14話 誓う
後、数話で一章は完結です!
これからもよろしくお願いします!
修正いたしました(2019/03/03)
西街のギルドマスター、バルファ・ドラウンが立ち去り、僕は土下座の状態から解放された。
若干、床が凹んでいる気もするが、それは気のせいだろう。
立ち上がり、受付へ向かう。
すると他の冒険者達が移動し、道ができた。完全に僕と関わる事を嫌がっているな。
まぁ、ギルドマスターに土下座するほど何をやらかしたんだって話だが……。
それにしても、ここにロミアがいなくてよかった。見た目が年下の少女に土下座する僕を見られるところだった。
《雄姿だったのでは?》
ハハハ。あれは羞恥だ。
あぁ……あれだけの人数の前で土下座なんてしなければ良かった。
《過去を悔やんでも仕方ありませんよ》
そうだな。土下座のことは忘れよう。
あれは自分の命を守るための行動だったのだと、言い聞かせよう。
皆が道を開けてくれるので、何の苦労もなく受付まで来る事ができた。
そして僕が来ると、受付嬢の方から話しかけてきた。
「すみません、私の不注意で……」
きっと、訓練場が閉鎖しているのを僕に伝え忘れたことを謝っているのだろう。
「大丈夫ですよ。それより、ギルドマスターからのお願い事というのは……?」
僕は恐る恐る尋ねた。
まさか、自立人形の修理代とかじゃ無いよな? もし、そうだったら払うのに何十年かかるんだろう……。薬草の採集で一生を終えそうだ。
「それが…………このクエストを達成する事だそうです」
受付嬢が一枚の紙を僕に差し出す。
どれどれ……?
クエスト内容は、カシネ湖周辺及び洞窟の調査か。達成報酬は、自立人形の修理代の免除。
やっぱり、金を払わせようとしていたのか……。
でも、思っていたより簡単なお願いで良かった。
僕がホッと胸を撫で下ろしていると、エイルの声が聞こえた。
《主人様、このクエストの適正ランクを見てください》
適正ランク?
エイルに言われて、紙の一番下まで視線を移動させる。
そのクエストがどれ位の難易度なのかを示す適正ランク。それは依頼書の一番下に書かれている。
しかし、この紙にはそれが記載されていなかった。
き、きっと何かの間違いだろう。
「あの、このクエストの適正ランクが書いて無いのですが……?」
その質問に受付嬢は困ったような顔をして答えた。
「それが……『カシネ湖周辺は何がいるかわからない。だから、適正ランクも判定できない。でもボクのお願いだもん、受けてくれるよね?』と、おっしゃっていました」
可愛い!!…………じゃなかった。
何だって!? 適正ランクが判別できないだと?
《いや、誤魔化せていませんよ》
クッ、駄目だったか……。
ですが、エイルさん。これだけは言わせてもらいたい。
バルファさんの口調で受付嬢が喋ると、とても可愛いですよ?
《…………》
何故だろう、無言なのに威圧感がすごい。
僕とエイルが頭の中でやり取りしている間も受付嬢は話を続ける。
「本来、適正ランクが判明していないクエストはギルマスが受理しないのですが、今回はギルマスからの依頼という事で…………」
「強権を発動している訳ですね?」
「…………はい」
それならば、致し方ない。どうしようもない。このギルドの最高権力者が決めた事を底辺冒険者の僕が覆せるはずがない。従うのみだ。
「大丈夫ですよ、多分。生きて帰ってこれないようなクエストだったら、僕に頼まないはずですから」
受付嬢に、というより僕自身にそう信じ込ませる。
「そうだと良いのですが……」
受付嬢の表情は未だに優れない。
僕としても気分は進まない。適正ランクがEのクエストでも化物が乱入する事があるのだ。不明なら、なおさら危険度は高まるだろう。
だから今回のこのクエストは僕一人で挑もう。
そもそも、この件には僕しか関与していない。ロミアをわざわざ危険に晒す必要は無いのだ。
「今回のクエストには僕一人で行きます。ここにロミアが僕を探しに来たら、心配しないでくれって伝えて下さい」
僕は受付嬢に伝言を頼んだ。
しかし彼女は僕の頼みに反応せず、どこかを見つめている。
視線から察すると、どうやら僕の背後に何かあるらしい。
その視線を辿り、僕が後ろを振り返ると——、
ドカッッ!
誰かに何かで頭を殴られた。
不意打ちだった為、何の防御姿勢も取れなかった。
脳に振動が伝わり、僕は片膝をつく。
エイル、お前ならこの攻撃を読めたんじゃないのか?
《ええ、背後の気配には気づいていました。ですが、これは必要な痛みでしょう》
必要な痛み? どういう事だ……?
僕は頭をさすりながら殴った人間を見る。
そこにいたのは白いローブを纏い、杖を握り締めたロミアとベルだった。
「鐘が鳴っても武具店に来ないから様子を見に来たら…………一人でクエストに行くってどういう事ですか!」
ロミアは叫ぶ。
周りの冒険者達は「おいおい、次は何をしたんだ……?」というような顔で注目している。
「いや、ロミア、待ってくれ。僕はお前のことを思ってだな……」
「私が使えないからですか……?」
「違う。そういう事じゃない。このクエストは危険かもしれないんだ。もし、ロミアに万が一の事があったら……」
「また独りになるくらいなら、死んだ方がマシです!」
ロミアは断言する。
はっきりと、そう言い切った。
彼女の目は潤んでいた。
僕はその瞳に気づかされる。これからどれだけ酷い事をしようとしていたか。
僕にならわかるはずだ。理解できるはずだ。
神父様が死んだ時、僕は絶望していた。このままずっと独りだと泣いていた。それと同じだ。
ロミアが頼れる人間は今、僕しかいない。その僕がいなくなる事は、彼女にとって自身の死より恐れている事なのだ。
「……悪かった。お前に何の相談もせずに一人で行こうとして……」
「ダメです……」
………………?
あれ? ここは和解して、一緒にクエストに臨む流れじゃないのか?
僕の感性がずれているのかと不安になったが、周りの冒険者達も「え……?」みたいな表情をしている。
至って僕は正常である。
「私を一生守ると誓って下さい」
僕のすぐ近くまで来て微笑むロミア。
亜麻色の髪がふわりと揺れる。
その仕草はとても可愛らしいものだった。
一生、守る…………? それはもう…………。
《告白に近いですね》
エイルが僕の思考に口を挟む。
いや、早とちりだ。何故、ロミアがいきなり告白するんだ。こんな大勢の前で、しかも僕に。
僕はそう言い聞かせて、ロミアの顔を見る。
彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
これは……どうすればいい?
このような状況の対処法など、神父様からは習っていない。
そうだ! 『知識は世界を開く鍵』を使えば……
《無理です》
おい! そんな簡単に主人を見捨てるなよ!
…………仕方ない、僕も男だ。
こうなったら覚悟を決めよう。
腹をくくろう。格好良く締め括ろう。
ロミアの綺麗な亜麻色の頭を撫でる。
手に、その柔らかな感触が伝わった。
その手は緊張からか小刻みに震えている。
「あ、ええと……」
まずい、思うように声が出ない。
何とか喉の奥から声を絞り出す。
「僕は……ロミアを一生、守ると誓おう」
それを聞いてロミアは嬉しそうに笑った。
周りの冒険者達からすれば何を見せられているんだ? という感じだろう。
だが、考えても見て欲しい。僕とロミアは人付き合いの技術で言うと赤ん坊の一個上くらいなのだ。それ程までに人と接してこなかった。
だから、今回の出来事は生暖かな目で受け流してほしい。
《誰に言っているのですか?》
…………さぁ? 僕にもわからない。
自分でも驚いています。
いつの間にやらこんな展開に……。