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26話 二つ名

最新話です!

お待たせいたしました!


 ——とても危なかった。

 鬼気迫る彼女の気迫は、僕を最大限に追い詰めた。

 けれど、優秀な従者たちのおかげで、何とか難を乗り越える事が出来た。


 地面にぐったりと倒れているセラさんを見る。

 バルファさんの言葉を信じて、思い切り剣を突き刺したのだが大丈夫だろうか。


《前の試合でも、ドリューという男は死亡しなかったので心配無いと思います》


 それもそうだな。

 全身を氷漬けにされても平気だった人がいる。

 命を奪う行為を肯定する訳では無いが、今回の件に関しては楽観的に考える事にしよう。



「「はいはーい! ノアくんお疲れ様ー!! 君は相変わらず異常だし、その能力はどんな神にも由来していないようだね……。

 とりあえず、模擬戦はノアくんの勝利だよ!」

 

 またまた、異様なまでに元気なバルファさんの声が訓練場へと響く。

 普通に会話している分なら何も思わないのだが、このように拡声魔法で声を聞くと若干、頭が痛くなる。


 ふと、観覧席を見ると、席に座っているドリューさんとロミアは耳を塞いでいた。

 バルファさんが直接見ているというのに、大した度胸である。


「「ではでは、君たち四人はギルドマスター室まで戻ってきておくれ。

 昇格試験はまだ終わりじゃ無いからね!」」


 気持ち音量が大きくなったその声とともに、訓練場が元どおりとなった。

 ヴィヴィアンさんによって氷から状態変化した水は消え、セラさんの『狩猟ノ女神』によって生成された銀色の矢と毒の霧も、綺麗さっぱり消え失せた。

 そして、僕とセラさんは訓練場の真ん中で向き合っていた。


 その感覚は何とも不思議で、簡単に言えば、今までの記憶はそのままに時間が巻き戻ったかのようであった。


「戻ったか……」


 セラさんは呟く。

 この状況、なかなかに気まずいものである。

 死ななかったとはいえ、僕は殺す覚悟で彼女の心臓に剣を突き刺した。

 あの時、僕が一瞬でも戸惑えば、彼女は僕を殺していただろう。

 それは紛れも無い事実なのだ。


「私は何か間違っていたようだ……。ただひたすらに魔物を狩り尽くしていたからか、人間の感情なんてものは何処かに置き去りにしていたのかもしれない」

 

 彼女は真っ直ぐに僕を見て言った。

 その紫色の瞳は初めて会った時より、光り輝いているように見える。

 

「感謝しよう、ノア・シャルラッハロート。

 今回の戦いは私にとって大きな糧となった」


 そう言ってセラさんは頭を下げた。

 

 良かったな、お前たち。

 あれだけ強い人に感謝されたぞ。

 これはとっても名誉なことだ。


《これも、主人様の的確な指示によるものです》


 いつもの調子でエイルは僕を褒めてくれた。


《はぁ? どう考えても俺が一番、活躍しただろ!?》


 ランスロットはエイルの言葉に納得がいっていないようで、そう訴えた。

 確かに、エイルと交代してからは“合成人獣”状態のセラさんを相手にしていたし……


《えー、でも私がいなかったらご主人様は毒でやられてたよー?》


 そうシルフが口を挟む。

 ふむ。シルフの【暴れ回る風(シュトゥルムヴィント)】が無かったら、銀の矢の雨と毒の霧による攻撃で負けていたかもしれない……


《ですが、我の氷がとどめへと繋がったと思うのですが……》


 ソルドも参戦してきた。

 まぁ、あれがあったから、【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】でとどめまで行けたわけだから……


《何だお前? 新参のくせに調子乗んな!》


《そーだよ、私達は最初からご主人様に仕えてたんだよー?》


《しかし主人殿への忠義は我が……》


《うるさいぞ、犬っころ!》


《な!?》



 と、こんな風に従者同士で口喧嘩が始まったので、僕はそれを無視してギルドマスター室へと向かった。

 

 全く、僕の精神世界にいるのに騒がれては困るのだが……。

 不思議と悪い気はしない。

 むしろこの騒がしさが少し、楽しいくらいである。

 だが、そんな事は本人達伝える訳が無い。

 それを伝えれば、また色々言い出しそうだからな……。


《あの、主人様……?》


 どうした、そんなに声を潜めて?

 別にお前の声は僕にしか聞こえていないけれど……。


《いえ、そうではなくて……。

 主人様のお声は全て、精神世界にいる私達に聞こえるのです……》


 エイルはどこか恥ずかしそうに告げた。

 僕の思考が停止する。

 顔が火照って、体温が上がる。



 その後、ギルドマスター室へと向かう僕の顔が赤かったのを見て、セラさんが心配してくれたが、ただ「大丈夫です……」と連呼するしかなかったのだった。

 








 何回目か、そろそろ見慣れてきた部屋に入り、椅子に座る。

 目の前の座席にはギルドマスター、バルファ・ドラウンさんが座っている。

 セラさんとドリューさんは、起立したままである。

 僕は彼らが席に座らないのかと気にしていたが、バルファさんはそのまま話を始めてしまった。


「労いの言葉はもう聞き飽きただろうから、いきなり本題へと入ろう」


 そんな前置きがあり、本題へと向かう。


「ノアくんとロミアちゃんは、今回の昇格試験には合格した。

 だけど、いくつか問題があってね……。普通なら、模擬戦はあそこまでやらないんだよね……」


「と言いますと……?」


「確かにボクはあの訓練場でなら、死なないと言った。だけどね、実際に致死レベルの攻撃を繰り出せる人間なんていないんだよ。

 これには二つの理由がある。

 一つは倫理観として、殺すまでは行かない事。まぁ、ここは君達がボクを信用してくれたという事で問題は無いけれど、二つ目が問題なんだよ」


 そこで彼女は心底困ったようなため息をついた。

 あからさまではあるが、困った事態になっている事はひしひしと伝わる。


「その二つ目っていうのは、セラとドリューに勝ってしまった事だ。

 Aランクの冒険者の数はそんなに多くない。各ギルドに一人いればいいくらいなんだ。

 だから君達が彼らに勝ったとすると、君達も実力だけならばAランクに匹敵するって事だよ」


「はぁ……」


 僕は気の抜けた返事をしてしまった。

 今の話では、Aランクの冒険者の存在が希少って事が伝わっただけである。

 そこから問題という話に繋がらない。


「本当はこの昇格試験は、君達がセラ達に負けるけど、その試合の様子からどこまでランクを昇格させるかを決めるっていうのが当初の予定だったんだ。

 そ・れ・な・の・に! 蓋を開ければ、君達が勝ってしまったじゃないか!」


 突然、バルファさんの声が大きくなる。

 

「ごめんごめん。少し取り乱してしまったね。

 話を戻そう。

 ギルドの規則として、昇格試験ではランクを一つしか上げることが出来ない。特例であっても二つまで。

 つまり、君達が上がれるのはEの二つ上、Cランクまでという事。

 実力がAランクなのに表記されるのはCランク……。これでは色々な不都合が出てしまうんだよ」


 なるほど?

 つまり、実力的な話で考えればAランクのクエストを受けられるのに、冒険者として表記されるランクがCだから受けられない、なんて事が起きるかもって話のようだ。

 僕の場合、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』を使わない時の実力などCランクあるかどうか位のはずなので、丁度いいと思う。

 けれども、ロミアの場合を考えると、僕のようにはいかない。

 彼女の魔法の実力は本物である。

 それが『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』の権能が影響しているとしても、積み重ねてきた魔法の情報は彼女が学んできたものだから、それはロミア本来の実力と言って差し支えないだろう。



「そこで、ボクは案を思いついたんだ!」


 バルファさんが翡翠色の瞳をキラキラと輝かせる。


「ノアくんとロミアちゃんに二つ名をあげようと思うんだ!」


 その突拍子も無い発言に、僕は反応出来なかった。

 そんな僕の代わりにロミアが質問する。


「二つ名ってなんですか……?」


「二つ名は、Aランク以上の冒険者だけが持つ異名の事だよ!

 例えば、セラなんかは“月下の狩人”って二つ名があるし、ドリューは何だっけ? 髭もじゃおじさんだっけ?」


 ドアにもたれかかるドリューさんは憂い顔で言う。


「“文字使い(ルーンマスター)”だよ……」


「ハハハッ。いつ聞いてもカッコ悪いね! “文字使い”《ルーンマスター》って。二文字しか使わないのにね!」


 バルファさんは心底可笑しそうに笑っている。

 対してドリューさんはガックリと肩を落としていた。


「ま、どっちも僕が付けたんだけどね」


 そんな怖い事をさらっと言ってのけるバルファさん。

 要するに、彼女の気まぐれでドリューさんのような二つ名になってしまうかもしれないという事か……。

 

「じゃあ、早速ロミアちゃんの二つ名を付けてあげよう!」


 きっと、ロミアも僕と同じような考えに至ったのだろう。

 その顔色は優れない。


「うーん。ロミアちゃんはボクと似て可愛いから、いいのにしたいな〜」


 なんだと。

 顔が可愛い者でないといけないのか……?


「あ! “白い魔法使い(プラトニック)”なんてのはどうだろう? 今のロミアちゃんにぴったりじゃないかな?」


 その言葉を聞き、ロミアはどこか安心したような表情をしていた。

 白い魔法使い(プラトニック)。的確で良いのではないだろうか。

 

 ロミアの二つ名が普通で良かったと思うのと同時に、僕の不安が増していく。

 まさか、変な二つ名を付けられてしまうのだろうか……。


「じゃ、次はノアくんだね。ノアくんの二つ名はもう決めておいたんだ!」


 バルファさんは嬉しそうに言った。

 そして、彼女はその笑みを崩さぬまま、僕に二つ名を告げる。



「——紅目の魔導師。それが君の二つ名だ、反論は認めないけれど異論は認めるよ?」


プラトニックという響きが好きすぎて……。

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