諸君、プロローグとは説明回である
まず最初に、この世界におけるドラゴンと言う存在について説明しよう。
この世界においてドラゴンとは、爬虫類系種族が個体進化の末に辿り着く最終形態の事を言う。
要するに、魔法と言う特殊な現象が存在するせいで、この世界の生物は種族的な能力の限界へ到達すると、さらに上位種へと進化する可能性を秘めているからだ。
と言う訳で、この世界のドラゴンとは種族の一つではなく、進化の末の上位形態なのである。
ちなみに、その最終形態は一般的に「王種」と呼ばれていて、人類種なら魔王、狼系ならフェンリルなどの各王種が存在する。もちろん種族的な力の差があるので、やはりドラゴンは王種の中でも最強の一角なのは間違いない。
さて、そんな稀少で特別なドラゴンの一匹、それがこの物語の主人公である。
当然の事ながら、その主人公のドラゴンもかつては地を這うちっぽけなトカゲだった。
そのトカゲは、数百年もの時を掛けて個体進化を繰り返した末に、運と実力でついに最強種の一角、ドラゴンへと成長する。
そして竜種の末席とは言え、そこに名を連ねる事となったその個体は、それまで補食される側だった鬱憤を晴らすかのごとく周辺地域を荒らしまくる事となった。
しかも次々と格上のドラゴンや魔獣を撃破すると、いつしか上位個体の一つとして人類国家にも知られる存在にまでになる。
ところが、そんなドラゴンの快進撃もある日ストップしてしまう。それは、いつの間にか狩るべき獲物が周囲に居なくなってしまったからだ。
―えっ?!。(←ドラ)
生まれてこのかた、戦う事しか知らないこの脳筋トカゲにとって、戦う相手が居ないと言うのはマジで困惑だった。
とは言え、これまでは適当に手当たり次第暴れるだけで、あくまでそれは地域限定の最強。つまりお山の大将、所詮は井の中の蛙だったと言う訳だ。
実際に、そのドラゴンも落ち着いて現状を確認してみた所、身近な狩場は制覇したものの未知のフィールドは果てしなく存在し、そしてそこにまだ見ぬ強敵の気配が少なからず確認出来たのである。
―ふむ。では、これから更に拡大路線で全国展開して行かねばならんな!。
こうしてドラゴンは本拠地を離れ、敵地を巡る長期ロードの旅に出る事を決意。かくして近隣各地にさらなる災厄の火種が解き放たれる事となったのだった。
さて、こうして意気揚々と武者修行の旅に出たドラゴンだが…。
事もあろうか、早々と道に迷ってしまう。
そんなアホな、そう思われるかも知れないが、なんの準備もなくただ筋肉の思うがままに歩を進めれば当然だ。それはドラゴンだろうとスライムだろうと関係無い。
脳筋には等しい報いを!。
そして、いつしかドラゴンは完全な迷子になっていた。←オイ!
流石にこれには無敵のドラゴンも不安を募らせる。
しかも悲しいかな、これぞ脳筋の性。不安に駆られつつも空威張りでさらに突き進んだ挙げ句、完全に迷走。もう元に戻る方角すら分からなくなってしまうのだった。orz
まさにポンコツ丸出しの展開だ。
そして気が付くと、いつしかドラゴンの目の前には、人の住む大都市が立ちはだかっていた。
―おっ?。
何も分からない所だからこそ、僅かでも知ってる何かと遭遇すれば少し気分はマシになる。ドラゴンは何故かホッとしたと言う。
―あぁ、これニンゲンて奴だ…。
人類種―。
それはこの世界でもまあまあな勢力を誇る種族だった。
その存在はドラゴンも知っていた。
個々の戦闘力は大したことないが、その群れのウザさとズル賢さは確実にメンドくせぇとドラゴンを感心させるものがあった。
ただドラゴンも敵としては、つまり戦う相手としてはあまり眼中には無かった。
―何故かって?、それはこいつらがワラワラとウゼェからだ!。
とは言え、適当な相手のいない現状では、こいつらで手を打っとくのも仕方なしか?。
ドラゴンはちょっと思案する。
何しろ戦いの間はあらゆる悩みを忘れていられる。バトルはいつだってドラゴンの心の安定剤だったのだ。
ただ…、それにしてもこの人間の巣はかなり巨大だった。
あまりニンゲンに興味の無かったドラゴンだが、それでも彼の目を引くほどの壮大な存在感をそれは放っていたと言う。
実際に、その人間の集落は大都市と呼ぶに相応しい規模であった。
それはドラゴンが見ても分かる程大いに栄え、そして活気に満ち溢れていた。さぞかし人族の間では名の知れた都市なのだろう。
ドラゴンとしても、今まで人類種にそれほど興味は無かったのであまり敵対した事は無かったが、ここまで巨大な巣を見るとかなり惹かれるものを感じていた。
つまり―
―これだけ見事な巣をブチ壊すってのは、なかなか楽しいのではなかろうか、グヘヘへへ!。
このドラゴン、やはりドラゴンらしくとことんドSで破壊の権化の様な存在だった。
ただし、ぶち壊す前に暫しその巨大集落の雄姿を眺めておこう、そうドラゴンは思った。
どうせ人間など戦力的には全然大した事ないが、その大集落は巨大な樹木が満開の花を咲かせるに似た感情をドラゴンに抱かせたからだ。
これは、生きるのに困らない上位存在ゆえの余裕と言えるかも知れない。
てな感じで、しばらくドラゴンがそれを眺めていると、その大集落から戦闘種の群れが出現した。
―おっ、なんか出て来たんですけど?。
もちろんそれは、都市が派遣した軍隊だった。
当然ながら、都市のほんの目と鼻の先にこんなドラゴンがいたら危険で仕方ない。ドラゴンを排除しようと軍が動いたのである。
ドラゴンはそれに対して反射的に吼えた!。
何しろドラゴンに情緒や感傷など欠片しか存在しないし、たとえ有ったとしても戦いの匂いを嗅ぎ取ればそれとて幻の如く消え失せる。
ドラゴンは、即座に沸騰する闘争本能に身を任せた。
ただ、その立派な巣から現れた敵があまり強くなさそうなのが不満と言えば不満だったが、それでも久々の戦闘に湧き立つ高揚感はそれを補って余るものがあったと言う。
「さあ、来やがれ愚か者ども!。
焼いて砕いて薙ぎ払って、そして磨り潰してくれるわ!」
咆哮一つで浮き足立つ兵士達。そんな真っ只中に、ドラゴンは弾ける矢のように突撃して行ったのだった。