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10話 ロミア、杖を買う

pvが増えて嬉しい限りです!

お読み頂けたら幸いです。

修正いたしました(2019/03/03)


 ノアと別れた後、ロミアはある場所へと向かっていた。



(はぁ、この街は本当に広いですね……。これで王都ではないなんて驚きです)


 ユートラス王国は大国。ここはただの西の街でしかないが、小国程度の規模を有していた。

 ユートラス王国の造りとして、王都を中心に東西南北へ道が伸びており、その道の先がそれぞれの街へと繋がっている。その街の一つ一つが小国と変わらぬ規模なのだ。彼の国が大国と呼ばれる理由がよく分かるだろう。

 

 ロミアはその小さな体にローブをまとい、その軽そうな布をはためかせながら歩く。周りの人間はその白いローブに目を引かれ、彼女の顔を見て目が釘付けになる。

 しかし周りからの視線に気づかぬまま、彼女は歩行を続ける。

 

 どれくらい歩いただろうか、彼女は目的の場所へと到着した。

 魔力感知を応用させた自動ドアを通過し、店の中へと入る。

 店内は薄暗い雰囲気に包まれており、魔法に関連する品々が並べられている。

 そして、その店の奥に一人の女性が座っている。彼女は店に入ってきたロミアに何の反応もしない。反応せずに手に持った魔道具の手入れに勤しんでいる。


「あ、あのー、魔法の杖が欲しいんですけど……」


 ロミアは女性の様子を伺いながら声をかけた。

 その声を聞いてやっと、女性はその白い手を止めてロミアの顔を見た。彼女の瞳はロミアの全身をくまなく観察している。

 沈黙に耐えかねて、ロミアが言葉を続けようとした。


 すると——、


「体内にある魔素量は格段に多い……。けれど……魔力量はそんなに多くない。強力な魔法を撃てる……でも、魔力が少ないからすぐに底をつく……。そして……内に秘められた……力。それは、あなたの……固有の能力」


 小さい声であったが、確かな確信を持って女性は言った。


「私は……テオ。ここで、魔道具……とか売っているの……。今日は、何を……お求めですか……?」


 テオは途切れ途切れに自己紹介を行う。その紹介の中に、ロミアが能力を所持している事を見破った根拠の説明は無い。

 ロミアは突発的な自己紹介に戸惑っていたが、惑わされていたが、とりあえず自己紹介で返した。


「ロミアです! ロミア・フラクス。今日は、杖を買いに来ました」


 ロミアの自己紹介を受け、テオはしばらく考え込んでから口を開いた。


「魔法の杖……かな。魔力の少なさを……補うために、杖を媒体にする……」


(どうして、この人は私の魔力量なんて知ってるの? 魔法を使用した痕跡は無いから……。解析系のスキルを持っているのかな?)


 ロミアはその亜麻色の頭で考える。考えはしたが、それは事実ではなく予測である。テオとは違い、そこに確信的な根拠は無い。あるのは懐疑的な心だけだ。


「おすすめの杖とかありませんか?」


 答えが出ず、結果的にロミアは目的を果たす事を優先させた。


「おすすめ……ね。そう言われると……高めの物になる……けど、いいかな?」


「そうですね……私にはお金が無いので、高すぎない物がいいです」


 まるで所持金はあるけれど、多くは持っていないかのような物言いだった。しかしそれは間違いで、彼女に所持金と呼べるような物は一切ない。


「これは……どう? そこそこ……安くて、頑丈だから……そう簡単には壊れないよ」


 テオが持ってきた杖をロミアは受け取る。


 手に伝わるしっかりとした木の感触。

 ロミアの首辺りまで長さがあるその杖は彼女の手によく馴染んだ。杖の先には翡翠色の宝石が嵌っている。

 杖はその長さに反して軽い。ロミアは何回か杖を軽く振ると、彼女はテオを見る。


「これはおいくらでしょうか?」


 所持金が無いというのに値段を聞くロミア。

 そんな事など露知つゆしらず、店員としての役割を果たすテオ。


「銀貨……二十八枚、です」


(に、二十八枚……? そこそこ安いというのは? 値段の高さはこの宝石のせい? )


 何度も言っているが、彼女はお金を一切持っていない。だからその高い値段に驚いたとして、払えるお金は無い。

 そのはずだったが、彼女は自身の荷物から何かを取り出した。取り出されたのは一つの巻物。ロミアはそれをテオの前に差し出した。


「これ……は……?」


 テオが不思議そうに首をかしげる。別にロミアはふざけている訳ではなく、至って真面目な心境をした上での行動である。

 

「このスクロールを買い取ってくれませんか……?」


 ロミアが持っている巻物、名称をスクロールと言う。スクロールとは魔法が封じ込められた巻物であり、体内に存在する魔素や魔力量に関係せず魔法を撃つことができるという代物だ。


「スクロール……前はとても希少価値のある物……だった。けど、今では……量産されて……価値は……」


「価値はあまり無い、ですよね。でもそれは下位魔法のスクロールに限った話です。私が買い取って貰いたいのは上位魔法のスクロール、異界人を召喚できる召喚魔法のスクロールです」


「召喚魔法……異界人の……? そもそも召喚魔法は……複数の高位の魔導師が……何日もかけて行われる。その……複雑な術式を、完璧に覚えて……スクロールに書き記すなんて……できるはずが無い……」


「なら、どうぞあなたの目で確かめてみて下さい。あなたの観察眼ならわかるでしょう? それが本物かどうかなんて」


 そう言ってロミアはテオにスクロールを手渡した。テオは巻物を開き、そこに記された魔法陣を解読する。彼女のスキル『知恵ノ女神』はその目で見た対象の全てを知り得る能力。その解析に狂いは無く、真実のみが映し出される。


 そして、テオはスクロールの解析を終えた。


「これは、間違いなく……本物。ちゃんと術式の全てが……意味を成している。でも、これを作成する事はほぼ……不可能。可能にしたのは……あなたのスキルが原因なの……?」


 テオには見えていた、ロミアが何かしらのスキルを持っている事が。しかし、そのスキルの詳細までは解析できなかった。


「テオさんも持っていますよね? 私の能力について教えるので、テオさんの能力の事も教えてくれませんか?」


 ロミアは交渉に出た。情報の交換を求める内容にテオは少しばかり逡巡したが、最終的に了承の意を示す。

 それを見てロミアは自身の能力、すなわちスキルについて説明を始めた。


「私の持つスキルは『魔導書の記憶グリモワール・ゲデヒトニス』。これは一度見た魔法や魔導書に記載されている魔法を完全に記憶できる能力です。なので、召喚魔法の術式を覚える事も容易にできるのです!」


「なるほど……。それは……便利なスキルね……。そのスキルがあれば……スクロールを作って、売るだけで暮らせそうだけれど……」


「ま、まぁそうですけど……。でもスクロールを発動させるのに魔素や魔力が必要ない分、製作者が代わりに魔素と魔力を注ぎ込むんです。それで私は魔力が無くなり、完全に回復するまで数週間かかりました。そんなに大量にスクロールを作ったら、私の体が持ちません」


 ロミアはそう言ってはにかんだ。それを見たテオは少しだけロミアに気を許す。


「私のスキルは……あなたの程、すごくは無いけれど……。『知恵ノ女神』は、目で見た物の解析を行えるスキル……。基本的に……何でも解析できるけど、あなたのスキルみたいに……不確定要素の多い物は、詳細までは解析できないの……」


 この段階でテオは少なからず、ロミアに興味を示していた。彼女は今までの人生で他人に興味を持った事が無かった。見れば一瞬で解析が終わり、対象がどんな人物かが理解できる。必要以上に関わろうとしない。

 だがロミアは他の人間とは少し違った。テオは解析不能のスキルを持ち、どこか不思議な雰囲気を放つ少女に惹かれていた。


「さて……と、じゃあ……このスクロールだけど、銀貨三十五枚で……どうかな?」


(三十五枚! 自分でも高く買い取って貰えると思ってたけど、想像以上でした。さっきの杖を買っても余りが出ますね……)


 ロミアは気づいていないが彼女の口元は緩みきっていた。冒険者になったとはいえ、彼女はまだ十五歳。お金の話になると心が踊り、表情に出てくるのだ。


「え、えと、じゃあ買い取りお願いします!」


 テオはその言葉を聞き、スクロールを箱にしまってから銀貨をロミアの前に置いた。

 

「ここから……先程の杖の価格分を……差し引きますか?」


「あ、はい。お願いします」


「三十五枚から……差し引いて、銀貨七枚……です。どうぞ……今後とも、ご贔屓に……」


「ありがとうございます! また来ますね!」


 杖と七枚の銀貨を受け取り、ロミアは上機嫌で店を出た。






 誰もいなくなった店内でテオは一人、先程の白いローブを纏った少女について考えていた。

 その思考にこれといった目的は無い。ただ頭の中で浮かんでいる記憶を巡っているだけ。

 しかしそれだけでも幸せな気分になれる程、テオという人物は案外、単純なのだった。

 

 

 


 

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