16話 赤い湖、白い狼
pvが増えて半狂乱になりながら、執筆しております!
これからも頑張りますので、皆さまよろしくお願い致します!
修正いたしました(2019/03/03)
「ここから先は立ち入り禁止です。お引き取り下さい」
突然、森に声が響き渡った。
よく通る清らかな声であった。
「ノアさん、今なんか言いました?」
「どう考えても違うだろう。僕が一度でもこんな綺麗な声で喋った時があったか?」
「……無いですね。ノアさんの声がこんな綺麗なわけないですよね」
「否定とともにさらっと僕の声を貶すな」
ロミアからの悪口を軽くあしらい、僕は辺りを見回す。しかし、目に映るのは木々ばかりで声の主は見当たらない。
一応、会話を試してみるか。
「あの、僕達はカシネ湖の調査に来ただけなんです。何かを害するつもりは無いので通してくれませんか?」
「それはできません、この先がそのカシネ湖なのです。以前、カシネ湖にやって来た冒険者が湖の水を穢したため、それ以来人間の立ち入りを禁止しているのです」
以前やって来た冒険者? そんな人がいたのか?
僕の記憶の中にそのような人物の情報は無い。バルファさんの口ぶりだと、ここに来たのは僕達が最初だと思っていたが……。
《このカシネ湖の情報は全てギルドマスターから齎されたものです。そしてギルドマスターとは一部の例外を除き、元冒険者の就く役職……》
つまり、前にやって来た冒険者がバルファさんだって言いたいのか?
《ありえない話では無い……というだけですが》
そうか。まぁ、あの人はよくわからないからな、色々と。
それに、今考えても答えは出ない。優先すべきなのは、どうやってここを通してもらうかだ。
《ねぇ、ご主人? 私を召喚してくれないかしら? そしたらこの子を説得してあげるわ》
この声は……ヴィヴィアンさん?
って、そうだよ。最初からヴィヴィアンさんに頼めば良かったんだ。この声の主は恐らく彼女と同じ湖の乙女なのだろう。赤の他人より、知人の方が話は聞いてもらいやすいはずだ。
よし、では早速。僕は魔導書を開き、ランスロットのページを開く。
あ。そういえば、魔導書の文字が読めるようになった。
それは『知識は世界を開く鍵』の初使用時の後からだ。理由を聞いたら《主人様として認められた証拠です》としか言われなかった。
「じゃあ、頼んだよ。ヴィヴィアンさん」
僕が名前を呼ぶと魔導書から光が溢れ出し、青髪の綺麗な女性が現れた。大体、僕の想像通りの姿をしており、まさしく“湖の乙女”って感じだ。
「そ、その綺麗な人は誰ですか?」
ロミアが突然の事態で少し驚いている。そういえば、ロミアは僕の召喚能力を見るのは初めてだった。初使用時、彼女は気絶していたからな。
「あの人は簡単に言えば、湖の妖精だ。カシネ湖探しを手伝ってくれてるんだ」
「はぁ、本当に多機能ですね……」
ロミアは感心というか半ば呆れていた。
彼女の能力も他の人からすれば、呆れたくなる程強力だと思うのだけれど。
さてはて、僕達はその場でヴィヴィアンさんが交渉しているのを見ていよう。
「久しぶりね、エレイン。元気だったかしら?」
「そ、そのお姿はもしやヴィヴィアン様ですか!? お戻りになられたのですね!」
「ああ、御免なさい。私はもうここに戻るつもりは無いわ。今は、新しいご主人にランスロットと仕えているの」
「……そうでしたか」
「悪いけれど、ここを通して貰えないかしら? 私のご主人がここを通りたがっているの」
「…………それは、いくらヴィヴィアン様でも許可できません」
「あら? 言い方が悪かったかしら。あなたの許可なんてどうでもいいの。私は選択肢を与えただけよ…………生きるか、死ぬか」
「もし、断れば……?」
「あなたがこの世から消え去るだけよ?」
その後、カシネ湖までの道が忽然と現れた。
いや、怖い!! これはもう交渉とかじゃなく、恐喝ではないか。彼女はあの優しそうな外見と声からは想像も出来ない恐ろしさを内に秘めているようだ。ランスロットが逆らえない理由が垣間見えた気がする。
それに、魔導書に戻る前に「これで大丈夫よ、物分りが良くてよかったわ」と言っていて余計に怖かった。
「……よ、よし! 行くか!」
僕は切り替えて、元気よく行こうとした。
怖さを振り払おうと必死であった。
「いや、怖すぎでしょ!? 何ですかあの冷血な目は! 湖の乙女ってもう水、凍結しちゃってるじゃないですか!」
ロミアも僕と同様に怯えていたようだ。ヴィヴィアンさんがいなくなった途端、本音を吐露していた。確かに彼女の言いたい事は理解できる。あれは氷の魔女とでも呼んだ方がいいだろう。
「と、とりあえずヴィヴィアンさんの事は置いておいて、カシネ湖に行こう。僕達の目的はカシネ湖の調査だからな」
「そうですね……」
僕達は現れた道を進む。
道をずっと進むと、そこには湖があった。
しかしながら、そこにあったのは僕達が聞いていたような美しい湖では無く、真っ赤に染まった禍々しい湖だった。心なしか空気が淀み、重苦しい雰囲気が漂っている。
「何だ……これ…………?」
僕は思わず、声を漏らす。
ロミアもその目を見開いて湖の水を凝視している。
視線を少しずらすと、枯れ果てた草木が目に入った。きっと湖がこうなる前はここも緑で溢れていたのだろう。周りには動物達も近づいていないようだ。
エイル、カシネ湖が赤く染まった理由は何だと思う?
《最も考えられるのは、何かしらの血によって赤く染まったのでは無いかと……》
……やっぱり、血の可能性が高いか。
もし血だとしたら、一体何の血だろうか?
《森に人間は多くいませんからね、恐らく魔物や動物なのではないでしょうか》
魔物、動物……。この湖全体を血で染めるには、想像を絶するくらいの数を殺さないといけないな……。考えるだけで恐ろしく、悪寒がする。虫酸が走る。
「ノアさん、あれ…………」
ロミアが僕のローブの裾を引っ張る。
彼女の指差す方を見ると、一匹の白い狼がいた。白狼は、一目でわかるほど僕達を敵視していた。こちらをずっと鋭い目で見据えている。
「何をしに来た……人間。我々が何をしたというのだ……。貴様らも奴と同じように……」
白狼は低い唸り声から言葉を発する。
まるで、この世の全てを憎んでいるかのような声だった。その姿に反して、黒い感情がひしひしと伝わってくる。
「あ、あの僕達はカシネ湖を調査しに来ただけなんです……」
「黙れ! これ以上被害を出すわけにはいかない……。貴様らは我が殺す!!」
白狼は咆哮をあげると、僕達に飛びかかってきた。問答無用のようだ。
普通の人間なら見えない速度だっただろう。だが、僕は大して速いと感じなかった。きっと、自立人形との戦闘で目が慣れていたのだ。
ロミアを抱き寄せ、大きく左に回避する。
「……ちょこまかと小賢しい。死ね!」
憎悪十分、白狼は空気中から氷塊をいくつか生成し、同時に全て投げつけてきた。
避ける場所は無さそうだな……。
エイル、情報管理で全部変換してくれ。
《了解しました》
僕は情報子変換により、白狼の放った氷塊を全て消し去ってみせた。
お互いに牽制し合う。この隙に僕は作戦を立案する。
「ロミア、僕が合図したら捕縛系の魔法をあいつに撃ってくれ」
「……わかりました」
で、エイル。お前はあの白狼がまた氷を出そうとしたら、また情報管理を発動して欲しい。
《お任せ下さい》
よし、後はいつ白狼が動くかだ。
白狼は依然、僕達を見据えたままだ。
機が熟し、白狼が再び僕達に飛びかかろうとしたその時——、
「お待ちください! ソルド様!」
両者の間に一人の女性が割って入った。
彼女は美しい青髪をしていて、一瞬ヴィヴィアンさんかと思ったが、違う。ヴィヴィアンさんの髪は深い青色だが、彼女の髪は少し緑がかっている。
戦闘を中断させたその声は、僕達がカシネ湖に行くことを断った声と同じだった。
彼女は敵か味方か、どちらだ?
ヴィヴィアンこっわ