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13話 炸裂する奥義

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修正いたしました(2019/03/03)


 バルファは椅子から勢いよく立ち上がった。椅子が衝撃で倒れる。

 彼女は自身の目を疑った。


 自立人形がノームの土魔法により捕縛された時、バルファは『掟ノ女神』で自立人形の動きを止めた。“動かない”という掟を定めたのだ。

 そして、ノアが剣を刺すのと同時に掟を消去した。これでノアに致命傷を与えられる——はずだった。


 だが、実際にバルファの目に映っていたのは、膝から崩れ落ちる自立人形の姿だった。


(剣を突き刺して、そこから電流を流して故障させた? でも、あの勢いは完全に突きでとどめを刺そうとしていた。一体、どこで気づかれた……?)


 彼女の頭の中に大量の疑問符が浮かび上がる。しかしどれを取っても正確な解答は出てこない。

 魔法で映し出した映像越しにノアと目が合うバルファ。彼女は、既にノアが最初の見た目に戻っているのに気がついた。


(全く、面倒な新人が入ってきたものだ……)


 バルファは笑っていた。自身の掟の範囲外でやりたい放題している青年。間接的なノアとの勝負は敗北してしまったが、彼女はその未知なる存在に興味を惹かれていた。







 僕は待機していた。待ちぼうけを食らっていた。

 訓練用自立人形との死闘を繰り広げ、エイルとノームの力を借りて何とか勝利したわけだが、その後の説明が何も無い。


《どうしたのでしょうか?》


 さぁ? 僕には何も心当たりなど無い。きっと誰かとお話し中とかじゃ無いのか?

 僕は特に考えずに答える。わからない事がわかりきっているのだ、考えるだけ無駄だろう。


「「いやー、すごいね!! 君は本当に新人の冒険者かい? その自立人形は強すぎて、今は訓練場を閉鎖して調整する程なのに……」」


 突然、明るい天の声が聞こえてきた。

 ……って、今なんて言った?

 訓練場を閉鎖? 強過ぎて調整中?


「ここ、入っちゃいけなかったんですか!?」


 そんな事、受付嬢は言っていなかった。僕が聞き逃していたのか?


《いえ、そのような事は言っていませんでした》


 そうだよな。それにこのバルファって人も何も言っていなかった。管理している人間から何も言われていないのだ、僕は無実である。


「「それなのに、いきなり自立人形を起動させちゃうしさ。起動させるだけでは飽き足らず、故障させちゃったもんなぁ」」

 

 おっと? 流れが怪しくなってきた。

 彼女は何故か僕を追い込む。

 人形を故障させてしまったのは事実だ。だが、あそこで止めていなかったら僕が傷を負っていたのだ。正当防衛というやつだろう。


「「どうやって償ってもらおうかなー?」」


 彼女は全て僕のせいにするつもりか?

 それは容認できない。


「バルファさん、でしたっけ? あなた、自立人形とか言っておきながら操っていましたよね? 土魔法で捕縛された時、わざと捕縛から抜け出そうとしなかった。あれは、機械じゃ絶対にありえない行動だ。確実に人間の思惑が介在していました。殺意を感じ取りました」


 僕は説明する。問い詰める。

 まぁ、自信満々で語っているが、僕の意見には証拠が無い。根拠だけはあるのだけれど。

 だから、証拠を出せと逃げられれば終わりだ。


「「やっぱり、バレていたようだね。ま、いいか。その自立人形は後でボクが片付けるからそのままでいいよ。じゃあ、集会所の方で待っていておくれ」」



 彼女はそう言った後、何も言葉を発さなかった。

 

 静寂が再び僕を襲う。

 いとも容易く、えらく淡白に自白して、どこかへ行ったようだ。


 集会所っていうと、入ってすぐの場所だよな?


《恐らく、そうだと思います》


 ここにいても仕方ない。取り敢えず、集会所に行ってみるか。



 僕はおかしな格好で横たわっている自立人形を放っておいて、訓練場の外に出た。









 集会所へと到着すると、否。戻ってくると、そこにいた冒険者達が僕を見る。

 それもそうか、閉鎖中の施設の方から戻ってきたのだ。あいつは何をしていたんだという話になるだろう。

 

 その疑問に満ちた視線を全て無視して、空席に座る。

 どうしよう、バルファさんが早く来てくれないと気まずい。

 僕は木製のテーブルにある木目をずっと眺めていた。


 テーブルに穴が空きそうなほど見つめていると、今までのざわめきが突然、消え去った。

 何事かと思い僕が顔を上げると、向かいの席に翡翠ひすい色の瞳と髪を持つ少女が座っていた。

 彼女は僕と目が合うと、そのあどけない口元を少し緩めた。


「やあ、ボクはバルファ・ドラウン。ここら辺の人達からは「生ける掟」なんて呼ばれているよ。よろしくね!」


 バルファさん? は僕に自己紹介をしてくれた。

 この人が……あの天の声。

 見た目はロミアより少し年上くらいに見える。しかし、人間以外の種族である可能性もあるため、一概に決めつける事は出来ない。


「君の名前を教えてくれるかい?」


 バルファさんは小首を傾げながら僕を見る。

 年齢を気にしていて、僕の自己紹介をしていなかった。


「えー、僕の名前はノア・シャルラッハロートです。まだEランクの新人です」


 簡素ではあったが要点は抑えた自己紹介だろう。

 わざわざここで、僕がどんな人間であるかなど、聞きたいはずがないのだから。

 バルファさんの顔を見ると、何とも言えない表情をしていた。何か変な事を言っただろうか?



「おいおい、何でここにギルマスがいるんだよ? いつもは部屋に引きこもってばかりのくせに……」



 止まっていた時間が再び動き始めたように、だんだんと音が戻ってきた。


 そしてその雑踏の中、僕は誰かの気になる発言を聞き取った。その発言は誰の事を言っているかは明言していないが——、


 エイル? お前はどう思う?


《さっきの男の発言はほぼ間違いなく、目の前のバルファ・ドラウンのことを指しているでしょうね》


 つまり、僕の目の前にいるこの少女がギルドマスター……?

 今までの自分の身の振り方を思い出す。

 最初に、彼女の自己紹介を二回ほど中断させた。そして、彼女に自立人形を操った事を指摘した。


 おや? これはもう、僕の冒険者人生終了のお知らせなのでは……?


「どうしたの、顔色が優れないようだよ? 別にボクがギルドマスターっていう役職に就いている事なんて気にしなくていいんだよ?」


 そう優しい声音でそ語りかけてくるバルファさん。

 口ではそう言っているが、目が笑っていない。

 うっわぁ。とても怒ってらっしゃる。どうしよう。


「ギルドマスターであるボクが、知人と一緒に製造した自立人形を壊されたのも気にしてないからね?」


 あぁ。これはもうどうしようもないな。エイル、すまない。お前たちの主人様はここまでみたいだ。ロミアによろしく伝えてくれ……。


《それは無理です。もし主人様が命を落とし、その魂が失われた時、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』も消失します》


 そうか……なら、まだ死ねないな。

 どうにかしてこの場を切りぬけよう。活路を切り開こうではないか。




「……どうしたんだい? いきなり。膝をついて、腰を折って、額を床に押し当てているその体勢は土下座というやつかい?」


 そう。僕はバルファさんの前で土下座していた。

 これは神父様が僕に授けてくれた最終奥義だ。この奥義を繰り出せば、大抵の事は許して貰えると聞いている。


《あ、主人様あるじさま…………?》


 エイル、ここは僕に任せておけ。お前は僕の雄姿ゆうしを見ているだけでいい。


《失礼ながら主人様、今の主人様に雄姿は見受けられません。私の中にあるのは憂思ゆうしだけです》


 憂思? 何で心配してるんだよ。信用してくれよ。



 いやいや、馬鹿な事をしている場合では無かった。謝罪の言葉を述べなければ……。


「バルファさん、今までのご無礼をお許しください。全て、自分の不徳の致すところです。本当に申し訳ありませんでした」


 誠心誠意の謝罪。

 誰が見ても、完璧だろう。


 ……。


 …………。


 ………………?



 返事が無い。僕は今、額を床に擦りをつけているためバルファさんの顔が見えない。それ故、彼女の感情を予測するしかないのだが、これはどちらだろうか。

 言葉が出なくなるほど、感動しているのか。それとも言葉を失うほど呆れ返っているのか。

 どうしてだろう。確実に後者な気がしてきた。


 何はともあれ今度は、床の木目を見つめる事になってしまった。

 木目の細い線を二十三本まで数えた時、バルファさんが口を開いた。


「そうだなぁ。じゃあ、ボクのお願いを達成できたら許してあげる」


 その返答を聞き、僕は考える。

 お願いとは……どれくらいの物を要求されるのだろうか。

 僕が続きを待っていると、すぐ耳元で声が聞こえた。


「詳しいことは、受付嬢に伝えておく。期待しているよ……」


 心臓が凍りそうなほど冷たい声だった。

 僕は頭を上げようとした。だが、何故か体が動かない。指先さえ動かせない。


《スキルの反応を確認しました。体が動かないのはスキルの効果によるものです》


 お前、そんな事わかるのか? とんでもなく優秀だな。

 まぁいい。ここはこのまま、穏便に済ませよう。



 結局、足音が完全に聞こえなくなるまで、僕はずっと土下座の体勢だった。


 

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