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15話 湖の乙女

ブクマが10件になっておりました!

本当に読んでくださっている方には感謝しかございません!

修正いたしました(2019/03/03)



 結果的に僕達は集会所での出来事の後、クエストに向けて準備をしていた。


「あの、ベルさん? どうしてそんなに機嫌が悪いのですか?」


 僕は小声でベルに話しかける。

 ベルは集会所に来てから一言も発していない。

 

「私の方がロミアとの付き合いは長い。お前にロミアは渡さない」


 やっと口を開いたと思ったが、とても怒っていた。僕は敵視されていた。


「でも前、僕に協力を求めてたよな? 一緒にロミアを守ってほしいって」


「一緒にとは言ったが、一生とは言っていない」


 何というか、拗ねていた。外見は黒猫で、正体が悪魔のベルは1人の人間に嫉妬していた。


「嫉妬か……?」


「おい、人間。私をあんな奴と一緒にするな」


 猫に凄まれた。この場合は悪魔に凄まれたと言った方がいいか。

 あんな奴が誰か知らないが、僕はベルにそれ以上は話しかけなかった。

 


 ギルド内にある売店で必要なものを揃える。

 回復薬に包帯、それに携帯食料や組み立て式の拠点とかもいるだろうか。

 ……結構な量だな、移動が大変になりそうだ。


《情報管理を使用すれば、何ら問題はありませんよ》


 ああ、そうか。全部、情報子に変換させればいいのか。

 『知識は世界を開く鍵』の情報管理は、対象を情報子という特殊な粒子に変換させて、魂に記憶できるようになる能力だ。

 

 何の事かわからないって?

 安心してくれ、僕も詳しい仕組みはよくわかっていない。

 まぁ、何でも収納できる便利な能力だと認識しておけばいいだろう。


《私がわかりやすく説明したのに……》


 エイルが何か言っているが、無視しよう。

 

 あらかた必要なものを抱えて僕は店員のもとへ歩く。

 カウンターに物をドサッと置き、会計を頼む。

 会計をしてくれたのは、おばさん店員だった。あの出来事を目撃したのか、ずっと「あら〜、微笑ましいわね〜」みたいな目で僕を見てきた。

 だからお金を払った後、買った物を全て情報管理で仕舞ってみせる。

 おばさんは目を丸くして驚いていた。まぁ、これくらいで許してあげよう。


《能力を無駄な部分で使わないで下さい》


 ……すみませんでした。



 僕は売店を後にして、ギルドの外に出る。

 それまでの間、好奇の目に晒されたが僕は何とか耐えきった。

 ギルドの外にはロミアがちょこんと座って待っていた。


「お待たせ、とりあえず色々買ってきた」


 僕はボーッと街を眺めている彼女の横顔に話しかける。

 ロミアは驚いたようにこちらを向き、僕の手元を確認して言った。


「何を買ってきたんですか……?」


 訝しげな視線を向けられ、僕はついさっき情報管理で商品を仕舞った事を思い出す。

 魂に情報子を記録している場合ではなかったようだ。


「僕の能力で仕舞ってるんだ。ほら、見てみろ」


 僕はいくつかの商品を物質化させた。

 それを見て、ロミアは売店のおばさんの時と同じように驚いている。


「これって、魔力は消費するんですか?」


 ロミアは、すり寄ってきたベルを撫でながら質問してきた。

 どうなんですか、エイルさん?


《私達の召喚や憑依では魔力を消費しますが、情報管理は違います》


 なるほど。そうだったのか。


「これは魔力を消費しないんだ」


《よく錯乱せずに会話できますね……》


 僕のまるで知っていたかのような発言にエイルは呆れている。

 

「それは便利ですね。収納魔法だと一定の間、魔力を消費しますからね」


 ロミアが感心している。確かに、『知識は世界を開く鍵』の機能はとても便利だ。召喚魔法や収納魔法と同じではあるが、魔力を消費しないものがある分こっちの方が扱いやすい。



 さて、これからカシネ湖という場所に向かうのだが……。カシネ湖についての情報があまりにも少ない。僕が知り得た情報は、街を出て北東に進んだ所にあるという事と湖の水はとても綺麗という事だけだ。

 二つ目の情報はあって無いようなものなので、実質的に一つの情報だけで湖にたどり着かなければならないようだ。


「ロミア、カシネ湖っていう湖の場所を知らないか?」


 僕はずっとベルとじゃれている彼女に質問する。

 

「私の今までの生活区域はほぼノアさんと同じなんです。ノアさんが知らない場所は私も知りません。魔法だけはたくさん知ってますけど……」


 最後に謎の自慢をしていたが、カシネ湖については知らないようだ。

 どうしようか……せめて、場所についてもう少しだけ情報があれば良いんだけどな。


《ランスロットを呼びましょう。彼は“湖の乙女”と知り合いなので何か知っているかもしれません》


 エイルが提案する。

 湖の乙女というのは誰だ? この状況の解決に最適そうな名前だな。


《湖の乙女は、その名の通り湖に住む妖精達の総称です。そして、ランスロットの守護妖精であるヴィヴィアンはその中の一人です。なので、彼女に聞いてみれば何かしらわかるでしょう》


 それは適任だ。それ以外ありえないほど適している。

 けれど、ランスロットとはまだ話したことが無いな。ゴブリンキングとの戦いの時に姿を見たくらいだ。

 その時の印象はあまり良くない。助けてくれたのは確かだが、性格に難ありな感じだったと思う。


《おい、誰の性格が難ありだって?》


 頭の中に響く若めの男性の声。間違いなくランスロットの声だろう。エイルの奴、何も言わずに交代しやがった。

 ああ、怖い。こういう種類の人間は苦手だ。


《お前、俺に全部聞こえてるのを知って言ってんのか?》


 おっと、そうだった。彼らは僕の精神世界にいるのだった。全部、僕の考えは筒抜け……。


《ただの馬鹿みたいだな。こんなのが俺らの主人とか意味わかんねぇ》


 で、ランスロット。湖の乙女……ヴィヴィアンさんにカシネ湖って言う湖について何か知らないか聞いてくれ。


《お前……どう言う心境でそれを頼んでるんだ?》


 僕の心境? そんなもの知って何になる。

 後で外に出してやるからさ、頼むよ。


《お、本当か!? 絶対だぞ? 嘘だったら槍で刺し殺すからな?》


 あ、ああ。嘘じゃない、本当だ。

 

《わかった、ちょっと待ってろ。今すぐ呼んでくる!》


 頭の中での想像だが、ランスロットが喜び勇んでどこかへ行ってしまった。最初の剣呑けんのんな雰囲気は跡形も無く消え去り、幼さすら感じた。まるで、従順な犬みたいだな。

 

《それはランスロットに直接、言わないで下さいね》


 それは勿論。忠犬が狂犬になられても困るからな。









 森の中を進む。

 またもや僕達は森の中にいる。ヴィヴィアンさんから聞いた情報を元に、カシネ湖へ向かっている途中だ。

 実際に話してみると、ヴィヴィアンさんは優しいお姉さんみたいな印象だった。

 そしてランスロットとヴィヴィアンさんとの会話を聞く限り、ランスロットは彼女に強く出られないという事に気がついた。


《ヴィヴィアンはランスロットの育ての親ですから、その関係性はむしろ親子に近いのです》


 ほう、親子か……。ならば、これからランスロットに頼みごとをする時はヴィヴィアンさんを通すことにしよう。

 

《主人様……、なかなか酷いことをしますね……》


 母親の権力は絶対的だと神父様から聞いている。まぁ、母親の顔も名前も知らない僕からすればそんなこと寡聞にして知らないのだが……。あの神父様が言っていたならば事実なのだろう。



「あのー、ノアさん? こっちで本当に合ってますか?」


 ロミアは多少疲れ気味な声で聞く。

 かなり歩いた気はするけれど、一向に湖に到着する気配はない。そう思うのも当然か。


「きっと、合ってると思うんだが……ずっと森だな。」


「ノアさんの能力でどうにかならないんですか?」


「僕の能力は有能だけど万能じゃない。そこまで何でもはできないさ」


 今現在、僕の能力でどうにかしているところだ。というか最初から能力は使っているのだが…………このままだと埒があかない。もう一回、ヴィヴィアンさんを呼んでもらおうかと思ったその時——、



「ここから先は、立ち入り禁止です。お引き取り下さい」


 

 森に、水のように透明で凛とした声が響いたのだった。

湖の乙女っていう響きが好きです

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