります。

 それは少女がエルフの血を引いていた事。

 その頃は、異種の血が混じった者は人間から避けられていたのです。

 更に、彼女は恐れられていました。

 『機械仕掛ノ神』という超常的な力を有する少女は村人達の恐怖の対象だったのです。



 竜は気まぐれに少女に話しかけました。

 彼もずっと独りでいたので、退屈ではあったのでしょう。

 少女は最初驚いていましたが、その内、竜との会話に花を咲かせ始めました。

 お互いに気が合ったようでした。

 


 そして、竜と打ち明けた少女は『機械仕掛ノ神』によって、宝物庫にあった金塊を小さな竜の形へと変形して見せました。

 それは宝を抱く者(ファフニール)によく似た姿形をしていました。

 更には、様々な宝石を魔物や動物へと変形させたたのです。



 そうして仲間が増えた竜と少女はその宝物庫の中で楽しく暮らしましたとさ。

 








 二羽の鴉が空を旋回する。

 眼下に見えるのは自然に出来た洞窟。

 しかし、その洞窟の正体は竜の巣食う宝物庫だ。

 周りに人気は全く無く、あるのは鬱蒼と生い茂る木々のみ。

 そう、二羽の鴉とは不吟フギン夢忍ムニンの事であり、彼らは主人の命を受けてここまでやって来たのである。


 二羽の鴉は地上に降り立ち、人の姿へと変化する。

 人の足で歩き、洞窟の中へと向かった。


 洞窟の中は薄暗く、道の先がよく見えない。

 明かりは壁に取り付けられている松明の炎だけだ。

 壁に映る影を揺らめかせながら、不吟と夢忍は歩く。

 そして、その長く複雑に入り組んだ道の先を抜けると——、



 洞窟の中だというのにやけに明るい部屋に、一人の少女と一頭の竜が待ち受けていた。



 竜の体は鋼のような鱗に覆われて、鈍い光を放っている。

 そして、鱗の僅かな隙間からは絶え間なく瘴気が漏れ出ていた。

 対して少女は、白髪で碧眼という姿をしており、儚げな雰囲気を放っている。


 あまりに異色。その言葉こそ、今の状況を表すのに最適だった。



 周りの環境などには何の関心も示さず、不吟は口を開く。


「ファフニール、主人様からの命令だ。ユートラス王国で暴れろ、との事だ」


 短く、端的に用件だけが伝えられた。

 他に説明などは一切無い。


 その言葉を聞き、ファフニールと呼ばれた竜はゆったりとした動作で不吟と夢忍の方へ視線を移した。


「何故、従う必要がある? お前らと違って、俺はあいつに従う義理などない」


 ファフニールはそう言い放った。

 しかしながら、不吟は素知らぬ顔で答える。


「義理ならあるだろう。元人間である君がここで宝を護っていられるのは、主人様のおかげなんだから。

 それに、主人様は君が護っている少女に価値が無いと判断した。だからもう此処に留まっている理由も無いんだ」


 少女は怯えた様子でファフニールの体の陰に隠れる。

 

 そして、夢忍のその発言でファフニールは目の色を変えた。

 溢れ出るオーラをそのままに、竜は咆哮をあげる。

 それは、彼の唯一の友を侮辱する言葉だったのである。


 閉塞性の高い宝物庫に、張り裂けんばかりの音が響き渡った。

 空気が、宝が、地面が、全てが振動する。



「消え去れ!! 二度と俺の前に姿を現わすな……!」


 

 ファフニールが低い声でそう告げると、不吟と夢忍は互いに顔を見合わせた。


「やはり、駄目だった」


「大丈夫。それなら別の手を使えばいい」


「そうだ、作戦はまだ失敗していない」


 そんな短いやり取りの後、二人はファフニールへと向き直り、それぞれの両手をかざした。

 そして、彼らは詠唱を唱え始めた。

 声は重なり合い、一つの魔法をこの世に顕現させんとする。

 


「狂いゆく正気、儚き夢、死者すら恐れる暗黒の森。滅ぶ世界の中で永遠に続く痛みを味わえ! 【禁じられた狂気(ヴァーン・ズィン)】!」



 彼らの声が、詠唱を唱え終わった時、地面を複数の黒い魔法陣が覆い尽くした。

 数多の魔法陣が折り重なって、禍々しく回転している。

 目眩く廻り続けている。

 そして、刻み込まれた術式が怪しい光を放った。


「貴様ら、何を……!?」


 ファフニールは動揺していた。

 それは当然の反応であった。【禁じられた狂気(ヴァーン・ズィン)】は何百年も前に、それこそ五百年よりも前から禁呪として伝えられている魔法なのだから。


 しかし、その禁じられた魔法は解き放たれてしまった。

 二人の鴉によって。

 狂い始めた魔法は、次第にファフニールの体を蝕んでいく。

 壊して、惑わして、己の奴隷とする。

 それがこの魔法の効果。

 

 だが、【禁じられた狂気(ヴァーン・ズィン)】の本当の恐ろしさは別にあった。

 それは、死ぬまで隷従の効果が消えないという事だ。


「あれ? どうしてファフニールだけ?」


 不吟は疑問を口にする。

 彼の思惑では、ファフニールの護っている少女ごと魔法をかけたつもりであった。

 しかし、実際に喰らったのはファフニールだけ。

 それならば、と彼は少女の元へと一歩踏み出した。



「貴様らの……好きにはさせん……!」


 

 一頭の竜は立ちはだかる。

 その姿は、殺気に溢れていた。

 既に魔法の支配下にあるはずだが、彼の気力がそれを少しの間、上回ったのだ。

 ファフニールが護っていた少女が如何に大切な存在なのかが伝わってくる。


「まぁいいか。ファフニールが従うならそれでいい」


 不吟は冷めたようにそう言って、踵を返した。

 

「行こう、まだ任務は終わっていない」


「ああ、勿論」


 二人は宝物庫を後にした。

 


 残された竜と少女。

 ファフニールの体は徐々に魔法陣へと飲み込まれていく。


「行かないで……。貴方がいなくなったら私……どうすれば……」


 少女はその碧色の瞳に大粒の涙を浮かべていた。


「お前なら、大丈夫さ。今なら、俺以外にも仲間がいるだろ……?」


「でも……!」


「じゃあな……。次会えたら、お互い……幸せになってるといいな」


「嫌だよ、行かないでよ……!」


 そんな少女の願い虚しく、ファフニールの体は完全に飲み込まれてしまった。


 取り残された少女は泣き続ける。


 人生で唯一の友を失った悲しみは、計り知れないものだった。


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