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24話 ランク昇格試験 その3

大変、遅くなりました。

申し訳ありません!

修正いたしました(2019/03/03)



 僕は目を疑った。

 疑り深く注視した。

 今、自分の視界に映っている映像が夢ではないか確認する。

 頬をつねっても痛みは感じるのでこれは現実なのだろう。

 しかしながら、何だあれは?


《魔法陣を介した多重術式魔法かと……》


 いや、僕が知りたいのはそんな事ではない。

 彼女のどこに【氷獄アイス・ゲフェングニス】を発動出来るほどの魔力があったのか。それを僕は知りたいのだ。それが僕の聞きたいところなのだ。


《魔法陣を介した魔法では、魔力を消費しません。つまり、魔法陣を正当に正確に配置できれば、誰でも【氷獄アイス・ゲフェングニス】を発動可能です》


 あ、そうなのか。

 じゃあ、僕でも魔法陣を使えば発動出来るのか?

 

《申し訳ありません、前言撤回させて頂きます。魔法陣を使用すれば、確かに発動時に魔力を消費しませんが、魔素は大量に必要です。それこそ、ロミア様のように異常なほどの魔素量でないと人間では発動できません》


 おいおい、それは前言撤回では済まされないぞ。

 ロミアほどの魔素量とか、遠回しに他の人じゃ不可能って言っているようなものだ。

 ……まぁ、魔法分野において彼女と争うつもりは無い。

 そもそも勝負にならない。

 同じ舞台にすら立てていないのだ。



 僕がロミアの魔法について考えていると、天の声(バルファさん)が口を開いた。


「はい! お疲れ様!! いやー、ロミアちゃんの魔法は凄まじい威力だね!

 とりあえず、模擬戦のほうはロミアちゃんの勝利だ!」


 天の声はロミアの勝利を告げる。

 まぁ、それは一目瞭然なので目立って特筆する事はない。

 強いて言うなら、ドリューさんが可哀想だから早く魔法を消してあげて欲しい。

 バルファさんは続ける。


「それじゃ、次はノアくんの試験を始めるよ! 二人とも、降りてきて!」


 セラさんは直ぐに立ち上がり、下へと降りていく。

 僕は深呼吸をしてからその後を追った。


 訓練場へ入る時、ロミアとドリューさんとすれ違った。

 僕はロミアの頭を軽く撫でてやった。

 

「頑張って下さいね!」


 彼女からの声援を背中に受け、僕は試験に臨む。



 


 



 僕とセラさんは訓練場の中央で対峙する。

 セラさんの目は鋭く、獲物を狙う狩人のような雰囲気だ。

 一分の隙も無く、全神経を研ぎ澄ましている。

 彼女の装備はビキニアーマーではあるが、黒くて長い布を腰に巻いているため、白い右足だけが露わになっている。そして上半身には赤くて短い上着を着ていた。


 何故、僕がセラさんの装備について異様に細かく説明しているのかというと、彼女があまりにも軽装だったからだ。べ、別に、その容姿に見惚れていたわけではない。

 先程の試合を思い出してみよう。

 確かにドリューさんも軽装備ではあったが、全身は守られていた。

 しかし、セラさんの装備では防御面に何の期待も出来ないだろう。まるで、自分が攻撃を受ける事を想定していないかのようだ。

 そしてもう一つ。

 彼女が持っている武器について。

 僕の持っているロングソードや、ドリューさんの片手剣は両刃で真っ直ぐになっている。

 だが、セラさんの持っている剣はやけに反っていた。緩やかに湾曲している。


《あれは刀と呼ばれる武器です。刃は片側にしかついていません。主に斬撃と刺突攻撃に用いられます》


 へぇ、刀って言うのか。

 十分に気をつけなければ、すぐに心臓を貫かれてしまいそうだな。

 バルファさんがこの訓練場では死なないと言っていたが、痛みを感じないとは言っていなかった。つまり、死ぬ直前がずっと続くという事。それは死ぬより痛いだろう。


 僕は再び深呼吸をして、開始の合図を待つ。


 そして張り詰めた空気を震わせて、天の声が響いた。



「お互いに準備はいいかい? まぁ返答はどうあれ、始めるんだけどね! それじゃあ、試験開始だよ!」



 バルファさんの傍若無人さを滲ませながら、試験の開始が告げられた。








 試験が開始されてから数秒間、ノアとセラは睨み合う。


 ——空気が揺らぐ。

 次の瞬間、両者は激突した。

 文字通り激しく、衝突した。

 ロングソードと刀がぶつかり合い、火花が散る。


 ノアは既にエイルを憑依させていた。

 そのため、銀色の髪は伸びて右目が金色に変化している。見た目は完全に女性にしか見えない。

 一方でセラは『狩猟ノ女神』を発動し、ノアの動きを観察していた。

 『狩猟ノ女神』は魔物を狩る事に特化したスキル。しかし、それが発動出来る相手は狩りの対象とされた物だけ。つまり、セラはノアをただの獲物としか認識していないかった。


 激しく競り合った後、お互いは一度、後方に飛んで距離をとった。

 お互いに相手の様子を伺っている。

 彼らは、その間に競合いの時間で得た情報を整理する。

 

「ノア・シャルラッハロート、私は試験官という立場だが全力で臨む。だからお前も全力で来い」


 セラはノアに向けて言った。

 それを受けてノアは、少し困った顔をしてから答える。

 女性のような声がセラの耳へ届く。



「な、なるべく頑張ります」



 その曖昧な返事を合図にセラは動いた。

 右手を上に掲げ、能力を行使する。

 

「『狩猟ノ女神』に願い出る。黒き猟犬を解き放て……!」


 その声に呼応して、二匹の黒い犬が出現した。

 狼と見紛うばかりの体躯を持ち、低い唸り声を上げている。


「敵を引き裂け」


 セラの短い命令を聞き、猟犬はすぐさまノアに襲いかかる。

 ノアは焦りを感じていた。

 セラ自身の身体能力はとても高い。セラ一人だけでも相手をするのに骨が折れるほどだ。それに加えて使い魔の猟犬が二匹増える事は、ノアにとって不都合でしかなかった。

 

 猟犬の鋭い牙を剣で受け流す。

 二匹の波状攻撃をかわしていくが、そこへ更にセラの剣撃が加わる。

 ノアは必死に避け続けた。

 死なないように死ぬ気で体を動かした。

 実際のところ、エイルが主人の体を傷つけまいと奮闘しているのだが……。

 それは見ているだけの人間にはわからない。

 ノアは『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』による情報管理を用いて、全ての情報を高速で処理する。

 それでもやっと対応出来るだけで、反撃の余地はない。

 このままでは、ノアが蹂躙じゅうりんされる未来しか残されていなかった。


 

 






 おいおいおい、どうする!?

 今、エイルがどうにか頑張っているが、いずれ対処しきれなくなってしまうだろう。

 状況的に二対三だが、僕は何の役にも立っていないので実質一対三である。

 誰かを召喚しようかとも思ったが、僕が勝手に判断すればエイルの邪魔になるかもしれない。

 下手に魔力を消費して負けるなんて事にはなりたくない。


《主人様、ソルドを召喚しましょう。私は攻撃を捌くので精一杯です》


 エイルの声が響く。

 その声には余裕など感じられなかった。

 僕は急いでソルドを呼び出す。


 おい、ソルド!

 エイルを手伝ってくれ!


《え? あ、はい?》


 ソルドはいきなりすぎて驚いている。

 どこか浮ついた様子だ。

 しかしながら僕は、ソルドの心象など無視して召喚した。

 光の粒子が形を成して飛び出す。

 そして、二匹の黒い猟犬と対をなす白狼が出現した。

 

 よし、それじゃあソルドは犬達をどうにかしてくれ。

 

《了解!》


 何となく状況を察したソルドは氷のつぶてを放ち、二匹の猟犬をエイルから遠ざけた。

 ソルドが猟犬の相手を引き受けたため、エイルはセラさんとの勝負に集中出来るだろう。

 これで二対三だ。もし、僕を頭数に入れるなら三対三。

 数的な部分では平等だ。

 戦力の総計は度外視しているけれども。

 


「なかなかやるようだな。いい機会だ、お前に良いものを見せてやろう」


 

 剣の激しい打ち合いの末、再び距離をとったセラさんは言った。

 対戦相手が言う“良いもの”ほど見たくないものは無い。

 僕は丁重にお断りしたかったが、体の操作はエイルが行なっているためできなかった。

 セラさんは猟犬を召喚した時のように、右手を上に掲げた。


「『狩猟ノ女神』に願い出る。疫病をもたらす銀の矢を放て!」


 すると今度は、空中に光り輝く紋章が浮かび上がった。

 そして、そこから無数の銀色の矢が放たれたのである。




 僕は、ただその光景を見つめる事しか出来なかった。

 


『狩猟ノ女神』はもちろん、アルテミスがモチーフなんですれども、結構エグい事してるんですよねアルテミスって……。

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