20話 出立
1000pv突破しました!
これもお読み頂いている皆様のおかげです!
修正いたしました(2019/03/03)
「何してんだ、人間!!」
「グヘェァァッッ!!!!」
早朝、洞窟内の部屋に大きな音が響いた。
ふむ。声をあげるにしても、もう少しばかりマシな声が良かったな……。
僕はそんな事を考えながら床を凄まじい勢いで転がる。
ベルに蹴り飛ばされた瞬間、首から上が取れたかと思った。僕はデュラハンになっていないか頭部の存在を確認する。
……よし。ちゃんとあるな。
「おい、人間。お前、そんなに死にたいのか? だったらもっと早く言ってくれれば私が殺してやったのに……」
おや? ベルは人型は維持するだけで大変だと言っていたが、今はもの凄く活発だな。
僕を殺そうと息巻いている。
「まぁ、これには色々理由があるんだ。話せば長くなる」
ベルは蔑んだ表情で床に這い蹲る僕を見ていた。
「はぁ……。人間、もうここを出るぞ。私達の目的は達成できたんだから」
「あ、ああ。そうだな」
僕は何とか起き上がって答える。
結局、宴を開いてもらったのに最初の方だけしか参加できなかった。
だが、カシネ湖復活の宴だったもんな。妖精たちが楽しめていたのなら良いだろう。
「ふあぁぁぁ」
ロミアが突然、目を覚ます。
それを見て、慌ててベルは猫の姿に戻った。
「あれ? 私は今まで何を…………」
酔っていて昨日の記憶が無いようだ。
ロミアは不思議そうに部屋の中を見回している。
記憶が無いなら無いで、それは好都合だ。
「行くぞ、ロミア」
「え、どこに?」
「外だ、外」
まだ頭の整理が出来ていないロミアの手を引き、僕は部屋を出る。
そうして足早にソルドやエレインさんの所へと向かった。
僕達がカシネ湖に着くと、まだ沢山の妖精たちがいた。
彼らは綺麗に整列し、待っていてくれたようだ。
「おはようございます、ノア様、ロミア様」
エレインさんが恭しくお礼をする。
「我ら一同、皆様方のお見送りをさせて頂きたい」
ソルドが続いた。
それにしても、僕は今、すごく幻想的な光景を目にしている。
この光景は頭に刻み込んでおきたいと思うほどに、綺麗であった。
《この部分の記憶だけを情報子に変換し、魂に記録します》
え、そんなこと出来るのか? すごい便利だな。
けど、これだけ有用なのに昨日の出来事をどうにもできないとは……、世の中上手くいかないな。
「そして一つ、我の我儘を聞いて頂きたい」
ソルドが言った。
我儘とは、一体なんだろうか?
「我をノア様方の冒険に同行させてはもらえぬだろうか?」
ソルドが僕の表情を伺うように問うた。
何だそんな事か……と思ったが、そう簡単にはいかない。
別に仲間が増えるのは喜ばしい事ではあるけれど、ソルドはここの守護者だ。快諾はできない。
「お前、ヴィヴィアンさんと同じ事をするつもりか?」
「いえ、新たな守護者はエレインに任せます。彼女はとても優秀ですので。
それに……我とて悔しいのです。あのスカーレット・ドラウンと名乗った冒険者がもし生きているのなら、我は亡き盟友達の仇を討ちたいのです」
ソルドは覚悟を決めていた。
生き残りの意思を継ぐという事だろう。
それが、どれほど重荷かはわからない。
「でも、エレインさんは良いんですか?」
エレインさんが無理矢理やらされるようであったなら、僕はやはり、承諾する事は出来ない。
「ええ、平気です。ソルド様には十分お世話になりました。次は私がみんなを守る番です」
格好いいな。
その美しい顔には固い意志が感じられた。
その青緑色の瞳からは決意が見て取れた。
これなら大丈夫だと僕は思う。
《『知識は世界を開く鍵』に[ソルド]を登録しますか?》
あ、いきなり出来るものなんですね。
それはもちろん、登録するさ。
《[ソルド]の登録が完了しました。これで召喚・憑依が可能です》
おお!
あっさり新しい仲間が増えた。
魔導書を確認するとソルドのページが追加されていた。
「双方が了承してるならいいだろう。ソルド、一緒に冒険する事を認めよう」
「ハハッ、感謝いたします!」
ここでふと、僕は思う。
カシネ湖からソルドが離れて本当に大丈夫なのだろうか。
別にエレインさんを信用していない訳じゃない。
だが、またスカーレット・ドラウンのような人間が現れたら?
エレインさん一人ではどうにもならないだろう。
エイル、どうにかできるか?
《どうにか……ですか。では、湖の乙女の情報を複製し、独自の妖精を作成します》
よし、僕にはよくわからないから、後の説明はいいぞ!
終わったら、言ってくれ。
《[ウンディーネ]の作成に成功しました。召喚させますか?》
早っ!?
自分の能力だが、未知すぎて怖くなってきた。
エイルに全て任せるよ。
僕はお前を信頼しているからな。
僕がそう言うと、魔導書がひとりでに開き、従者を召喚するときと同じように光が溢れ出した。
薄水色の髪をした2人の女性。
水の精、ウンディーネが召喚された。
「こ、これは…………?」
エレインさんは困惑し、ソルドは当惑している。
それは当然の反応だった。
きっと、僕の召喚能力を見た者は同じような反応を見せるだろう。
「えぇっと、あれだ。食事をご馳走してくれたお礼です。多分、このウンディーネは特別仕様だから、上手く使ってあげてください」
「本当によろしいのですか……?」
エレインさんは疑問を僕にぶつける。
「ああ。これは僕からの贈り物です。受け取って貰えると嬉しいです」
「……そういう事でしたら、有り難く受け取らせて頂きます」
エレインさんは深々とその頭を下げた。
で、エイル。あのウンディーネはどれほどの強さだ?
《強さで言うなら、エレインより少し上くらいでしょう。それに、彼女らも情報子変換を行えます》
僕の能力を一部使えるって事だな。
それを二体……。防衛力としては十分か。
毎回、無理な要望を叶えてくれて感謝します。
「さて、それじゃあ、街に戻るか」
僕がそう言うと、ソルドが提案してきた。
「それならば、我の背中にお乗りください。我は氷を司る精霊、フェンリルですので氷の道を作ることができます」
何それ、楽しそう。
この白狼、フェンリルだったのか。
氷の上位精霊とは……興味深い。
「てい!」
何か可愛らしい掛け声とともにロミアがソルドに飛び乗った。
その手にはベルが抱えられている。
「おぉ……座り心地最高です! フワッフワですよ」
ロミアは幸せそうな顔で僕にそう告げた。
僕も我慢できずに、ソルドへ飛び乗る。
こ、これは……。
とても気持ちいい手触りだ。
「では、しっかり掴まっていてください!」
ソルドは垂直に跳躍した。
大した予備動作も無く、軽い跳躍で森の木々を優に超える高さまで到達する。
そして、氷の足場を作成して走り始めた。
こうして高い場所から見てみると、街とカシネ湖はかなり離れている事がわかった。
眼下に広がる森はユートラス王国を囲むように存在している。
見送る妖精たちに手を振り、僕らはカシネ湖を後にした。
そして、僕達が来た時よりも断然早く、西の街へ帰着するのだった。




