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25話 ランク昇格試験 その4

遅くなり申し訳ありませんでした!!

修正いたしました(2019/03/03)


《主人様!! 主人様!!》


 エイルの声で僕は我に帰る。

 

《あの矢は情報管理でも変換が出来ません! 私が矢を避けている間、打開策を!》


 エイルはそこで会話を終了した。

 僕は何も言っていないから、会話ですら無く、ただの報告だったが……。

 おっと、そんな事を言っている暇もなさそうだ。

 だが、打開策と言われてもなぁ……。

 

 僕はふと、視界に意識を集中させる。

 矢の着弾したところから薄っすらと何かが漂っている。

 紫色の霧。

 僕の記憶の中で該当するのは毒の霧くらいだ。

 まずい——。

 このままでは、訓練場一帯が毒で包まれてしまう。

 

 エイル、お前は矢の回避に専念してくれ。

 僕はこの毒をどうにかする。


《了解です》


 エイルは僕を信用してくれたようで、即座に了承してくれた。

 ……それでは、どうするか。

 と言っても、僕自身では何も出来ない。『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』を使ってどうにかするしかない。

 まず、毒を情報子に変換しよう。

 僕は毒の霧へと意識を集中させた。



 ——結果は実行不能。

 これは、矢の変換が出来なかった事と同じだろうか。

 僕は慌てない。ここで慌てても意味が無い。大変な時こそ落ち着くべきなのだ。

そう神父様も言っていた。

 話を戻そう。

 毒が変換出来ないのなら、吹き飛ばすのはどうだろう。

 『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』に誰かいただろうか。


《それならシルフがいるぞ。あいつなら突風を起こせる》


 お、その声は……ランスロット!!

 お前、僕の危機に駆けつけてくれたんだな!


《は? 違うけど? お前が死んだら俺達も消えるからに決まってんだろ》


 ランスロットは今日も僕に厳しい。

 彼の発言はいつも辛辣だ。

 まぁ、今はこの助言を有り難く聞き入れよう。

 僕は頭の中でシルフを呼び出し、相談してみる。


 シルフ、お前ならこの毒の霧をどうにか出来るか?


《勿論だよ、ご主人様! 私に任せて!》


 おぉ、とても元気がいいな。

 これは期待できそうだ。

 じゃあシルフ、僕の合図で毒を吹き飛ばしてくれ。


《わかった!》


 よし、これで毒の霧はどうにかなる——はずだ。

 僕は全ての意識を視界に向けて、機会を待った。




 

 降り注ぐ矢の雨が少しばかり途切れた時、僕はシルフを召喚した。

 頼むぞ、思いっきり吹き飛ばしてくれ!


《よーっし、いっくよー! 暴虐の魔神、荒唐無稽な夢、眠りから目覚めた大蛇。刮目し、吹き荒れろ!【暴れ狂う風(シュトゥルムヴィント)】!》


 そんな感じで、無邪気な感じな掛け声で、凶悪な魔法が発動された。

 竜巻の如く渦巻く風が、毒の霧だけとは言わず、銀の矢ごと吹き飛ばした。

 ここは一応、屋内なので完全には吹き飛ばせない。端に寄せるだけである。

 要するに意味だけを要約すると、再び毒の霧が充満する前にセラさんを倒さなければならないという事だ。


《お見事です、主人様》


 エイルが疲れ気味な声で言った。

 それもそうか、『知識は世界を開く鍵』の情報処理でも追い付くのがやっとの速さだ。相手取るのは骨が折れただろう。僕なら全身の骨が砕け散っていただろう。

 エイル、一旦僕に代われ。今は休んでおいてもらおう。


「ここまで足掻くか……。ハハッ、面白いな!」


 セラさんは言う。

 彼女はこの試験を遊戯として捉えている。自分の力を試す機会として捉えている。

 僕の感覚的にセラさんは僕を人として認識していない。

 彼女の目には、二足歩行で会話の出来る動物が映っているのだろう。

 僕は何となく、本当に何となく言葉をこぼした。


「……僕は狩りの獲物じゃない」


 これは僕の心からの発言だろうか。

 考えてみたがわからない。

 しかしながら、僕の声帯を震わせて発した言葉なのは間違いなかった。


「今、何か言ったか……?」


 鋭い視線をさらに鋭利にして、セラさんは僕を睨んでいた。

 僕は臆することなく言葉を返す。


「僕は狩りの獲物じゃないと言ったんです。

 知識を有する人間として、僕は全力を尽くします。

 だからセラさんも、貴女の持つ全ての力で相手してくれませんか?」


 僕の頭の中では止めようとしていたのに、言葉は止まらなかった。

 衝動的に感情的な発言をしてしまった。

 どこか見下した彼女の目が気に食わなかったのだろうか。

 だとしたら笑えない。

 そこまで僕は考え無しだったか。


《主人様は私たちの事を思って、発言してくれたのでしょう》


 エイルが僕に言う。

 僕じゃなく、エイル達の頑張りが無意味だと言われたような気がしたのか。

 それが本当かどうかは知り得ない。

 だけど、今はそれでいい。

 仮にも主人として、僕は従者達のために戦おう。


「そうか。お前は面白い人間だと認識を改めよう。

 悪かったな、ノア・シャルラッハロート。ここからは本気で、死ぬ気で、全力でお前を殺す事だけに集中しよう。

 『狩猟ノ女神』の権能の全てでお前を殺すと誓おう」


 セラさんは断言した。

 僕を殺すと言い切った。

 怖くて恐くてたまらない。


 あの戦闘特化の人間を死ぬ気で戦わせるのだ。

 僕なら一瞬で殺されるだろう。

 だから皆、もう少しだけ手伝ってくれ。


《お任せを。私達が望んでいるのは、主人様の勝利のみです》


 エイルからの力強い返答。


 悪いが、僕に更なる知識を貸してくれ。

 










 『狩猟ノ女神』という能力がその権能の全てを解放する。

 セラの目には、ノアの身体的情報が明確に映し出されている。

 そして、セラはゆっくりと刀を構えた。

 

「行くぞ」


 彼女の白い足は、訓練場の地面を強く蹴った。

 ノアの首に刀の刃が迫る。


 すると、ノアは情報子を変換した槍でそれを受け止めた。

 彼の右目は青く光っている。

 今まで戦闘を行っていたエイルの代わりに、ランスロットを憑依させたのだ。

 

「速いが、軽いな。速いだけじゃ俺は殺せないぜ」


 ノアの顔で喋っているが、口調はランスロットのものである。

 ノアは槍で刀を払い、セラの心臓を貫かんとする。

 しかし彼女は素早い身のこなしでそれを躱した。


 セラは間髪入れずに能力を発動する。


「『狩猟ノ女神』に願い出る。これまでに葬ってきた魂を呼び覚ませ!」


 セラの肉体が変化していく。

 左手には鋭い爪が発現し、刀を持つ右腕は鎧のような甲殻に覆われた。

 今までに狩ってきた魔物たちの特徴をその身に反映させる“合成人獣キメラ”。

 合成人獣キメラは体力を大量に消費するが、その近接戦においての攻撃力は凄まじい。

 これを発動した意味。それはセラが短期決戦を望んでいる事を示していた。

 ノアも同様に、ランスロットを憑依させて戦える時間はそう長くない。


 つまり、彼らはお互いに短期決戦を望んでいたのである。


 

 

 そこからセラの猛攻撃が始まった。

 絶え間なく襲い来る刀と爪。更には蹴りも繰り出され、ノアは防戦一方となっていた。

 巧みな槍さばきで攻撃を受け流す。

 だが、受けきれなかった攻撃により、小さな傷が増えていく。

 そしてこのまま、セラが押し切るかと思われた。


「俺の勝ちだな」


 ノアがそう言った。

 セラは攻撃を止めない。

 何を馬鹿な——とセラは思っていた。

 この状況で押しているのは自分である。それは紛れも無い事実であった。

 確かにセラの猛攻でノアは攻撃を防ぐ事しか出来なかった。

 


 ——そう、ノアだけは。



 訓練場の地面に氷が張られていた。

 これはソルドが猟犬の相手をしながら行ったものだ。

 セラはその事に気付いてはいたが、気にしてはいなかった。

 ノアを殺す事だけに集中していたのが原因である。


 そして湖の乙女、ヴィヴィアンが氷を水へと変え、訓練場が水浸しとなる。

 ここでセラは周囲の状況を認知し、ノアから距離を取った。

 

 ノアはこれを好機とばかりに魔法の詠唱を唱える。


「雷の精霊、雷鳴の幻想、孤高の瞬き。澄んだ虚空を駆け巡れ! 【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】!」


 ノアが唯一習得していた上位魔法を水に向けて放つ。

 その電流は水を伝って、セラの体にまで到達した。

 全身に巡る電流。

 それはセラの筋肉を痺れさせ、動きを妨げた。

 

「ぐあああぁぁぁ!!!」


 セラの絶叫がこだまする。

 普通の人間ならば、この一撃で意識を失っていただろう。

 しかし、彼女は違った。

 感電した後も、膝を折る事なくノアを睨んでいる。

 その精神力はSランクに届き得る冒険者として相応しいものだった。


「貴女が全力を尽くしてくれて良かった」


 ノアはセラに近づきながら、そう言った。

 そんな彼の目は本来の紅目へと戻っている。


「だから、僕は勝つ事が出来ました」


 情報子変換により、槍を剣に変えてセラの前に構える。

 そして、彼女の心臓へと剣を突き刺した。


 深く。


 深く。


 深く。




 快勝ではないけれど、辛勝ではあったけれど、勝利を収めたのはノア・シャルラッハロートであった。

  

 


ランク昇格試験はこれで終了です!

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