21話 結果報告
遅くなって申し訳ありません!
修正いたしました(2019/03/03)
門前にふわりと降り立つソルド。
僕とロミアはソルドの背中から飛び降り、街の中へ入る。
門番に何か言われるかと思ったが、最初に来た時と同じように、手荷物検査だけで済んだ。
どこか拍子抜けしてしまったけれど、無駄に時間を食うよりはいいだろう。
僕達は一直線に冒険者ギルドを目指した。
ギルドへの道程で道行く人からの視線を感じたが、それは僕ではなく、純白の狼に注がれていた。
しかし物珍しそうに見るだけで、街の人々が騒いだりする事は無かった。
そうして僕達は何の問題も無く冒険者ギルドへと到着した。
僕は一息つき、木の扉を押し開ける。
勢いよく一歩を踏み出した僕の目の前に、女性が現れた。
あまりにも急だったので僕はぶつかる直前まで女性に近づいてしまった。慌てて後ずさり、距離を置く。
「銀髪で紅目……。ノア・シャルラッハロート、ギルドマスターが呼んでいる。私について来て」
女性はそう言って踵を返し、歩き始めた。
何の説明も無いため、この女性が誰なのかすらわからない。だが、僕達の目的はギルドマスターだ。とりあえず女性の後を追う。
階段を登り、二階の最も奥にある部屋。その部屋の扉にはギルドマスターと書かれた札がかかっていた。
そして、女性は何の合図も見せずに扉を開けた。
「連れてきた」
そう短く言った女性の目線の先には、椅子に座ったギルドマスターすなわち、バルファ・ドラウンがいた。
部屋に入ってきた僕達を見て、バルファさんはどこか驚いたような笑みを浮かべた。
「やぁ、よく戻ってきてくれた。適当に座っておくれよ」
バルファさんに勧められ、僕とロミアはソファに座った。
そして、ロミアの膝の上にベルが、僕の隣にソルドが座った。
ここまで連れてきてくれた女性は扉の前に立っている。
「さぁて、疲れているところ悪いけど、ボクに話してもらおうか。カシネ湖について、君達が調べて来た情報を全て」
ちっとも悪びれることは無く、バルファさんは僕に話を要求する。
ここから先、僕が語るのはエレインさんが話してくれた経緯の全てだ。
僕はこれを自力で覚えた訳ではない。まぁ、自身の能力で覚えたのだから自力と言えなくも無いが……。
閑話休題。
僕は『知識は世界を開く鍵』に記録した情報をバルファさんに伝えた。
ただ一つ、スカーレット・ドラウンと言う冒険者の名だけは出さずに。
話を聞き終えたバルファさんは僕達をじっと見つめている。
「それで、そちらのフェンリルがソルドさんって事だね」
ソルドがパタパタとしっぽを振る。僕の腕に当たってくすぐったい。
そしてバルファさんは楽しそうな顔で続ける。
「なるほどね、ボクが知りたかった事は大体わかった。いやー、よくこのクエストを達成してくれたね。報酬はクエスト受付に言えば出してくれるよ」
「報酬は自立人形の修理代の免除では?」
僕の記憶ではそうだったはずだ。
「うん。だけどこれはある意味、高難度のクエストだったからね。銀貨を数枚、ボクから贈らせてもらおう」
そう言って彼女は扉の前に立つ女性に目配せする。
女性はそれを受けて静かに扉を開けた。
つまり、もう話す事は無いって事か。
「ちょっと待ってください。僕からの話はまだ終わっていません」
僕の発言にバルファさんは眉を顰め、女性に扉を閉めさせると、僕に話を続けるように促した。
「先程、カシネ湖の調査結果について報告しましたよね。ある日、カシネ湖に集まっていた妖精や魔物たちを惨殺した冒険者がいるとも……」
僕はそこで一呼吸置く。
バルファさんの表情は変化していない。
そして、静かに息を吸い込む。
「その冒険者の名前は…………、スカーレット・ドラウン。もしかして、バルファさん、あなたに関係のある人物なのでは?」
僕のその言葉を聞いた途端、彼女は椅子から立ち上がった。その衝撃で椅子は倒れてしまっている。
今まで飄々としていたバルファさんの表情が驚きに満ちていた。
僕達は彼女の言葉を辛抱強く待つ。
少しの間をおいてバルファさんは言った——
「スカーレット・ドラウンは…………ボクの妹だ」
ギルドマスターの部屋を後にした僕達は、集会所まで戻って来ていた。
あんなバルファさんは初めて見た。
結局、あの後は彼女から「その件については、ボクからも謝罪させてくれ。それに、妹についてはこちらに任せてほしい」との旨を伝えられただけだった。
まぁ、それは虫が良すぎるとわかっていたのだろう。
ソルドの「冒険の途中で出くわした場合、あなたの妹の命は保証できない」という発言に反対はしなかった。
僕はソルドが激昂しないか心配していたが、それは杞憂だったようだ。ソルドは一貫して、冷静な対応を見せていた。
「僕はソルドがバルファさんに飛びかかったりしないか、内心穏やかじゃなかったよ」
「確かに、怒りが微塵も無いかと言われれば嘘になります。ですが、彼女自身には何の罪もありませんから……。
それに、扉の付近にいた女。あれには一分の隙もありませんでした。もし、不審な動きを見せれば一瞬で殺害されていたでしょう」
僕達を案内してくれた女性は、軽装で動きやすそうな格好をしていた。
その目つきは鋭く、僕達の一挙一動を警戒していた。
あの人も冒険者だったのだろうか?
「ノアさん、受付嬢さんが呼んでますよ」
ロミアが僕の裾を軽く引っ張る。
クエスト受付の方を見ると確かに、受付嬢が僕に向けて手を振っていた。
「こちらが今回のクエストの報酬、銀貨十枚になります」
受付嬢が銀貨を差し出す。
僕とロミアは顔を見合わせる。
自然に笑みがこぼれてしまう。
人は金の前では正直だ。
「ありがとうございます」
礼を述べ、銀貨を受け取る。
僕はそれでクエスト受付を離れようとしたが、受付嬢に引き止められてしまった。
「すみません。一つ、確認したいことがあるんです」
そんな前置きがあって、受付嬢は話を続ける。
「ランク昇格試験について、ギルドマスターからお話はありましたか?」
ランク昇格試験……。
冒険者登録の際に聞いた事があった気がする。
硬直した僕を見て、ロミアが軽く説明をしてくれた。
「ランク昇格試験は、ギルドマスターに実力や人格を認められた冒険者だけが受けることのできる試験ですよ」
ほう、そうだったか。
そんな話はバルファさんとの会話では一度も出てこなかったので、僕は首を横に振った。
「ランク昇格試験の話は聞いていませんね」
「そうでしたか……。実はですね、七日後に件の昇格試験があるのです。ノアさんとロミアさんもギルドマスターからの推薦で受ける事になっています。
試験までの期間は準備するも良し、自由に過ごすのも良しです」
つらつらと説明をする受付嬢。
待て待て待て。
どういう事だ? そんな勝手に試験を受けさせられてしまうのか……。
「その試験の内容とは、どう言ったものでしょうか……?」
返答の内容がどうなるか怖いが、聞かないでいるよりは怖くない。
「A〜Bランクの冒険者の方との模擬戦です。ギルドマスターが直々に判決します」
模擬戦だと……?
あの自立人形でさえ、エイルの憑依で何とか勝てるくらいだったというのに。
意志を持ち、思考をし、自身で判断する人間を相手に勝てるはずが無い。
「私がお伝えしたかったのは以上です。昇格試験、お二人とも頑張ってくださいね! 応援してます!」
受付嬢の励ましを背中に受けながら、僕達は冒険者ギルドを出た。
「これからどうします?」
ロミアは僕の顔を覗き込みながら聞く。
さて、どうしたものだろうか。ここから七日間、特にやることも無い。
もう自由行動でもいい気がしてきた。
「この七日間は、各々が好きな事をやる時間にしよう。休息もたまには必要だからな」
僕は提案した。
その提案に反論は無い。
皆、賛成という事だろう。
「じゃあ、一旦ここで解散だ。今日は夜までに宿屋へ戻る、いいな?」
「了解!!」
ロミアの元気の良い返事が街に響いた。
何だかふわっとしてましたが、目安としてここまでを一章とさせて下さい!
二章も特に変わらず、期間も開けたりしませんので、これからもよろしくお願いします!




