23話 ランク昇格試験 その2
昨日は大変申し訳ありませんでした!
修正いたしました(2019/03/03)
先に行われるのはロミアの試験だ。
僕とセラさんは訓練場の二階にある観覧席でその試験を見物する事にした。
観覧席へ向かう途中、セラさんに話しかけてみようとしたがやめておいた。彼女から溢れ出る殺気が凄かったからである。
話しかけた瞬間、首を掻き切られそうだった……。
観覧席に着き、先にセラさんにが着席する。
僕は彼女の二席離れたところに座った。
さて、ロミアはどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
言い忘れていたが、ベルとソルドは宿屋で留守番している。
いい結果を報告したいものだ。
「二人とも、準備はいいかい? 」
バルファさんの声が訓練場に響く。
ロミアとドリューさんは静かに頷いた。
「では、試験開始!!」
ロミアはAランクの冒険者、ドリュー・グエルフと対峙する。
ドリューの外見は、気の良い三十代のおじさんという感じだ。武器は盾に片手剣で防具はレザー一式。
冒険者によくある装備の組み合わせだが、ドリューの物はかなり使い込まれている。
(雰囲気はとても優しそう……。だけど、全く隙がない。どう攻撃しても反応されてしまいそう……)
ロミアは表情を曇らせた。
はっきりと言えば、彼女とドリューの相性は最悪だろう。
ロミアは魔法による遠距離攻撃がメインだ。
ドリューの剣の間合いにまで入られてしまえば、勝ち目はない。
それにドリューがロミアの魔法を回避し続け、長期戦に持ち込まれたりしても、勝負の行方は怪しくなる。
「お嬢ちゃん、これは試験だ。やるからには全力で行くぜ」
ドリューが片手剣をヒラヒラとさせる。
余裕な態度を見せる彼に対し、ロミアは言葉を発さずにただ頷いた。
そして、昇格試験という名の試練が始まった。
先に動いたのは意外にもロミアだった。
試験開始直後、杖を掲げて魔法を発動した。
「大地の鳴動、彷徨う精霊、吹き抜ける息吹。薙ぎ倒せ!【土の竜動】!」
地面に巨大な魔法陣が展開する。
すると訓練場の地面が隆起し、うねり、竜の形を成した。
天井にまで届きそうなその姿に、ドリューは息を呑んだ。
大きく顎を開いた竜は彼を喰らわんと突撃する。
「デタラメにも程があるだろ……」
ドリューはぼやきながらも身軽に竜を躱す。
その表情にはまだ余裕があった。
(強力な広範囲魔法をいきなり使ってくるとはな。策士か……それともただの愚者か、どちらだ?)
ドリューは考えを巡らせる。
しかし、まだ答えは出ない。ロミアの真意を知るには、なるべく早く攻撃に転じなければならなかった。
様子見として、ドリューは火球を二発放つ。
「火の精霊よ、自然の理に介入し、その力を示せ! 【火球】」
彼は魔法職ではないため、下位魔法を放つにも詠唱が必要であった。
放たれた二発の火球は一直線にロミアへと飛んで行く。
彼女に直撃しようかというその瞬間、ロミアは右手で火球を消し去ってみせた。
一瞬だけ魔法消去を発動したのである。
これは『魔導書の記憶』の権能の一つ。
七日間、ロミアもノアと同じように自身の能力を研究していたのだ。
自身の発動させた魔法をどうすれば消せるか、という研究をしていたら魔法消去を獲得したのだった。
魔法が打ち消されたことに、多少驚いたドリューであったが、すぐに冷静さを取り戻した。
ドリューは土でできた竜を躱しつつ、ロミアへと近づく。
そして巨大な竜の足の隙間を掻い潜り、ロミアの目の前にまで近づき、片手剣で彼女の首を斬り落とそうとした。
魔法付与された片手剣は軽々とロミアの首を斬るはずだった。
しかし斬ったのは……いや、切ったのは空であった。
ロミアが転移魔法により訓練場の端へと移動したからである。
「全く……魔法をそんなに連発して平気なのかい?」
純粋な疑問をぶつけるドリュー。
あの土の竜を発動させているだけでかなりの魔力を消費しているはずで、その間に別の魔法を発動させるだなんて自分の首を絞める行為なのだ。
彼には不思議で不気味だと感じた。
だがこれは試験であり、ギルドマスターが見ている。
失望させるような真似はできない。
ドリューは再び攻撃を仕掛けた。
「〔追撃する牛よ、果敢に猛進せよ〕!」
声高々に叫ぶ。
それはルーン文字が刻まれた武器の本当の力を発揮するために唱える詠唱。
ルーン文字とは、刻み込んだ種類によって効果が変化するという特殊な文字の事である。
ドリューの持つ片手剣にはUの文字が刻まれている。読みはウル、意味は野生の牛。このルーンを使用する事で強力な刺突技が発動できる。
剣の先端が途轍も無い速度でロミアへと迫る。
ロミアは瞬時に思考加速魔法を発動させ、体感速度を引き延ばす。
これはあらかじめ、詠唱を唱えておいて、突発的な事態に対応できるように準備していたのだ。
魔法のおかげでコマ送りで映像が見えるのだが、それでもドリューの攻撃は速かった。
剣を紙一重で躱し、ロミアは壁に沿って訓練場の周りを走り始めた。
移動速度上昇魔法で速さを強制的に上げ、走り抜ける。
土の竜により、ドリューの追撃は阻害される。
「おいおい、この竜はいつになったら消えるのかなぁ!?」
彼は強力であるにも関わらず、持続時間の長い【土の竜動】に苛つきを感じ始めていた。
これはロミアの魔素量が異常に多い事と、杖を媒体にしているため、彼女の魔力の消費量が抑えられている事に起因する。
「そんなの簡単です! 私を倒せれば、【土の竜動】は消滅しますよ!」
走りながらロミアはドリューを煽り立てる。
その言葉は彼の気分を更に悪くさせるには十分であった。
ドリューは再び詠唱を唱え、今度は土の竜に刺突攻撃を繰り出す。
その攻撃は竜の頭部をいとも容易く破壊して、土塊が訓練場へ散らばった。
「次は、お嬢ちゃんがこうなる番だ!」
威勢良く叫ぶドリュー。
それに対してロミアは疲弊した様子を見せていた。
彼女は訓練場の中心で膝をついた。
今まで複数の魔法を発動させていたため、魔力が底をついたのだろう。
(試験の最中に座り込むなんて、やはり愚者だったか……!)
ドリューは勝利を確信し、疲弊しているロミアへと剣を振りかぶり、
「〔降り頻る雹よ、破壊を伴う変革を起こせ〕!」
と、彼は今までとは別の詠唱を唱えた。
ドリューの持つ片手剣は特別製で、技能国ルサンザの職人によって鍛えられた物。
普通は、ルーン文字は一文字しか刻めないのだが、その剣には二つのルーン文字がそれぞれ、裏と表に刻まれている。
それにより、二種類の特殊攻撃を放つ事ができるのだ。
そうしてドリューは右足を一歩前に、強く踏み出した。
その衝撃は地面を伝い、ロミアの体を震わせる。
しかし次の瞬間、地面に幾重にも折り重なった魔法陣が浮かび上がった。
「停止した時間、崩れ去る氷塊、凍結した心臓。生きとし生けるものの自由を奪え。【氷獄】」
彼女は小さな声で詠唱を唱えた。
そして、大規模で、複雑な魔法が発動した。
訓練場にあったロミア以外の全てが動きを止める。
その場はまるで、時間までもがその流れを停止したかのように静まり返っていた。
全ての中に例外は無く、ドリューも剣を振りかぶった姿のままで凍らされている。
ロミアの昇格試験はただならぬ冷気と共に終了したのだった。




