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22話 ランク昇格試験 その1

新章です。

よろしくお願いします!

修正いたしました(2019/03/03)


 黒髪の男は考える。

 思考し、思案し、思索する。

 普通の人間であれば、脳が焼き切れるほどの速さで情報を処理していく。


「さて、次はどの駒を動かそうか……」


 男は目を開いた。

 薄暗い部屋の様子が目を介して男の元に情報として伝わる。

 

不吟フギン夢忍ムニンはいるか?」


 男は虚空へ呼びかける。

 すると男の影から二人の従者が出現した。

 

 二人は男の前に跪き、こうべを垂れて指示を待つ。


「“剣”と“槌”の進捗はどうだ?」


 男は問うた。

 

「“剣”に変化はありませんが“槌”はキングへ覚醒。また、“槌”のグループ内に2〜3匹、覚醒予定の個体がおります」


 夢忍が淡々と答える。

 しかしその答えは男にとってあまり芳しいものでは無かった。

 

「そうか……。それは困った、“斧”を基準に考えたのがいけなかったな」


 男はそう言いつつも口元に笑みを浮かべている。

 そして、少しの間で代替案を考えついた。


「それならファフニールとドラゴン達を暴れさせろ、その間に“剣”と“槌”の覚醒を急げ」


「よろしいのですか? ファフニールを動かせば、宝物庫の守りが無くなりますが……」


「あいつが守っている宝に大した価値は無い。だから、いてもいなくても変わらない。要するに捨て駒として、囮になってもらうだけだ」


 男は冷たく言い放った。

 そこに感情は無く、利害のみを考慮した発言だった。



「理解しました。行動に移ります」



 不吟と夢忍は一礼し、男の影へと沈んでいった。


 

 二羽の鴉は影に潜み、密やかに任務を遂行する。

 そしてまず一つ、悪意が目覚める。

 その悪意を振り撒くまで、そう時間はかからないだろう。

 思考と記憶は暗躍を開始した。





            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ——ここは訓練場。

 奇々怪々な機械が壁に複数体、配置されている。

 これは訓練用自立人形という代物で、バルファさんが知り合いと造ったらしい。技術力は凄いが、その凶暴性を僕は知っているため、あまり使いたいとは思わない。

 

 僕がロミアと別れて再びここに来た理由、それは『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』を研究するためだ。

 この能力はとても多機能ではあるが、僕は完全に理解できていない。ほとんどエイルに任せていたから、この際に研究しようと思ったのだ。


「ノア様、ここは室内なのにとても広いですね!」


 ソルドが尻尾を激しく振っている。

 広い場所が嬉しいのだろう。

 今回も僕達だけの貸切である。バルファさんに昇格試験へ向けて訓練をしたいと言ったら快諾してくれたのだ。



「さて、まずは何から確認しようか…………。あ、ソルドはその辺を走ってていいぞ」


 僕がそう言うと同時に、ソルドは駆け出した。

 土煙が舞い上がる。

 

《昇格試験の際は、召喚を行なってもいいのでしょうか?》


 うーん? それは微妙だな。

 僕が召喚師で使い魔を召喚するなら話はわかるが、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』の場合はちょっと違うからなぁ。

 エイルやランスロットはほぼ人間と変わらないし、反則とかになりそうだ。


《では、憑依で戦いますか?》


 そうだな。憑依が一番、問題視されにくそうだ。

 そうなると、どの瞬間で憑依を発動させるかが問題になる。

 初っ端から発動させると、長期戦に対応できない。


《では、実際に試してみましょう》


 エイルが僕の発言を受けて、提案する。

 確かに、実際に試してわかる事もあるだろう。

 僕は憑依を実行させた。



 体の感覚は無いが、意識だけは残っている。

 エイルが僕の体を操っている状態だ。


「おや? ノア様、そのお姿は?」


 今まで走り回っていたソルドが、いつのまにか僕の目の前でお座りしていた。

 狼のはずだが、ほぼ犬と変わらないな。


「ああ……。ぼ、僕の能力でこうなっている」


 聞き慣れた凛とした女性の声。

 それはまさしくエイルの声だった。

 僕は意識を視界に集中させる。するとそこには輝く銀髪が映っていた。

 そしてさらに視線を落とすと、なだらかな双丘が……。


 エイルさん、憑依によってこんなに肉体が変化するんですか?


《最初に発動した時に気づかなかったのですか?》


 いや、そんな余裕はありませんでしたよ。

 あなたがどれだけの速さで戦闘してたか覚えてますか?

 

《それは……申し訳ありませんでした》

 

 これではもう、別人だ。

 性別が変わってしまっている。

 反則とか以前の問題だ。


《しかし、これもれっきとした主人様の能力です。きっと大丈夫でしょう》


 そういうものか……?

 まぁ、いいや。

 何か言われたらその時に考えよう。

 僕は楽観的に考え、問題を後に回した。

 




 それから僕はソルドとの戦闘訓練を行った。

 憑依状態でどれまでの時間、戦えるかを確認するためだ。

 ソルドの氷による捕縛や攻撃が厄介だったけれど、情報管理の敵では無い。

 全ての攻撃を情報子に変換し、エイルの剣撃で圧倒することが出来た。


「では、今日はこの辺にしましょう」


 日も暮れてきたであろう頃、エイルはそう告げた。

 彼女はすっかり僕の真似をする事を忘れ、普段の口調になっていた。

 憑依を解き、僕と交代する。


 やはり、憑依でも長時間の使用は難しそうだな……。

 短時間で勝負を決める必要がありそうだ。


「じゃ、宿に戻ろう」


「了解です!」


 僕とソルドは訓練場を出て、宿屋へ向かった。

 







 まぁ、このような調子で僕は七日間、ずっと訓練をして過ごしていた。

 省略し過ぎ……?

 そうかもしれないが、僕の変わり映えのない訓練の様子を聞いても意味が無いだろう。

 その代わりと言っては何だが、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』について少し紹介しよう。


 『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル

 ・召喚・・・魔導書に登録されている従者を召喚する

 ・憑依・・・従者を自身の肉体に憑依させる

 ・情報子変換・・・物質や現象を情報子という粒子に変換する、他人の命や魂に干渉することは出来ない

 ・情報子操作・・・変換させた情報子を操作する、情報子の組み換えをする事も可能


 ざっと要約するとこんな感じだ。

 今回の能力研究で初めて知ったのは、情報子変換、情報子操作の部分。

 まず、他人の命や魂に干渉が出来ない、について。

 これは当たり前と言えば当たり前だろう。そんな恐ろしい能力を持つ度胸など僕には無い。

 そして情報子の組み換えも可能、という事について。

 これは簡単な話、物質の形状を変化させられると考えてもらっていい。剣を槍にしたり出来るって事だ。

 明らかに質量は違うのだが、今までに蓄積した情報子で補っているそうだ。

 

 はい、能力の話はここまで。

 






 僕とロミアは冒険者ギルドにやって来ていた。

 そう、今日はランク昇格試験当日だ。

 

 「い、行くか」


 何度目だろうか、僕はギルドの扉を開けた。

 

 中へ入ると受付嬢が僕達を待っていた。

 彼女に連れられ、僕達は訓練場に向かう。

 

 

 訓練場にいたのは以前に見た女性と一人の男だった。

 僕達が訓練場に入るとあの溌剌はつらつとした声が響いた。


「やっほー! 元気だったかい? 今日は待ちに待った昇格試験だね。早速、試験の内容について説明するねー!」


 前にギルドマスター室で会話した時とはまるで別人だ。

 仕事は仕事と割り切っているのだろうか。

 

「さて、今回行ってもらうのは一対一の模擬戦だよ! 武器は自前の物を使っていい。そして、この訓練場の中なら何をしたって構わない。判定はボクがやるから好きに暴れてね!」


 模擬戦……それなのに武器は自前の物でいいのか。

 それはもう模擬戦と呼んでいいのだろうか?

 

「安心して、『掟ノ女神』でこの場に掟を定めている。この訓練場の中で命を落とす事は絶対に無いよ」


 僕の心の声を読み取ったのか、バルファさんははっきりと言い切った。

 『掟ノ女神』……。それはスキルの名前だろう。前、僕に土下座を強制させた凶悪なスキル。名前からして掟に関連するスキルのようだが、その本当の権能は未だに謎である。


「そして君達の相手を務めるのが彼らだよ。えーっと、そっちの陽気そうなおじさんがドリュー・グエルフ。Aランクの冒険者だ。

 それで、そっちの怖そうな女性がセラ・アルテミア。このギルドの中で最もSランクに近い冒険者さ。

 組み合わせはロミアちゃんの相手がドリュー、ノアくんの相手がセラで行うよ」



 ……申し訳ない。少し時間を取らせて欲しい。

 Sランクに最も近い冒険者だと?

 そんな人間が何故、昇格試験なんかに……。

 

 僕の心の中の不安というか憂いは届かず、バルファさんの無慈悲な宣告が響く。


「はい! ではそろそろ始めるよ! 最初はロミアちゃんの試験から行う、ノアくんは安全な場所で見ていてね!」


 今気づいたけれど、バルファさんから普通に名前で呼ばれていた。

 いつ知られたのだろうか。



「さぁ、全力でボクを楽しませておくれ!」

 

 



 試験ではなく試練が今、始まる。


 

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