表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/72

12話 非常に異常な訓練 その2

pvが300を超えました!

本当にありがとうございます!


エイル憑依状態のノアの右目は金色でした。修正させていただきました。(2019/02/20)

再び修正いたしました(2019/03/03)



 ギルドマスター。それは、それぞれのギルドを統括する役職。

 この役職に就くためには、冒険者としての実力が無いといけない。実績がなければならない。

 いくら西街支部の冒険者ギルドであっても、マスターを名乗るからには半端な人物ではいけないのだ。

 

 バルファ・ドラウン——。彼女はギルドマスターの1人で、周りからは「生ける掟」と呼ばれている。


 彼女は映像魔法で1人の冒険者の戦いを観察していた、精査していた。

 突如現れた、新人の冒険者。銀髪で紅目の青年。

 彼女が持つ『掟ノ女神』で予測できない人間。彼女の定めた掟の外にいる人間。

 その実力が如何なる物か、見極めていた。


 前述したが、彼女は周りから「生ける掟」と呼ばれている。その字面からはお堅い印象を受けるだろう。しかしそれは職務中のバルファの事であり、本当のバルファ・ドラウンという人物を表すには適正で無い。明らかに、あからさまに間違いなのだ。



 ——「破綻した掟」


 冒険者時代の彼女はそう呼ばれていた。




          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 訓練が始まってからどれくらい経っただろうか。

 現在、僕は疲弊していた。

 迫る斬撃を何とかかわし続ける。けれど、たまに躱しきれずに剣で受ける。だが、その理不尽なまでの力で僕の体は吹き飛ばされる。

 この流れを開始からずっと続けており、僕は疲弊していたという訳だ。

 確かにこれは訓練としては良いのかもしれない。訓練相手が本物の剣で斬りかかって来さえしなければ。


 そして、ふらふらになった僕は訓練場の端まで逃げて座り込んだ。

 別にこれは決闘では無いのだ。だから、この状況を監視しているバルファとかいう人には悪いが、ちょっと休ませてもらおう。


《主人様、どうなさいますか?》


 エイルが僕に質問する。

 自動人形は僕に向かってゆっくりと歩いてくる。


 いやー、人気者は困るな。


《大丈夫そうですね、出過ぎた発言でした》


 いえ、全然大丈夫じゃないです! 助けてください、救ってください、エイルさん!


《主人様はもう少し自尊心を持つべきなのでは……?》


 ハハッ。そんな物が僕にあるはず無いだろう?

 若干、疲れから人格が崩れている気もするが、いいだろう。


 それより、どうすればいい?

 普通にエイルかランスロットを召喚するか?


《……そうですね、でも今の主人様では私達を召喚できる程の魔力が残っていません》


 あれ、僕そんなに魔力使ってたか?


《訓練が始まった直後、主人様はいきなり上位魔法を撃っていましたよ》


 …………。

 そうだった。相手が機械なら雷でどうにかなると思い、【暴れ回る雷】を発動さていたのだった。

 ま、誰しもうっかりする事はあるよな。

 僕は強引に誤魔化す。


 僕のすぐ目の前にまで自立人形は近づいていた。


《なら、憑依を試しましょう》

 

 表意? 僕が戦う意志は無いと示せば、あいつは止まってくれるのか?


《表意ではありません、憑依です。取り憑くほうですよ》


 そ、そうか。そっちか。いや、知っていた。

 少し勘違いをしていただけである。


 《早速、憑依を開始しましょう》


 多少の恥ずかしさを抱いたまま、僕は体の感覚を失っていく——。







           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 バルファは困惑した。

 今まで自立人形に一方的に攻撃されていた青年が、急に反撃を開始したのだ。それだけなら青年が奮起しただけで済まされるだろう。けれども、女性のような長さまで髪が伸び、右の目の色が変化した事を奮起という言葉だけで済ます事は出来なかった。


 はっきり言って別人。豹変しているとしか思えなかった。

 今までも彼の動きを予測できなかったが、更に読めなくなったのだった。


(あれは何? さっきまで逃げに徹していたというのに、いきなり攻撃に転じた……。それにあの特徴的な紅目も、右だけ金色になっている。彼も何かしらのスキル所持者という事か……?)


 ギルドマスターの部屋でバルファは考える。この部屋には彼女の許可を得ずに入る事は出来ない。それは『掟ノ女神』の権能によるものだ。

 だから彼女は気兼ねなく思考ができる、熟考ができるのだ。

 しかし、いくら考えを巡らせても解答は得られない。バルファは彼の正体を何一つ紐解けないでいた。

 彼女は映像魔法で映し出した訓練場の様子をただ見つめる。


 青年は伸びたその銀髪をなびかせながら自立人形と戦っている。彼に変化が起きる前は剣の技術など皆無だったが、今は一流の騎士のような剣さばきをしていた。

 自立人形の重い剣撃を軽くいなし、的確に反撃している。その動きには一切の無駄がなく、洗練されていた。


 その攻防を見たバルファは青年の本気を引き出したくなっていた。今現在の彼女は「破綻した掟」の人格の方が色濃く出た状態である。この状態になると彼女は欲望のままに行動してしまう。

 そのため、『掟ノ女神』によって定めていた自動人形の行動限界を解除してしまったのだ。

 自立人形はその機能を十二分に発揮する。さっきまでの速さが嘘のように速度が上昇し、青年の持つ剣を弾き飛ばした。

 武器を失った彼に自立人形が容赦ない追撃を浴びせる。

 しかし、青年はその斬撃を全て紙一重で躱していく。


 (……チッ、何であれを躱せるの? あんなのただの化け物じゃないか……)


 バルファは制限を解除した自動人形の速度に対応する彼を見て、驚きと共に苛つきを感じていた。

 




             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!


 僕の体のすれすれを剣が通り過ぎていく。

 今、僕の体を動かしているのはエイルである。『知識は世界を開く鍵』の権能の一つ、憑依とやらを使用しているのだ。

 だから僕はエイルと自立人形との戦闘を眺めているだけなのだが、これがとても怖い。いきなり自立人形の速度が跳ね上がり、剣を弾き飛ばされてからエイルは最低限の動きで相手の攻撃を躱している。それが出来るのは近接戦闘に慣れているからで、僕なんかでは反応すら出来ない。

 

《主人様、宜しいでしょうか?》


 え? あ、はい。何でしょうか?

 エイルは体を動かしながら僕に話しかけてきた。


《ノームを一時的に召喚し、土魔法で相手の動きを止めます。そして、動けなくなった所でとどめを刺しましょう》


 ふむ。僕に異論はないが、そのノームというのは召喚できるのか?

 魔力がほとんど無いと言っていたが……。


《一瞬だけならば可能です。その一瞬でノームには土魔法を発動してもらいます》


 ほうほう。理解した。


《では、行きます!》


 

 エイルはそう言って、ノームを召喚した。ノームの見た目は髭を蓄えた、背が小さい小太りのおじさんのようだった。

 そして、その身なりに反して素早い動きで魔法を唱えている。

 地面の土が流動し、うねり、自立人形の四肢へと絡みついた。

 足と腕を固定された事で、自立人形は動きを止めた。

 そこに情報子へ変化させ手元に戻した剣を再び物質化し、エイルがそれを突き刺そうとする。


 


 ここで、僕の直感に何かが引っかかった。これは僕の体にエイルを憑依させて、ずっと戦闘の様子を観察していたから気づけた。僕が戦っていたら違和感に気づくどころか、気づく前に殺されていただろう。


 僕が抱いた違和感、それはとても簡単な事だ。自立人形が動かないのだ。確かにノームが土魔法で捕縛しているのだが、土が流動していたのはノームが召喚されていた一瞬のみ。その後、土は固まっている。

 で、何がおかしいのかというと、動けるはずなのに動かないという点。

 自立人形は言わば機械。その腕力というか単純な力において、人より何倍も上なのだ。

 そして、魔法と言っても自立人形に絡みついているそれはただの土塊だ。

 機械ならば簡単に壊せるだろう。何故、壊さないのかはわからない。けれどもし、誰かが自立人形を操っていたら? きっと油断して攻撃しようとしたところを狙っているはずだ。


 そう、まさに今のような状況を望んでいるのだろう。


 しかし剣は自立人形へと到達する直前だ、もう止められない。



 ——それならば、


 エイル!!

 剣を刺したら、僕と代われ!!


《え? はい! 了解です!》


 エイルは瞬間的に判断して、剣を突き刺すと同時に僕と入れ替わった。

 体の感覚が戻る。

 予想通り、自立人形は土の捕縛を簡単に破壊し、剣を振り下ろそうとしていた。


 僕は突き刺した剣の刃に触れ、下位魔法を放つ。


「【雷撃ドナー・ショック】」


 この下位魔法は詠唱を唱えずに発動できる代わりに、【暴れ回る雷(ドナー・ヴート)】に比べて、威力など無いに等しい。

 だが、この自立人形ならば威力は必要ない。電流が流れればそれでいい。


 ほとばし紫電しでんが剣を伝い、自立人形の内部へ侵入する。

 更に紫電は内部の隅々まで行き渡り、精密な機械を故障させた。

 外側は平気でも、内側からの電流はどうしようもないだろう。

 

 電源が切れたように……いや、実際に電源が切れて人型の人形は膝から崩れ落ちた。



 


 ……危なかったな。


《お見事です、主人様。私ではあの状況に対応できませんでした》


 エイルからお褒めの言葉を頂く。

 まぁ、ほとんどエイルが戦ってくれてたんだけどね。その間の時間で違和感に気づくことができたのだから、勝てたのはエイルのおかげである。

 

 僕は自立人形から剣を引き抜き、『知識は世界を開く鍵ヴァイスハイト・シュリュッセル』に仕舞う。



 これで終わりなのだろうか。

 僕は天井を見上げる。当然、そこには誰もいない。




 ——僕は天の声からの指示を待つしか無かった。





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ